総合して48%ぐらい
「ヒッヒッヒッ……美味しい料理が俺を呼んでいる。」
結構大きな声で言った後、ミフィー君が立ち上がった。
「ちょっと重要な事案が出来たから行ってくるわ。」
「バカですかあなたは。」
そして生徒会室から出ようとする彼を、翔石君がおくびれることもなく罵倒した。
「僕達に仕事を全部放り投げてタダ飯食らいに行くとか何様ですか。」
「生徒会長様ですが。」
「…………ブタが。」
「あのっ、雪さん?」
「…………PEDになれ。」
「廃棄処分されてしまうのですがそれは………」
「…………PETになってしまえ。」
「結局家畜であることには変わりがない!?」
ドスンッ!!!
ひろみんの強烈な前蹴りがミフィー君の腹にクリーンヒットし、ミフィー君が部屋の外に放り出された!
「オラ、豚小屋にでも勝手に行ってろ。」
ひろみんのとことんまで冷え切った目線がミフィー君に突き刺さる。
それを見てワナワナと、恐怖からかなにからかは分からないが、ミフィー君は震えている。
「………うわぁあんん!!!生徒会のみんなが僕のこといじめるよぉ!!!お前らなんかとは絶交だ!!!」
そして思いっきり走り出した!
「ちゃんと美味しく食べてくれる人達の元に行くもんねー!!豚なめんなよこの屠殺者ども!!ベジタリアン!!偏食家!!あとえーっと………ハンバーグの上に乗ってるパインだけが大好物になってしまえ!!」
そして別の階層に消えて行く。
………なんだあの駄々のこねかた。罵倒の仕方もひねりすぎてよくわからないし……
カタカタカタ………
そして生徒会室では相変わらずの作業音。我らが生徒会長がいなくなったというのにこの落ち着きようだ。
「………あの、みなさんはミフィー君のことをどう思ってるんですか?」
なんか、物凄く扱いがずさんすぎて、そしてあまりにも尊敬する感じがしなかったから聞いてしまった。
実際、尊敬してないのだろうか?でも、なんだかんだ言って押し付けられている仕事はこなしているから、尊敬してないわけではないのかもしれない。しかし、上の命令だから仕方なくって考え方もあるし……正直私には分からないのだ。
「人間のクズですかね。」
「…………人間失格。」
「キルケゴール並みに人生をこじらせ、ヘラクレイトスみたいにバカな考え方を実践してクソまみれで死にそう。」
えぇぇ………
「……というのは建前でして、尊敬してますよ。普通に。」
「そうだな。」
「…………ミートゥ。」
カタカタカタ………
キーボードの音が響く。
「なにせ会長がいたから、僕は生徒会に入ったぐらいですからね。」
……それは凄いな。
私は堪らず手を止めてしまった。
翔石君は誰もが認める天才だ。どこに行っても必ずリーダーになれるぐらい、豊富な知識と適切な判断能力を持っている。そんな人が、食い意地のはったミフィー君に惹かれ、雑用を押し付けられているというのは意外すぎる。
「僕は[全てを知りたい人間]です。だからたくさん知識を持っていて……たぶん、会長よりも豊富な知識を持っているはずです。」
だとは思う。彼に1つの疑問を投げかければ、必ず10の答えが返ってくる。それぐらい彼の知識は豊富なんだ。
「ですが、それでも僕は会長には敵わないんですよ。……彼は[全てを知ることができる人間]なんです。」
「…………どういう意味?」
「会長は知らないことが沢山あります。でも、それは[まだその知識にあったことがないだけ]で、触れる機会さえあればそれを一瞬で理解し、まるで[最初から知っている]かのように話すことができます。知ったかじゃないですよ。完璧に理解できてしまうんです。」
………うーん?分かったような、分からなかったような?
「………会長は物事を理解する能力に長けています。それは、物事全てを完璧に理解できているってことなんですよ。仕組み、原因……全てを理解してしまうんです。[知っている]じゃなく、[理解している]んですね。だから彼はそれを簡単に利用し、簡単に成果を挙げられる。………紛れもなく超天才ですよ。」
「…………?」
言いたいことは分かってるつもりなんだけど、なんだろう?なんかこう……もっと端的に………
「………会長風に言えば、アイスクリームを食べて[俺知ってるよ。これってアイスクリームなんだぜ。]って言うか、[このレシピは多分こうだな。作ってみっか。]ってなるかの違いですね。」
あーー理解した気がする。
「[なんでアイスクリームはアイスクリームなのか?]そればっかり考えるから、彼の原因究明力は比類なきものになっています。基礎知識が完璧なんですよ。そして応用力もデタラメです。」
「あー確かに。あいつ、遼鋭のマジック見ても、大抵1発でタネを見破っちゃうんだよな。遼鋭お手製の人体切断マジックも1発で見破ってたし。………まぁ、あいつ自身は不器用だから、試しにやってみたら悲惨なことになってたし………」
………道理で魔力の扱いの上達が早いわけだ。根源を理解しきってから練習するんだから、それは早く身につくよね。
「[アイスクリームを知っている]か、[アイクリームがアイスクリームであることを理解できる]か。それが僕と会長の差であり、僕が会長を尊敬する理由です。まぁ、僕も会長ほどではないにしろ理解力はバツグンで、頭の回転も速いですので、頭でっかちとだけは言われたくないですがね。」
「ふーむ………それは凄いですね。それじゃあ雪さんも、生徒会に入ってきたのは同じ理由ですか?」
ひろみんがミフィー君を追いかけて入ったのはよく分かっている。でも、雪さんの動機が分からない。なぜ生徒会に入ったのだろうか。2人と同じなのだろうか?
「………私にはお姉ちゃんがいて、昔、ここで生徒会長をしてた。だから入った。」
へぇ………そいつはすげぇや。
「素晴らしく優秀だったんですよね。飯田会長にもひけをとらないぐらいに。」
「…………うん。」
「雪ちゃんにここまで想われるとか羨ましいお姉ちゃんだな。お姉ちゃん大好き?」
「…………うん。」
うはぁっ!!ヤバイ!!可愛い!!最近毒舌が目立ちつつあるけれど、雪ちゃんは元々こういう可愛い系なんだよね!!うわっ、本当………かっわいい!!
「………少し遠くの大学に行って一人暮らししてるから全然会えないけれど、たまに会える。それが楽しみ。」
きゃぁあああ!!!いやぁもう……うわっはっはっはっ!!!
バンバンバン!!!
喜びを机を叩く音色で表現しながら、私は雪ちゃんの言葉に悶え苦しむ。
「会うのが楽しみ」とか言われたいぃい!!!私にも言って!!!「イリナちゃんと……会うの………楽しみ」って言ってよぉ!!!!
「…………」
「……それだけでしたっけ?」
「……………?」
雪ちゃんがファイルを朧げに眺めていると、翔石君がニヤニヤしながら雪ちゃんに聞いた。
「生徒会に入った理由………それだけでしたっけ?」
「………………」
ズッ………
いままでの鬱憤を晴らしてやるとでもいう表情で、画面と雪ちゃんの顔の間にスッと顔を出す翔石君。
「確か去年の冬に………」
パラパラパラ…………
黒色の線が、大量に、床に落ちた。
「……………」
「………………」
いつも無気力に見える冷え切った雪ちゃんの目が、更に冷たくなっていた。
彼女が右手に握っているのは、モップ。それを槍のように片手で持ち、翔石君の頭上で素振りしたようだ。
「………………」
「…………剥製か有機体か、選べ。」
「………………有機体で。」
「わかった、殺して放置ね。」
ブン!!!
雪ちゃんが思いっきりモップを振り下ろす!!
ガラガラガラ!!
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
ミフィー君が部屋に無言で入ってきた。それを、扉が開く前に察知した雪ちゃんは、瞬時にモップの軌道を変え空振りさせると、一瞬で壁に立てかけ席に座りなおした。
……凄い早業だ。一般人なら見えないぐらい速いよ。
「………チッ。」
………今のは、聞こえなかったことにしよう。
「……………」
入ってきたミフィー君はノソノソと歩き、無言で自分の席に座った。
「……………」
そしてチラチラと私達のことを見てくる。
………何したいんだこの男。
「………僕ぅ、よくよく考えるとぉ、生徒会のメンバー以外全然友達いないんだよね。」
………うざったい口調だなぁ。こういうのが1番嫌い。ってか、やっぱり翔石君とかに尊敬されるような人間には見えないなぁ。
「だからぁ、絶交とかぁ、取り消してくれるとぉ、嬉しいなぁ………って。」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
……………
「………翔石君。取り消しますか?」
「そうですね、会長を尊敬していた旨の話も含めて取り消します。」
「えっ!?なに!?俺のこと尊敬してたの!?お前そういうの先に言えよぉ。コーヒー牛乳あげちゃ……」
「「「うるせぇ。」」」
「いや、本当すいません。絶交とか本当やめて下さい。あっ、そうだ、ひとまずメル友から………」
「「「まじうるせぇ。」」」
「…………僕ぅ、そういう対応されるとぉ、すねちゃ」
ガンッ!!!
宏美ちゃんが物凄い回し蹴りをミフィー君の顔面に叩き込んだ!!その衝撃でミフィー君は廊下まで吹っ飛ばされた!!
ピシャン!!!
そして、雪ちゃんが生徒会室の扉を勢いよく閉めた!!
見惚れてしまうほどの華麗な連携だ。2人ともの目的意識が一致してないとこんなことはできない!
「すいません!!すいませんでした!!やめて!!俺のこと嫌いにならないで!!」
ドントンドン!!
「仕事終わらせるか。」
「ですね。」
「………うん。」
「いや、さっきのはただの茶目っ気っすよぉ。俺が本気でそんなことすると思った?…………無視やめて!!無視だけはやめて!!お願いだから入れてください!!」
ミフィー君の懇願を無視し続ける3人。
………建前とか言ってたけど、普通に見下しているんじゃないか?彼のこと。
私はそんなことを思いながら、ミフィー君のことを無視して仕事を続けた。
今頃書くのも遅いのですが、実は短編では、[本編に書かなかった登場人物の関係図]を、バレないように書いています。
短編として読めるようにするのは当たり前として、前情報があれば短編同士が繋がり、更に面白くなるように作っていますので、暇で暇で、更に暇な時とかに探してみてください。
多分注意すれば、確証はないけど「多分これかな」ってなると思います。