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36話 帰路


神殿前の広場では、透子達とフクロウの長老たちが合流して、ミミズクの巫女たちの見送りの挨拶を受けていた。



「いやあ、良かった良かった。王の卵問題がとりあえずなんとか収まりましたな」

ダーが言った。


「解決したわけではございませぬ。先送りしたにすぎません!」

カーナは長老をとがめた。


「まあまあ、われらも闇魔法の加護持ちを引き続き探しますゆえ」

マーがとりなした。



「トーコ殿、こちらをお持ちください。」

イーサが白・緑・茶・黒の紐で結ばれた革袋を4つ、差し出した。


「これは何ですか?」


「これらは、ワイバーンを退治していただいたお礼です。 わたくし共にとっては当たり前に存在する森のものなのですが、街や都市で暮らすものたちにとっては、とても価値のあるものだと聞いております。トーコ殿は同属のヒューマンがいる場所に行かれるのでしょう? きっと役に立つことでしょう。」


「そうなんですか?」


「緑の紐の革袋は、先程ワイバーンを退治した月見の池で採集したばかりの薬草が入っています。鮮度保存の魔法が袋にかけてありますが、時間停止のマジックバックに入れておいたほうがよろしいでしょう」


「ありがとうございます」


「茶の紐の革袋は、精霊小石が入っています。主に風天属性と土地属性ですが、魔道具の素材になります。 お渡しした闇ロッドも闇属性の精霊小石を使用しています。」


「あっ! ロッドお返しします」


「いえ、どうぞお持ちください。先程は道しるべとして使いましたが、通常は深い眠りや精神の安寧に(いざな)うのです。トーコ殿なら魔力を注げばささやかな闇魔法が何度でも簡単に使えるでしょう」


「なんかすみません、ありがとうございます。」


「黒の紐の革袋は、我ら鳥族の羽が集めてあります。ミミズク・フクロウだけでなく、いろいろな鳥の羽がはいっています。 羽は私共にとっては抜け替わる消耗品。けれどヒューマンにとっては、道具や衣装などの高価な飾りに利用されるようです。」


「あーなるほど、そうですねわかります。ありがとうございます。」


「そして白い紐の革袋は、干しワームが入ってます。主にホワイトワームです」


「ホシワーム? って何?」


一休がクーリンを小突いた。

「ワームは土中にいる虫だよ。いらなくなったものを分解する益虫。えーとね、トーコの世界ではミミズに似た虫。干しワームは、ワームを乾燥させて軽くてマジックバックに入れて持ち運びできるようにしたものだね。 ワームには色別に特長があってホワイトワームは、薬草の育ちをよくするのでギルドでは高値で取引されるね」


(げっミミズか! いらなくね?)

「なんで、干しワームなんか持ち運びするの?」


「いらないものを分解するからだよ。糞便とか、死体とか、ゴミをね。干しワームをパラパラってかけて水を流してふやかせば、生き返って活動するんだよ。」


「なんじゃそりゃ! 乾燥ワカメのようなノリで生き返る虫なんて初めて聞いたよ!」


「そうかの? 街や都市のトイレは、ワームが常設じゃがのう? 最も最近行っておらんから変わっておるかもしれんが・・・・・・それよりカンソーワカメとは何じゃ?」


(えー、それって、異世界版バイオトイレ? もう異世界らしくスライムでよいじゃん!!)

「カンソーワカメは、海辺の海藻のワカメを乾かしてパリパリにしたやつだよ。乾燥すると軽くて持ちがよくなるから内陸の店とかで食品として売っていて水で戻して食べる。・・・じゃあ、そのワーム、パラパラして分解終わったらどうするの?」


「分解するのに時間かかるから、基本放置。そのうち土中深く潜ってどこかへ行く。」


「そうじゃな。ただし、駆け出しのハンターやガーディアンはワームがないと不便だから、干しワームが買えない場合は、生ワームを回収しているようじゃ。森の奥は土をかけるだけで野生のワームが何とかするからよいが、これから先街道を行くことになれば、糞便とゴミの始末は常識じゃ、ワームは不可欠。生ワームを回収して持ち運びするのが嫌なら、ありがたくもらっておくのじゃな」


「わかったよ。ありがとうございます?」

(まじか! まいったなぁ~)


「トーコ殿、この干しワームはわたくしたちが野生のワームを集めて育てて繁殖したものですので、変なものは混じっておりませんので安心してお使いください」


「ワームを繁殖? そのまま野生のワームで十分そうな気がしますが?」


「森を再生するためです。

今でこそこのあたりも緑が繁る森林となりましたが、あの噴火の後、これより南の地帯まで灰や瘴気にまみれて、森の木々は立ち枯れていました。

精霊様もいなくなり廃墟のような有様でした。わたくしたちは南の緑のある所からワームを集め、餌となるものをばらまき土の再生を図りました。

そんなある日、嵐がやってきて暴風雨とともにヨギリ様がおいでになったのです。

月見の池は、元は戦いの後にできたクレーターで、私共の同胞が散った墓標でもありました。

嵐の後に水溜りができ、ヨギリ様がその地を守護してやがて池になったのです。

わたくしたちは薬草や果実になる種を空を飛ぶ者たちにお願いしてこの地に運んでもらいました。

ヨギリ様が霧を張り夜露を地に垂らしてやがてそれらは芽吹いて、ようやく根強いてきたのです。

それでも、この地より少し北へ行くと灰色の地が荒涼としています。

わたくしたちはワームを繁殖させ地に返し、種をまき魔力を注ぎ祈りを捧げて、いつの日かあの豊だった泉の森を取り戻したいと願っているのです。」

ルーナは夢見るように語った。


周りの巫女たちも遥か先を見るような表情でうなづいていた。


(・・・干ワームなんか、とか言って大変申し訳ない気持ちになってきた。・・・森の再生って現代の地球でも各国が協力して巨額な金を投資してやる大プロジェクトだよね? そんな凄いことをこのミミズクさんたちは地道にコツコツとやってきたのか!・・・ああそうか!! 巫女達が里民にあんなに敬われているのはカイザーミミズクが偉いからじゃない、最前線で森の再生に努力し続け森を守ろうとする姿に共感して協力していたのね)

「ワームに対して、偏見があったようです。巫女さんたちが育てたワームを大事に使わせていただきます」

透子は敬意を持って頭を下げた。


「うふふふふ、トーコは虫が苦手なのね! ヒューマンの雌に多いって聞いてたけど、本当だったの。

ヨギリ様はね、北の山麓に移住したフェンリルたちに聞いて嵐の夜に天の精霊に導かれてわたくしたちの所においでになったの。すごいでしょ! おかげでピクシー精も生まれたのよ」

リーア姫が言った。


「ピクシー精って、精霊の子供? リーア姫はピクシー精に合うためにワイバーンの出る池に行ったのですか?」


「んん? 少し違うの。 月見の池に行ったのは鎮魂に呼ばれたからなの。 丸い月の夜は祈りを捧げて浄化するの。 浄化するとピクシー精たちがやってくるのよ。ピクシー精は精霊の子供ではなくいつか精霊になるかもしれないだけなの」


「トーコ殿、ヨギリ様は霧でわたくしたちを外敵から隠して守ってくださいますが、丸い月の明かりは浄化作用があるので鎮魂の祈りを捧げるときは霧を晴らすのです。

あのワイバーンはハグレのようで、偶然祈りの姿を見て、狩場としたのです。

それからずっと攻防戦になり、わたくしたちの犠牲者があとをたたなくなっていたのです」

イーサが補足した。


「そうなんですね・・・で、ピクシー精のいつか精霊になるかも知れないとは? ならないこともあるのですか?」


「ピクシー精は、自然発生する思念体です。魔力を得て精霊に進化するかは環境と運命らしいです。属性も未知です。

すべてが精霊になれるわけではなく、ほとんどはマナを得られず(カスミ)となって消えることが多いようです。稀に瘴気を取り込んで妖力を得て妖精となることもあります。妖精は浄化の対象です」

イーサが説明した。


「そうなの。だからわたくしはあのピクシー精たちが精霊に進化できるように手助けをしていたいの。

なのに、すぐ危険です!と言って、池に行くのを邪魔するのよ!この人達!!」

リーア姫がプリプリしながら言う。


「それは・・・しかたないんじゃあないかなぁ~。 実際危ないめにあったんだし・・・」

透子は鼻の頭をポリポリしながら言った。


「まあよいわ、あれはトーコが退治したから危険はなくなったの。それよりも王の卵を本当によろしくなの。できるだけ語りかけて沢山魔法を注いでなの。

あとこちらを持って行って! 果実と焼き菓子よ。トーコが平らげたって聞いたから急いでもっと用意させたの。」


透子は赤い紐の革袋と黄色の紐の革袋を受け取った。

「ありがとうございます、軽食は美味しかったわ。」


透子は革袋を全てマジックバックに入れた。



「それでは、そろそろまいりましょうか? よろしいかな?」

ダーが言った。


透子がダーの背に乗ると、リーア姫が駆け寄ってきた。

「お願い、そのマジックバックをさわってもよいの?」


「いいよ」


リーア姫は名残惜しそうに、マジックバックに触れて囁くように言った。

「王様、どうかご無事で、必ずわたくしのもとにお戻りくださいませね」


(うわぁ、また恋愛王道だ!・・・卵だけど‼ 

いやー純愛だなぁ。真っ直ぐ過ぎてお姉ちゃんまぶしいよ!・・・・・・いつかハッピーエンドになるようにどうにかしないとヤバそうだ!)


クーリンもローの背に乗った。

一休は相変わらずマジックバッグの脇ポケットだ。

リーア姫の囁きをいこごち悪そうに聞いていたね。




ダーを先頭に3羽のフクロウは、上空へ羽ばたいた。


神殿の上空を別れを告げるように旋回する、眼下にあの月見の池が見えた。

上空から見ると、池には月とフクロウ達の影が映り込んでいた。

それは、先程とは別の趣のある絵画のようだった。


再び神殿の広場が目にはいる、霧はいつのまにか晴れていて、ミミズク達が見上げて祈るように見つめる巫女や手を振る護衛隊が見えた。


透子も手を振った!

おもいっきり大きく手を振っていた!


 


フクロウ3羽は、アリク里を目指して、南に向かって飛んで行く。 


空は既に夜間飛行ではなく、山の稜線は薄明るくなりつつあった。



透子はダーの背に掴まりながら、ウトウト居眠りつつあって、落ちそうになる度一休のマジックハンドな手で、何度も叩かれていた。


絶賛、睡魔と絶賛交戦中であった!

・・・ワイバーンより、手強い相手だ‼ 


透子から見て東側に位置する山脈から、もうすぐ朝陽が昇ろうとしていた。









 

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