表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第一章 救出と救済

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

95/356

第九十四話 呑気なユウヒとその波紋

 どうもHekutoです。


 修正等完了しましたので投稿させていただきます。お暇や休憩の合間にでも楽しんでもらえれば幸いです。



『呑気なユウヒとその波紋』


 異世界の森の中だけではなく、魔王領の寂れた農村にも制作物による爪痕を残したユウヒは、現在大空を魔都に向かって高く上昇するように飛び立っているところである。


「バイバーイまた来てねー!」


「お気をつけてー!」

 小さくなっていくミルーカとイジェと言う美女二人に見送られながら、ユウヒは手を振りつつ空へと舞い上がって行く。その動きはとても軽く、魔法にユウヒの感情が混ざっていることを感じさせた。


「ふむ、良い仕事したな」

 左目で見下ろした農村には、ユウヒが建てた風見鶏を中心にゆっくりと魔力が広がっており、その魔力に引き寄せられてきたのか、色とりどりの小さな綿毛がふわふわと飛び交っている。


<ダンナダンナ>

 人の形を成せないほど小さな精霊達の踊り舞う姿に目を細めていると、彼の頭上から最近よく聞くようになった声がかけられた。


「ん? なんだおしゃべりコンビか」


<おま・・・おしゃべりとか、褒めんなよ>


「ほめてねーよ」

 ユウヒが顔を上げた先に居たのは例のおしゃべりな風の精霊コンビで、口を動かすことなくユウヒの頭に直接呼びかけている彼女達の声は、晴れ渡った空にも負けないほど上機嫌なものである。


<それよりさ、もっとあれ作ってくれよ。あれがあると移動が楽になると思うんだよな>


「魔力活性化装置か? 無理言うなよ、あれ作るのにも結構な魔力使うんだぞ? 薬品使ってまで魔力回復してもぷらまい0だよ・・・いや、若干足りないかな」

 そんな彼女達はどうやらユウヒの作った魔力活性化装置に興味があるらしく、もっといっぱい作ってくれるように頼みだす。


 活性魔力が枯渇している場所を行く精霊にとっては、まるでオアシスと言っても過言ではないユウヒの作った装置は、確かにあちこちに作ることで精霊にも人にも様々な恩恵を与えることが出来るだろう。しかしそれは気軽に量産できる物でもなく、特に魔力の枯渇している魔王領ではユウヒの魔力回復が遅く、そのことが余計に量産を難しくしている。


<素材が良いと何とかなるって聞いたぜ?>


「良い素材であの程度の性能とか割が合わんだろ、最低でも試作1号機程度は欲しいとこだが、あれも森だから作れたってことだな、今ならそれがよくわかる」

 そんな背景もあり断るユウヒに、何処からか仕入れて来た話を交え粘る風の精霊コンビ。しかしそれも魔力次第なところがある為、いくら物欲しそうに眉を寄せる風の精霊が可愛くても、ユウヒには軽々しく頷くことは出来ない様だ。


<そうかーざんねん>

 困った様に首を横に振るユウヒの表情を見詰めていた二人は、互いに見つめ合うと諦めたのか肩を落とし、ユウヒの隣に並走しながら心底残念そうに溜息を零す。


「やっぱここは住みづらいのか?」


<そうだな、あの魔道具があっても住みたいとは思わないなぁ>


<チビ達は問題ないけど、大きくなると食べる量も増えるからなー>

 風の精霊の中でも上位に位置するこの二人や、小さな人の形を成す精霊達はそれ相応に魔力を必要とする為、ユウヒの作った劣化版魔力活性化装置では、とても定住するには辛いと話し、住めるのは綿毛のような精霊達くらいだと言って小さくお腹を摩ってみせる。


「なるほど」


<そだなーあれがあと何本か・・・十本? あれば少しマシかな?>


「現実的ではないな、まぁそれでもあれ一本で多少は環境が良くなるかもしれないってことかな?」

 彼女らが満足出来る量の活性魔力を調達しようとするならば、同じような魔道具が十本は必要らしく、それでも最低限の量であると語る二人に、ユウヒは眉を八の字に歪めると首を横に振った。しかし、彼女達が無理でも小さな精霊が増えるならば、環境も今より多少は良くなるだろうと、希望的観測をしていることが良くわかる表情で、風の精霊の二人を見比べながら笑いかけるユウヒ。


<・・・多少?>


<かなり変わると思うぞ?>


「え?」

 頭の後ろで手を組んだ楽な態勢でユウヒの隣を飛んでいた風の精霊は、ユウヒの言葉を聞いた瞬間ポカンとした表情を浮かべると、すぐに眉を寄せて首を傾げる。またユウヒを挟んで反対側を飛んでいた風の精霊も、眉をしかめると不思議そうな声で語り、その言葉にユウヒは思わず呆けた様な声を洩らす。


<枯渇地域は過敏だっていったろ?>


<それじゃまたなー!>

 ばかだなーとでも言いたげな表情でくすくすと笑い、言いたいことを言うだけ言った風の精霊は、二人の言葉と表情に嫌な汗を背中に感じ始めたユウヒを置き去りにし、どこかに飛んで行ってしまう。


「あ、おい! ・・・帰りに寄ってみないと、いけないよなぁ?」

 ユウヒは、置き土産の様な風の精霊達の言葉を頭の中で反芻すると、背中に流れる嫌な汗が止めどなくにじみ出すのを感じながら、瞬く間に小さくなるその小さな背中を引き攣った表情で見送る。空の上から、すでに遠く小さくなった農村を振り返ったユウヒは、念のために帰りにも寄ることを心に決めるのであった。





 ネガティブな思考をポジティブな言葉で上書きしようとしているユウヒが、眉を顰めて魔都に向けて割とはやい速度で飛んでいる頃、世界の壁を越えた向こうにある日本のとある部屋では、闇を照らすモニターの前で女性が一人眉を寄せて唸っていた。

 

「・・・また数値に変動が」

 彼女はユウヒと協力してドーム縮小に必要な作業を行っているところであるが、予想していた以上にユウヒ周辺での数値変動が激しい事に、一抹の不安を感じ始めている様だ。


「連絡した方が、いやでもなんだか忙しくさせちゃったみたいだし、問題ないうちは控えておいた方が良い・・・よね」

 自分の中で湧き出てくる不安を解消するために、ユウヒへ連絡を入れようと手を動かす女性、しかし無理難題を任せてしまった手前、自分の為だけに連絡を入れるのも悪いと手を止める。そう、彼女の予想はいい意味で覆されているのであって、悪い異常が出ているわけではないのだ。


「・・・むぅ、いくら日本が遺憾だって言っても中国が取りやめるわけないかぁ。期待するだけ無駄だよね」

 それ故に連絡を思いとどまった女性は、気分を変える為にモニター上のテレビ中継に目を向けたのだが、その内容に顔を顰めると一人ごちる。


「おじいちゃんもあの国には苦労したみたいだし」

 背凭れに体をあずける彼女の視線の先には、ドーム対策に核兵器を使用すると言う中国に対して、遺憾の意を伝える日本国総理大臣の姿が映っており、彼女は異世界で起こった過去の出来事を思い出しながら溜息を漏らした。


「まだ足りないか、ユウヒ君次第だけど核が使われる前にドームを縮小出来ればいんだけど・・・」

 様々なカウントダウンが行われている現状に、彼女は表情を引き締めるとテレビ中継のウィンドウを小さくして本来の作業に戻る。大量の数値を睨みながら計算を繰り返していた女性は、導き出された結果に頭を振って小さく呟くと、モニターの端で動くユウヒのバイタルを見詰めるのであった。





 一方その頃、日本と名も無き異世界を繋ぐ出入り口がある場所の近く。


「これは・・・」


「話には聞いていたがこれほどとは、いったい彼は何者なのだ」

 そこでは三人のエルフが驚きに目を見開きながら周囲を警戒し、注意深く目的地へ向けて歩を進めていた。


「綺麗な石畳ね、まるで昔の王都を思い出すわ」

 三人の中で唯一の女性は、踏み締める度足裏に感じる固さと均され凹凸の少ない石畳に感嘆の声を洩らすと、靴のつま先で数回石畳を叩き森の中で靴裏に着いてしまった泥を払い落とす。


「ガレキしか残らぬ過去の栄華か・・・」

 靴に着いた泥を気にしている女性の声に振り返った男性は、何処か懐かしそうな声で呟くと、泥を落とす女性に肩を竦めた。


「これが異界への扉を守る壁か」


「大きいな」

 そんな二人のやり取りを背中で聞きながら、弓を手に持って先頭を歩く男性は、遠くからでも存在感のあった石壁を見上げてゆっくりと見渡すと歩みを止める。そこには見ただけで堅牢さが伝わる壁が進路を塞いでおり、少し離れた場所からでも見上げなければならない大きさの壁に、後ろの男性は思わず呟く。


「門は、あれねって開いた!」

 大きさだけならハラリアの壁の方が圧倒的に大きいのだが、石造りの壁と言うのはそれだけで見る相手に圧迫感を与えるようだ。そんな壁の一角に設けられたこちらも大きな門に目を向けた女性は、その門が開き始めた事に警戒の声を上げると、腰に凪いだショートソードに手をかける。


「ユウヒ殿の眷属が守っていると言う事であったが」

 事前にユウヒからこの場所の話を聞いていたらしい男性は、弓の舷から放した手で目の上に庇を作ると、朝の陽ざしに照らし出された門に目を向け、この場を守っていると言うユウヒの眷属の姿を探す。


「あれは鎧を着たひ―――」


「な、でかい!?」


「まさか、魔族に占領されて!?」

 大きな門がゆっくりと開く中、門の足元から鎧姿の人物が姿を現したことで一歩前に足を踏み出した男性であったが、その後ろから現れた大きな影に言葉を失い、後ろの二人も驚きで声を荒げると最悪の事態を考え自分の得物を引き抜く。


 パッと見ただけでも5メートル近い鎧の大きさから考えて、基人族ではなく魔族、その中でも大きな体が特徴の巨人系統の魔族を疑い身構えた三人。


「あ、お客さんだね? エルフってことは、マスターの知り合いかな?」

 しかし彼らの下までやってきた巨大な鎧の中から聞こえて来た声は、どこか間延びした温和な雰囲気で、声色も反響してはいるものの中性的で、とても目の前の厳つい鎧姿には似つかわしくないものであった。


「姉さん・・・相手が驚くから待っていてとあれほど言ったのに」

 当然その巨大な鎧とは魔族ではなくユウヒの娘である一号さん、そして最初に姿を見せたのは二号さんであり、彼女は姉を見上げると疲れた様な声を洩らして肩を落とす。


「あはは、我慢できなかったよぉ」


「もう・・・それで御三方、わが主の城に何用で参ったのか、窺ってもよろしいでしょうか?」

 妹に諌められ恥ずかしそうに頭を掻く一号さん。体が巨大なため一つ一つの動きで周囲に風を起こし、石畳の隙間から姿を現し始めた草木を揺らす彼女の足元では、呆れを多分に含んだ声を落ち着いた口調に戻した二号さんが、目の前のエルフ達に向き直って誰何を口にする。


「「「・・・・・・」」」


「んー?」

 しかし彼女の誰何に三人のエルフは無言を突き通す・・・と言うより、答えるために必要な意識を手放していた。急激な緊張の緩急により立ったまま意識を手放した三人のエルフに、二号さんは頭を抱えて溜息を吐き、一号さんは不思議そうな声を出しながらエルフを観察するように身を屈め、彼らに大きな影を落とすのであった。





 自分の娘が三人のエルフを気絶させている事など知りもしないユウヒは、逸る気持ちを抑えることなく大空を飛び進み、日が中天に差し掛かりそうな空の下で何とも物悲しそうな表情を浮かべていた。


「・・・寂しい、実に寂しい」

 ゆっくりとスピードを緩め始めたユウヒは、しかし止まることなく眼下に広がる広大な魔王領を見下ろし呟くと、考え込む様に顎を手で摘まむ。


「本当に何もないと言うか、目に優しい色彩が無いなぁ」

 農村付近はミルーカ達が手入れをしていることもあって、黒く焼け焦げた大地以外にも緑があったのだが、人の手が入らない場所は枯木枯草しか見当たらず、時折動物の骨も転がり実に物悲しい風景が広がっている。


「世界樹が封印されてほんの数年で、ここまで朽ちるものなのかね?」

 魔王領が元々どういう姿をしていたか知らないユウヒであるが、少なくともこれほど色彩に乏しくは無かったであろう事は、立ち枯れた樹の多さからもなんとなく想像できるようだ。


「家が大半焼け落ちてるのは襲われたからか、それともわざと燃やしたのか」

 また時折町や村の姿も見られるが、ミルーカ達の住む農村以降は人の姿が無く、大半の家が火事でもあった様に焼け落ち、村や町に跡地と言う言葉が付く有様である。


「畑もちらほら見かけたけど軒並み枯れてるし、コズナにはまだ人がいるみたいに聞いたんだけどなぁ」

 ユウヒが此処まで考え込んでいるのにはコズナが関係しており、彼女の説明では人が少なくなっているが、魔都までの道中で人の住んでいない町や村は無いと聞いていたのだ。


「お? あれは、魔族の団体みたいだけど・・・えっとこうでこうだから?」

 しかしそれは彼女が嘘を言っていたわけでは無く、情報の鮮度が悪かったのが原因である。いくら魔法が使えたり空を飛べる魔族が居たとしても、急激な情報の変化には対応できないのが実情で、それを示すかのように現在ユウヒの視線の先では、大規模な魔族の集団が長蛇の列を成して街道を移動していた。


「なるほどなぁ・・・ここまで人が居なかったのはこういう事か。あっちは北に向かう街道かな? そこまで北側は詳しく書いてないけど、見える範囲じゃ北に向かってるよね」

 コズナや副団長から、魔族は大体同じ種族で小さな町や村を作ると聞いていたユウヒの視線の先には、多種多様な種の魔族がいろいろな方向から合流し、同じ方角に向かって歩いているのが見える。どうやらここまでの村や町で人を見なかった理由が、目の前に広がる大移動であると察したユウヒは、彼らが向かう方角を確認すると、溜息を一つ吐いて魔都に向かうスピード上げた。


「で、ようやく魔都の城壁が見えてきたわけだけどぉ・・・ボロッボロだな」

 それから小一時間後、移動する人々の姿も見えなくなった空の上で、ユウヒは山々の隙間から見える魔都の城壁を確認する。魔王の国の都と言うだけあってかなり広いのか、現在見えている範囲では端まで確認することは出来ないが、その代り城壁の損傷具合は遠目でも確認することが出来た。


「空飛んできたから早かったけど、街道もあちこちで陥没したり抉れたりと酷いものだったから、これ普通に歩いていたら・・・どれだけ時間かかったんだろ?」

 また、魔族の大移動を確認した場所以降、小一時間の間に見下ろした街道はどこもぼろぼろで、明らかに戦闘があったと思われる跡などによってまともに歩ける状態ではなく、その証拠に通ることが出来なかったのであろう荷台や馬車が、あちこちに放棄されているのをユウヒは確認している。


「魔都まではまだ距離があるわけで、どこかで一休みしたいな。それから移動を再開してぇ・・・暗くなる前に辿り着けるかなぁ」

 まだ魔都まで距離がある為なるべく急ぎたいユウヒであるが、近づけば近づくほどに不穏な空気漂う魔王領の姿を見て、彼は体力より精神的な疲労を感じ始めたのかゆっくりと地面に降下し始めた。


「あの辺りに降りてみるか、右目で色々調べながら歩くのも悪くないだろ・・・ところでこの右目って、動力源何なんだろ?」

 ゆっくりと高度を下げながら休憩場所を探していたユウヒは、街道に隣接した小高い丘を見つけると、そこを休憩場所に決めた様だ。暗い事を考えないように、右目で色々と探索しながら先を進むことに決めたユウヒは、次第に近づいてくる地面を金色に輝く右目で見詰めつつ、いくら右目を使っても魔力の消費を感じないと言う、今更な疑問に首を傾げるのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 あちこちに影響を与えながら進むユウヒは、まだまだこの程度では終わらないと思われるので、引き続きどんな波紋が生まれ何が起きるのか楽しんで頂ければ幸いです。


 それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ