34話 王の卵
透子達3人が腹を満たして、今後の方針を語り合って一段落した後、しばらくしてジーカがやってきた。
「失礼いたします。おくつろぎ中に申し訳ございません。皆様にはお願いしたい儀がございまして、巫女長以下主だったものがお待ちですので、お疲れのところ恐縮ですがご足労お願いいたします。」
入室して深々と頭を下げて言った。
透子達がついて行くと、礼拝堂の入り口ようなところに着いた。
中に入ると、白い岩をくり抜いて壁面を磨いたような感じで、緑の蓄光石の明かりが壁に反射して、光と影のコントラストが、厳かな雰囲気を醸し出していた。
巫女長ルーナと高位と思われる巫女たちが待っていた。
「トーコ殿、こちらまでお越しくださりありがとう存じます。」
巫女たちが礼をするので、透子も返す。
「どうぞこのまま、先導いたしますので奥の間にお進みください。」
ルーナに従って透子もついて行く。
ルーナとカーナが扉の前で黒曜石のような石が付いたロッドをかざし何か詠唱を唱えると扉が開いた。
次の間を通り奥の扉の前でまた同じように韻の微妙に違う詠唱を唱えると扉が開く。
その次の間を通り奥の扉の前でまた同じように韻の微妙に違う詠唱を唱えると扉が開く。
それを何度か繰り返すごと、蓄光石の明かりは薄暗くなり影が長く続くようになる。
そうしてしばらく歩くとルーナは黒光りする扉の前で立ち止った。
巫女たちがロッドをかざして、歌うように韻をずらしながら詠唱すると、黒の扉は重い響きをたてて開かれた。
真っ黒な深淵な闇がそこにあった。
「この先は闇の回廊となっております。どうぞこちらをお持ちになり、ヨギリ様の魔力を流してくださいませ。これは闇のロッドでこの先の道しるべとなります。下り坂になりますので、足元にご注意ください。」
ルーナの説明の後、ジーカが3本の闇のロッドを透子・クーリン・一休に手渡した。
それは、鉛筆に黒いビー玉を乗せたような小さなスティック状の木のロッドだった。
3人は言われたようにロッドに魔力を流すと、黒いビー玉が光った。
巫女たちはそれを見て、ホッとしたように微笑みを交わして、ルーナとカーナが先に闇の中に入ると吸い込まれるように姿を消した。
透子達は一瞬『あっ!』と、思ったが、すぐに、
「どうぞ中にお進みください」と、ジーカがニッコリと言った。
透子は意を決して、闇の中に足を進めた。
中は、真っ黒な闇に包まれているのに視界は良好で、暗くはなかった。・・・ファイバースコープで見ている世界のような感覚で、明瞭でしかもカラーだ! だだし光沢でなくつや消しのような感じで不思議な感覚がした。
後ろの入り口を振り返り見ると、塗りつぶしたような扉サイズの真っ黒い空間があり、そこから巫女たちが潜り抜けてきたように姿を現していた。
巫女たちが入ると、またロッドをかざして、歌うように韻をずらしながら詠唱をし、黒の扉は重い響きをたてて閉められた。
「ここはどういう場所なのですか?」
透子はルーナに聞いた。
「ここは、影の領域を闇魔法で応用した闇の空間です。闇の精霊様の祝福がなければ出入りすることができません。例外はヨギリ様で、本来は水の派生精霊様ですが、闇の属性を10のうち4ありますので、闇のロッドで補強することによって可能となっています。ロッドを失くすと闇空間で立ち往生しますのでご注意ください。」
(んんん? なんか気になるワードが次々と出できたよね?)
「闇の空間って、魔法で出入りするように作られた場所なの?」
透子は?マークを頭に浮かべながら聞いた。
「さようでございます」
一休は透子が疑問を顔に浮かべているのを見て、遮断するように言った。
「トーコよ、色々聞きたいこともあろうが、今は先の進んだほうが良かろう? 疑問は後でまとめて聞くが良いじゃろう?」
「・・・そうだね」
透子はちょっと残念そうに同意した。
「よろしければ回廊をお進みください」
緩やかなスロープを下ると、そこには開けた間があり、中央には黒曜石の祭壇のような設えの横にリーア姫と黒いミミズクがいて、祭壇の下に数人のミミズクが控えていた。
「ようこそ、トーコ」
「リーア姫、あなた様がお呼びになったのですか?」
「うーん?ちょっと違うかも・・・巫女たちの意志の立会人かな」
チラッとルーナたちを見る。
「立会人? 何のですか?」
ルーナが割って入った。
「ご説明いたします。
ここは『ゆりかごの間』と呼ばれている、カイザーミミズク王家を始めとする貴種の卵を守る場所でございます。
リーア姫様もここでお守りし、お生まれになりました。この場では、闇魔法の卵の守護者が交代で精霊魔法を注ぎ卵を育て孵化を導いておりました。
しかし天敵との闘いで次々と命を散らして、闇魔法を注げる加護持ちがいなくなってしまったのです。
わたくしたちは王の卵を守るため、卵を冬眠させることにいたしました。
先代の卵の守護長ツーサは地魔法の加護持ちで、卵を眠らせることに成功しましたが、膨大な魔力で維持するため、ある日とうとう枯渇して亡くなってしまったのです。
そして今は姫様の隣におりますキーサが後を受け継ぎどうにか維持している状況なのです。
地魔法加護持ちとはいえキーサ一人の魔力では無理があるので、地魔法・闇魔法の適正者は精霊石に魔力を常に補充して、石を媒介に補強して凌いでいるのです。
しかしそのような状況がいつまでも続けられるか?という疑問とキーサの後任となる地魔法の加護持ちがいない危機感があり、闇魔法の加護持ちを他種族に求めて探していたのです。」
ルーナは息をついて周りを見渡した。
その場にいるミミズク達はうなずくように目礼した。
そして、決意を秘めたような瞳で真っすぐに透子を見た。
「わたくしたちは、渡来者の魔力が想像を超える規格外であることを、火の渡来者で存じております。
そして天恵のように新たな渡来者がこの地に現れたが、惜しむべくは闇でなく水であること。
わたくしたちは氷魔法が地魔法とは別の冬眠を維持することのできる魔法であることを知識として知っていましたが、見たものがいないためでどのようなものか未知数で、決断ができませんでした。
しかし、トーコ殿は魔力切れを起こすことなく氷魔法で見事ワイバーンを退治してくださいました。
そして、あのヨギリ様が加護をお与えになったのです。
これ以上の証明はございません。
どうか、王の卵をお守りいただけますでしょうか?
王の卵を孵化できる時まで、保護をお願いしたいのです。」
ミミズク達一同が頭を下げた。
「それは、どのような形で保護すればいいのかな?
私は、この地にフクロウの長老たちによって拉致されてきた。はっきり言ってここに留まるつもりはないです。
夜明け前にはアリク里に戻してもらうつもりです。
そんなに厳重に守っている卵を私が持ちだして、預かってもよいというのでしょうか?」
「そうです。トーコ殿の魔力であれば、卵の冬眠を維持するのは問題ないはずです。
そして毎夜トーコ殿が寝る前にできるだけ魔力を注いでいただければ十分です。
トーコ殿も寝れば魔力が回復しますので問題なしでしょう」
(あー魔力って寝れば回復するんだ!知らなかったよ。まあ回復が必要なほど使わなかったしな。でも毎晩か、ちょっとめんどくさいかも? もうマジックバックにいれっぱなしでいいんじゃね?・・・)
「他に条件とかは?」
ミーナが周りを見渡すと、視線をうけたジーカが言った。
「できれば、所在を時々ご連絡いただけたらありがたく思います」
「えっ?どうやって?」
「鳥便を利用してアリク里まで送っていただければフクロウ族を経由して届くと思います。」
ジーカが答えた。
「あらっ、そんなことしなくても、ヨギリ様の加護持ち同士なら、夜霧を呼んでわたくし宛てに伝言を託せば直ぐに聞き届けられるわよ。わたくし以外の加護持ちならキーサかコーサかしら?」
リーア姫が言う。
「コーサ?」
透子が聞き返した。
「コーサはイーサの姪で姫様の乳兄弟です」
ジーカが言った。
「えーと、夜霧を呼ぶってのはどういうことでしょう? ヨギリの精霊様を呼ぶってことですか?」
リーア姫が一瞬首を傾げてから、思い立ったように説明し始めた。
「ん? ヨギリ様はこの地にいて、わたくしたちを守ってくださるから、トーコと一緒に行かないわよ。そうじゃなくて、魔法で夜霧を呼ぶのよ。昼間の霧でも、夜間の霧でもだめよ。夜に夜霧を呼ぶのよ。夜霧は闇の空間を通って何かを届けたり送ったりできるの。でも魔力をたくさん使うから、遠いところは無理なの。でもトーコならどこからでも伝言なら送れると思うの。でも心配なら寝る前にするとよいわ。」
「闇の空間って、それは闇魔法ですか?」
「そうなの。でもトーコは闇の精霊様の加護を受けていないでしょ。だからヨギリ様の加護で闇の魔法の一部を使えるの。でも派生魔法は本来の精霊魔法じゃないから魔力をたくさん必要なの。」
(へー、派生魔法って、燃費が悪いけど使い勝手がよいってことか。 温泉魔法も使い方によっては水魔法より便利そうだったもんね)
「鳥便が使えなさそうなら、夜霧便を使ってみるわね」
「トーコ殿、では王の卵を預かって頂けるのですね?」
ルーナが確認する。
「うん、いいよ。預かりましょう」
「「「「「「おおぉぉぉぉぉぉぉぉー」」」」」」
ミミズク一同の歓声が上がった。
「「「「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」」」」
ルーナたちがお礼を口々に言った。
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