19話 里長
里長の家の前では、白ヤギの夫婦?が待っていた。
「はじめまして ヒューマンのトーコと申します。伴のカメの一休とカワウソのクーリンです。今夜はお世話になります。よろしくお願いします。」
透子は丁寧にあいさつした。
「ほう これは丁寧なあいさつですな、里長のホータンと申す。よろしゅうな。あれは妻のマリーと申す」
立派な髭と角の二足のヤギさんが言った。
「マリーです。ようこそ。」
里長さんより小さめの角でたれ目がちの二足のヤギさんが言った。
(手足はヒューマンのような形のに、しっかり全身白い毛に覆われている。モフモフ感がすごい! 撫でたい!)
抱き着きたい衝動を、ありったけの理性をかき集めて透子は我慢した。
「じゃあ、里長頼むな! トーコさんイッキーさんクーちゃん、ゆっくり休んでくれ。じゃあな。」
「じゃあななのー」
トールはミナちゃんを抱き上げて、帰って行った。
抱き上げられたミナちゃんは、手を振って言った。
「ごくろうな!」
里長は去りゆくトールにねぎらった。
「トールさんありがとう」
透子もお礼を言う。
「「ありがとう」」
クーリンと一休も言った。
「おう」
トールは背中越しに片腕を上げて、返した。
ヤギ夫妻に招き入れられて、客室に落ち着いた。
部屋はベッドが2台、椅子2つとテーブルのツインルームだった。
アリク里の家は木造の平屋でログハウスのような作りになっている。
玄関から入ると吹き抜けリビングで奥にキッチンと水回りで対面に個室があるようだ。
里長の家はトールの家より3倍くらい大きい。
リビングの広さと個室の数が倍だ。
宿屋の代わりになっているからだろう。
リビングダイニングのテーブルは20人くらい座れそうな大きさだ。
椅子が丸太なのが獣人らしい。
しっぽのためか、背もたれのある椅子がどこにもない。
近くの家に住む息子さん家族が2組で来ていて、ちょっとにぎやかだ。
ヤギさんたちは皆二足のヤギさんだ。
素朴な疑問なんだが、足の蹄はどこへ行ったのだろう?
長男さん家族が4人、次男さん家族が4人、里長夫婦と私たちで13人。
ワイワイガヤガヤしながら、奥様方のお手製の夕飯を頂いた。
なんだかわからないが鶏っぽい肉とサツマ芋?と緑の葉野菜のホワイトシチュウとパン的?な小麦粉を捏ねて焼いたナンみたいなものとベリー系果実だ。
(味はおおむね薄味、調味料が塩少々といったところで、あとは素材の味かな?
ベースは牛乳ではなく、ヤギミルク?
癖はないけどライトな感じで物足りない・・・胡椒足してよいかなぁ?
やっぱ嫌味になるかなぁ・・・作った人に悪いよね?我慢しよう)
食事中は里長が家族のこぼれ話をしたり、透子がトール一家との出会いの話をしたり、息子がアリク里の話をしたりして和やかな雰囲気で過ごした。
食後は子供たちは別のコーナーで遊びは始めて、奥様たちはキッチン奥に消えて、里長と長男フータスさんと次男コータスさんと透子・一休・クーリンで向かい合った。
「トーコさん、あなたはヒューマンだが、ワシら獣人はヒューマンが使う回りくどい話が苦手での。直接聞きますでの、あなたは渡来者ですかの?」
里長は真っ直ぐ透子を見た。
「なぜ、そう思いますか?」
透子は質問を質問で返す。
両脇のフータスとコータスが眉をひそめた。
「6日か7日前にこの山森の奥で突然雷が鳴り落雷し立ってはいられないほどの地震が揺すったでの。そして3日ほど前にこの里を管轄するノアキネー村から鳥便がきたのだ。内容は、渡来者が現れた可能性がある。」
里長は説明した。
「なぜ雷と地震が渡来者と関係があるのですか?」
透子は質問を重ねる。
一休とクーリンは静観だ。
「地震と雷が渡来者の出現を毎回示しておるからの。場所はいろいろあるがの。そして周期的に見てそろそろどこかに現れてもおかしくない時期らしいの」
里長は説明を重ねた。
「そうなの?」
透子はがバッと一休に向いて、確認する。
「んー 周期はどうじゃったかのう?5・60年だったような?気もするがのう? よく覚えておらんわい。 だが、地震と落雷はほんとじゃ! 何度か見ておるじゃな。」
一休は答えた。
「・・・そうなんだ。他にもいるんだ?」
透子はつぶやいた。
「他にも・・・ということは、やはり、渡来者なのですな?」
里長は確認する。
「・・・それを認めたら何かあるのですか? 上の方というか偉い人というか、権力者に報告するとか?」
透子は不安そうな表情で聞く。
「報告という堅苦しいのではなくての、渡来者が来たよ!くらいの連絡ですかの。・・・過去に渡来者が生き倒れていたことがあったり、犯罪に巻き込まれていたりして、困難に見舞われた渡来者がおっての。不幸な目に合わないように見守ろう!困っている時は助けるように!くらいの話かの。」
里長は柔和な顔で諭した。
「あーそうなんですか?」
(大丈夫なのかな? かえって胡散臭い感じなんだけど・・・)
微妙な顔で返した。
「まあ既に、雷と地震で知識階級のほとんどの者が渡来者出現を期待しておるだろうの。・・・で、渡来者なのだね?」
里長は追及した。
「・・・そうのようです。」
透子は観念した。
里長と息子たち破顔した。
「よかった!これで大丈夫だね?父さん兄さん!」
コータスが言った。
「そうだの」
里長が同意した。
「よかったな!」
フータスが言った。
3人は口々に喜びあっていた。
困惑した透子はなんかイヤな予感がして恐る恐る聞いた。
「あのー なにが大丈夫で?よかったのです?」
「渡来者は皆精霊王様の加護があるんだよね?とても大きな精霊魔法を使えるって聞いてる」
コータスが言った。
「その精霊魔法を使って欲しい頼みがあるのです」
里長が追従して言った。
「闇の精霊魔法が必要なんです!」
コータスが懇願するように言った。
透子と一休とクーリンは顔を見合わせて困惑した。
(やっぱりか! それか! これってトールさんの話と同じだよね? まいったな、あーすごくがっかりされそう・・・黒目黒髪ってそんなに闇の精霊っぽいのかな?)
「お願いします。助けてあげて欲しいのです。」
コータスさんがさらに頭を下げた。
「ワシからもお願いする」
里長も頭を下げた。
「頼みます」
フータンも頭を下げた。
透子はいたたまれなくなって言った。
「どうか、頭を上げてください。・・・本当にみなさんが皆さんが困っていて私の精霊魔法に期待している気持ちはよくわかりました」
「では・・・」
3人は期待して透子を見つめた。
「私もみなさんの期待に応えたい・・・でも、ダメなんです!」
申し訳なさそうに言う。
「「「なっなんで ですか?」」」
3人は悲壮な顔で追及した。
「確かに精霊王の加護を頂き大きな精霊魔法を使うことはできると思います」
透子はもっと申し訳ない顔をして言う。
「どうしてダメなんです!!」
コータスはつかみかからんばかりに叫ぶ。
「私の魔法は水と氷雪魔法です。水の精霊王様の加護なのです。」
透子ははっきりと水の精霊王を強調して言った。
「「「えー ええええええええええ?」」」
3人はビックリして叫んだ。
子供達もビックリして、茫然とこちらを見ていた。
奥様方も何事だろうとキッチンから顔を出してきた。
「うそー、どこをどう見ても闇の色じゃないか!!」
コータスはさらに叫ぶ
「ほんとうに? その黒目と黒髪で?」
フータスは疑問聞きした。
「本当に加護は闇ではなく水の精霊王なのです。従者のカワウソとカメを見れば水属性だとお解りいただけるのではないか思うのですが・・・」
透子は弁解するように言った。
透子の言葉を聞いた奥様方も内容を理解したようで、残念そうな顔をした。
息子たちはハッとして一休とクーリンを見て、その場で崩れ落ちた。
里長は持ちこたえて、一休とクーリンを見て、とても残念そうに言った。
「そうなのか、闇ではなく水の精霊王。従者は精霊王の眷属から選ばれる・・・ヒントはあったはずなのに・・・その見事な黒目と黒髪で思い込んでしまった。今度の渡来者は闇属性であると・・・」
首を横に振って肩を落とした。
リビングはなんとも沈痛な雰囲気に支配されてしまっていた・・・・・・
マリーさんが一同をなだめて、その場は解散になった。




