第九十二話 魔王領の大きな農家
どうもHekutoです。
修正等完了しましたので投稿させていただきます。私の妄想に一笑して頂いて、ほんの僅かでも心に潤いを提供出来れば幸いです。
『魔王領の大きな農家』
名も無き異世界の荒涼とした台地に広がる農村、茶色い地面に僅かな緑色を残すその場所には暗雲が垂れ込み、少し前まで照り付けていた太陽の光を遮って地面に暗い影を落としていた。しかし、その影は不快な影ではなく、荒涼とした台地に潤いを与える恵みの影である。
すでに農村の大半の場所ではぽつぽつと雨が降り始めており、明るい茶色であった地面を濃い茶色に塗り替え始めていた。
「はぁはぁ、ふぅぅ・・・とうちゃくー」
そんな今にもどしゃ降りになりそうな雰囲気の空の下には、現在三人の人影が列を成して走っており、先頭のミノ族少女が大きな赤い屋根の家へと駆けこむと、後ろに続いて走っていたデュラハンの女性と黒髪の男も順に駆け入る。
「これは、だいぶ強い雨になりそうですね」
赤い屋根の家に駆けこんだのは、この農村の住民であるミルーカとイジェ、さらに空から舞い降りた怪しい人ことユウヒの三人であった。雨宿りの場所を提供すると、ユウヒの腕を掴み歩き出したミルーカであったが、雨が降り出すと慌てて駆け出し、置いてきぼりを食らった二人は慌ててミルーカを追いかけたのである。
「へっぷし! ・・・魔王領は涼しいから、雨に濡れるとけっこう冷えるな」
雨が降り始めミルーカの家に駆けこんだユウヒであったが、僅かな時間で勢いを増した雨は、くしゃみが出るくらいには彼から体温を奪っていた。高い台地の上にある農村と言う事もあってか森より涼しく、より一層雨が冷たく感じるようだ。
「ちょっとまっててねー拭くものとってくるからー」
「ついでに着替えて来なさい」
赤い屋根の家の中は入ってすぐに石畳の部屋になっており、中央には大きめのテーブルとイス、左を見ればアーマーラックや様々な道具が置いてあり、反対側には竈などが設置してあるところを見るとキッチンダイニング兼ちょっとした作業スペースの様である。
ユウヒのクシャミが聞こえたミルーカは、濡れた髪を揺らして声をかけると、髪の先から水を周囲に撒き散らしながら奥の部屋へと入って行き、そんな彼女の姿に溜息を漏らしたイジェは着替えてきなさいと少し大きめの声で注意した。
「はーい」
「あー・・・いやまぁいいか」
イジェに明るい声で返事を返したミルーカは、パタパタと軽快な足音を立てながら家の奥へと消えて行き、そんな彼女の背中を見送ったユウヒは、一瞬魔法で乾かすからと声を出そうとするも、すぐに思い直して好意に甘えることにする。少しでも魔力を温存しておこうと言うのもあるが、見送ったミルーカの背中が実に楽しげであったことが彼の言葉を遮った様だ。
「好きに座ってくれていいですよ? 椅子が濡れる事も気にしなくていい」
「いいのか?」
「濡れて困るほどの物でもないからな」
家の中に入ったユウヒであるが、自らの体から滴る水を気にしながらその場できょろきょろと視線を彷徨わせる。そんなユウヒの姿に苦笑を零したイジェは、玄関の扉を閉めるとユウヒに座るよう勧め、濡れた体を気にする彼を見て口元に笑みを浮かべた彼女は構わないと肩を竦めて見せた。
「それじゃお言葉に甘えて」
「ああ・・・それで、教えてもらえないかな? 魔都に何の要件があるのかを」
イジェに勧められるがまま椅子に腰を落ち着けたユウヒは、疲れからか思わず口からため息が漏れ、そんな彼から少し離れた場所に木製の丸椅子を持ってきたイジェは、金属がぶつかり合う音を出しながら椅子に座ると、フェイスカバーの奥からユウヒを見詰め問いかける。
「やっぱり怪しいですかね?」
「まぁな、この時期に魔都に用事があるなどと言う・・・ところでユウヒの種族はなんなのだ?」
フェイスカバーの奥に見えるイジェの目から、問いかけの真意を察したユウヒは、頭を掻きつつ苦笑を洩らし、そんなユウヒの言葉にイジェもまた困った様に笑う。しかし問いかけの途中でユウヒを見詰め始めたイジェは、どこか不思議そうにユウヒを見詰めたまま小首を傾げる。
「む?」
「基人族にも見えたが奴らに黒髪は珍しい、故にハーフかとも思ったがどうも違う感じがする。私はこの通り魔族でも精霊寄りの為、普通では感じ取れない感覚が解るのだ」
イジェの不思議そうな表情に首を傾げ返したユウヒに、イジェは彼に感じた違和感について話し始めると、徐に兜を脱いでその中にまとめられていた金糸の様な髪を振りほどきながら澄んだ緑色の瞳でユウヒを見詰めた。
「おお、今少し透けてた。・・・えっとまぁ隠す事も無いのですけど、ちょっと荒唐無稽な話と言うか」
驚くユウヒの目の前に、厳つい鎧とは正反対な美しく可憐な女性の顔が現れ、不思議そうなイジェの素顔が僅かな間透けて見えた事を確認すると、さらに驚きで目を見開く。どうやらこの世界のデュラハンは、精霊に近い性質を持った種族であるようで、そんな彼女達特有の感覚は、ユウヒを普通の人間とは違う何かとしてとらえている様だ。
「ふむ、私も魔族の中では珍獣扱いな種族だからな、本当の事を話すなら変な目で見る気は無い」
「実は俺、この世界の種族ではなく、別の世界の有り触れた普通の人なんですよ。まぁ・・・後天的に普通じゃなくなったけど」
イジェの素顔に目を見開くも、すぐに困った様に眉を寄せて悩むように話し出すユウヒを見て、イジェはどこか自虐的な笑みを浮かべて本当の事を話すように促す。
彼女の感覚では、ユウヒも自分と同じで普通とはかけ離れた場所に居る存在だと感じている様で、そんな彼女の、心を見透かされそうな色の視線に、嘘をつく事は止めた方が良いと察したユウヒは、自分がこことは違う世界の人間であることを伝えるが、後半に関しては自然と声が小さくなる。
「・・・別世界か、確かにそれは荒唐無稽と言うわけだ。しかしなるほど、違和感はそのせいなのだな」
自分で言っておきながら嘘のように聞こえる現実に、ユウヒが眉を寄せている一方で、僅かに目を見開き驚いた表情を浮かべていたイジェは、すぐに納得したように頷き始めると腕を胸の前で組み、しきりに頷くとユウヒをしげしげと見詰めるのだった。
「それほど驚かないですね?」
「まぁ古い古いおとぎ話にも出てくるからな、異世界人と言うのは」
興味深く見つめられはするものの、しかし驚かれたのは最初の一瞬だけであった事に、ユウヒは不思議そうに首を傾げ、その理由はすぐにイジェの口から語られる。
「え? それは「おっまたせー!」おわっぷ!?」
どうやらこの世界に古くからある御伽噺には、異世界の人に関する物があるらしく、その事に驚いたユウヒは体を僅かに前へ乗り出すと詳しく聞きたい旨を伝えようとしたのだが、その言葉は視界を染めるクリーム色の柔らかい何かによって遮られてしまう。
「こらミルーカ! 君はもう少しお淑やかにできないのか」
「あわ、ごめんねー」
イジェに怒られたミルーカは、視界を塞がれて慌てるユウヒに謝りながら、優しく彼の視界を塞いでいた柔らかな物を取り払った。
「いや、ありがとう」
苦笑を浮かべながらミルーカにお礼を言ったユウヒに何があったのかと言うと、着替えを終えて小走りで戻って来たミルーカは、元気な声と共に手を振り上げたのだが、その時手が滑り持っていた手ぬぐいをユウヒの顔へと投げ付けてしまったのである。
「それでそれで? ユウヒはなにしに魔都行くの? 今言っても何もないよ?」
「何も?」
クリーム色の素朴な、しかし柔らかな手触りの手拭いを受け取り、濡れた頭を拭い乾かすユウヒに、すぐ目の前に椅子を引っ張って来て座ったミルーカは、テーブルの上にランプを置くと好奇心の溢れる瞳でユウヒを見詰め、なぜ魔都に行くのかと不思議そうに問いかけ、その問いかけにユウヒも不思議そうな顔で首を傾げて見せた。
「っ・・・何もないと言うのは語弊がある気がしますが、勇者の一件以降都から人の流出は止まらないのだ」
「あぁ」
ユウヒとミルーカがお互いに首を傾げあう姿がおかしかったのか、にやける口元を金属の手甲に包まれた手で隠したイジェは、そのままミルーカの話す内容を補足するように話し、ユウヒはなるほどと頷き声を洩らす。
「もうガラガラだよ? 空き家ばっかり!」
「そんなになのか?」
勇者によって魔王国の世界樹がその機能を消失させて以降、衰退著しい魔都は常に人が居なくなり続け、数年経過した今では賑わっていたころの面影はなく、どこも空き家ばかりであると語るミルーカ。彼女達は比較的魔都に近い農村と言う事もあってか、年に数回程度は魔都を訪れると言う。
「否定はし辛いな、住んでいた人々がいなくなれば商売もできないので商人も職人も居なくなる。そうなればさらにと言った感じだろうか」
「確かに、そりゃ人も居なくなるか・・・」
そんな彼女たちが見続けた魔都は、世界樹の喪失による人々の流出の悪循環が止まることなく続いたと語り、ユウヒは彼女たちの話を聞くと僅かに暗い表情を浮かべ、これから向かう魔都へいろいろと期待できない現実に肩を落とす。
「まぁそれでも王家の人は居るし、それを支える大臣たちや御用商人にお抱えの職人も残っている。ある意味遠い昔の姿に戻っただけかもしれないな」
肩を落とすユウヒを見詰めたイジェは、少しは明るい話題をと今も魔都に住む魔王家や城の住人達について話し、そんな話をするうちに何かを思い出したかのような苦笑を浮かべる。
「でもお城だってがらがらだよー?」
「それは給金が払えないからと姫がそうされたのだ」
イジェの懐かしむような話に目を向けるユウヒの前で、ミルーカは首を傾げてお城も人がいないと言い出す。どうやら実際に城の住人も少ないらしく、困った様に笑うイジェはミルーカの頭を撫でながら、人が少ない理由を語る。
「お城も大変だよねー・・・それにしても、都からいなくなるなら少しぐらいこっちにも移って来てくれていいと思うんだけどなー?」
イジェに頭を撫でられ目を細めたミルーカは気持ちいいのか、間延びした声でどうでもよさそうに大変だと呟き、しかしふと目を開くと、先ほどまでの元気が嘘のように感じない空虚な瞳で、僅かに濁りのあるガラス窓の外を見詰めて寂しそうに話す。
「ミルーカ・・・」
「・・・なるほど、農村と聞いてたけど人がいないのか」
別人の様な空気を纏ったまま窓辺に歩いて行き雨粒の舞う空を見上げるミルーカを、イジェが悲しそうな瞳で見詰める姿に、ユウヒはふと視界の端に追いやられていたレーダーを注視しはじめ、その結果になるほどと頷く。
「あぁ、大地が枯れてしまってからは次々と居なくなってしまってね」
「もしかして今は二人だけ?」
「・・・よくわかったな」
ユウヒの呟きに寂しそうな笑みを浮かべたイジェが話す様に、この農村には人が少ない。いや、少ないと言うより今はユウヒの目の前に居る二人しか居らず、その事を【探知】の魔法で視界に表示されるレーダーで確認したユウヒの言葉に、イジェは驚いた様に顔を上げてユウヒを見詰める。
「まぁ少し人探しの魔法も使えるから」
「・・・探索系統か、珍しいな」
驚きと同時に訝し気な感情が見えるイジェの瞳に見詰められたユウヒは、頭を掻くと困った様に魔法だと答え、人探しの魔法と言うものに思い当る節のあったイジェは感心したように頷く。
「・・・いっぱい雨降ってるから、これでまた大地の力が戻らないかなぁ」
二人の会話が途切れると雨音だけが聞こえる僅かな静寂が部屋に訪れ、そんな静寂にユウヒが絶えきれなくなる前に、空を見上げていたミルーカがぽつりぽつりとつぶやき始める。その言葉を聞いたユウヒは彼女の見詰める空に目を向け、イジェは静かに立ち上がるとミルーカの傍に立ち彼女の横顔を見詰めた。
「水があるからとそう簡単には戻らないよ・・・でも不思議だな、今日の雨は精霊が多い」
「ほんと!? じゃ期待できるね!」
ミルーカに優しく諭す様に語り掛けるイジェは、しかしその視線を空に向けると不思議そうに精霊が多いと呟く。彼女の不思議そうな言葉を聞いて、背筋を僅かに伸ばしたミルーカは、先ほどまでの暗い表情を感じさせない明るい声と目で振り返ると、嬉しそうにイジェに笑いかける。
「・・・・・・活性魔力に引き寄せられる雨雲、精霊が多い雨」
一方、微笑ましい女性たちの語らいを傍観するユウヒは、彼女たちの話と精霊達から聞いた話、それから雨雲と共に訪れ始めた小さな小さな青い精霊達を見詰めると、腕を組んで何やら考え込み始めた。そんな彼の周囲には、彼の左目にも映っていた青く光る小さな綿毛のような精霊達が、何かを気にするようにふわりふわりと舞っている。
「萎れていたお芋さんもかぶさんも元気になると良いね」
「そうですね、成長期のこの時期に纏まった雨が降ってくれたのはありがたい」
強くなってくる雨音に負けない明るく張りのあるミルーカの声は、相槌を打つイジェの口元を自然と柔らかなものへと変えて行き、彼女たちの見詰める先にある畑では、恵みの雨に植物たちが葉を揺らして歓迎の踊りを踊っている様にも見えた。
「その割には大きな精霊を見ないな?」
「どうしたの?」
今年の収穫に期待が持てると笑い合う女性たちの後ろでは、腕を組んで考え込むユウヒが、ぶつぶつと呟き首を傾げており、そんな彼の様子に気が付いたミルーカは、軽い足音を立てながらユウヒに近づきその顔を覗き込む。
「ん? ちょっと考え事をしていたんだが、やっぱり精霊は多いに越したことは無いんだな」
急にのぞき込まれ少し目を見開いたユウヒは、彼女から離れる様に顔を上げると苦笑を浮かべながら二人を見詰めると、首を傾げながら問いかける。
「それは当然・・・ユウヒ、あなたもしかして見えるの?」
「え? あーまぁ、森で世界樹の精霊に魔都の世界樹を見て来てほしいと頼まれるくらいには・・・」
ユウヒの問いかけに、何を当たり前のことをと言った表情で首を傾げるイジェであったが、彼の周囲に集まっている精霊の多さに眉を寄せるとすぐに目を見開き、驚きで裏返りそうになる声を押さえながらじっとユウヒを見詰め問う。そんな彼女の表情に、ユウヒは周囲の精霊達を見回し頭を掻くと頷き、乾いた笑いの混じった声で答える。
「んー?」
「・・・それは、大変なお願いをされたのですね」
ユウヒの答えを聞いてもミルーカが状況を飲み込めない一方で、種族として精霊に近くあるが故に、精霊の奔放さも良く知るイジェは、どこか同情的な目でユウヒを見詰め優しい声でユウヒを労う。
「信じるの?」
「デュラハンは精霊に近いこともあって比較的見えるのですよ。それに歴代にはエルフに負けない特性持ちも居ましたから、何かと逸話などには事欠きませんので・・・でも驚いてないわけではないですよ?」
すぐに信じられたことで不思議そうな表情を浮かべるユウヒに笑みを浮かべ、デュラハンについて語るイジェの顔は、逸話を思い出してなのか困った様なものへと変わっていくも、再度ユウヒの周囲を見渡すと興味深げな表情を浮かべて驚いていると語る。
「んー? んー? もしかしてユウヒ祈祷師なの? それじゃ精霊にお願いしてくれる? ここに定住してって!」
「定住とな」
ユウヒが精霊を見ることが出来ると白状したことで、余計に周囲から集まり始める精霊に、ユウヒが息を吹きかけ吹き飛ばす姿を、イジェが笑みで目を細めながら見つめていると、ようやく理解が追いついたらしいミルーカが顔を上げユウヒを見詰めた。
そんな彼女は、ユウヒにじりじりと迫りながら精霊に定住するようお願いしてくれと語り、その鬼気迫る様な気迫を感じるミルーカに、ユウヒは心の中で後ずさりながら首を傾げて見せる。
「ミルーカ・・・ですから前も言った通り、精霊も住みやすいところにしか居つかないのですよ?」
「むー」
説明を求める様な視線をユウヒから向けられたイジェは、今にも飛び掛からんばかりににじり寄るミルーカを呼びかけ止めると、前にも同じような話があったのであろうか、呆れた声で話し始め、その呆れを含んだ声にミルーカは不満そうに振り返って膨れたを頬を彼女に見せた。
「ミルーカだってお芋さんが食べれないところには住みたくないでしょ?」
「え!? それはヤダ!?」
唇を窄めて不満そうな唸り声を洩らすミルーカに、イジェは肩を落としながらお芋さんを使って例え話をする。その例え話に対するミルーカの反応は過敏で、なぜか目を潤ませ首を横に振った彼女はすぐに項垂れ椅子に座った。
精霊にって魔力は大好きなご飯の様なモノで、自らの生命を維持するためには必要不可欠なものである。その為魔力が無い場所に居付くことは普通ならあり得ない行為であり、ミルーカにとってもお芋が無い場所に住むなど、劇的な反応を示すほど考えられない行為である様だ。
「芋、食事・・・精霊の食事か」
「あ、ごめんなさいユウヒ、無理を言ってしまって」
彼女たちの話を興味深げな顔で聞いていたユウヒは、成人になっても髭の生えないつるつるの顎を指で摘むと俯き呟きはじめる。しゅんとしたミルーカを慰める様に撫でていたイジェは、彼の呟き声に少し慌て気味に顔を上げると、悩んでいる様に見えるユウヒへ申し訳なさそうに謝罪した。
「んーいや、今日は雨が止みそうにないなと思って。農家にはありがたいんだろうけど」
「えぇそうですね」
イジェの声に顔を上げたユウヒは、苦笑を浮かべると気にしていないと言った顔で窓の外に目を向け、ユウヒの気遣いにイジェも窓の外に目を向け小さく笑う。
「そうだ! ユウヒ泊っていくよね?」
「そうだな、軒先か馬小屋でも貸してくれれば勝手にテントを「駄目!」お?」
頭を撫でられながら二人の会話を聞いていたミルーカは、大きな声を上げて立ち上がると、少し驚いた表情を浮かべるイジェの前でくるりと回ってユウヒに体ごと向き直り、泊まっていくのかと、ほぼ確信をもって問いかける。そんな問いかけに、ユウヒは軒先を貸してくれるかとお願いしつつテントを作る魔法を妄想しようとしたのだが、その妄想はミルーカの強い口調によって遮られてしまう。
「しっかり寝ないと大きくなれないんだから! お部屋用意してあげるから待っててね!」
目を見開き驚くユウヒに、ミルーカは胸の前で両手を握り込み睡眠の重要性を訴えると、驚くユウヒを置いてきぼりにして家の奥へと駆け出していくのであった。
「え? ちょっと・・・行ってしまった」
ユウヒが声を出したころにはすでに遅く、奥の部屋へと走り去るクリーム色の髪を見送ったユウヒは、彼女を止めようと思わず上げていた右手を脱力したように下ろすと、肩を振るわせている人物へと目を向ける。
「ふふふ、気にしないでゆっくりして行ってくれ。お客など珍しいから燥いでいるんだ」
ユウヒの向けた視線の先には、何か笑いのツボにでもはまったのか、笑いを抑えるイジェが抑えきれない感情で体を震わせており、彼の視線に気が付いた彼女は楽しそうな笑みを浮かべ、ユウヒの宿泊を歓迎している様だ。
「むぅ・・・そんな笑顔で言われたら甘えるほか無さそうだな」
「ええ、観念してくれ」
綺麗な笑顔で宿泊を歓迎されたユウヒは、断るという選択肢をつぶされた様な感覚に陥るも、歓迎してくれている以上断るのも失礼だと、彼女たちの歓迎に甘える事にすると肩を竦め、困った様に笑う彼にイジェはどこか悪戯っ子の様な優しい笑みを浮かべてみせる。
「・・・ふむ、ならお礼はしっかりしないとな」
「そんな事気にしなくてもいいのよ?」
彼女の笑みを見上げていたユウヒは、急に背筋を伸ばすと胸の前で腕を組み御礼は何がいいかと考えはじめ、小一時間も経っていない初対面の頃よりずいぶん柔らかい口調となったイジェは、部屋の隅に設置してあるアーマーラックに向かって歩きながら手甲を外すと、細くしなやかな手で口元を抑え苦笑を漏らす。
「その辺はきっちり返さないとな、何だろう・・・国民性かな?」
「それは、素敵な国なのだな」
鎧を脱ぎ始めたイジェに少し驚いた表情を浮かべたユウヒは、しかしすぐに彼女から視線を外し窓の外を見詰めると、少し赤くなった顔でお礼を大事にするのは国民性だろうかと首を傾げる。
そんなユウヒの言葉に振り返ったイジェは、きょとんとした表情でスカート部分を取り外すと、またくすくすと笑い始めるのであった。
いかがでしたでしょうか?
たった二人だけで住むには大きすぎる家での一時でした。雨の降り続ける農村で、二人の女性の話に考え込んでいたユウヒは何をする気なのか、また次回をお楽しみに。
それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー




