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5、前準備に豪邸へ

コンコン・・・。

俺の部屋のドアがノックされる音で目が覚めた。

相も変わらず視界は白黒だ。


「ケルンー?リセリルカちゃんが来てるわよー?」


母さんがドアを少し開けて言う。


「まだ起きたばっかで朝ごはんも食べてないんだけど?」


あれ、いつもは朝ごはんの匂いがするのに今日は何も匂ってこない。


「リセリルカちゃんのところで用意してくれてるらしいの。早く顔洗って着替えてきてね?女の子を待たせちゃだめよ?」


そうなのか。

・・・男だろうが女だろうが待たせちゃダメじゃないのかな?女の子はとくべつなのかな。

俺は洗顔用に木製のたらいに汲んである水で顔を洗った後、服を着替えて自分の部屋を出る。

俺の部屋は2階にある。

階段を降りるといつも食事をとっている部屋で座っている父さんを見つけた。


「おはよう、父さん。」


「ああ、おはようケルン。今日も楽しんでおいで。」


ん・・・?家族みんなでリセの家に行くわけじゃないのか。


「父さんたちはどうするの?ごはんまだだよね?」


「今日は主都フォルロッジに用事があるから、朝ごはんはそこでたべるの。ついでにお買い物もしてくるから、父さんも一緒よ。荷物持ちとしてね?」


台所から母さんが意地悪な声で言う。


「ひどいなぁ、俺は荷物持ちかい?ミゥ。」


父さんが苦笑して答える。


「えー、俺も主都に行ってみたい。」


父さんと母さんはたまにこうやって主都に赴く。

買い物だけじゃなくて毎回何か用事があるみたいだ。

教えてくれないけど。


「ケルンはリセリルカちゃんを待たせてるでしょ?もう少し大人になったら連れて行ってあげるわ。」


いたずらっぽく母さんが笑う。


「いつ連れて行ってくれるの?」


「そうねぇ、ケルンの身長が父さんの肩に届くぐらいになったらかしら?」


今はまだ父さんの胸のあたりだ。


「まだまだってことかー・・・。」


「俺と母さんは準備があるからもう少し家にいるよ。先に行っておいで。」


父さんが立ち上がって母さんのいる台所に向かって歩きながら言う。


「わかったよ・・・。」


「ああそうだ、頑張るんだよ。明日の夕食は楽しみにしてるから。」


何のことだろうか?

まあいいか。

ドアの向こうにリセリルカ、一歩下がったところにおじさんがいるのが認識できた。


「いってきまーす。」


俺はドアを開けて外へ出た。


********** **********


「ねぇテイン?」


「なんだいミゥ?」


「主都から催促が来てるの。早く研究成果を出せだって。私たちの共同研究の。」


「・・・そうか。」


「私、嫌だよ?」


「俺も嫌だよ。」


「そうじゃないの。それも嫌だけど、離れたくないの。ちゃんと、もっと、普通みたいに。」


「わかってるさ。わかってるけど、今は・・・。」


「あの子がリセリルカちゃんに認めてもらうところからよね・・・。」


「リセリルカ様の後ろ盾があったなら、研究職らも手を出しにくいはずだから。」


「私たち、家族だよね。」


「そうだね。家族だ。」


「うん・・・、うん。」


「行こうか。」


「分かったわ。」


********** **********


「遅いわよ!」


皮の服にセミロングスカート、足元にはブーツ、頭にカチューシャをつけたリセが怒っていた。


「ごめんごめん、今起きたばっかりなんだよ。」


「まあいいわ!今日は朝ごはんに招待しに来たのよ!早速行きましょう!もうおなかがペコだわ!」


おなかがペコ・・・。


「う、うん、行こうか。」


俺たちはリセ宅に向かって歩き出した。


「ほぁ・・・。」


俺はいま、リセの家を見下ろしている。

空間魔法お得意の俯瞰だ。

敷地は100メルト四方くらいだ。ツィリンダー家の5倍くらいある。

でかい。縦にもでかい。4階まであるみたいだ。

部屋何個あるんだこれ?

屋敷の中央には中庭があり、それを囲むように建築されている。


「何よそのあほ面は?」


「ひどいなぁ、あんまりにも豪邸だったから驚いただけだよ。」


言いつつ自分の顔を見る。

あほ面してるかなぁ?


「おかえりなさいませ。」


ドアがひとりでに開いたと思ったら中から女の人が出てきた。

主都で開かれる舞踏会で着るようなドレスに、エプロンを上からかけたような服を着ている。


「ただいま、エリー。食事にするわ。」


「かしこまりました。準備はできております。」


ん・・?これはあれか、家政婦メイドというやつだろうか。

雇われて家の仕事をするっていうあの。

あ、初対面の人には自己紹介だな。


「おはようございます、初めまして。リセの友達のケルンです。よろしくお願いします。」


家政婦メイドのエリーです。よろしくお願いいたします。」


エリーさんは右足を少し前に出しつつ、スカートの裾を両手で少し摘まみ、恭しく頭を下げた。

とても洗練されている滑らかな動きだ。


「お先に食卓にご案内いたします。お話はそのあとで。」


エリーさんはふわりと笑ってそういった。


ふかふかの絨毯が敷かれた館内を歩く。

やはりかなりの数の部屋がある。

失礼してその中の一室の中を魔法で見てみる。

中には大きなベットと収納棚があるだけだった。

誰かが生活している感じはない。

なんで誰も生活しないのにこんなに部屋があるのだろう?

きょろきょろしている間に食事をする部屋についたみたいだ。


「はぁ~・・・。」


広い。

さっき俯瞰で見た4階までの高さが吹き抜けになっている部屋だ。

天井には精緻な細工が施された照明器具だろうか?天井からつるされている。

部屋の中央には大きな長机があり、すでに食事は給仕されていた。

給仕されている食べ物は見たところ俺とリセの二人分。

ここまで大きな机を二人のみで使うことに対しての違和感がすごい。


「あの、食べるのはリセと僕だけですか?おじさんとエリーさんも食べるものだと思ってました。」


「私は家政婦メイドですので。主と食事を共にすることは失礼にあたります。」


「儂もお嬢様の護衛ですからなぁ。」


・・・。


「あのさ、リセ。リセってホントはとっても偉い人?」


「・・・いいえ?偉かった人(・・・・・)よ。今はただのリセリルカだわ。」


あの魔法に対する知識はそういうことか。

この世界で権力を持っているのは魔法を使える者だ。

玉座には最も優れた魔法使いが座る決まりになっている。

リセはいわゆる魔法使い名家の出なのだろう。でも。


「今は偉くないってことだよね?」


「だったらいいんじゃないですか?一緒に食べても。」


俺がそう言うとおじさんとエリーさんは困ったような顔でリセを見た。

何かおかしなことを言っただろうか?俺は?


「・・・あはははは!そうよね!関係ないわよね!私はただのリセリルカなんだから!」


難しそうな顔を一瞬見せた後、リセは破顔した。


「一緒に食べましょう?エリー、ヅィーオ。」


「・・・ご命令とあらば。」


「仕方がありませんな。」


こうして四人での食事が始まった。

・・・おじさんってヅィーオって名前だったのか。


********** **********


「狩りに行くわよ!」


食事が終わったと思った直後、リセが言葉を発した。

両手を机に付け、身を乗り出している。


「お嬢様、はしたないです。」


「うっ・・。今の私はただのリセ」「いつかは王となるのでしょう?」


「作法は覚えておいて損はありません。周りから愚か者に見られれば玉座は遠のきますよ?」


「うぅ・・・。」


うわ、リセがやり込められてる。

エリーさん強いなぁ。


食事はとてもおいしかった。

特に猪肉のソテーは絶品だった。

ある程度の歯ごたえがあって噛めば噛むほど甘い肉汁が飛び出してくる。

唾液と肉汁を絡めて嚥下えんげするときの幸福感といったらない。

母さんの味とは違って激しいうまみに舌が喜んでいる感じだ。

こんな料理が食べられるなら、毎日通いたいと思ってしまう。


「エリー、そこらへんにしていてやれ。ケルン君に今日の予定を伝えなくてはな。」


ヅィーオさんから待ったがかかった。


「かしこまりました。ケルン様、今日はお嬢様とヅィーオ殿と一緒に狩りをしてもらおうと思っております。」


リセから視線を外したエリーさんがこちらを向いて説明を始めた。


「屋敷から北へ5キロメルトほどのところから森が広がっております。そこにあらかじめ罠が仕掛けてありますので、獲物がかかっているか確認してください。」


罠か。

父さんから聞いたことがあるな。


「獲物がかかっているならば止めを刺し、血抜きをしてください。罠にかかった獣を放置しておいてはろくなことになりません。小さい獣を狙うのは人間だけではないのですから。」


「命をいただくのですから、なるべく苦しまずに止めを刺さなければなりません。最初は手が震えるかもしれませんが、気張ってください。」


そうか。

狩りはそういうものか。

食べるってことは殺すってことだもんな。

俺は食べるだけだったって話だ。

苦しいことから目を背けてはだめってことか。


「昼の間はこれでひとまず終わりです。夕方からは狩りの本番です。狩りとは害獣の駆除の意味も含みます。標的は大猪ジャイアントボアと呼ばれる動物です。対策はお嬢様やヅィーオからお聞きください。これはあなた様の魔法訓練でもあります。実戦を積めば、より魔法は自然にできるようになっていくでしょう。」


魔法訓練か。

まぁ・・・なんにせよ。

初めてやることはわくわくする。


「・・・ああ、そういえば、さっき作った猪肉のソテーですが、大猪ジャイアントボアのお肉を使っていまして。たくさんとれたなら調理に困ってしまいますね・・・。シチューなどにすれば、大量に消費できるでしょうか?ソテーとは食感も違って口の中でとろけるようですよ?」


うっわ・・・・。

やばい、どうしよう。

すげえ食いたい!!

リセリルカがエリーさんをガン見してる。

俺も頬のゆるみを抑えきれない。


「私は昼食を作って待っておりますので。」


そんな俺とリセリルカの顔を見て、

エリーさんは微笑んで言った。





初めて評価をいただきました。とても励みになります!よろしければこれからも見てやってください。

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