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31話 月見の池


神殿の館の外では、ミミズクとフクロウが混在しながらミミズクの姫を探している。

「姫さまぁー」

「姫さまぁー」

「姫さまぁー」

「姫さまぁー」

「姫さまぁー」


警備隊長のイーサが指揮をとりながら姫の行方を追っていた。


「イーサ、捜索状況はどうですか?」

カーナが聞いた。


「中庭も奥庭もおりません。庭園を捜索中ですが、ヨギリ様の痕跡が庭園の西回廊から月見の池の方に向かっているようです。」


「月見の池ですか! まずいですね。」


「今宵は月明りが強く見晴らしが良い、危険です。」


「ええ、あやつが現れないかと心配です」


(ヨギリ様?って、誰? 姫様のことじゃないわよね? おいでになったとか言ってたよね・・・ ヨギリ様が姫様を連れ出したってこと? それに危険とかあやつって何? )

トーコは思案していた。


「そうですね、取返しがつかないことになるまえに姫様を見つけなければ!」


「すぐに池の方向を探しに行きましょう」


「警備隊のものは池方面へ、他のものはもう一度館内と庭を探せ!」


「警備隊はなるべく、低飛行で木のてっぺんより上に上がらないように!」


「上空に注意して、怪しい影を見たらすぐに避難するようにしましょう!」



次々と指示と注意事項が飛び交わされていき、透子達はカーナとイーサとともに池に向かった。



透子は一休にこそっと話かけた。

「ねえ、一休、ヨギリ様とあやつって、何だと思う?」


「そうじゃのう、あやつは危険というてたからの、外敵じゃな! 何か襲ってくるものがおるのだろう? この地が霧で隠されているのは、外敵から守るためなのじゃろうな」


「そうよね、じゃあ、ヨギリ様って何かしら? 」


「ふむ、神殿の外のものでその存在を周知されながら、姫様を誰にも知られずに連れ出すことのできるものじゃな」


「・・・・・・内緒の友達? いや、知られているなら内緒じゃないか、周りに反対されている友達?」


「ほう、近いかもしれぬ。じゃが賛否とは関係ない(ことわり)があると思うがの」



庭園は霧に包まれて視界が悪いが、回廊は蓄光石の明かりが道を示している。

池への道は更に霧が濃い、体にまとわりつく湿気を嫌って透子はさりげなくシールドを纏った。




暫く歩いて行くと、急に木立が途切れ開けた場所に出た。

池の畔に着いたのだ。


「あっあそこだ!」

先頭を行くミミズクの警備員が指示す。


「「「姫様!!」」」

捜索隊がさけんだ。


ミミズク姫は池の畔の岩の上に留まっていた。

姫の傍には黒い人状の(もや)が漂うようにあった。


「・・・やはりヨギリ様か」

誰かが呟いた。


(・・・ヨギリ様って、あの黒い(もや)? あれって何? 人の形っポイけど危険じゃないの?)

透子は姫より(もや)の方が気になっていた。


警備隊は姫の傍に小走りで近づいて、姫と黒い靄に向かって何かを言って頭を下げている。


透子はその様子を木立の途切れた池畔の入り口で見守っていた。


「姫様がご無事で良かった」

透子の隣でミーナがホッと息を吐いた。


ミミズク姫は警備隊に保護されて、カーナを見て手?(手羽?)を振った。

姫は濃緑とペパーミントグリーンのツートンカラーの可愛い雛ミミズクだった。




その池は水面が鏡のように夜空を照らし移すので「月見の池」と呼ばれているそうだ。

池の畔は霧も晴れていて、水面に映る月が美しく水も澄んでいた。

池の周りには精霊と呼ぶには小さい、Rカちゃん人形とかB-ビー人形サイズの小精霊がフワフワと数人飛んでいて、森の木立の上にはまあるい月が照らして幻想的な趣があった。




「姫様ご無事でようございました。けれどもここへはお一人で来られてはなりませぬと申し上げたはずです。お守りください。」


「一人ではないわ」


「ヨギリ様は別格でございます。警備のものをお連れくださいませ。」


「さようでございます。姫様に万が一のことがありましたらレーア様に申し訳が立ちませぬ」


「そうです。ここはあやつによる被害が何度かあった危険な場所でございます!」


「姫様は大切なお体、ご自愛くださいませ。」


姫はうんざりしたような顔をして適当にあしらい、興味深そうに透子に注目した。


「あなたは、誰なの? もしかして噂の闇の渡来者?」


「トーコと申します。どの噂か知りませんがと渡来者です。但し闇でなく水ですが。」

透子がそういうと、事実を知らなかった警備隊のミミズクが『えっ?』と、透子を見返した。


「わたくしはリーアよ。あらっ闇じゃないんのね? 見た目と中身が違うということね。水の精霊様の加護ということはヨギリ様と同属ね。ヨギリ様は見たかしら?」


(水の精霊様と同属? ヨギリ様って精霊?)

「ヨギリ様とは? 何度かその名を聞きましたが、もしかしてそこにいる黒い靄のことですか?」


「黒い靄? あなたにはそう見えるのね?」


「トーコよ、タブレットじゃ。タブレット越しならハッキリと精霊様が見えるのではないか?」

一休が助け船を出す。


「そっそうよね? 忘れていた。」

透子はショルダーバッグから慌ててタブレットを取り出して起動すると、そのレンズ越しに黒い靄を見た」


青というより黒に近い紺色の髪と目の精霊様が嬉しそうにニコニコと見ていた。


「こんばんは、トーコです」

取り合えず挨拶してみた。


精霊様がウンウンとうなずいていた。


透子はタブレット越しから精霊様を裸眼で認識すると、一休とクーリンを見て、彼らがうなづくとタブレットをしまった。

「ヨギリ様ですね?」


「ええ、そうよ。あなたは精霊王の加護持ちね。トーコは水の精霊魔力が強くて、とても惹かれるわ」


和やかに精霊様と交流が始まろうとするその時


「トーコ! 殺気だ!! 上空を見ろ!!!」

一休がはじかれたように空を見上げた。


透子が見上げると木立の間の月の夜空は、一瞬、真っ黒な影に覆われていた。


『ゴォーオー』という不気味な轟音と共に、強風が襲い掛かった。


「「「出たぁー」」」


「「「逃げろー」」」


「「「姫さまぁー」」」


「「早く、森の中に入れぇー」」


「「隠れろぉー」」


池の畔にいたミミズク・フクロウたちは右往左往してバサバサッと森に向かって避難していた。

小精霊達はすでに姿を消していた。


強風が過ぎて、透子が再び夜空を見上げると、博物館で見たような○○○○ドン的な名前の、映画のJパークに出てきたような空飛ぶ恐竜がいた!


「何あれ?!」


「ワイバーンじゃな」

一休は冷静に答える。


「トーコ! 逃げないと餌になる!」

クーリンは焦ったように透子の服を引っ張った。


「あれが、ワイバーン!」

透子は立ち止ったままワイバーンを凝視していた。


「そうじゃ! あやつの正体じゃろう」

一休は忌々しそうにワイバーンを示す。


「トーコ、早く!早く!逃げないと!!」

クーリンが焦りながら透子の背中を押している。


「トーコ、逃げぬなら迎え撃て!」

一休が言う。


「はっ? えームリムリ!」

透子は踵を返して森に逃げ込もうとした時、姫を逃がそうと殿を守るミミズクに、ワイバーンが向かって行く姿を視界の端に捉えた。


「あっ、ヤバい! 『アイシクルカッター』」

咄嗟に振り向きざまに、氷柱(つらら)に刃をイメージして精霊魔法を唱えて放った。


三角柱の氷柱(つらら)の塊が槍のようにワイバーンに向かって走り、しっぽにあたって霧散した。


「ギュオーォー」


ワイバーンは攻撃を受けてしっぽを振り回しながら咆哮を放ち、翼をはためいて上空に上がり、首を返して透子がいる方を見た。


「ひえぇー、怖っ!」


「トーコ!ビビっている場合じゃない! 来るぞ!!」

一休が言う。


ワイバーンは透子を視線で捕捉すると態勢を変えて迎撃のスタンバイをした。


「どっどうしよう?」

透子は縋るように一休を見た。


「あれじゃ、川を凍らせた魔法を打て、ワシと出会ったときの氷雪魔法じゃ!」


「あっあれね! 冷凍食品マイナス20度のやつ!」


ワイバーンは翼を大きく羽ばたいて突撃し始めている。


「ワイバーンだけ狙え! 他はダメじゃ! 急げ!来たぞ!」


『わっ ワイバーン、冷凍マイナス20度!凍結しろー』

透子は、自分に向かって来るワイバーンに無我夢中で魔法をたたきこんだ!









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