27話 黄昏時
いつも読んでくださっている方、アクセスしてくださった方、ありがとうございます。
ようやく、第一目標である10万文字を突破することができました。
当初アリク里の話は3話くらいで次のノアキネー村へ行く予定でしたが、掘り下げ過ぎてまだ続きます。
1話あたり3000~4000文字で締めて次話に進むようにしていましたが、今話は6000文字超えし長いです。
お楽しみ頂けたら嬉しいです。
「フクロウ族の軍団だと!!」
ホータンは驚愕して、聞き返す。
「そうだ! 何十羽いるがわからないほどの空を覆い尽くさんばかりの数だ!」
フータスは言った。
「エルト、マックをうちのリビングに運んでおけ。ビル、各家に回ってメスと子供は家の中に入れてださぬように伝言まわせ。」
「おう」
「はいッ!」
エルトはマックを担ぎ、ビルはピョーンピョーン大跳躍して去って行った。
「トーコさん、フクロウ共はあなたに会いにきたであろうぞ!」
ホータンは苦虫をつぶしたような顔で言った。
「はあ? そうですよね。 一休、フクロウ・・・軍団らしいよ? 三羽じゃなかったの?」
ホータンに返事つつ、一休に訪ねた。
「フム? 来たのは三羽だがな、約束の日が沈む時に来るのは、何羽か聞いておらんかったでな」
「ふつう、その流れでいくなら三羽じゃね? 軍団はありえないわ」
クーリンが言った。
「・・・・・・だよねぇ。このままトンズラしたくなってきたけど、一休?」
トーコは責めるような目で言った。
「面倒事の予感しか、しない」
クーリンもうなづきながら言った。
「ほうか、じゃあこのまま、トーコのいうトンズラしようかの?」
一休が飄々と無責任に言った。
「いやいや、ちょっと待ってくだされ。軍団で来たのはワシもさすがに遺憾であるが、やつらの気持ちもわからんでもない。話だけでも聞いてやってほしい」
ホータンは頭をさげた。
「私からもお願いします」
マリーも頭を下げた。
状況を理解したフータスも「お願いします」と頭を下げた。
透子とクーリンと一休は渋い顔をして見合わせていたが、ホータン一家の頭を下げる姿に困惑して、やがて透子はため息をついて、観念した。
「わかりました。ホータンさん方の顔を立てて、話に応じます。」
里の入り口前広場に向かいながら、空を見上げると上空を鳥が旋回していた。
赤い鳥が半数くらい、黒茶系も半数くらい、点在するように緑がまじっている。
あれ、全部フクロウなのだろうか?
赤と緑は違うよね?・・・そんな事を透子は考えていた。
広場が目にはいるまで近づくと、クマ獣人の男衆がクワや槍を持って上空を威嚇していた。ウサギ獣人は投擲系の武器らしきものを、タヌキ獣人は弓系のクロスボウ?ボウガン?をスタンバイしている。
(えっ?えー? もともとはフクロウさんの話を聞いて欲しいっていう平和的な話だったよね? なんでこんなにものものしい雰囲気になってるの?)
「いっ一休、 なんだか一発触発しそうなヤバゲな感じなんだけど、だっ大丈夫かなぁ?」
「フム、里長! なんとかしたらどうだ?」
「もちろんだとも! 我里の上空を荒らしおって! 上空侵犯だ!」
ホータンはタレ目な眉を吊り上げて言った。
「上空のフクロウ族に告ぐ! 里の上空から速やかに退去せよ!里を包囲する行動は敵対行動とみなす!速やかに退去せよ!」
「上空のフクロウ族に告ぐ! 里の上空から速やかに退去せよ!里を包囲する行動は敵対行動とみなす!速やかに退去せよ!」
「上空のフクロウ族に告ぐ! 里の上空から速やかに退去せよ!里を包囲する行動は敵対行動とみなす!速やかに退去せよ!」
ホータンの声が風魔法に乗って拡散された。
トーコ達が広場に来ると、獣人達は道を空けて、上空のフクロウ達は里の正面の森の木々に留まった。
木々に留まったフクロウ軍団を見て透子は思った。
(あー、赤い鳥も緑の鳥もみんなフクロウだった! この世界のカラーって私の常識を覆すよね。枝に整列してこっちをみて留まっている感じがどー見ても、高崎のDルマ市に見える。あの辺の赤いフクロウ軍団の並びと緑のフクロウ達のところ特に。枝に留まっているせいか体形のフォルムが余計丸くDルマっぽいんだよねー。真顔だし・・・さすがに黒灰茶系はフクロウに見えるけどね~)
しょうもない事を考えていたら、クーリンが咎めるような視線を送ってきた。
ホータンは木々に留まったフクロウ軍団を厳しい目で見渡した後、周りを一瞥して、最後に一休と透子を見た。
一休は頷いた。
「こちらにいるヒューマンがトーコさんじゃ! 昨日渡した情報の通り、黒髪黒目だが加護は水の精霊王である。そこにある雪像が証じゃ!。闇の加護はない。そのことを承知の上で交渉をするとよかろう。」
「トーコです。一休・・・このカメから、フクロウは3羽と聞いています。そんな大群で押しかけられても困ります。正直あなた方の目がランランとして怖いです。代表者3羽を残して、ほかの方は解散して退去してください。解散して退去しないうちは、話を聞くことはありません」
透子は毅然とした態度を示した。
獣人たちは、「そうだ!そうだ!」「帰れ!帰れ!」などと口々に叫び、武器らしきものを振り回して威嚇した。
しばらくフクロウ達の中で、ざわめきや紛糾があったがやがて収束し、数羽が飛び去ったのをかわきりに次々と飛び去っていった。
最後に残った3羽のフクロウが、入り口の門前に飛び降りた。
「フクロウ族の翁、ダーと申す」
ほとんど黒なのに風切り羽に深緑のメッシュがあり、深緑の目をしたクマサイズのドデカイフクロウが透子を見つめながら言った。
「フクロウ族のマーと言う」
焦げ茶色で黒目のフクロウも透子をずっと見ながら言った。
「フクロウ族のローと申す」
カラスのように真っ黒な光沢で黒目のフクロウが透子を見つめて言った。
「トーコです。初めまして? ここにいるカメの一休からフクロウさん達の話を聞いてくれと言われました。里長のホータンさんからもです。フクロウは3羽だと聞いていたのに、なんなんですか?あれは?あんなに大勢の人数でやってくるとは! 里のみなさんと友好的に過ごさせていただいたのに、迷惑をかけることになって心外です。まずは里の皆さんに謝ってください。話はそのあとです」
透子は不機嫌そうに言った。
「うっ!そそれはすまない事をした。申し訳ない」
ダーは胸を押さえて言った。
「すまん」
マーがちょっと不服そうに言った。
「迷惑をかけて、申し訳ない」
ローが神妙に言った。
透子は振り返って、獣人を見て、里長を見た。
獣人たちは武器らしき物を下げて頷いた。
里長も頷いていた。
「ホータンさん、こちらも住民の皆さんを解散してください。立ち合いはホータンさんかフータスさんが残ってくだされば十分です。」
「そうか、皆の衆、解散じゃ! それぞれ家に帰るがよい。フータスもじゃ。ここはワシが残ろう」
「とーさん!」
フータスは咎めるように叫んだ。
住民たちもとまどうように顔を見合わせていた。
「大丈夫じゃ。他の者はさっさと解散せぬか!」
ホータンは追い払うようなしぐさをした。
それでもなかなか動き出さない住民と息子に言いきかせるように言った。
「大丈夫じゃ。フクロウ族は喧嘩しにきたわけではない、お前だってわかっておるだろう? トーコさんに言われて解散したであろう? 単に話し合いにきただけじゃ。万が一こじれて対立しようとも、ワシもまだまだ現役じゃ、簡単にやられはせぬ。 トーコさんが水の加護で守ってくれるであろう。それに、亀の御仁はなかなかの武芸者である、フータスなぞ足元にもおよばぬ。・・・わかったら解散せぬか!」
ホータンが一喝すると、心配そうに何度も振り返りながら、住民たちは帰路についた。
透子、クーリン、一休、ホータス、ダー、マー、ローの7人は、腰を下ろした。
ローが少し進み出て言った。
「本題の前に事のあらましから説明いたそう。聞いてくだされ。」
透子は頷いた。
「今から、23年前この大陸で大規模な地震が発生した。地震は断続的に続き竜の山脈で噴火が起きたのだ。ここよりももっと北側のノト山麓の被害が最も多く、山脈の向こう側ではエルフ共が溶岩流・火砕流を結界・魔法壁で押しとどめていたが、こちら側では溶岩流になすすべもなかった。
泉の森は火砕流で燃え広がり溶岩流で分断され、森は焼け野原で灼熱の荒れ地となり、多くの命が失われた。
生き残った森の民は北と南に分断かれた。豊かな泉は干上がり泉の精霊はいなくなった。
長い年月の間、泉の森を守護するのはカイザーミミズク族。地を支配するのはキングフェンリル族。両者は持ちつ持たれつの均衡を保ち共存していたが、この日を境に袂を分かったのだ。
キングフェンリル族は水や食料を求めて北へ移住していった。
残されたカイザーミミズク族は、森の復活のために奔走した。
だが本当の悪夢はそれから始まった。無念の死を遂げたものたちが妖獣・妖魔となって生き残った者たちを襲いはじめたのだ。浄化ができるものが戦っていたが数に負け次々と命を落とした。
生き残った残されたものは南へ南へ移住した。
追い打ちをかけるようにノト山の火口からはレッサーレッドワイバーンが溶岩流の上を中心に荒らし回るようになった。
カイザーミミズク族をはじめとする鳥属はレッサーレッドワイバーンに狩られて激減した。
カイザーミミズクの長は己を加護する闇の精霊ではなく、妖獣どもを浄化できる火の精霊王に願った。どうか火炎を静めて欲しいと、そして妖獣どもを浄化して欲しい。と・・・命と引き換えにだ。
命と引き換えの純粋な願いは叶えられる。精霊は直接関与できない為、火の精霊王は加護を与えた火の渡来者を召喚し浄化を依頼した。
カイザーミミズクの長の最後の願いを火の精霊王から聞いた火竜がレッサーレッドワイバーンを討伐した。
そうして森は静まったのだが、カイザーミミズク族のオスはすでに死に絶え、わずかなメスが生き残っておるだけになってしまった。
だが長の血を引く卵が残された。3つあった卵のうち既に1つは魔力不足で死卵となり、1つは孵ったがメスであった。この卵を孵すため闇魔法のミミズク達は力を使い果たして亡くなった。最後の卵はカイザーミミズクの巫女の土の加護によって冬眠させて守られている。
カイザーミミズクの巫女から卵を孵すことのできる闇魔法の加護持ちを探して欲しいと依頼されたのだ。
われらフクロウ族を逃がすため盾になったミミズク族に少しでも恩をかえさねばならぬ。
われらは火の渡来者の巨大な加護精霊魔法を見た。 元々ヒューマンの使う魔法は獣人や鳥族に比べて大きい種類が多いが、渡来者の使う魔法は更に大きく強い・・・見たことのない魔法を放つ。
だからこそ期待したのだ。黒髪黒目のあなたに。」
ローが懇願するように透子をみた。
透子は困ったように言った。
「うーん、状況はわかりました。あなた方はそのカイザーミミズクの卵を孵すことのできる闇魔法の加護持ちを探しているんですね」
「「そうだ」」
「でも、私は何度も言ってますが、水の加護持ちなのでご期待に添えません。ごめんなさい・・・ということで、この話は終わりでいいですか?」
透子はあっさりと言った。
「それではダメなのだ!」
「ダメと言われましても、闇魔法がないことには変わらないし。私にこだわってないで闇魔法持ちの人?を探したほうがいいですよ。・・・というか闇魔法の渡来者って他にいないんですか?」
「今から50年くらい前に来た渡来者が闇の加護か水の加護ではないか?という話をきいたが、かなり前にその者は海でモンスターに襲われ生死行方不明だ。」
「あーそうなんですか」
「あなたが水の加護ということはそのものは死んだか、生きてるなら闇である可能性が高いであろう」
「なぜです?」
「渡来者の主属性は1人限りといわれておる。同じ属性の者は存在しない」
「えっ、そうなの?」
透子は一休を見た。
「そうじゃな。トーコが生きている限り、次に来る渡来者は水ではないであろうよ」
一休が答えた。
「へー、じゃあ今確認できる渡来者って、何属性なんですか?火の他にもいるんですか?」
フクロウ達に視線を戻した。
「エルフの森に天の加護持ちがおる。あとは、光の加護持ちがいたはずだがまだ生きておるかのう?」
ダーが答えた。
「あーかなり前の100年以上前でしたよね? どうだかなぁ?」
マーが言う。
「・・・100年以上前! 無理ですね。お迎えきてますよ」
トーコが残念そうに言った。
「・・・ならば、それだけじゃ!」
「ということは、はっきりわかっているのは、水・火・天の3人ですか?」
「そういうことになるな」
「あのー、渡来者あきらめて、他で闇属性探したほうが早いですよ。夜行性の方で」
「それは、言われずとも散々あたったのだ!街に暮らすヒューマン以外は! もともとこの地は夜が昼より短いから闇の精霊が少ないし祝福持ちでさえ見つけるのが難しいのだ。」
「はぁ、そうなんですね。・・・でも何度も言ってますが闇ないですから!」
「今後に期待したい!」
「はぃ?」
透子はあっけにとられたように聞き返した。
「火の渡来者は、天の加護を後から受けたそうだ。浄化をする時、風を纏って空中を飛びまわっていたぞ。 王の加護は1つ限りだが、それ以外の精霊の祝福や祝音や加護はあとから増えることもある。」
「えーそうなんですか?」
「・・・そうじゃ! クーリンもトーコも先ほど温泉の精霊から祝福と祝音を受けたのであろう?」
しぶしぶ認めるように一休が口を挟む。
「あっ!そうでした」
「ならば話は早いというもの。われらの希望はあなたに闇の精霊の加護を受けてほしい」
「あー、そういうこと! えーでも、そんな簡単にいくかなぁ?」
何だか面倒くさくなって、ぞんざいに返事を返す。
「難しいであろうな。ヒューマンは日が沈めば夜寝ている。会う機会がほとんどない」
一休はさりげなく反対に誘導する。
「だよねー、他あたってくださいってことで!」
そろそろ、腹も減ってきて終わらせたくなっている透子。
「そういうわけにはいかぬ!あなたにはもう一つ頼みがあるのだ!」
「えーなんですかぁ?」
(まだあるのか?)と内心舌打ちする透子。
「カイザーミミズクの巫女たちにあってほしい」
「これから案内する」
「えー今から?」
げっそりする透子。
「今でなければ、明日はもう発つのであろう?」
「このままお連れ申す」
ダーがアッと言う間に透子を抱えた!と思ったら背にのせて、空へ飛びあがった。
「首にしっかりつかまってほしい」
「えっ? ちょっと待って? ひっひえぇ~?」
アッというまにどんどん地上から遠ざかって行き、透子はビックリしてしがみついたまま固まった。
一休はダーが透子を捉えた時にとっさに手をマジックハンドのようにビョーンと伸長させ、透子のショルダーバッグのヒモを掴むと逆に体を引き寄せて脇ポケットに縋りついた!
「えー、うそっ!」
クーリンは一瞬出遅れたが慌てて走りだし木のてっぺんまで駆け登ると枝を全力で蹴り、風魔法を纏いめっいいっぱい大跳躍して、ローの背に飛び乗って縋りついた。
3羽のフクロウは、透子をつれて一休とクーリンも縋りついたまま、夜空に高く羽ばたいた。
山の稜線は既に陽が落ち色は失われて、薄闇に包まれはじめていた。
ホータンはあっという間の出来事で止めることもかなわず、ただフクロウたちが羽ばたいて去って行く後ろ姿をボーッと見送るしかなかった。
次話は一息入れて[閑話]になります。




