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9、初めての戦闘


歩きながら魔素感知を行う。

調整はもう慣れた。

獲物は動いてる。

ゆえに範囲は半径100メルト程度を維持だ。

ちょうど大猪ジャイアントボアもそのくらいの距離からこちらを感知できるらしい。

とんでもない嗅覚と聴力だ。

俺は暗かろうが明るかろうが関係ないのだが、空間魔法が使えないとそうはいかない。

よって、エリーさんが火魔法のスクロールを使って周囲を照らしている。

俺とリセ、エリーさんの装備は杖だ。

おじさんは剣と盾を装備している。

流石はリセの護衛といったところだろう。

おじさんの装備は様になっている。


! 反応アリ、だ。



「向かって十時の方向100メルト、いました!」


その言葉に、ヅィーオ、エリー、リセリルカは頷きを返す。

四人は予定どうり移動を開始した。


ケルンは空中を疾駆する。

森の中特有の植物の匂いを感じながら、何ら気負うことなく大猪に接近する。


彼我の距離が即座に50メルトまで縮まった。


大猪は獲物の匂いを感じていた。

無謀にも自分に近づいてくるそいつを喰らってやる様を幻視して獰猛に牙を剥く。


----グルルルゥ・・!


その鳴き声は人間でいう嘲笑だ。

足を踏み締め、驀進ばくしんする。

その体は、異様に発達していた。

牙は太く、鋭い。

体長は優に3メルトを超える。

極めつけは体内に魔石を持っていることだった。


大猪の動きに同期してケルンも動く。

突進から一転、踵を返す。

ケルンは内心で驚愕していた。


----あんなに早いのか!?

予定では20メルト間を維持して誘導することになっていた。

脳が警鐘を鳴らす。


----あれはダメだ、近づいてはいけない。

ケルンは本来の大猪を知らない。

だが違和感は感じた。その膨大な魔素量だ。

今まで感じたことがないほどの密度。

野兎など足元にも及ばない。


猪の突貫に巻き込まれた木が倒れる。

伝わる空気の振動が、確かな木の重さを感じさせた。


・・・次に自分がそうなる様を幻視した。

魔力を練り上げ、リセに向けて思念を飛ばす。

瞬間、大猪から放たれた土魔法(・・・)がケルンを襲った。



「ケルンからの思念が来たわ!」


「・・・20メルトまで近づくのは無理そうだって。50メルトを保ったままこっちに来るそうよ!」


リセリルカは思う。

大猪は大きさ1.5メルトにもなる。

足も速いがいかんせん足場が悪い。

空中を走れるケルンからすると、距離が10メルトもあればいいとさえ思っていた。

臆病風に吹かれたのか、と考える。

彼はとんでもない潜在能力ポテンシャルをもっているが、その実狩りは初めてなのだ。

仕方ないかもしれない。

----そんな考えが吹き飛んだ。


「・・・魔法を使うですって!?」


「なに・・・?」


「魔物になっていましたか、不味いですね・・。」


接敵まで幾分かの時間がある。

予定ではヅィーオが壁役(タンク)になり、魔法で攻撃するというものだったが、

魔物になった大猪の突進は盾で受け切れるか分からない。

リセリルカは数瞬で判断を下す。


「エリー!合わせなさい!」


「はい、お嬢様。」


リセリルカとエリーは魔法陣を展開する。

使用する魔法はそれぞれ火魔法と風魔法。

山吹色と翡翠色の光が足元から二人を照らし出す。

金色と茶色の長髪が棚引いた。

暗い森の中に、幻想的なシルエットが浮かび上がる。

大地の震動は大猪の存在を如実に伝えてきていた。

リセリルカは同時にケルンに思念を送った。



「くそっ!魔法使うなんて聞いてないぞ!」


悪態をつきながら、ケルンは魔力で固められた拳大の石を、

空間魔法だよりで後ろを振り返ることなく避ける。

疾駆を止めることが意味するのは自分の死と本能的に察していた。

風を切ってつぶてが飛翔する。

その余波で体勢がぶれる度、大猪がせまってくる。


「私たちとの距離が10メルトを切ったら離脱しなさい!!」



--残り20メルト。



大猪は違和感を感じ取った。

複数の魔力の匂い(・・・・・)がする。


魔物化した大猪は、単純な獲物の匂いではなく、魔素を嗅ぎ分ける。

魔素が己の糧となるのだから当然だ。

目の前の相手は実にうまそうな匂いを放っている。

牙を突き立て食らうのを待てないほどに。


そして自分の得た新たな力、魔法。

それを使うとき、魔素とは異なった匂いがした。

無様に逃げるこの獲物も、微かだが魔力の匂いがする。

常にその匂いを纏っていたから気づかなかった。


だが、匂いが増えた。

ほかに二つ、微かだが匂ってくる。



--15メルト。



先ほどの警戒を切って捨てる。

微かな匂いなどこの獲物の前では些事だ。

それに、自分は強者である。

狩る側の生き物なのだ。

木をも貫くこの牙を折れるものなど存在しない。



--10。



ケルンは飛翔した。

空中に足場を作り、駆け上がる。

直上、木の上へ。


大猪が急制動を掛ける!

加速した体は、急には止まれない。

5メルトほど、停止に要した。



眼前5メルトで静止した巨大な猪は、ただの大きな的であった。

----砲声する。


「『地獄の火焔(ヘルファイア)』!」

「『暴風(テンペスト)』!」


深紅の火焔が獲物を焼き尽くさんと迫る。

鎌鼬を引き起こす嵐が火焔を巻き込み、助長する。

圧倒的な熱量と風の暴力は、猪の体毛による鎧を切り裂き、焦がす。

大猪は逃走を選択した。

だが視界には何も映らないのに、そこに壁があるように動けない。

同時に理解した。

ああ、自分は狩られる側に回ったのだと。

炎と風の乱舞を、甘んじて受けるしかなかった。



「ふう。」


ケルンはリセリルカ達がいる場所へ降り立った。

大猪へ注意を向ける。

そこにはただ、魔力の痕跡(・・・・・)が残っているだけであった。

魔力で形作られた、土のシェルターの。



体毛は焼け焦げ、火傷を負ってはいるが、大猪は果たして、健在であった。

放射状に砕けた土魔法の壁を突き破って、駛走しそうが始まる。


「ケルン君!!」


ヅィーオが盾を掲げ、猪の進路に立ち塞がった。

助走5メルト、ヒトを突き飛ばすのには十分だ。


-----激突する。

ヅィーオの体が2メルトほど後退した。

それだけだった。

何も魔法だけが戦う術ではない。

魔力による身体強化、--魔装と呼ばれる。

それができることがヅィーオの護衛たる所以だった。


「ケルンは下がってなさい!」


リセリルカが魔法陣を展開する。

紫電が彼女を照らし出した。

突貫を防がれた大猪は、魔法を使わせまいと飛礫を打ち出す。


エリーが己の持っている破魔の杖(・・・・)に魔力を込めて飛礫に向けた。


----霧散する。


同時に魔法が編み上がった。


「『稲妻(サンダーボルド)』!」


掲げた杖から、雷光が迸る。

彼我の距離を刹那で駆け、着弾する。

恐るべきは付随効果の行動停止スタンである。

動きを止めた大猪にヅィーオが渾身の力と裂帛の気合をもって斬りかかった。


「ハアァァァァァァァア!!」


剣士が咆哮した。



袈裟斬り。


斬り上げ。


勢いを利用した回転斬り。


『グルゥァァァァァァァ・・・』


額から鼻、顎下から胴、脇腹を三太刀のもとに裂かれ、大猪の体から力が抜け、地に伏せた。

幾度も起き上がろうと体を揺らすが、無為に終わる。

・・・ついぞその足が大地を踏みしめることはなかった。



----すごいな。

俺は大猪が倒れ伏すのを呆然と見ていた。

自分がやったことといえば、囮になったぐらいのものだ。

戦闘の最後のほうでは、おじさんやリセに守られる始末だ。

ありきたりだけど、チームワークがいいって表現が一番似合っている。

まあでも、とりあえず今は。


「やったわね!」


振り返ったリセが笑いながら拳を突き出してくる。


「うん!」


俺も笑って拳を合わせた。




ヘルファイア、テンペスト、サンダーボルトについて、魔物についての説明は次回で。

ケルン君は攻撃しませんでしたね。


ケルンの魔法(new!)

思念伝達リセにだけ

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