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【閑話1】七夕の追憶 ~もみじ治療院日記~


「水沢先生! 水沢先生! 起きてください。そろそろ支度して出ないと間に合わなくなりますよ!」


「・・・・・・」


「水沢先生! 起きてくださいってば!」


「・・・・・・」


「水沢先生! ほんとヤバイって! 起きてください!」

もみじ治療院の受付事務兼相談員の相本恵理子は、透子の肩をゆすって起こそうと頑張っていた。


「・・・あと、20分!」

透子は、ねぼけ(まなこ)で、ちらっと壁時計を見上げて、もう一度寝ようとした。


「ダメですって! 今日は七夕のイベントのため、土手町の老人ホームはいつもより30分繰り上げになってますから!!」


透子はガバッと、勢いよく起き上がった!

「そうだった!! ヤバイ! 早く出ないと!」


透子は身支度をダッシュで整えて、愛用のショルダーバックを左肩に下げた。


「相本さん、サンキュ! 行ってきます」


「いってらっしゃい! きをつけて!」


透子は手をヒラヒラを振り向きつつ振って、ドアを閉めた。




自転車のカゴにバックを入れて、時計を確認する。


「12;35pm、今からだと12:55くらいに着くか、ギリギリだね? 早めに走って行こう」

透子は自転車に乗って走り始めた。





老人ホームの一日は、朝食が7:00~9:00くらい。

入所者が全員集まって一緒に食事を始める所と、自力で食事ができる人と、食事の介護が必要な人と2部式で食事をするところがある。


午前中の訪問マッサージは、食後30分過ぎてからが基本となっているので、8:30スタートと9:00スタートの場合がある。

それより早い時間はホーム側が受け入れNGなのだ。


個人宅の訪問の場合は、ご家族の都合で時間が決まる。

もっとも早い時間は、7:00スタートを希望されることもある。

9:00~始まる病院の診察に間に合うように、その前に動けるように体をほぐして欲しい、というような要望があったりするのだ。


老人ホームの昼食の準備と入所者の移動は11:30から始まるので、それまでに訪問マッサージは終了して欲しいと、どこのホームからも要望がだされている。

したがって、午前中の訪問は11:20ぐらいで終了し、治療院にもどってきます。


治療院の店舗では、午前中は12:30か13:00まで受付で、最後の患者が帰った時点で昼休みとなるので、訪問チームと店内チームでは1時間以上昼休憩にずれがある。


この業界では、昼寝が慣習になっているところが多い・・・時々、昼休みに研修会やミーティングを行う場合もあるが、基本的に昼食を食べると、電気を消して治療ベッドで寝る!

寝なくても、寝そべってゴロゴロしながら休んでいるのだ。


ちなみに某スポーツクラブ内の治療院に勤めている友人によると、スポーツクラブでは昼休憩は交代制になっているので、バックヤードにいくと長テーブルで食事をしているグループと、ヨガマットを並べて昼寝?をしているグループがあるそうだ。

治療院スタッフはもちろん、スタジオのインストラクターさんも、マシーンジムのトレーナーさんもみんな仲良く雑魚寝である。

寝ないのは、リネン係・掃除スタッフと事務員くらいだそうだ。


この話を他業界にいる中学・高校時代の友人にすると、驚かれて引かれてしまうこともあった。

・・・そうだよね? 会社関係は1時間か45分の昼休憩で、食後15分くらい机にうつぶせて軽眠くらいはしても、がっつり寝ないもんね!






もみじ治療院の1階は店舗で、2階は事務所と研修室と応接室になっている。

訪問チームは研修室で、食事・休憩したりミーティングしたり寝ている。

訪問マッサージにはエリアごとに担当の相談員がいて、ご家族やホームとの契約・連絡・会計などいろいろな橋渡し役をしている。


透子の担当するエリア相談員が相本恵理子である。

いつも透子のぞんざいな性格によるケアレスミスとかヒヤリハット系をサポートしてくれるありがたい人だ! ・・・よって全く頭があがらない!!

足を向けて寝られないはずなのに、部屋の位置と家具の配置の関係で、どうどうと足を向けて透子は寝ている!!・・・・・・しかも、毎日。


そして今日ももれなく、お世話になっているのだ!





時は、12:53pm。 

「あー、着いた。 予定より信号につかまらなかったから、よかった。」

駐輪場に止めて、身だしなみを整えてからインターホンを押す。


「はい」


「訪問マッサージにまいりました、もみじ治療院の水沢です」


「お待ちください」


ホームの正面扉が開かれた。。


「こんにちは、もみじ治療院の訪問マッサージです。よろしくお願いします!」

透子は受付カウンターから事務所の方に向かって元気よく明るく挨拶をする。


「こちらに記入をお願いします」


「はい」

受付係さんから渡された来所カードに、日付・時間・所属・氏名・目的・訪問場所を記入していく。

これが他の来所者とかぶると順番待ちでなかなか時間がかかって、面倒なのだ。


「おねがいします」

「ご苦労様です。こちらを首から下げてください」

カードを渡すと引き換えに、入館証ストラップを渡された。


エントランスで靴をぬいでスリッパに履き替えると、ホールフロアは七夕の飾りつけがされている。

どこの老人ホームに行っても、季節折々の飾りつけがされていて、目を楽しませてくれている。

今の時代に各月の日本の行事(正月・節分・ひな祭り・桜花見・端午の節句・梅雨・七夕・夏祭り・月見・スポーツ・紅葉狩り・クリスマス)を、飾りつけからイベントまで丁寧にやっている場所といえば、老人ホームくらいだろうと思っている。

あとは、保育園くらいかな?



エレベータ横の洗面所で、ソープで手洗いをする・・・・・ホームによっては手洗いの正しいやり方というのがポスターになって鏡の横に貼ってある。1分以上洗うのがミソだ。 よくドラマで医者が手術の前に手洗いしながら話しているシーンがあるが、あんな感じだ。

うがい薬を紙コップに垂らして水を入れてうがいをする。

ポンプ式の速乾擦式手指消毒剤で手関節から指までつける。

使い捨ての紙マスクをする。


ここまでやってようやく、エレベータに乗れるのだ。


来館者は、皆同じことをする。・・・・・・マッサージ師や理学療法士、歯科関係、美容師など定期的に訪問にくる人は手早く丁寧にスムーズだが、たまにくる入所者の家族は大変、モタモタとっても時間がかかる。これに引っかかって順番待ちしてると最終的に退所時間が繰り下がり、次の訪問先の時間に影響したりするのだ。


・・・ならばもっと早く来ればいいだろう? と、思うでしょ?!

ダメなんだよねー、これが!・・・・・・訪問のインターホンは10分前までOKで、それより早くついたら、待機して時間調整することになっているんだよねー。


訪問マッサージは、医師の同意書と利用者との契約をもって行う医療行為で、[健康保健被保険証]によって本人負担が所得に応じて0割~3割で受けることができる。

一般的に高齢者は1割負担なので、だいたい1回あたり400円~500円くらいの負担で20分のマッサージを受けることができる。

週2回で月3200~4000円くらいね。

医師の同意書は3ケ月更新なので、医師の同意が得られればずっと更新し続けることができるので、お迎えが来てこの世とお別れになるまで続けている人もけっこういる。


もちろん本来は医療マッサージが目的なのだが、マッサージ中ずーとずーとお喋りしている人もいる。

だれかと喋りたくてたまらない人は、それを目的半分で契約することもあるようだ。毎日いる人より外から来る人を歓迎する傾向があるのだ。

ホームの介護員はいそがしく時間で働くから呼びだしコールや必要な対応の話は丁寧にわかりやすくゆっくりと対応するけど、どうでもよい系の世間的長話には付き合わないので、お喋りに20分もまじめに聞いて答えているのは、マッサージ師と理学療法士くらいだからなのだ。


透子は部屋の前でノックする。訪問時間のカウント開始だ。

挨拶をして、ヒアリングし場合によっては血圧を測り、いつものようにマッサージを始めた。

いつもとは違う七夕の話をして、利用者様の話に相槌をうちながら、ユルユルとマッサージをしていく・・・・・・初めは横向き(側臥位)で、首元から肩へ、肩から指先まで、肩甲骨間から背中へ、腰からお尻~足まで施術したら、反対側に体位を入れ替えて、同じように反対側をして、仰向け(仰臥位)になって、鼠径靭帯(足の付け根)から足指まで施術する。

膝周りは丁寧に多めに、高齢者は膝の具合が悪い人が多いのだ。

最後に足関節のストレッチをやって終了だ。

施術報告書に記入をして、次回の予定を確認して退室する・・・カウント終了。

受付で、入館証を返却して退所する。

ここまでで、だいたい平均30分くらいの滞在時間だ。

利用者が部屋にいなかったり、トイレ待ちがあったり、フロアの介護員や担当のケアマネから話があると5~10分くらい伸びることも・・・・・・・・・


今日は七夕なので、館内全体が浮き上がった雰囲気がする。

七夕イベントのため、外から催し主催が呼ばれているらしく、クローズエリアができていた。

笹野葉に短冊がつるされていて、入所者の方々の願いが書かれていた。

マッサージをしながら、「どんな願いを書いたのですか?」とさりげなく聞いてみたら、「何だったかしら?うふふふふ」って笑ってごまかされてしまった。

本当かどうか?微妙な感じだったけど、そこは大人的に追及しなかった。

「願いがかなうといいですねぇ」と、濁しておいた。


(・・・・・・実はこの会話何回目だろう? 午前中に3回はしたね。4回目だ。あと、何回するだろう?)

透子はそう思いながら、マッサージを続けていく。

(みんな笑顔だし、楽しそうだから、まっいいか!)


法律の改正があって、同じホームで続けて施術をすると往診料が2人目から払われないことになったので、透子は次のホームに移動する。

そして、ここには時間を少し空けて違うマッサージ師が訪問にくるのだ。


そうして、老人ホームやケア付高齢者マンション、個人宅を巡回していく・・・2:10~2:50は自由参加型のレクリェーション、3:00~3:30pmはおやつタイムになっている老人ホームが多いので、この時間帯は個人宅訪問をスケジュールすることが多い。

夕方5:30になると夕食準備タイムに入るので、老人ホームの最終訪問時間は5:00になる。


早ければ5:40に遅くても6:00には、治療院に戻り1日が終了する。


今日は七夕イベントのため、おやつタイムを中心に訪問時間の繰り上げと繰り下がりがあって、透子は今、コンビニのカウンター休憩コーナーで、コーヒーブレイク中だ!


(ああぁ 今日は朝早くて、昼短くて、なんだか疲れたなぁ~ 今夜の天気と天野川の話あと2回するかなぁ? )

・・・・・・コンビニのスィーツをつまみながら、そんなことを漠然と思いながら、透子はウトウトし始めた。















「トロコ! トロコ! 起きろよ」


「・・・・・・・・・」


「朝だよ! 」

クーリンは透子をゆすって起こそうと頑張っている。


「フム、相変わらず寝起きが悪いのう」

一休はあきれている。


「・・・・・・・・・」


「甲羅でアタックはまずいかのう?」


「・・・それは、封印しといて!」


「・・・・・・」


「・・・・・・」




「・・・・・・・・・」


「とりあえず、くすぐってみたらどうじゃ?」


「そうだね・・・」


クーリンと一休は両脇をくすぐり始めた!




「ひっ! ひー! はっ!!」

透子は身をよぎりながら目を覚ます。


「えっ? ここどこ? あっ!クーリン! あれ?」

透子はビックリしながらドキドキしている動悸を鎮めるように深呼吸をした。


「あー一休! あっああぁ~~ 夢か!!」

一休の姿を見止めて、クーリンをもう一度見ると、落胆したように肩を落とした。



「顔を洗って頭をすっきりさせたらどうじゃ?」


「・・・そうだね、そうするわ」










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