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2、リセリルカと

村を俯瞰で眺めてみる。

ここ一帯はどうやら木が生い茂っているようだ。

全体像を把握するために認識範囲を広くする。

黒い球体が広がっていく感覚だ。

どうやらこれが俺の意識できる範囲らしい。目を閉じて集中する。

別に目を閉じようが閉じまいが見えないものは見えないのだが、人と接する時には開いている。

相手が目を開けているから自分も何となく開けてしまうのだ。


「痛っ・・・。」


半径3キロメルト位まで広げたときだろうか、頭痛が走った。

ここが限界らしい。

村はそんなに大きなものではなく、200メルト四方内に家がまばらに立っている。

村の対角線上に川が流れているようだ。

上流側が北、下流側が南だ。南のはずれに俺の家がある。もっと南に行けば海が見えるだろうか?

いつか見てみたい。見果たす限りの青色らしい。

同じ青色でも空の色より濃ゆいのだとか。

色というのはどうしてこう俺の心をひきつけるのだろうか。

俺が住んでいる村はベルグというらしい。

世界は 砂漠 海 森林 草原 雪国 火山帯 の6つの地域に分かれていて、

ベルグ村は森林地域にある。森林地域の主都は中央に位置するフォルロッジという町だ。

この世界の村から主都、別の地域へは転移ゲートなるもので移動できる。

これはヒト種しか動かすことができない。

ヒト種体内の魔素構成を利用しているとかなんとか。

難しくてよく分からなかった。

ヒト種の内訳は獣人、エルフ、ヒトの三種である。

獣人は身体能力が高く、狩猟者や労働力として主都に貢献している。

ヒト種全体の30パーセントを占める。

エルフは博識で、魔法適性が高い。ただし数が少ない。ヒト種全体の10パーセントだ。

ヒトは能力的にはエルフや獣人に劣るが、数が多く、ヒト種全体の60パーセントはヒトだ。

エルフや獣人ともいつかは会ってみたいものだ。


俺の前を歩いていたリセリルカから声がかかった。


「何立ち止まってるの!行くわよ!」

「ごめんなさい!今行きます!」


走ったのでベルグ村にはすぐに到着した。

その時に分かったのだが、走っている最中に地面以外に意識を向けるものではないな。

目が見える人が転ぶことが不思議でならなかったけど、その理由が分かった気がする。

外には目移りするものがいっぱいだ。いちいち足元を見ていられなくなる気持ちがわかる。

到着してしばらくあるくと、円柱型の胴体に人間でいう足のパーツが4個、頭の部分が地面につきそうな状態で口?だろうか?もごもごと動かしている物体があった。

近くには大きな建物もある。

ちなみにおじさんはリセリルカの前を歩いている。

口角が上がってるから喜んでるのかな?


「あれは何ですか?」


物体を指さして聞いてみた。


「牛よ!」


リセリルカが腕を体の前で組みながら言う。

これが牛か。うまいお肉と牛乳の。今草を食べてるところか。


「どんな色ですか?」

「黒いわね!」


俺の視界と同じ黒色か。黒色と白色はもうすでに愛着たっぷりだ。大好き!

でも何だろう?ちょっと異臭がする。これが牛の匂いなのか。



牛と似た形だがかなり小柄でもふもふしてそうな物体を見つけた。


「あれは何」

「羊よ!」


ちょっと食い気味で答えられた。

声のトーンからちょっと得意げなのがうかがえる。

眉毛のあたりにしわが寄って口角が上がっている。

なんでも答えられるのよ?どう?みたいな感じ。

・・・・。

なんだろうちょっと腹立つ。


「何色ですか?」

「白ね!」


いいね。好きよ?羊。

毛とか衣服に使われるし、白いらしいしな。親近感ある。


今度は牛をスリムにしたような物体だ。


「あれ」

「馬!」


はえぇよ。

あれが馬か。

移動手段に使われるやつ。乗ってみたい。


こっちが言い切る前に何か言われないように急いで言おう。


「色はッ!?」

「・・・茶色よ!」


よし勝った。


「木の幹みたいな色ですか?」


「うーん、木の幹も馬も個体によって少しずつ色が違うわ!だからケルンの言ってる木の幹がどんな色かわからないと私も答えられない。」


むむっ。そうなのか。木の幹が茶色というわけでもないのか。

うーん、難しい。木の幹と馬は茶色っぽい(・・・・・)色ってことか。

じゃあ何を茶色っていうんだろ?と思うが。

俺の見てる景色は白黒だ。でも本当にそうだろうか?

この景色は俺しか見れないのに。

誰が俺の見てる世界を白黒だと証明できるんだろう。

・・・色ってとっても曖昧なものなんじゃないだろうか?

誰が見るかによってその色はちょっとずつ見え方が違うのでは?

父さんと母さんが見てるのと同じ世界を見たいと思ってたけど、実は父さんも母さんも同じ世界を見ていないのかも。

どちらにしても俺はもう白と黒だけでは満足できない。


「リセリルカさんは物知りですね。」


「リセリルカって長いでしょう?リセでいいわ!あと敬語もやめてちょうだい!堅苦しいわ!」


彼女の声のトーンが少し下がってる。ちょっと不機嫌みたいだ。

あれ?敬語でなくてもいいのか?


「家族以外の人には普通敬語で話すのではないですか?」


「そんなことないわよ?わたしは大人でも普通に話すし。」


それはどうなんだろうか?父さんもほかの大人と話すときは敬語だしたぶんちがう。

現におじさんと話すとき敬語だった。


「じゃあ友達になりましょう?それなら不自然じゃないわ!」


友達かぁ、話の中でしか聞いたことがなかったな。

俺は父さんと母さんの子供だ。

そこにリセリルカの友達という肩書きが加わるのか。

------なんだろう、とてもくすぐったい。


「わかった。じゃあ、よろしくリセ!」


「うん!よろしく!ケルン!」


ああ、この顔はわかる。

彼女の顔は、笑っていた。

声の高さもちょうどよくて、やさしくて、包み込まれるような感じ。


母さんが俺を膝の上にのせて本を音読してくれる時のあの顔。

父さんが帰ってきて頭をなでるときのあの顔。

あったかいなと思った。


「ねぇ、リセって何色?」


「難しいこと聞くわね?ヒトには決まった色はないわ。いろんな色が混ざってるのよ!例えば、私の髪は金色よ!」


自分の髪を指先に巻き付けて弄びながらリセは言う。


「金色ってどんな」

「金色は一番偉い人の色よ!一番強い人の色よ!宮廷魔術師よりも、研究者よりも、誰もが知ってる王様の色よ!憧れるわ!」


語気が強い。興奮してるみたいだ。

両手で握りこぶしを作り、胸の前にもってきて俺のほうに顔を突き出すようにしている。

ちょっと近いな。


「だ、だから私は、この金色に恥じないようになって見せる。誰もが認める王になりたい。」


近づきすぎに気付いたのか慌てたように俺から離れるリセ。

言葉の最後のほうはゆっくりとかみしめるように言っていた。


「なんかキラキラしてる感じがするな。俺には王様が金色なのかどうかはわからないけれど、金色はきっとリセっぽいんだろうなーと思うよ。」


うん、なんかしっくりくる。リセは金色だ。

・・リセの輪郭がぼやけて白さが増したような気がした。なんかちょっとあったかい(・・・・・)


「そ、そう・・!そんなわけで私の色は金色ってことでいいのかしら?」

「うん、ありがとう。よくわかったよ。」


ふと思った。


「なあ、俺の髪の色って何色なの?」

「ん?黒いわよ?ちなみに瞳の色は白いわね。・・おかしいわね?あなたのお父様とお母様の髪は白色と緑色よ?」


・・・?


「何がおかしいの?」


「・・ああ、でもそういうこともあるのかしら。

基本的には子供は親の髪の色を受け継ぐのよ。

稀におじい様やおばあ様の髪の色が出ることもあると聞くわ。あなたはそれなんでしょう。」


そういうものなのか。髪の色の話なんてしなかったからなあ。

肌色が人の肌から来てるとは聞いたけど。


「リセの髪はお父さんとお母さんどっちの髪の色なの?」


「・・・お父様よ!」


そうなのか。

俺はリセのお母さんの髪の色を聞こうとしていたが、意識の端にヒトが映った。

リセから意識を離してヒトがいるほうに注意を向ける。

背は俺とリセより少し小さいくらい。男の子かな。

右手を前に向け、それを支えるように左手で手首をつかんでいる。

心なしか彼の体から白い靄が出ているような。

そして一言。

点火(イグニッション)!!』

白い靄が彼の右手に収束し、圧縮されて噴出した! 少し熱さ(・・)を感じた。


「ああ、火魔法lv1の練習してるみたい。魔力の集束が甘いわね?」


そう思うでしょ?とでも言いたげな表情と声のトーンである。


「なんだあれ!??」


俺の心からの一言だった。










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