28話 夜間飛行
暫くお休みしてしまい、継続して読みにきている方には申し訳ないです。
お待たせいたしました。
お楽しみいただけたら幸いです。
竜の山脈の西側山麓伝いに透子たちを連れたフクロウ3羽は羽ばたいていく。
フクロウの首にしがみつきながら、周りを見渡す余裕を少しずつ得た透子はショルダーバッグに張り付く一休に気が付いて、目が合った。
(いた!一休!・・・良かった!)一休の存在にホッとした。
「一休、いつの間に・・・よくバッグに張り付いてこれたね?」
「うむ、・・・魔法で咄嗟になんとかバックにしがみついたのだ。間に合ってよかったわい」
「クーリンはどうなったんだろう? 知ってる?」
「クーリンならあそこのフクロウの背にしがみついておるわ! このフクロウにお主がさらわれたのを見て木のてっぺんまで駆け上って大跳躍してフクロウの背に張り付いたわい! なかなか見事だったな!」
「そっそうなんだ! おいて来ちゃったかと思ったよ」
「・・・お主も、ボケッと簡単に攫われるでないわ!」
「・・・だよね~」
(はぁ~マジでヤバいわ。ついてきてくれた一休のお説教の有難味が身に染みるわ)
「何のためのシールドだ! しっかり張らんかい!危機感が足らんわ!」
「あー、そうだったね~」
(シールドか、完全に忘れていた!やべっ・・・シールド張っていれば攫われることもなかったな。全く危機感無かったもん。・・・フクロウに攫われて空飛ぶとか、地球的に有り得ないから~)
「・・・黒を纏う娘よ、我らはそなたに危害を加えたりはせぬ。安心されよ。ミミズクの巫女さまの所にお連れするだけである。話が終わればアリクの里にお戻し致す。亀の従者も落ち着かれよ。」
(くっ黒を纏う娘って‼ なんか中二病臭がする。・・・ヤバい!別の意味で)
透子は内心悶えていた。
竜の山脈を西沿いに北へさらに進んで行くと、背後から射す月明りが遥か前方の赤黒く燃える山を映し出す。
まだかなりの距離があるであろうが、風に乗って火山特有の匂いや気配が感じられるようになった。
「透子、灰が流れているようじゃ、シールドを張るがよかろう」
「そうだね、まるごとでいい?」
「かまわぬ・・・飛行と呼吸できるようにな」
「あはは、だね。(うっかり、やらかしたら空の上じゃ洒落にならないよ) シールド!」
透子は薄く水膜を張るようにフクロウごと自身とバッグと一休を包み込んだ。
「おおぉ! これは水のシールドか。なんと涼やかであろう。視界もクリアだ。感謝いたす。」
後方に付いてくるフクロウ2羽のうちマーが進み出てダーと平行して声をかけてきた。
「大丈夫か? なにか魔力のの波動を感じるが?」
「大丈夫だ。灰を避けるシールドを黒を纏う娘が張ったのだ。飛行に問題はない」
「そうか」
マーは後方のローに目線でうなづいて、ダーの後方に下がった。
やがて、フクロウ3羽は山の中腹で旋回するように何度か周り、森の中に降りて行った。
針葉樹林の中を縫うように低飛行しながら進んでいくと、「ホォーホォー」「フホーフホー」「ホーッホーッ」など、フクロウだかミミズクだかわからない声がエコーを伴って聞こえてきた。
視界は暗闇に包まれて様子がまるでわからない。
しばらく進んで深い渓谷と思われる場所の大岩群に着陸した。
「ここから先は歩いて行く。我の背から降りられよ」
ダーは少しかがんで、透子を下ろそうとした。
「足場も何にも見えないから無理」
透子はダーの首にぶら下がったまま、背に張り付いた。
「ドサッ」
背に張り付いたクーリンをローは払い落とした。
「いてっ! もっと優しくおろせよ!」
クーリンは体をさすりながら言った。
「勝手に我の背に飛び乗ったおまけのカワウソは、運んでやっただけで十分じゃ・・・振り落とさなかっただけ感謝したまえ」
ローはしれっと言った。
「・・・野郎#」
クーリンのこめかみがピキピキした。
「トーコを攫った誘拐犯がよく言うぜ!」
「何!」
ローが心外そうにクーリンにガン飛ばした。
「「やめんか!」」
ダーと一休が間に入って、とりなした。
「ねぇ、一休。なんか明かりないのかな? マジで真っ暗で何も見えないよ。足場が怖すぎて降りれない。」
「あー夜目がないのじゃな。クーリンはどうじゃ?」
「カワウソは夜行するときもあるから平気だ」
「そうじゃったか。なにかライトになるものがあるかな?」
一休は甲羅に潜って何やらゴソゴソやり始めた。
「これはどうじゃ?」
一休は青く光る石を取り出した。
「光コケを集めて魔石粉と混ぜて固めた蓄光石じゃ」
一休はみかんサイズのうっすらと光る石を透子に渡した。
「かなり暗いから手元しかわからないね。でもありがとう」
少し残念そうに、それでもうっすらとした光にホッとした。
「うむ、蓄光石は光コケが魔力を食うのでな、今はほとんど空じゃ。トーコが水か氷雪魔法を石に込めれば良い。水なら青く、氷雪なら白く光るであろう」
「へーそうなんだ。じゃ白いほうがいいかな。石を握って魔力を流せばいいのね」
透子は石を持つ手に集中して、氷雪魔法を流し始めた。
蓄光石は青い光を白い光が飲みこむように白くなり、徐々に光は強くなり蛍光灯の明かりのようにしっかりとした明るさで放射状にあたりを照らしだした。
「まっまぶしい!」
「めっ目が~」
「ああぁー」
「・・・・・・」
「やめれー、止まるのじゃ」
暴走するように光の強さを増していき、フラッシュのような強い光で目が開けていられなくなった時、透子の手の蓄光石を一休がたたき落とした。
すると光は急激に収束し、やがて沈黙した。
あたりは何事もなかったように、暗闇に染まった。
透子は、ダーの背中から滑り落ちていて、地に座り込んで放心していた。
「トーコ大丈夫か? トーコ?」
一休は透子を心配そうに見ている。
「トーコしっかりしろ!」
クーリンも透子の服をつかんでゆすっていた。
「うー、はぁ、あー、何とか」
透子は頭を振ったり、目をシバシバしたり手をグーパーしたりした。
「一休、なんかこの石怖いよ。魔力を流し始めたらどんどん引きずり出すように持っていかれて、コントロールできなかった。」
「そうか、この光コケは水生なのじゃ、かなり相性が良かったのであろう。元々魔力不足で飢えていたのじゃ、よほどおいしかったのであろう」
「えー、おいしかったって? なんか生き物みたいじゃん。石だよね?」
「石は形じゃな。コケは生きておるぞ、魔力を食うて光るのじゃ」
「・・・あのさ、そういうことは先に言ってくれないかな?! 思いっきり暴走したよね?」
透子はふくれっ面で抗議した。
「ふむ、そうであったかのう?」
一休はしれっとした態度でスルーした。
「フクロウさんたち、大変そうでしょ?」
透子は不満そうに言いつのった。
「たいした問題ではないがの?」
目を抑えてもがいているフクロウをチラッと見て鼻で笑った。
「・・・そうかな?」
透子は一休を睨んで、一休は透子を面白そうに見た。
「あっあのさ、その蓄光石どうするのさ? トーコ暗闇大丈夫なのか?」
クーリンが2人の間を割って入るように言った。
地面に落ちていた蓄光石をクーリンが拾うと、薄っすらと白く光っていた。
「魔力は既に蓄積されたから、あとはトーコが思う光の強さをイメージし魔力を発現すればライトとしてつかえるであろうよ」
一休は透子の睨みをあっさりと流した。
クーリンは拾った蓄光石を透子に渡すか一休に返すかで、間をオロオロしていた。
透子は一休とクーリンを何度か交互に見て、肩をおとしてクーリンから蓄光石を受け取った。




