21話 獣人のツボ
いつも読んでいる方、ありがとうございます。
一週間以上あけてしまい、お待たせいたしました。
朝食の時、里長さんにお願いしてもう1日滞在させてもらうことになった。
真夜中のフクロウ達襲来の話には、さすがに渋い顔をしてお怒りモードだった。
(勝手に自分ちに侵入されたら怒るわな)
朝食はサツマイモとヤギミルクだった。
なんでサツマイモ?・・・サツマイモ率高くね?と思って聞いたら、里長さんの話ではルミナス教国に来た渡来者がこの国に亡命してきた時に持ち込んだらしい。
火山灰が降る土壌では小麦や大麦が育ちにくく、遠地からの輸送で値段も安くない。
それでこの地を治める領主にその渡来者が勧めたそうだ。
甘みもあって腹持ちも良く煮ても焼いてもよく調理も簡単、保存もきくとなれば領主の大号令で領内に栽培が推進奨励されてどこでもサツマイモが食べれるようになったらしい。
おかげで凶作でもサツマイモは備蓄されているため、領民が飢えることが少なくなったそうだ。
う~んいい話だ!
ところでその渡来者、もしかして日本人? 鹿児島の人だったりとか?
・・・里長さんは会ったことがないのでそこまでは知らないらしいが[火の加護を持つサラマンダー使いのゴロー]と呼ばれていたそうだ。
なんだその中二病的な呼び名は?
やっぱり日本人確定だね・・・ゴローって、五郎でしょ!
・・・・・・会いたい!
里長さんいわく領内に住んでいるようだが、どこにいるかは知らないそうだ。
里長さんはノアキネー村の村長なら領都と連絡を取り合っているから、もっと詳しい話が聞けるだろう?と、言っていた。
朝食後はどうしようか?
と、いう話になって、さすがにタダメシ・無料宿泊は申し訳ないので、何かお手伝いすることはないかと申し出たら、可能な範囲でよいので各家に給水して欲しいと頼まれた。
コータスさん、寝不足で魔力完全に復活しなかったらしい。
魔力はよく寝ると満タンになるそうだ。
(へーそうなんだ。結構バカスカ使っていたけど、魔力切れしたことなかったよねぇ~と思っていたら加護持ちは魔力の量が膨大!と、補足説明された。)
・・・と、いうことで、各家を訪問中です。
「こんにちは、里長さんに頼まれて給水しに来ました」
「おお、ご苦労さん、この樽に頼むよ」
「こんにちは、里長さんに頼まれて給水しに来ました」
「はい、こんにちは、こちらにお願いね」
「こんにちは、里長さんに頼まれて給水しに来ました」
「ああ、あんたが昨日きたお客人か。あの樽に頼むな」
「こんにちは、里長さんに頼まれて給水しに来ました」
「こんにちは、水の加護持ちなんだって、2樽頼めるかな?」
「こんにちは、里長さんに頼まれて給水しに来ました」
「まあ、あなたがトールさんがつれてきた人ね、樽はそちらよ」
・・・と、まあこんな感じです。
おおむねみなさんフレンドリーな対応で、大丈夫でした。
大丈夫じゃないのは、透子のモフモフしたい病のほうです。
この里の獣人はトールさん一家のように子供はモフモフ感たっぷりの毛皮な二足獣人さんで、おかあさんの後ろに隠れながら顔だけだして様子を伺うしぐさとか、もう胸キュン状態です!!
15歳で大人になり、精霊魔法の身体魔法が高まると毛皮モードからヒューマン的な体形に変わるそうです。
精霊魔法の力が少なかったり、職業的にハンターやガーディアンなど身体強化が求められる場合は毛皮モードのままにしておくこともあるそうです。
・・・・・・なるほど、大分獣人事情もわかってきました。
クーリンはどうなるんだろう?
あの小さい耳としっぽ残してヒューマン化するのかな?
ちなみにクーリンって何歳なんだろう?
そういえば、クーリンと一休どうしたか?って
一休はね、里長と話があるとかでお留守番。
クーリンは、クマ子ちゃんSサイズのミナちゃんにつかまってお守りをしているというか、ミナちゃんのお友達隊のおもちゃになっています。
・・・カワウソって、ほんとにめずらしいんだね~
で 訪問給水士をやってます。
・・・・・・・・・それはいいんだけどね。
本業は 訪問マッサージ師なわけよ!
せっかくなので獣人さんをマッサージしてみたいんだよね~
獣人さんのツボって、どうなっているんだろう?
人間と変わらないのかな?
お家訪問すると、主人か奥さんが出るでしょ、どこも悪くなさそうなんだよね?!
肩がつらいとか腰が痛いとか、いないかな?
お年寄りでもいいんだけどね・・・
ご隠居さん出てこないかな?
一応すべての家に訪問して給水するとヒマになった。
魔力が切れそうな感じはない。
コータスさんやもうひとりの水の使い手獣人さんは祝福なのでもっと少ない量で魔力切れになるらしい。
流石だ、加護持ちは違う!と言われた。
里の中でフラフラ散策していると、うさぎのおばあちゃんが芋で何かを作っていた。
耳が垂れているロップイヤー?な獣人さんだ。
どこか動きが不自然だ、のっそりと動いていて腰も股関節も曲げていて、よく見ると膝が悪いように見える。
「こんにちは、それはサツマイモですよね?何を作っているんですか?」
透子は声をかけた。
「はい、こんにちは、水魔法使いのお客人だね。これはね干し芋を作っているんだよ。干し芋にすると日持ちがするので、森や村に行くときの携帯食になるんだよ。」
うさぎのおばあさんは丁寧に教えてくれた。
「何か御手伝いしましょうか? ヒマなんです」
透子はおばあさんをうるうるとした目でみつめた。
おばあさんはニコニコしながら言った。
「そうかい、じゃあこのヒモに繋いだ芋をあそこにぶら下げてくれるかい?」
「はい」
透子ははりきってお手伝いをした。
「うさぎのおばあさん、もしかして膝が悪いのですか?」
「そうだね、よくわかったね。昔ケガをしたことがあってね。一応治ったんだけどね。年とともに膝が時々痛むようになってね。あまり遠くにはいけないんだよ。」
「あのぅ、私、ここに来る前は指圧マッサージをする仕事をしていました。指圧マッサージはおばあさんのようにお体に痛みがあったり、硬くなって動かしにくくなったりしているのを解して楽になるようにする仕事です。この干し芋作業が終わったら指圧マッサージをさせてくれませんか?」
「そうかい、よいよ。その指圧マッサージとやらはわからないが、膝が楽になるならうれしいねぇ」
そうして、透子は異世界第一号施術患者をゲットした。
干し芋作業が終わって、透子は少しソワソワしながら言った。
「おばあさん、そのベンチに仰向けで寝てもらっていいですか?」
「そうかい、よいしょっと!」
ウサギのおばあさんはゆっくりとベンチに腰を掛けて仰向けに寝そべった。
「では、はじめますね、優しく撫でたり押したり圧したり摘まんだりして指圧マッサージしますので、痛かったら声かけてくださいね」
「はいよ」
透子はゆっくりと軽擦から始めて、掌圧をや指圧をしていく・・・・・・膝周りはツボがいろいろあるので、ひとつずつ輪状柔捏をしながら、心のなかで(膝痛が消えますように)願いをかけていると、おばあさんの足が膝を中心に薄く水色に発光し始めた。
「いいねぇ、なんだか足が温かくなってきたねぇ」
透子は発光し始めた状況に、(ひぇ~何これ?)目が白黒とするが、さすがにプロなので、ビビりながらも手は動かしている。
「ああぁ~なんだかポカポカして眠くなってきたねぇ」
透子が触っている所を中心に発光は移っていく、股関節から足裏まで終ると下肢全体がうっすらと水色のオーラが包んだようになり、下肢から上肢に移ると水色の発光の中心も移って行く、透子は内心冷汗だがおばあさんは知らぬが仏で、すっかりリラックスして目を瞑っている。
肩から指先まで上肢をゆっくり指圧マッサージしていくと共にオーラらしきものも範囲を広げて、おばあさんの腕を包んいく。
上肢が終るともう一度膝に戻って、膝を立てて、膝蓋骨まわり膝裏からふくらはぎをゆっくり揉みほぐし指圧マッサージしていく。
透子は心の中で(状態異常・疼痛を回復に)と思いながら、手を動かしていく。
そうして上肢下肢を一通り指圧マッサージを終ると最後は軽擦で締ながら、おばあさんに声かけた。
「おばあさん、指圧マッサージ終わりましたよ、ゆっくり起きましょうね」
透子がおばあさんの足から手を離すと、水色の発光は消えてオーラも拡散した。
透子はホッとして、おばあさんの背中に手を添えて、起き上がりのサポートをしてすわらせた。
「あぁあ、とても気持ち良かったねぇ。何だか眠くなってしまったよ」
「良かったです! 膝の具合はどうですか?」
「そうだねぇ 足は軽くなったような気がするねぇ」
おばあさんはゆっくりと足を地面に下して立った。
「んん? 腰が真っ直ぐ伸びるわ!膝も痛くない!」
おばあさんは足を曲げ伸ばしたり足踏みしたりした。
「これは凄い! 指圧マッサージと言ってたね? ヒールの治癒魔法とは違うんだね? 気持ちも良かったが、膝も腰も痛くない!腰は触ってないのに!こりゃ不思議だ!」
「そうですか、痛みがなくなって良かったですね。」
ニコニコしながら、微妙に透子の顔が引きつっていた。
おばあさんはうれしそうに何度も足踏みしながら、ウサギらしくピョンピョンし始めた。
「これは足腰がなんだかケガをする前に若返ったみたいだ!!ありがとう。どうもありがとう。本当に良くなったよ!」
「どういたしまして! 良くなってよかったですね。私もうれしいです」
透子はピョンピョンして揺れるロップイヤーな耳を見ながらほっこりとしつつ、背中は冷や汗をかいていた。
「そうだねぇ、お礼に干し芋をあげよう。旅の途中で食べるといいよ」
おばあさんは納屋から作り置きの干し芋を両手で一杯山盛りもってきた。
「ええっ! こんなにいいんですか? 」
「いいよ、腰も膝も治してくれたんだ、お安いもんだよ。遠慮なくもっていっておくれよ」
おばあさんはニコニコとして大盛り干し芋をドサッと手渡してきた。
「ありがとうございます。」
透子は干し芋をマジックバックにしまった。
「それじゃね。ありがとね!」
おばあさんは手を振りながら、元気よくピョンピョンしてどこかへ出かけて行った。
透子はおばあさんを見送りながら、放心していた。
(確かに・・・腰痛のツボとか、膝痛のツボとか、筋肉痛を改善するツボとか、いろいろ指圧したり揉捏したりしたよ! したけどね?・・・・・・あれはないわ! 絶対におかしい? 効きする! ・・・・・・あれだけヨボヨボしていて足腰曲がって歩いていたのに、すくっと伸びて、スクワットして、ピョンピョン元気よく跳ねだすのはないわ! ありえない!・・・・・・やっぱあれだよね?あの水色なオーラ? あれがなんかやらかしたよね?・・・・・・あ~あ、ほんとに何かやらかした感じがする。・・・・・・やばー、また一休のお説教コースかなぁ?)
透子は手の掌を開いたり閉じたりしながら、ため息をついて肩を落とした。