第九十八話 魔王国の世界樹
どうもHekutoです。
修正等完了しましたので、投稿させて頂きます。お暇の合間や気が向いた時などに楽しんで頂ければ幸いです。
『魔王国の世界樹』
名も無き異世界の魔王領、その中央に聳える巨大な魔王城の最奥。そこは最古にして最大の世界樹の為に用意された広間であり、魔王領における最重要施設であった。
そんな今では魔王領で最も寂しい場所となり果てた広間で、深々と剣が刺された世界樹の幹を前にしたユウヒの視界には、右目の力によって膨大な量の文字列が流れていた。その中からユウヒが読み取れた一節にはこう書かれている。
【試作封魔剣三号機 ダインスレフX-03】
異常活性魔力を鎮静化させるために作られた制御用封魔剣の試作品。
本来求められた要件を成さず、また良性の活性魔力を不活性状態にしてしまうと言う欠陥が判明したため、停止魔法が込められた鞘に入れられ封印処置がなされた。現在は暴走状態にあり、周囲の活性魔力を不活性化及び、接触した対象から制御に必要な活性魔力を急速に補給する状態を維持している。
「ふむふむ・・・いったいどういう経緯でこんなもの刺したんだか」
視界に流れて行く膨大な情報の中から理解できる範囲を抜粋して読み解いていくユウヒは、この世界に来てから視て来た空気感と明らかに違う雰囲気を漂わせる文字列に訝しげな表情を浮かべると、その感情が独り言として口から洩れだす。
「馬鹿な正義を自称する国が一方的に難癖付けて、そのうえ自称勇者があなたみたいに勝手に侵入してきて刺したのよ・・・お父様たちまで屠ってね」
そんなユウヒの独り言に、心配そうに彼を見守る精霊達と共に真剣な表情を浮かべていたマニリオーネは、自然と口を開き吐き捨てる様にこの場で起こったことを話し出した。魔王を倒す勇者と言えば物語では王道の流れであるが、相手を悪と断じ一方的な正義の下に討ち滅ぼすと言うのは、実際には非常に乱暴な行為である。
「・・・辛いなら言わんでもいいのだが、それは一直線に刺しに来たのか? 苦し紛れに刺したのか?」
右目に僅かな光を宿しながら剣と世界樹を調べるユウヒは、後ろから聞こえて来た声に込められた感情を背中で感じ取ると、悩む様に視線を彷徨わせた後、少しだけ後ろを振り返って詳しい状況について問いかける。
「さぁ・・・私はメイド達に匿われていたから、あの時はあちこちで侵入者が現れていたせいもあって外に出られなかったのよ」
俯いていたマニリオーネは顔を上げユウヒに目を向けると、すぐにわからないと顔を横に振って見せた。どうやら彼女は当時目の前でその状況を見たわけでは無く、人伝に聞いただけの様である。
「陽動作戦か・・・」
「・・・メイド達はそうだって言ってたわ。そのうちいつの間にか勇者たちがここに侵入、世界樹を守るためにお父様や騎士たちが戦ったのだけど、生き残りの話だと急に魔法が使えなくなったって」
しかし、ユウヒは彼女の話した僅かな話だけで、当時何があったのか察すると何となしに呟き、その呟きに少し驚いた表情を浮かべたマニリオーネは、小さく頷くとメイドや実際に戦闘で生き残った者から聞いた話を語った。
「なるほど、たぶん活性魔力を封じられたんだろうなぁ」
マニリオーネが話した内容に頷いたユウヒは、今目の前にある両刃の剣から読み取れた情報と彼女の話しで、当時の状況を推察しながらどこか呆れや疲れを感じる声で話す。
「魔力を?」
「・・・そうだな、この剣は別に聖剣的な物じゃないっぽくてな」
まるで何でも知っているかの様に話すユウヒの姿を興味深げに見詰め、不思議そうにつぶやくマニリオーネ。そんな彼女に目を向けたユウヒは、彼女は知る権利があるだろうと考えると、調査して分かったことについて語りだす。
「聖剣じゃない? でも基人族は聖剣だと言っていたはずだけど」
この世界において目の前の剣は、神により創られ祝福された地と称する基人族国家の宝剣であり、あらゆる魔を滅する聖剣とされていた。大きな国が保証し基人族に常識として信じられてきた故に、魔族である彼女もそう言った特別なモノであろうと考えていた様で、ユウヒの聖剣ではないと言う言葉には驚かずにはいられない様だ。
「さわりだけ調べたところだと、この剣は活性化した魔力を封印してしまう剣みたいなんだよ」
「封印・・・」
驚きはあるがしかし、目の前で淀みなく話すユウヒの姿からは虚言を吐いている様には見えず、封印と言う言葉と目の前に聳え立つ世界樹の状況や、メイドや家臣から聞かされてきた当時の事柄が結び付き、マニリオーネの瞳にそれまでと違う色が揺れる。
「封印と言うよりは不活性化なんだろうな、元々の効果を後から色々弄ってるせいで調べきれてないけど、今は接触したものから魔力を奪う仕様になっているな」
「そんな、いえだからみんな・・・」
今まで誰が調べても詳しいことがわからなかった聖剣について理路整然と語るユウヒに、否定したい感情が湧き出るマニリオーネであるが、しかし今までの悲劇はみな彼の言葉を肯定するものが多かった。
「元々は使い手を判別する機能だったみたいだが、改造されたのか故障したのか、制御の為に規定値まで強制的に魔力を奪う様になってる・・・魔力で足りない分は別のエネルギーを奪うようだな」
我こそはと、世界樹と魔王国を救うために手を尽くしてきた者達をことごとく死に追いやった原因を語るユウヒ。
「確かに、それならすべて辻褄が合うわね・・・」
ユウヒの話を聞けば聞くほど全ての辻褄が合っていく現状に、マニリオーネはその白い肌を僅かに蒼くしていく。
「もしかしてだが、勇者もこれ刺した時に?」
「えぇ・・・灰になって死んだそうよ」
義に厚い臣民を死に追いやった原因を聞き、真剣な表情を浮かべるマニリオーネを見詰めていたユウヒは、ふと疑問を感じて確認するように彼女に問いかける。すると彼女は静かに頷くと勇者も剣を刺した瞬間苦しみだし、最後には灰になって死んだのだと言う。
「そっかー・・・世界樹に刺すことが効果発動のキーになっている辺り、元から勇者の死も織り込み済みの作戦だったのかな? 他に何か方法があったのなら別だけど」
彼女から当時の話を聞けば聞くほどにキナ臭いものを感じざるを得ないユウヒは、世界樹の幹に刺さる両刃の剣を睨みながら悩む様に腕を組んで唸る。
「あれは担がれた偽の勇者だから、その可能性が高いわね。まぁその国も滅亡したから真相は闇のなかでしょうけど」
ユウヒの言葉に俯き加減であった顔を上げたマニリオーネは、やはり吐き捨てる様に勇者について話すと、真相は闇の中だと肩を落としてため息を吐いた。
「報復だっけ?」
「お父様は皆に愛される優秀な魔王だったの・・・」
魔族の報復によってその国が滅びたのは、それだけ魔王国の人々が今は亡き前魔王を信頼し愛していたからである。神の国を自称した国が滅びたのは、今ではこの世界では当然の結果だと考えられているほど、魔王の治世は素晴らしいものであったと言う。
「自慢の父親か」
「ええ」
しかし彼女にとっては優しい自慢の父であり、報復を否定はしないものの優しい父を思えば進んで肯定することもできない。それほどに彼女の見詰めて来た父の背中は慈愛に満ちていたのだ。
そんな名も無き異世界の魔王の話は、少し前まで血なまぐさい御伽噺が話題に上がっていたハラリアの集会所でも語られていた。
「・・・良い魔王だな」
「良い魔王か・・・言葉の違和感が、いやまぁ最近は良く聞く方か」
いったいどんな話がなされたのか、その一室ではパフェが目に涙を浮かべ、それ以外の女性陣もどこか感嘆を覚えた様な表情を浮かべている。それほど良い魔王の話しがなされたのか、クマも自分の中の常識や知識との齟齬に首を傾げ、しかし昨今のサブカルチャーを顧みれば特に可笑しくも無いのかしきりに首を傾げ唸っていた。
「そちらの世界の魔王は良く無い魔王が普通なのですか?」
「最近では良い悪いと一概に決められないが、まぁ恐怖の対象ではあるな」
悩むクマにどこか興味深そうな表情を浮かべるエルフの女性は、彼女にとって異世界である地球の魔王について問いかける。この問いにはエルフ女性だけではなくネムも興味がある様で、そんな視線に自らも答えが出ていないものの、一般に魔王と言えば恐怖の対象ではないかと呟き、自分で言っておきながら納得した様に頷くクマ。
「日本人に馴染みがあるのは、サタンとかマーラとか信長公の第六天魔王辺りかしらねぇ」
「・・・まぁ現在は実在しないが、どちらかと言うと称号とかに近いのか?」
「大半が宗教か創作物の世界でしか見ないからな」
クマの答えに目を輝かせる二人を見ていたリンゴは、自爆から復活したのか布団の上にうつぶせで寝ころんだまま、日本人がすぐ思い浮かびそうな魔王の名前を並べ、そんな有名どころの名前にそんなところかと頷くクマは、しかし現代社会で本当の意味での魔王なんていやしないと肩を竦める。事実、涙を拭いたパフェが言う様に、現代ではそう言った世界でしか使わない言葉とも言えた。
「にゃ? ユウヒは魔王じゃないのかにゃ?」
「え」
大人達の話しをぼーっと聞いていたルカは、彼らの話しにきょとんとした表情を浮かべたネムの、本気で疑問に思ったのであろう声に思わず驚きの声を洩らし、
『・・・魔王だな』
「えぇ・・・」
兄の友人達が見せる真剣な表情と肯定の言葉に、何とも言えない困った顔を浮かべると、突っ込む気力も湧かないのか間延びした声を洩らすのであった。
友人達が、そんな風にユウヒの有らぬ噂を立てていれば、例の如く勘の良いユウヒの鼻は自然とむずがゆくなり、
「へっぷし!」
盛大なクシャミとなって彼に噂されていることを伝える。
「・・・風邪?」
「いや、風の精霊の報せだな・・・」
「あぁ噂されているのね」
この名も無き異世界では、実際に風の精霊が噂話を本人に届けることがあり、その教え方もクシャミである為、風邪を心配したマニリオーネはユウヒの言葉に納得した表情で頷く。この世界ではクシャミと噂の関係は迷信などではないのだ。
「良くない方だろうなぁ・・・よしよしいけるかな」
ユウヒの勘が良くない噂だと告げているらしく、ぶつぶつつぶやく彼の声にマニリオーネが苦笑を浮かべる中、彼女の話しに耳を傾けながら行っていた世界樹や聖剣の調査はそろそろ小一時間ほど経とうとしていた。
「・・・?」
「残りの薬はいちにの・・・四本か、大丈夫だと思うけど念のために飲んでおくか」
どうやら満足できるだけの調査が完了したらしいユウヒは、機嫌のよい笑みを口元に浮かべると屈めていた背を伸ばす。その満足気な姿に首を傾げるマニリオーネの目の前で、ユウヒはバッグの中からまだ封を切っていない陶器製の小瓶を取り出し本数を数える。
「それは?」
「魔力の回復を促進する薬だよ」
残り少なくなった魔力回復薬を僅かに不安そうに見つめていたユウヒは、一本残しての残りをバッグに戻す。そんな彼の手元を不思議そうに見つめていたマニリオーネは、ユウヒの説明を聞くと驚いた表情を浮かべる。
「それってもう魔法薬の域じゃない・・・エルフからもらったの?」
何でもない様に語るユウヒであるが、魔力を回復する薬などと言うのはこの世界では希少であり、活性魔力の希薄な世界で作るとなると、魔力の扱いに長けた種族でなければ非常に困難なのだ。
「いや? 自作だよ・・・うぅむ、なれてきたはきたけど不味いのは不味いな」
「・・・言葉の端々から美味しくないと言う感情が伝わってくるわね」
その辺の知識などないユウヒは、マニリオーネの驚いた表情に首を傾げながら蓋を開けた小瓶を一気に煽る。自作だと言う薬品を口にするユウヒに、色々問い質したそうな顔で口を開いた彼女であったが、ユウヒの表情と声を聞いて眉を顰めると、心配そうに声をかけるのだった。
「効果を優先したからな、ほんと森と違って回復速度が遅いわ」
「それは仕方ないわよ・・・深呼吸とか瞑想すると回復しやすいとか聞くけど」
効果を優先したため味はとても酷い事になっているユウヒの薬、味を犠牲にしてまで効果を上げていても、周囲の活性魔力の乏しい地ではその回復力も本来の力を発揮しない様だ。その辺の事情は当然の現象であるらしく、首を振ったマニリオーネは魔力の回復についてアドバイスを口にする。
「ほむ、確かに聞いた覚えがあるな・・・魔力が切れそうになったら試すか」
「その前に気を失わないかしら・・・」
僅かな時間ではあるが、ユウヒから悪意などの感情を感じないことで少しづつ近づいていた彼とマニリオーネの心の距離は、どこか抜けた印象のあるユウヒの言葉にくすくすと笑みを漏らすまでに至っていた。
「そういうもんか? 切れたことないからな」
「切れたことないなんて、安全第一なのかしら・・・ってあなた何してるの?」
ここ数年は自らを姫と慕う者とばかり話していた彼女にとって、軽い言葉で話せる相手は久しぶりであった。近しい相手なら気兼ねなく話せる者もいたが、それでもその言葉の中には敬意があり、自然と彼女に心の壁を作らせている。
その心の壁を作らなくて良い、不審であるが危険を感じないユウヒは、彼女にとっていつの間にか友人の様に話せる相手となっていた。そんな男が急に準備運動を始めながら、世界樹に刺さる剣に向かって歩き出し、その行動に胸騒ぎを感じたマニリオーネは一歩足を前に踏み出すと、どこか焦りを感じる声で問いかける。
「え? いやこれ抜こうかと思って」
その心配そうな問いかけに振り返ったユウヒは、とても軽い声で剣を抜くのだと答えた。
「・・・あ、あなた話聞いてなかったの!? 抜けるわけないじゃない!」
まるで何でもない事の様に答えるユウヒに、マニリオーネは一瞬その言葉を理解できずに呆けると、すぐに恐怖や不安に苛まれたかのような顔で声を荒げ、ユウヒを引き留めようともう一歩踏み出し手を伸ばす。
「む? ふむ、そうだな・・・」
「そうよ、抜けるわけないでしょ・・・」
必死さを感じる彼女の言葉に歩みを止めたユウヒは、腕を組むと何やら考え込み始め、その姿にホッとしたマニリオーネは引き留める様に上げていた手を見詰め、その手を胸に抱くと今にも泣きだしそうな顔で俯き呟く。
「飲み込み現象は起こしていないが、結構深く刺さってるしな」
「そう、ふかく・・・?」
何かを思い出す様に顔を俯かせていたマニリオーネであったが、何かを確認するユウヒの言葉を聞くとキョトンとした表情で顔を上げる。
「えっと、魔力の筋肉を我が手に【ビルドアップ】・・・よし」
彼女が顔を上げた先では、剣の突き刺さっていている根元を見ていたユウヒが頷いており、何かの魔法を自らの体に使うと軽い足取りで勇者が刺した聖剣の柄に近づき、本棚の本でも手に取るように気負いなくその柄に手を伸ばしていた。
「ちょ、ちょっと!? いや! あ・・・ぁぁ・・・」
彼女はユウヒの後ろ姿にフラッシュバックを起こし、今まで何度も見て来た被害者たちの姿をユウヒに重ね、今から起こる凄惨な現場から目を背ける様に、両手で顔を覆いその場に崩れ落ちる。
「うぐっ!? ・・・ふん!」
「っ・・・・・・? あれ?」
自らの心の弱さゆえに目を閉じてしまった行為に、悔し気な表情で唇を噛みしめたマニリオーネであったが、彼女の耳に届いたのは今まで聴いてきた恐ろしげな絶叫ではなく、どこか力強さを感じる気合いの籠った声であった。
それでも声が聞こえてきたことで体を僅かに震えさせた彼女であったが、身を縮めている間に状況がおかしいことに気が付きゆっくりと顔を上げると、目の前に移る光景に呆けた声を洩らす。
「よっと! おっとっと? 結構長かったな・・・ん?」
何故なら彼女が見上げる先では、乾いた世界樹の幹から長く分厚い剣を引き抜いたユウヒが、その長さによろめきながらもしっかりと剣を片手で持ち上げ空に翳していたのだ。
「・・・・・・え? え、え、ぇええーー!!?」
見上げる先で、緑と青の混ざった光の柱に照らされながら大剣を空に掲げるユウヒの姿は、マニリオーネの目にまるで物語に出てくる勇者の絵姿の様に映り、ゆっくりと目の前の状況を理解した彼女は、同じ速さで目を見開くと驚きの声を上げるのであった。
いかがでしたでしょうか?
当初の目的通り、世界樹封印の原因を調査してさらにその封印を解くため、気合い一発聖剣? を引っこ抜いたユウヒでした。彼の事はまぁ別にいいとして、目の前で心臓に悪い光景の連続を見せられた彼女の心労が心配です。
それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー




