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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第一章 救出と救済

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第九十三話 精霊呼びの風見鶏

 どうもHekutoです。


 修正等完了しましたので投稿させていただきます。そこそこの量を用意出来ましたので、お暇のお供にでも楽しんで頂ければ幸いです。



『精霊呼びの風見鶏』


 名も無き異世界の赤い屋根が映える農家の一室で、鎧とは言え着替える女性と二人っきりになってしまいユウヒがドギマギしていた頃から2時間後、すっかり軽装となったイジェの透ける様な、と言うより実際僅かに透けることのある肌に視線を奪われそうになっていたユウヒ。


「じゃーん!」


「・・・」


「・・・」

 しかし、そんなユウヒの目は今、呼びに来たミルーカが開け放った扉の向こうへと釘付け・・・いや、これは遠い目と言った方が良いであろうか。


「あれ? 思った反応が来ない」


「ミルーカ、この部屋は倉庫に使っていたと思うのですが?」

 鎧を脱いで素朴な色合いのワンピース姿になったイジェは、不思議そうに体全体で首を傾げるミルーカに頭を抱えながら目の前の部屋、元倉庫に使っていたと言う一室に目を向ける。


「あぁいや、ありがとう」

 イジェの問いかけに、きゅっと口を噤んだミルーカは、ユウヒの視線に気が付き目を回遊魚の様に泳がせると、両手を後ろで握ってもじもじと体を動かす。そんな姿にユウヒは頭を軽く振って意識を覚醒させると、笑みを浮かべてお礼を口にするのだった。


 なぜユウヒが思わず言葉を失い、イジェがミルーカにジト目を向けたのかと言うと、二人が見詰める先には、個人が一泊するには広い部屋が広がっており、部屋に一つある窓辺にはベッドが一つ置いてある。そこまでは良いのだが、彼らが見詰める先には広い部屋の約8割近くを占有する大量の太い材木が積み重ねられており、崩れる気配こそ無いもののすさまじい圧迫感を放っているのだ。


「・・・ごめんね? 綺麗なお部屋ここしかなくて、他の部屋はずいぶんと使ってないから」


「掃除してなかったのですね・・・」

 きれいに磨かれた材木には埃があまり見当たらず綺麗で、部屋自体も掃き掃除で綺麗になっている。一方部屋の外には薄汚れた埃っぽい布が丸められており、ユウヒはその布がこの部屋の汚れを一身に受け止めていたのだと理解した。


 そのおかげで掃除して居なくてもこの部屋はある程度綺麗で、カバーする物がない別の部屋は、急には手の施しようがないほど掃除の必要がるらしく、呆れるイジェの前でミルーカが申し訳なさそうに背中を丸める事態になった様だ。


「部屋とベットがあるだけでありがたいよ、昨日は外な上に仮眠だったからな・・・」

 二人のやり取りにどこか懐かしさを感じるユウヒは、苦笑を浮かべると昨日よりずっとましだと語り部屋の中へと足を踏み入れ、ある意味森林浴でもしているような樹の香りがする部屋に笑みを浮かべる。


「そうなの? しっかり寝ないと大きくなれないよ?」

 背中を丸めたままユウヒを見上げたミルーカは、ユウヒの笑みを確認すると少しずつ元気を取り戻してはにかむ。


「おっさんはもうこれ以上大きくはなれないけどな・・・ところでこの材木は?」

 はにかみながら大きくなれないと話す色々と大きなミルーカに、成長期をだいぶ前に終えたユウヒは乾いた笑みを浮かべると、部屋の中に積み上げられている材木を触りながらミルーカに目を向ける。


「それね、何年も前にお家の増築用に買ったらしいんだけど、なんだかんだで使わないまま放置してあるの」


「ふむ、それでえらく立派な木なのか」

 高い場所ではユウヒの身長より上まで詰まれた木材は、本来ミルーカの家を増築するために用意されたものだと言う。大きな家の増築用と言う事もあってか、どの木材を見ても立派なもので、いくつかは柱に使う予定だったのか綺麗に磨きがかけられている。


「欲しいならタダであげるよ? 正直邪魔なんだよね、なんで家の中に入れたんだろう?」


「さぁ? 外の納屋にも似た様な感じの材木がありましたし、保管場所が無かったのではないでしょうか?」

 パッと見ただけでも高そうな木材であるが、ミルーカにとっては邪魔者でしかないようで、興味深そうに木を触るユウヒにあげると言う顔は本当に持って行ってほしそうだ。またイジェも苦笑を浮かべており、ミルーカに首を傾げられた彼女曰く、まだ納屋にも大量の材木が保管されていると言う。


「・・・いいな、これ少しもらって良いか?」

 女性二人が首を傾げ合う前で、ユウヒは右目を使い木材を見詰め思案顔を浮かべると、いつか見た様な怪しく機嫌の良い笑みを浮かべながら体を起こして、ミルーカに振り向き木材をもらえないかと口にする。


「うんいいよ! 好きなだけあげる!」


「何に使うのですか?」


「ほら、泊めさせてもらうお礼がしたくてね、工作は得意なんだ」

 どうやらユウヒは、合成魔法の力を使ってのお礼を企てているようで、嬉しそうにいくらでも持って行って良いと話すミルーカに、ユウヒも嬉しそうな笑みを浮かべるが、イジェの問いに答えながら木材をペチペチ叩くユウヒの笑みは、木材をもらえることに対する笑みではなく、新しく何かを作ることが出来る事に対する笑みの様だ。


「何か作ってくれるの!? 何々、あっでもここで聞いたら楽しくない、でも気になる・・・私お仕事してくるね!」

 御礼に何か作ってくれると言うユウヒの言葉に、先ほどまでの笑みをより一層花開かせるミルーカは、なにやら一人で悩みころころと表情を変えると、眉間に皺を寄せて部屋から飛び出していくのであった。


「・・・気を紛らわしに行きましたか」


「仕事?」

 ユウヒが今から何を作るのか気になるものの、ミルーカは楽しみを最大限に感じ取りたいらしく、自らの視界から作成風景を遠ざけ、さらに気にならないよう仕事に没頭することにしたようだ。


「たぶん糸紡ぎでしょう。夕飯には呼びに来るので気にせず寛いでいてくれ」


「何から何まですまない」

 ミルーカの言う仕事を予想したイジェは、くすくすと可笑しそうに笑いながら部屋の扉に手をかけると、ユウヒの感謝の籠った言葉に振り返りじっとユウヒを見詰める。


「・・・なに、これも何かの縁だよ。デュラハンは縁を大事にする種族なんだ」

 見詰められきょとんとした表情を浮かべるユウヒに、イジェはにこっとした笑みを浮かべると、それだけ言って部屋から出て木製の扉を静かに閉めるのであった。


「縁か・・・さて、材料はあまりないけどどこまでいい物が作れるか」

 なぜ見詰められたのか解らなかったユウヒは、部屋に取り残された後も不思議そうに首を傾げていたが、小さく溜息を吐いて肩を竦めると部屋の中、木材の山とベッド、そして僅かなスペースに目を向けジャージの袖をまくる。


「・・・ふふふ」

 窓の外に目を向け何かを確認したユウヒは、不敵な笑い声を洩らすと体に魔力を巡らせ大きな木材を抱え上げるのであった。





 それから数時間後、狂気の生産タイム準備編を終えたユウヒは、食事に呼ばれ移動した石畳のダイニングで、暖かな色のランプに照らされながらお腹を摩っていた。


「久しぶりにこんなにたくさん芋を食べた気がする」


「フルコースだよ!」


「芋しかなくてすまない」

 どうやら食事はすでに終わったらしく、テーブルの上に数種類の芋料理が僅かに残るだけである。ミルーカ曰く芋のフルコースを前にユウヒは感心した表情を浮かべ、イジェはどこか歯痒さを感じる表情で眉を僅かに寄せていた。


「フルコースか、確かにここまで芋を使った料理は初めてかも? おいしかったよ」


「芋は最高の食材だからね!」

 ドヤ顔を浮かべるミルーカは、食事中も芋について熱く語っていたが、料理を作ったのはイジェである。料理を作った側としてはもっといろいろな食材でもてなしたかったらしいが、現在この家にある食材は99%が芋である為、ミルーカ曰く芋のフルコースになったのであった。尚、芋はミルーカの好物と言う事もあってか、軽く一年分以上は確保されているらしい。


「たまには葉物野菜も食べたいのですが、今の環境では難しいんですよね」


「ここで葉物は育てるのたいへんだもんね」

 一方、イジェも芋が嫌いと言うわけではないものの、やはり違う物も食べたいと、特に葉物野菜を食べたいと口にするも、今の魔王領で葉物野菜を育てられる場所は水の確保が容易な低地の農村だけであった。


「ふぅん・・・もし世界樹が復活して、この辺りの自然が戻ってきたら二人はなにを作りたいんだ?」

 高度の高い台地と言う環境が生育の難度を上げていることに、何とも言えない表情で見詰めあうイジェとミルーカ。そんな二人に目を向けたユウヒは、なんとなしに二人は何を作りたいかと問いかけたのだが、その言葉に対する二人の反応は早く。


「「キャベン!」」


「きゃべん?」

 大きな声で叫ぶように返された答えに、ユウヒは驚いたように目を見開き動きを止めるのであった。





 予想できるわけもない不用意な問いかけにより、ユウヒがダイニングに拘束されてから小一時間後、


「聞く限りキャベツの様だったが、あれだけ語れるなら相当好きなんだろうな」

 どこか疲れた表情のユウヒは、用意された部屋の床に座り、合成魔法で作ったと思われる部品を手に持ちながら天井から吊るされたランプを見上げていた。


「種も大切に保存してあるらしいし、これはしっかり作らないとな」

 ランプの淡く温かな光と魔力の青白い光に照らされるユウヒは、ダイニングでの出来事を思い出しながら苦笑を浮かべると、手に持っていた部品を立体パズルのように組み合わせていく。


「俺が原因で雨が降ったのならば、あれを設置すればこの辺は元の自然が戻りそうな気がするんだよなぁ」

 少し弱まりながらも降り続ける雨音に、その原因が自分にある事を再認識しつつ、その事が今はありがたいと言いたげないつもと違う気力が溢れて見える顔で笑みを浮かべるユウヒ。どうやら彼の口ぶりや表情を見るに、狭いスペースを埋める様に何本も並ぶ大きな木の柱は、ユウヒの魔力によって起こった現象を利用する装置である様だ。


「うむ、滑らかつるつる・・・世界樹が今どうなっているかわからないし、万が一を考えて手は色々打っておくべきだろうし」

 合成魔法と妄想魔法の併用によって、僅かにざらつきのあった木の表面はまるで鏡面の様な仕上がりへと変わって行き、しかし普通なら木屑が出ても可笑しくない加工にも拘らずユウヒの周りには埃一つ飛んでいない。


「しかし・・・精霊が少ないな、今居るのは雨に混じってやって来たらしい小さな水の精霊ばかりか」

 どんな手を打つつもりなのかわからないものの、満足いく仕上がりに背筋を伸ばしたユウヒは、深呼吸をしながら周囲に目を向けると目を細め僅かに眉を寄せ呟く。ユウヒが深く青い左目で見詰める先には、魔法によって漏れた活性化魔力に集まって来た綿毛のような精霊達の姿があるも、その数は非常に少なく、その事がユウヒの表情を曇らせていた様だ。


「よし、魔力蓄積部分とメインの接続は大丈夫だな、素材の関係で能力の割に大型化してしまったが、まぁ頑丈に出来たし問題ないだろ」

 それから数分ほど呆けたように精霊達を見詰めていたユウヒは、無言のまま作業に戻ると何本も並べられた木の柱を紐のようなもので繋ぎ、僅かに幾何学模様の光を灯らせる柱を見て満足そうに頷く。何本もの柱はどうやら一つに繋がるらしく、繋がった姿を想像したユウヒは思わず苦い笑みを浮かべる。


「・・・ほんとこの薬不味いな、まぁ飲んでおかないと回復量が今一だししょうがないか。さてさてメインと言うか飾りと言うか・・・これにも何か仕込んでおこうか?」

 大きな家の大黒柱ほどある柱から紐を取り外したユウヒは、その柱を部屋に唯一ある窓のそばに並べると腰を叩きながら背筋を伸ばし、ベッドに腰掛けるとベッドの上に置いていたバッグの中から陶器の小瓶を取り出し中身を一気に煽る。


 口の中に広がる、青臭くも酸っぱくも苦くもある奥深い味の波状攻撃に、顔を顰めて只々堪えるユウヒは、ぶつぶつと自作の薬に文句を洩らしながら、手に持った厚みのある木の板を見詰め妄想を始める。


「うむ、良い出来だな。喜んでくれればいんだけど」

 それから小一時間後、黒光りする何かを手に持ったユウヒは、魔力の光だけが周囲を照らす部屋の中でやり遂げた顔で目を子供の様に輝かせていた。程よい疲れと満足できる出来の物を作れたことで、ここ最近で一番気分がいいらしいユウヒは、手に持っていた何かをそっと床に置くと、そのままベッドに倒れ込む様にして眠りにつくのであった。





 そんなことがあった翌早朝、例の如く社畜スキル早朝覚醒で日も出ぬ時間に目覚めたユウヒは、魔法で音を立てないように外での作業を終えて部屋で一休みしていた。


「本当に朝御飯はよかったのですか?」


「はは、昨日の芋がまだお腹に残ってるようなので問題ないですよ」

 そんなユウヒは、一休みしていた部屋にモーニングコールの為突入して来たミルーカによって、ベッドの上で押し潰されると言う珍事を終え。後から呆れた表情で追いかける様に部屋に入って来たイジェとミルーカに声をかけ、冷たく澄んだ空気と朝陽が気持ち良い外へと出てきていた。


「お芋は腹持ちも良いからね! それで? ユウヒはなにを作ってくれたの? 昨日はお外に置くものだって言ってけどなんだろう?」

 昨夜お腹いっぱい食べた芋フルコースのおかげか、ユウヒは全く空腹を感じていないようで、むしろまだお腹にその存在を感じてか苦笑いを浮かべており、そんなユウヒの言葉にミルーカ上機嫌で頷く。しかし今はユウヒのお礼と言う物に興味があるらしく、逸る足取りで歩きながら前を歩くユウヒに問いかける。


「ああ、木以外の材料があまりなかったから性能はそこまでないが、丈夫でしっかりした物にはなったよ」

 木材だけは上質な物がたくさん使えたものの、それ以外の素材は森で拾った物がバッグに少量と言った状態であった為、魔力と相談しながらの作業となり物足りなさを感じる出来であったと言うが、その分耐久性に関してはこだわったと言うユウヒ。


「材木も結構無くなってたから大きいものだよね?」


「その割には部屋がきれいでしたが・・・」

 彼の話に興味深く耳を傾ける二人は、ユウヒを起こすために部屋を訪れた時の状況を思い出しながら首を傾げる。何故なら彼女達が朝訪れた部屋の中は、約半分ほどの木材が消えてなくなっており、しかしその割には木くずどころか元からあったであろう埃すら見当たらなかったのだ。


「ものづくりは清掃に始まり清掃で終わるものさ・・・と言うわけでこれが俺からのお礼だ」

 何かを作っていたとは思えない部屋の状況を思い出す二人の表情は、まるで狐に摘まれたように不思議そうな感情であふれており、そんな二人に振り返ったユウヒは、どこか楽しげに清掃は大事だと語ると、家の角を曲がった先に手を向けて心底楽しそうな笑みを浮かべて見せる。


「うわぁ・・・大きい! なにこれなにこれ!」

 ユウヒが二人から許可をもらい、庭の一角に設置されていたお礼は、ミルーカが大きな口を開けて見上げたとおりとても背が高かった。パッと見は皮を剥がされ磨かれた大きな丸太に見えるそれは、しかしよく見ると精密な円柱の柱であることがわかる。


「なにこれって風見鶏だよ、ほら上」


「これは・・・まさか、そんな」

 その大きな木の柱は風見鶏の土台なのか、ユウヒの指し示す先には何かのシルエットを象った風見鶏が、台地を緩やかに吹き抜ける風を指示していた。しかし、何の変哲もない木の柱に見える部分こそがこの装置の本体であり、見る物が見ればそれは一目瞭然なのか、目をキラキラ輝かせ柱を見上げるミルーカの後ろでは、イジェが驚きのあまり目を見開き動きを止めている。


「わぁくるくる回ってる! あれ私とイジェだね! かわいい!」

 どうやら柱の上で回る黒光りする風見鶏はミルーカとイジェを象った物であるらしく、そのシルエットが何であるか理解したミルーカは、跳び跳ねる様に体全体で喜びを表すと、いろんな角度から風見鶏を見る為に柱の周りを歩き回り始めるのだった。


「あの、ユウヒ・・・これはもしや魔力を」


「・・・やっぱりわかるんだな、こっそりと思ったんだが」

 一方イジェはそれどころではないのか、震える手でユウヒが着るジャージの袖を摘まみ引っ張ると、驚きや困惑に不安と言った感情が揺れる目でユウヒを見上げ確認するように呟く。そんな彼女の表情を見ながら困った様に笑っていたユウヒは、彼女の呟きを聞くと観念した様に頭を掻いて頷き、目の中で揺れる感情に喜びが追加されたイジェに笑って見せる。


「デュラハンなら誰だってわかりますよ、まさか世界樹以外でこんな光景を見ることが出来るなんて」

 ユウヒのこっそりと言う言葉に何を言っているんだと言った表情で笑ったイジェは、風の吹く向きに合わせて動く風見鶏ではなく柱に目を向けると、ミルーカの様に目を輝かせ何処かうっとりとした声で話す。


 普通の人間には唯の太い木の柱にしか見えないそれは、ユウヒの左目やイジェの様に精霊に近い者が見ると、柱に青白い魔力の光で幾何学模様が万遍なく描かれて見え、それと同時に柱から周辺に活性化された魔力が溢れだしているのが良く見えていた。


「何の話?」


「ミルーカ、ユウヒはあなたのお願いを叶えてくれたのですよ」


「お願い?」

 柱の周りを歩き回り風見鶏を見上げていたミルーカは、二人が話していることに気が付くと軽い足取りで戻ってくる。そんなミルーカの不思議そうな表情に、喜びで目を潤ませていたイジェは、とてもうれしそうに微笑みながらミルーカの願いが叶ったのだと話す。


「これは精霊のご飯を作ってくれる魔道具なのですよ」


「ごはん・・・はっ! それって精霊が住んでくれるってこと!?」

 イジェの言うユウヒの叶えてくれたミルーカの願いとは、昨日ユウヒに彼女がお願いしていた精霊の定住の話しである。


 ユウヒが作った物は森でも作っていた魔力活性化装置、その劣化版であった。しかし劣化版とは言え、世界樹以外に魔力を活性化できる物がほとんど存在しない世界で、さらに言うならばユウヒにとっての劣化であるだけで、目の前の装置は常に魔力を活性化させ、その周囲には小さな綿毛のような精霊達が嬉しそうに飛び交っているのだ、イジェの驚きも当然と言えるだろう。


「まぁ、すぐに何か変わるかわからないけどな」


「・・・ユウヒ、ありがとう!」

 イジェの噛み砕いた説明を聞いてすべてを理解したミルーカは、確認するようにイジェを見詰めると彼女の頷く姿に目を潤ませ、すぐにユウヒを振り返り見詰め、照れた様に笑いながら話すユウヒの姿に感極まり一粒の涙をあふれさせたかと思うと、満面の笑みを浮かべてユウヒに跳びかかる。


「うお!? こら抱き着くなって、あれだ一宿一飯の御礼だから気にすんなって」


「お礼にしては過大だと思いますが・・・」

 急に飛び掛かられて避けそこなったユウヒは、抱きつくなと言うも振り払うことはせず、背中にミルーカを引っ付けたまま苦笑を洩らすと、お礼だから気にするなと背中のミルーカに話す。しかしどう考えても一宿一飯のお礼にしては過剰であり、その事を気にしているイジェは眉を寄せると、嬉しさと困惑の籠った目でユウヒを見詰めていた。


「俺の目的にも付随するからいんだよ、結構丈夫に作ったからしばらくはメンテはいらないと思う」

 しかしユウヒには特に含む感情は無く、純粋なお礼の気持ちといつもの悪い癖の結果がこれで有り、もっともらしい言い訳を口にするユウヒであるが、それもついで程度の理由である。そのことをデュラハン特有の感覚で見抜いたイジェは、安心と共に感謝の気持ちが顔から笑みとして溢れていた。


「ねぇねぇユウヒ、この魔道具さんは名前なんて言うの?」

 美人と言って差し支えないイジェに見詰められ、背中には同じくミルーカの大きく柔らかい何かの感触を存分に感じている状況が、だんだんと恥ずかしくなって来たユウヒに、ミルーカは彼の背中から顔を覗かせながら魔道具の名前を尋ねる。


「名前? そうだなー・・・うん、【精霊呼びの風見鶏】だな」


「精霊を、呼ぶのですか・・・」

 特に名前を決めていなかったユウヒは、彼女の問いにきょとんとした表情を浮かべると、名前が無いのもかわいそうだなと顔を上げ、風見鶏を見上げながら頭に思い浮かんだ名前を口にした。


 咄嗟に付けた名前であるが、どこかしっくりきたのか頷くユウヒ。彼の横顔を見ていたイジェは、ミルーカが走りより挨拶している魔力活性化装置【精霊呼びの風見鶏】に目を向けると、その力強い魔力の光に目を細めて微笑むのであった。


 尚、同時刻ハラリアにて、何かを感じ取ったパフェが布団から跳び起きたのは別の話しであり、日本のとある宿営地のテントの中では、三人の忍者が同時に寝ながら血涙を流していたりするのだが、そんな事ユウヒは知る余地も無いのである。



 いかがでしたでしょうか?


 物作り大好きユウヒが、回復乏しい魔力をやりくりしてまでまたやらかしたようです。精霊の忠告も軽くスルーと言うより忘れているユウヒ、まだ何か起こりそうで楽しみですね。


 それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー

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