第九十五話 閑古鳥なく魔王の都
どうもHekutoです。
修正等完了しましたので投稿させていただきます。ちょっとした時間にでも楽しんで頂ければ幸いです。
『閑古鳥なく魔王の都』
単調で色彩の乏しい風景に刺激の足りなくなったユウヒが、空の旅から陸の旅に移動方法を変えてからすでに数時間。地球の時間に合わせて表現するなら現在は夜の九時を過ぎた頃合いである。
「はい、そんなわけで到着しました魔都・・・真っ暗ですね」
当然そんな時間ともなれば日も落ちてしまい、空には眩しく星々が輝いているのだが、そんな時間にも拘らずユウヒは今も魔都の中には入っていなかった。
「こう、動画風に元気よく言ってはみたものの・・・手作り感あふれる門は締まってるしどうしようかな?」
魔都の大きな城壁を前に、どこかのリポーターや動画配信者の様な口調で独り言を寂しく呟くユウヒは、どうやら目の前に聳える大きな門が開いているうちに、魔都へと到着することが出来なかったようだ。
「とりあえず入ろうか、不法侵入で捕まらないといいんだけ「何者だ!」・・・あ」
主な原因は、変わり映えしすぎた道中で文字通りユウヒの道草が捗ってしまった為で、そんな愚かな自分に何とも言えない気分になったユウヒは、いつも以上に覇気の抜けた顔で修繕痕が多数見受けられる門を見上げ中に入る方法を考えていた。
「こんな時間に外で何をしている」
しかし、門の前で独り言を呟きながらうろうろしている怪しい人間が居れば、当然門を守る者から誰何の声を掛けられると言うもの。屋外用の大きなランプを手にした人物は、大きな門の脇の小さな扉から顔を出すと、暗闇で佇んでいたユウヒを照らしながら険しい目を向ける。
「あぁ・・・魔都観光に来たんですけど暗くなってしまって」
「観光だ? どこの物好きだこんなご時世に、ちょっとまってろ!」
小さな扉は上下別々に開けることが出来るようで、上だけ開けて様子を伺っていた人物は、ユウヒの困った様な声を聞くと険しく歪めていた目を少し驚いたように見開く。
心底不思議そうに呟きながらも、ユウヒの言葉を全く疑う気配の無い男性は、つい先ほどまで浮かべていた険しい表情を消して不思議そうに首を傾げると、ユウヒに待っていろと声をかけて小さな扉の上扉を閉めて奥に引っ込む。
「お? これは入れそうかな?」
その様子に希望を感じたユウヒは、少し明るくなった表情で小さな扉の前までゆっくりと歩いて行くのであった。
ユウヒが足取り軽く魔都の門の前に歩いて行っている頃、その門のずっと先にある大きなお城の一室では、二人の女性向き合って何やら会話を交わしている様だ。
「姫、例の者達は無事北の町に辿り着けたでしょうか?」
「どうでしょうね・・・出るのも遅かった様子でしたし、今頃は野営でもしてるんじゃないかしら」
何度も使った痕のある羊皮紙や紙の書類が詰まれた机に座る女性は、机を挟んだ向こう側に立ちながら心配そうに呟くメイド姿の女性に目を向けると、書類を持っていた手を置いて考え込み、彼女の質問に対して真面目に答える。
「そうですよね・・・」
「心配?」
「はい、知り合いの娘がいますので少し」
伏し目がちに呟き小さく溜息を零す女性に、机の上に肘をついた手に顎を乗せた女性はじっと見詰めながら問いかけ、その問いかけに答える女性曰く、北の町に向かっている者達の中に知り合いの娘が居て心配だと告げ、困った様な笑みで眉を寄せて見せた。
「魔物も少なくなりましたがそれでもいますからね。まぁ討伐が必要なほど増えていないですし、大丈夫でしょう。万が一にも大発生したとして討伐出来るかどうかわかりませんが・・・」
「人、居ませんもんね」
メイド姿の女性の表情を見詰めていた女性は少し立ち上がると、簡素なドレスの裾を正して座り直しながら、どこか諦めの様な感情の籠った声で話し、メイドは苦笑交じりの笑みを浮かべる。
「はぁ・・・もう寝ようかしら」
メイド姿の女性がまるで他人事のように苦笑を浮かべる姿に、ドレスの女性は何とも言えないジト目で無言のまま彼女を見詰めると、深い溜息を吐いて椅子に沈み込むように脱力して見せるのだった。
「では、入浴の準備をいたします」
「もうベッドに入る」
そんな女性に深く頭を下げたメイド姿の女性は、すぐに入浴の準備を整えると言い踵を返そうとするが、仕える主から即座に返ってきた言葉は拒否を示すものであった。
「駄目です」
「・・・」
しかしそんなことは認められないと、厳しい笑みを浮かべたまま振り返った女性は、拒否の言葉をそのまま拒否して返す。無言でジト目を向ける女性と、メイド姿の女性との言葉による攻防はこの後数分に渡り続き、最終的には増員を呼んだメイド部隊により強制入浴させられるのだが、それはどうでもいい話である。
一方、メイド達の裏切りによりドレスを脱がされた女性が全身をくまなく洗われている頃、門の中へと入る事の出来たユウヒは門番の詰め所で温かいお茶をもらっていた。
「はぁ・・・森から来たのかおめぇ」
「ええ、知り合いに頼まれて魔都まで来たんで、ついでに観光しようと思ったんですけどね」
先ほど小さな扉から顔を出していた男性に連れられて来たユウヒは、簡単な事情聴取を受けている様で、しかしその質問の声には威圧的な気配は無く、どちらかと言うとユウヒの話す内容に対する好奇心の方が多いように感じる。
「そら無理だぁ今の魔都にはなんもねぇし、何より人が居ねぇから店も開いてね」
「宿が空いてないのは致命的ですよねぇ」
面白げにユウヒと話す男性曰く、現在魔都には営業している宿が無いらしく、さらには商店すら営業していないと言う。そんな男性の話しに、ミルーカからある程度現状を聞いていたユウヒも、予想以上にひどい状況だと理解したらしく思わず眉間に皺を寄せて肩を落とす。
「んだ。まぁ空き家を適当に使ってもいんだろけど、そったら捕まえんといかんし面倒だ」
「いやいやそんなことするなら野宿しますよ」
困り果てるユウヒを困った様に見下ろす男性は、少しおどけた調子で空き家はいっぱいあるが、勝手に使ってはくれるなよと笑い、笑い声を漏らす男性にユウヒも困った様に笑い返し、二人の間の空気が少し軽くなる。
「あんまおすすめはしねぇけんど、昔ほど浮浪者も居なくなったから安全ちゃ安全かもな」
「それはまた・・・それじゃ歴史的建造物とか見て回るかな? オススメあります?」
おどけて返したユウヒの野宿と言う言葉に、無精髭の生えた顎を扱いた男性は一般人どころか浮浪者もいなくなった魔都を揶揄すると、自分で言っておきながら納得顔で頷き、そんな男性の頷く姿にユウヒは肩を竦めると観光できそうな場所を問いかける。
「そりゃ一番は世界樹だけども、今は枯れてっしお城も道を閉ざしてるからなぁ」
首を傾げながら問うユウヒに、訛りのある言葉で話す男性は、魔都の観光地と言えばやはり世界樹だと嬉しそうに語るも、すぐに元気を無くしてしまうと道が閉ざされて見れないと話し、他に何か観光地なんてあったかなと首を傾げだす。
「それじゃ明日はぶらぶら歩きまわるかな、ところで俺みたいな不審者入れていいの?」
有名かつ人気の観光スポットが世界樹しか思い当らず、また人が居なくなったことで目ぼしい商店などの観光地が浮かばないらしい男性に苦笑を洩らしたユウヒは、どうやら自らの足で観光地を探すことにしたようだ。しかしすでに自分が観光しても問題ない扱いとなっていることに気が付くと、どこか不思議そうな表情で、未だに首を傾げる男性に問いかけた。
「わしの目に狂いはないから問題ない」
「三つ目の目ですか」
ユウヒの不思議そうな問いかけに、顔を正面に向けた男性は三つの視線をユウヒに向けると、ニカッした笑みを浮かべ自らのおでこを指し示す。男性が指さし、ユウヒが見上げた先には、普通の人間には存在しない第三の目が有り、下二つの目と違う単色の目を見詰めたユウヒは興味深げに呟く。
「おうよ! この目は相手の心根を見通すからの、これのおかげで門番の職にもありつけただ」
「便利ですね」
目の前の男性は魔族の中でも三眼族と言う種族に入るらしく、彼が言うにはその目は嘘を見抜いたり相手がどんなことを考えているのか見通したりできるのだと言う。そんな目もあって、門番として王家に重用されていると誇らしげに語る男性に、自分も便利な目を持っておきながら羨ましそうに見詰めるユウヒ。
「まぁ便利は便利だけんど、悪いことしたら目が曇るから悪い奴はすぐばれるんだがの」
「へぇ」
しかしそんな目にもいろいろと制約があるらしく、ユウヒの視線から照れた様に視線を外す男性の説明に、ユウヒは好奇心に満ちた表情を浮かべるのであった。
「交代だ」
「おうわかっただ」
好奇心の攻守が入れ替わって少しすると、二人しかいない詰所に長身の女性がやってきて交代だと口にする。ここまで来る途中、すでに女性と会っていたユウヒであるが、立ち上がる大柄な男性と同じ三眼族の女性が醸し出す空気に思わず会釈する。
「旅人、寝台を一つ用意してやったからもう寝ろ」
「ありがとうございます」
ユウヒの会釈を見て僅かに眉を寄せた女性は、額の目を少し細めるとユウヒに寝場所を用意したと話してすぐに寝る様に勧め、見下ろされたユウヒは、クールと言う言葉が良く似合う女性の細められた視線に背筋を伸ばすと、お礼を口にして先ほどより深く頭を下げた。
「気にするな、これも門番の仕事の一つだからな・・・まぁその仕事も久しいのだが」
頭を下げるユウヒの脇を抜けながら気にするなと話し、門番の待機席に座った女性はユウヒを一見すると小さな声で何事か呟くとユウヒから視線を外す。彼女が何を最後に話したのか聞こえなかったユウヒが、首を傾げながら彼女の背中を見詰める中、ニヤニヤと笑みを浮かべる男性の単色の目には楽しげな感情を洩らす女性の背中が映っているのであった。
久しぶりに門番としての仕事が出来たからか、それとも他の理由からか、門番女性の機嫌が良い夜が過ぎた翌朝、ユウヒは街へと延びる道の前で三眼族の男女に見送られていた。
「それじゃ、ありがとうございました」
「おう、きぃつけてな」
一晩を門番詰所の仮眠室でお世話になったユウヒは、無表情な女性と皺の寄った笑みを浮かべる男性に小さく頭を下げてお礼を言っており、そんなユウヒに笑みを浮かべる男性は小さく手を上げる。
「・・・旅人」
「はい?」
男性の言葉に見送られながら街の中へ向かおうとしたユウヒであるが、感情を表に出さない女性の平坦な声で再度二人へと振り返り、じっと見つめて来る女性に小首を傾げた。
「お前がその輝く魂で何をするか知らぬ、だが我々を救いに来たことはわかる。もし救えるならば、我らが姫も救ってほしい」
「おま、そりゃ・・・」
「えーっと?」
不思議そうな表情のユウヒをじっと見詰め続けていた女性は、ゆっくりと口を開くと滑らかな声で朗々と話しだし、その言葉に隣の男性は驚いた表情を浮かべる。一方ユウヒは、それまでのどこか素気ない印象と違う女性の姿に驚き、彼女の言葉がしっかりと頭に入ってこないようだ。
「いや、すまない今のは忘れてくれ」
「えっと、はい?」
きょとんとした表情で困惑するユウヒを見詰めていた女性は、ゆっくりと額の目を閉じると俯き加減に頭を振る。額の目を閉じたままユウヒをじっと見つめ返す女性と、困った様に笑う男性を見比べたユウヒは、混乱する頭で妙な返事を返すと、そのまま二人に見送られながら街へと向かうのであった。
うん、やっぱり何だったのかよくわからない。
「なんだったんだろ? やっぱ目が三つもあると色々わかるのかな・・・なんだか行動を見抜かれてそうで怖いな」
最後に三眼族の女性が何を言いたかったのかよくわからないけど、急に女性の雰囲気が変わるとびっくりしてしまう。なんだろう、クールビュティーな女性が急にミステリアス系になった様な、三つも目があると洞察力も三倍になったりするのだろうか、そう言えば三つ目の瞳が僅かに光っていたような気がするけど・・・俺の計画ばれてないといいな。
「それにしても救いねぇ? 世界樹の事だろうけど、世界樹が復活したら救われるよね?」
かなり見透かされてしまっていた気もするし、おっさんも何か気が付いてるみたいだし、世界樹を調査に来たこともばれてるんだろうな・・・それで通してくれたってことは、問題なしと思われたってことかな?
「それにしても、世界樹はこっちみたいだけど・・・見えないな」
うん、良くわからない事を気にしてもしょうがないし、気分を入れ替えて行こう。
「来る途中の空からなら頭が見えてたんだけど」
おっさんの話しだと真っ直ぐ行けば世界樹のある城に着けるらしいが、今のところ樹は見えないな、空からなら少し見えたのだけど。
「町からは見えないのか、枯れたから身長が低くなったのか」
割と世界樹の身長は低いのかな? でも世界最大って言う話だから、もしかしたら枯れた影響かもしれないな。
「それにしても寂しい、人がいないと聞いてたけどこれほどとは・・・」
聞いていたけどこれはひどい、ミルーカの何もない発言も頷けてしまうくらいに人の気配が無い。探知の魔法を使っているはずなんだが、今歩いてる大通り付近に人の気配は無い。
「ぽつぽつ人は居るみたいだけど、お城廻りだけだな・・・そこに行ってみるか」
探知の範囲を広げれば確かに人がいるみたいなんだけど、お城周辺に固まってる。見た感じ大きな建物が多そうだし、一等地的な場所だろうか? と言う事はイジェの言っていた通りにお城関係者が多いのか。
とりあえずそこまで行ってみよう、お城の周りなら外に出てる人も多少はいるみたいだ。しかし何だろう、強い日差しに照らし出された人の居ない石造りの街並みと言うのは、寂しいを通り越してパニックホラー系のゲームみたいな恐ろしさを感じ始めるな。
パニックホラーなどによくある、群衆が逃げ去った後を髣髴とさせる乾いた街並みに、ユウヒが僅かに怯えながらも城に向かって歩くこと小一時間後、
「・・・芋が美味い」
すっかり町の空気に慣れた彼は、ミルーカとイジェから分けてもらった芋を朝ごはんに、お城の門が見える場所までやってきていた。
「魔法焼き芋と名付けようか・・・門?」
妄想魔法で直接加熱した芋の料理名を考えながら歩いていたユウヒは、ようやく視界の先に大きな門が見えてきたことに気が付くと、城と街を区切る深い掘りの落下防止用であろう背の低い塀の前で立ち止り、門とそこから街へと延びる橋を見詰めながら芋を齧る。
「おや? 見ない顔だね?」
大きな門と橋を見詰めたまま黙々と芋を齧っていたユウヒ、そんな彼が芋を食べ終わるとふいに後ろから声がかけられ、正気に戻ったユウヒは驚いたように後ろを振り返った。
「あ、どうも観光なんですけど・・・あれはお城の正門ですか?」
ユウヒが振り返った先には、背中の曲がった老婆が珍しげな表情でユウヒを見詰めており、その表情はユウヒの言葉を聞くとすぐに皺を寄せた嬉しそうな笑みに変わる。
「あら珍し! そうよ、今じゃ見る影もないけど昔は立派な門だったのよ」
「へぇ」
ユウヒの問いかけに対して老婆が答えた内容からなんとなくわかる様に、ユウヒが見つめていた先には、見る影も無く朽ちた門が閉じられており、位置的に正門だと思ってはいたユウヒであるが、閉じて尚穴だらけな門とその修繕痕に、彼は思わずそう聞かざるを得無かった様だ。
「今じゃ観るものも無いけど、昔はこの辺りもにぎわっていたわ」
納得した様に頷くユウヒを見上げた老婆は、困った様に微笑むと閑散とした周囲を見渡しながらさびしそうに呟く。
「世界樹ですか」
「えぇ悲しくて悔しいわ・・・あ、ごめんなさいね」
周囲を見渡し語る老婆にユウヒがぽつりとつぶやくと、老婆は曲がった背中をより一層丸め、恨みやくやしさの籠った低い声を洩らす。しかし彼女はすぐに顔を上げると、共感するような表情を浮かべていたユウヒに向かって申し訳なさそうに微笑む。
「いえ・・・その世界樹って見る事出来ないんですかね?」
「難しいわねぇお城が世界樹に続く道を塞いじゃってるし、入れてくれないのよ」
老婆の気持ちがわからないわけでは無いユウヒは、彼女の微笑みに笑みで返すと、世界樹を見る方法について問いかける。しかしそれは老婆にも分からない事であるらしく、彼女自身も見に行きたいところであるが、お城が道を塞いでしまって見に行けないのだと言う。
「世界樹ってあれですよね」
「そうよ、昔はここからも青々とした葉が見えたのだけど・・・」
そんな女性がなぜここに居たのか、それはユウヒが指さしたお城の屋根の上、そこから僅かに見える世界樹の枝を見に来ていたからである。老婆曰く、昔は青々と生い茂った世界所の頭が此処からよく見えたらしく、彼女はその光景を思い出し懐かしむために毎日ここを訪れていると言う。
「ふむ・・・」
悲しげと言うより寂しそうな表情で世界樹の枝を見上げる老婆に、ユウヒは小さな声を洩らすと城を見上げ、丁度建物の隙間から覗く世界樹の枝を見詰めながら思考に耽る。その後十数分に渡りそのまま世界樹の枝を見上げ続けたユウヒは、老婆に一言告げると静かにその場を後にしたのだった。
その時老婆が見たユウヒの表情は非常に楽し気で、その様子に彼女は訝しむような表情を浮かべたが、不思議と悪い気分になることは無く、その日の夜彼女はとても懐かしく楽しい夢を見れたのだが、それはまた別の話である。
いかがでしたでしょうか?
色々とハプニングはあったものの、懸念事項が後押ししたのか予定より早く魔都に到着したユウヒ。人を拒むように閉じられた魔王の城の奥にある世界樹へ、ユウヒはいかしにして到達し、世界樹の調査を行うのか、また次回をお楽しみに。
それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー




