第八十六話 抜ける者達
どうもHekutoです。
修正等完了しましたので投稿させていただきます。ほどほどの文字数ですが楽しんで頂ければ幸いです。
『抜ける者達』
名も無き異世界の森で出会ったゴブリン達と別れ、すぐにラミアと言う種族と遭遇する事となったユウヒは現在、見目麗しいラミアの騎士達と共に森を抜ける為に街道を直走っている。
「そうか、ユウヒ殿はゴブリンキングとも面識があるのか」
「ついさっき知り合ったばかりだけどな」
日本の綺麗に舗装された道と違い、ギリギリ道と言える異世界の街道を魔法の力を頼りにマラソン選手ほどの速さで走るユウヒは、道中同じ速度で進み続けるラミア達と情報交換のために話し続けていた。
人の姿である上半身はほとんど動かすことなく、下半身の蛇の部分をうねらせ走る彼女達は非常に速く、またその体の構造上、荒れ地などの不整地な場所での活動を得意としている。当初その姿に驚いていたユウヒであるがすぐに慣れたらしく、隣を走るラミア騎士団の副団長だと言う長身の女性と何でもない様子で話していた。
「彼らには申し訳なかったと思っている。現在国境警備の半数を姫様の捜索に狩り出していてとても手が回らないのだ」
「手が回らない理由はわかったけど、お姫様ってよく街に出るものなのか?」
そんな彼女達の話を聞くうちに自然とゴブリン達の話となった様で、ゴブリンキングと交わした会話の裏付けもとれた事でユウヒが満足そうに頷く一方、副団長は眉を寄せ渋い表情で手が回らないと語る。ゴブリンキングの話を思い出しながら聞いていたユウヒは、いつも通り覇気のない顔に疑問の感情を浮かべると首を傾げて呟く。
「そんなわけないでしょ? 今回はいろいろと面倒事が重なっただけよ・・・」
「面倒事ねぇ・・・」
そんなユウヒの何となしの呟きは、彼の後ろを走る小柄な女性の声によって即座に否定される。背後から聞こえて来る彼女の声には分かり易い棘があり、その棘に何とも言えない苦笑いを浮かべたユウヒは、現在進行形で面倒事の渦中にいる事を再認識してそのまま苦笑いを深めていく。
「それよりアンタはなんでこんなとこに居るのよ、しかも魔王領に行きたいとか・・・」
「そりゃまぁ・・・用事があるからなんだが」
ラミア族の中では小柄な女性からの、なんとも刺々しい声に苦笑いを浮かべているのはユウヒだけではないようで、ユウヒと副団長を先頭に鏃の様な隊列を作り進むラミア騎士団の大半が困った様な表情を浮かべている。
「だからその用事ってなんなのよ」
「ヘリアン」
お願いして同行してもらっているユウヒを気遣うと同時に、小柄な女性も気遣われる何かがある様で、しかし刺々しく尋問するかのような言動は流石に問題ありと、副団長は後ろを振り返り強めの口調で彼女の名を呼び、同時に鋭く細められた目で注意を促す。
「ぅ・・・」
「すみません、この子はリミア様と幼少からの付き合いで、今回も無理言って捜索についてきているのです」
ラミア族の女性は基本的に目元が鋭く、細める様に睨めば十分な威嚇となって相手をひるませることが出来、それは同族間でも十分通用するものであるらしく小柄な女性、ヘリアンはその視線に射抜かれ思わず肩を震わせ怯む。そんな彼女の肩にそっと手を置いた祈祷師のキエラは、ラミア族では珍しい垂れ気味の目で申し訳なさそうに微笑み、走りながら顔だけ少し振り返っていたユウヒに彼女の事情を説明する。
「なるほど、まぁ隠す必要も無いんだがな。実は世界樹に頼まれて魔都の世界樹の様子を見に行く途中なんだよ」
「なんだと?」
ラミア族の体の構造上走っていても上体はあまり動かず、それ故に走っていても落ち着いて会話を行う事で来ていた。それ以外にも人間など比べ者にならない体力と鍛えられ身体能力故に息も切らしていない副団長は、ユウヒの簡単な説明に驚きの声を洩らし振り返る。
「エルフ・・・いえ、なるほど世界樹の精霊から直接頼まれたのですね」
「うそでしょ? なんで基人が世界樹の精霊に会えるのよ、エルフに殺されるんじゃないの?」
どこに驚いたのかわからないユウヒが不思議そうな表情を浮かべていると、周囲のラミアは達は一様に目を見開いており、キエラは深く考え込むとユウヒの事情をなんとなく察して呟き、周囲からの囁きに確信したのか、どこか感動を覚えた様な瞳でユウヒを見詰めた。その隣では、周囲のラミア同様に目を見開いていたヘリアンが、その感情を隠すことなく話しだし、非常に疑わしげな目で目の前を滑るように走るユウヒを見詰める。
「・・・馬鹿を言え、エルフがそんなことをするか」
「でも・・・」
目を細めた事で睨んでいるようにしか見えないヘリアンの言葉に、思わず苦笑いを浮かべるユウヒ、そんな彼の表情を申し訳なさそうに見た副団長は、後ろを走るヘリアンに顔を向けるとため息交じりの呆れ声を漏らす。
「まぁ殺されはしないが、最初は遠巻きに殺気とか飛ばされてたな」
副団長の表情と言葉に頬を膨らませ不満の声を漏らす彼女の中では、エルフと基人族の関係は今も戦争状態の様で、こういった認識は年若い魔族の間では数年前の因縁もあり割と過半数を占めている。
そんな背景を知らないユウヒは、名も無きこの異世界でエルフ達と初めて出会った時の事を思い出し、その頃向けられていた敵意の籠った視線について苦笑交じりに語った。
「しかし、なんでまた枯れた世界樹の様子などを見に行くのだ?」
しばらくの間、エルフとの出会いについて軽く話すユウヒに耳を傾けていた副団長は、正面に向けていた顔を彼に向けると、なぜ森で友好的に過ごしていたにも関わらず態々魔王領の立ち枯れた世界樹を訪れる事になったのかと首を傾げ問いかけた。
「ん? そりゃ完全には枯れてないからだよ」
「それは本当ですか!?」
「うそでしょ!? 魔都の世界樹はずいぶん前に基人の呪いで枯れたって・・・」
一連の話を聞いて余計にユウヒの事情が分からなくなってきた副団長の不思議そうな声に、ユウヒは小首を傾げると何でもないかのように応える。その声に対する反応は劇的で、周囲のラミア達は揃って走る速度を緩めユウヒを注視し始め、キエラとヘリアンは急な速度の変化で体勢を崩しながらもユウヒに向かって大きな声を上げた。
「おっとと? 俺は封印されたって聞いたけど、まぁその辺の確認も頼まれてはいるんだけど」
急にラミア達が走る速度を緩めた事でユウヒも体勢を崩しながら速度を緩めると、彼女達に速度を合わせ直し、聞いていた話と違うことに首を傾げつつ苦笑を洩らす。
「・・・」
「しかし簡単に入れるでしょうか?」
副団長がユウヒの話に難しい表情を浮かべていると、その後ろを走るキエラが困った様な顔で首を傾げる。
「そうだな、魔都の世界樹は王城の中央にあるのだ。そう簡単に入れてもらえるとも思えん」
「ふむ・・・なら忍び込むしかないのかな」
常識的に考えれば、魔族から色々と恨まれている基人族が魔都を訪れるだけでも警戒されると言うのに、さらに魔王城に入ろうなど普通に考えれば無理と言うもの。難しい表情を浮かべた副団長の言葉に、いつもと変わらぬ覇気の無い表情で考え込むユウヒは、しかしすぐに顔を上げると無駄にきりっとした表情で呟きにやりと笑う。
「あの・・・」
「アンタね、一応私たち魔王国の臣民なんだけど」
ユウヒの堂々とした忍び込む発言に困った様な表情で小さな声を漏らすキエラと、呆れ切った表情でジト目を向けユウヒを注意するヘリアン。呆れているのは二人だけではなく、周囲のラミア達も同様に困った表情を浮かべている。
「おお、しまったこれはしょっぴかれてしまうかな?」
「くくく、おかしな男だな。そんな話を聞いて捕まえようなどとは思わん」
「ええ、世界樹がもし生き返るのであれば魔王国にとっては吉報以外の何でもないですからね」
「・・・まぁね」
しかし彼女達は誰一人として怒りの感情を抱いてはいない。普通に考えれば自分たちの王様の城に忍び込むと聞けば怒りそうなものであるが、その理由が理由である以上怒るわけにも行かないようで、目の前の飄々とした顔で笑う変な基人族に只々呆れるだけなのであった。
「そりゃよかった。捕まえられるなら急いで逃げないといけないところだった」
「森でラミアから逃げられると思わない事ね」
「ふふ、もうすぐ森を抜けますよ」
不満満載な表情でユウヒを睨むヘリアンは、可笑しそうに笑いながら振り返るユウヒの言葉にせめてもの意趣返しと噛みつく。二人の姿がまるで威嚇する子猫とそんな子猫の対処に困っる成猫の様に見えたキエラは、くすくすと楽しそうに笑うとヘリアンに声をかけて、木々の途切れはじめた進行方向へと目を向けるのであった。
森を抜けた後も明るい会話で幾分打ち解けはじめたユウヒの笑い声が、ヘリアンに度々噛みつかれている頃、遠く離れたとある城の一室ではどこか暗い雰囲気が流れていた。
「また国抜けですか・・・」
「・・・はい、北方の辺境伯家を中心に四家が独立宣言しました」
高く上った日の影響や建物の構造上外の光があまり入らない薄暗い部屋の中、メイド服を着た女性が質素ではあるが作りのしっかりとした椅子に座る女性に何かの報告を行っている様だ。メイド服の女性から齎された報告は良いものではないようで、椅子に座る女性の口元は力なくどこか悔しげに歪んでいる。
「・・・状況的にしょうがないとは言え、辛いものですね」
しばし歪んでいた彼女の口元も小さく溜息を吐くことで元に戻り、しかし力ない雰囲気は拭えない様で、その口から零れ出る言葉にも力が感じられない。
「何を言っているのですか姫! しょうがないなどと、奴らは何もわかっていないのです」
「ふふ、優しいのですね」
暗く覇気が感じられない呟きを聞いたメイド姿の女性は、一歩前に出ると胸の前で手を握り辛そうな声を目の前の姫と呼ばれた女性にかけ、その言葉に姫は儚げであるが嬉しそうに微笑み口角を僅かにあげる。
「姫・・・」
「世界樹を失った現状では、財務大臣が言っていた事も分かるのです」
その儚げな笑みを見たメイド姿の女性は、彼女の笑みの中に見えるまだ折れぬ心を感じ取りもう一歩前に出そうであった足を止め、その姿に再度微笑んだ姫は日が中天を通り過ぎ始めた窓の外に目を向けて寂しそうに語った。
「それは」
「ええ、そんなことしないわよ。古き盟約を破る気は無いわ」
「そうですか・・・」
過ぎ去った過去の出来事なのであろう話をする姫の言葉に、メイド姿の女性は少し慌てたように呟くが、窓の外を見ていた姫は振り返ると安心させるように笑い語る。彼女の言う古き盟約が何であるかはわからないものの、メイド姿の女性が吐く安堵の声からは余程重要な事であろうことが窺い知れた。
「ふ、ふふふ・・・ごめんなさい。それにしてもどうしたものかしら、どこかに物語に出てくる様な勇者様でもいないものかしらね?」
「姫またそんな・・・」
安堵の息を吐くメイド服を着た女性の姿が余程おかしかったのか、くすくすと堪えきれない笑い声を洩らしていた姫は、真正面から感じるじっとりした視線に謝罪するともう一度窓の外に目を向ける。暗い部屋の中から強い日差しが降り注ぐ空を眺めた彼女は、まるでその光に当てられたように、それまでの声より幾分高い声で夢物語でも語るように話し出し、メイド姿の女性はその声に呆れながらもホッとした様な苦笑を浮かべた。
「あれは偽物でした。担がれたのでしょうが哀れでしたね」
後ろから聞こえて来る女性の呟き声を気にする事無く語り続ける姫は、変わらぬ明るめの声色で心底残念そうに語るも、後ろに控えるメイド姿の女性から見えないその目には、底冷えするような恐怖を感じる冷たい炎を揺らしている。
「残るは南方と西方・・・なんとか、なんとかしなくては」
「・・・」
それからしばしの間空を眺め続けた姫は、真剣な感情が伝わってくる声で呟くと、椅子の肘掛けに置いていた手を強く握りしめながら立ち上がり、窓の外に見える広大な石造りの都を見詰めながら悔しそうにつぶやく。その感情は、彼女の後ろに控え続けている女性も同じなのか、体の前に下ろして合わせていた手には自然と力が籠っていくのであった。
そんな姫の呟きから小一時間後、ユウヒが現在立っているのは魔王領国境を過ぎてしばらく過ぎた荒涼とした山岳地域。
「リミア姫の位置を示せ【指針】」
周囲を見渡せば森と違い見晴らしが良い為、いくつもの大小様々な山の頂を目にすることが出来る。そんな場所でユウヒは、すっかり使い慣れた魔法のキーワードを口にしてラミアのお姫様を捜していた。
「・・・」
「・・・」
「ふむ? 少し移動してるのかな?」
「なに?」
地図と【指針】を宿した枝を交互に見比べるユウヒの周囲には、ラミア達が固唾を飲んで彼を見詰め、黙したままユウヒを見詰めるキエラの隣では、見詰めると言うより睨み付けると言った方が正しい顔のヘリアン。彼女はユウヒの不思議そうな声に過敏に反応を示し口を開けるも、それより早く副団長がユウヒと彼女との間に入り疑問を口にする。
「ふんふんこの辺、もう少し東より? だそうですね」
「そのまま行くと東方領域に入るのだが・・・ふむ」
振り返ったユウヒは、彼女に地図を見せながら予想される方向を指で示す。精霊の声に従い微調整されて行く方向に、副団長は眉を顰めると低い声で唸るような声を洩らして考え込み始めた。
「東方領域? 何かあんのそこ?」
魔王領は非常に広大でありながらその大半を山岳地で構成された場所である。そんな魔王領は大きく分けて五つの地域に分けられ、中央と呼ばれる魔王城のある地域の東方にあるのが、今彼女が呟いた東方領域であった。
「東方領域と言うのはですね、少し前に魔王国から独立を宣言した貴族の領地が集まる地域になります」
「え? 独立?」
しかし現在その地は一方的に独立を宣言し魔王領とは言い難い状況である様だ。キエラの説明を聞いたユウヒは、きょとんとした表情でオウムの様に独立と言う言葉を呟く。
「ああ、世界樹を失った魔王家は現状衰退するばかりだ。そんなもんだから元々野心を持っていた一族は次々と・・・な」
驚いた表情を見せるユウヒに、副団長はどこか寂しそうに切れ長の眉を下げると、現在魔王領で起こっている内容を簡単に説明するも、その声は感情の影響を受けてか尻すぼみに小さくなっていくのだった。
「あぁよくある話か、求心力を失った王家の末路だな」
「む・・・いや否定できないな。魔王様が旅立たれた後にはもう姫様しかいない、未だ王位に継がない彼女を見限る者は多い」
地球の歴史でも、また物語の中でもよくある話ではある王家の衰退と言う状況に、納得したように呟くユウヒは、他人事であるがその場に居合わせたことで何とも言えない感情を覚えた様で、難しい顔で頷いている。ユウヒの言葉だけを聞いていた副団長は眉を吊り上げユウヒに顔を向けるも、彼の表情を見た瞬間困った様な笑みを浮かべると、何となしに今の状況も説明しはじめた。
「そんな中ラミア族の立ち位置は?」
「姫を支持するに決まっている。それなりに古くから魔王家と共に戦ってきた一族だからな、不義理などゆるさん」
「おお、かっこいい」
どこか独白の様にも聞こえる副団長の説明を一通り聞いたユウヒは、一番気になる事を副団長に問いかけた。
独立と言う言葉はとても力強い言葉であるが、実際はその力強さなど幻想でしか無く、待っているのは辛い現実だけである。その事を知っているユウヒは、独立が周囲に与える様々な影響を考えて問いかけたのだが、副団長の力が籠った返答に目を見開くと純粋な感想を口にし目を輝かせた。
「なにを、当たり前のことだ・・・」
ユウヒのカッコイイと言う言葉に他意がないことを、その瞳の色から感じ取った副団長は思わずその視線から逃げる様に顔を背け、じわじわとその頬に赤みを滲ませる。
「ふふふ・・・それでどうしますか? このまま進みます?」
「ん、そうだな・・・いや一度休憩を挟もう。ユウヒ殿のおかげで位置は特定できているのだ、あまり急いでいざと言う時に疲弊していては意味がない」
「ふむ」
急に顔をそむけた副団長を不思議そうに見つめるユウヒ。そんな二人の様子を見詰め微笑んだキエラは、顔の赤みを自覚し眉を寄せる副団長にこの後の方針を問いかけ、その問いかけに小さく咳き込んだ彼女は、ユウヒにちらりとだけ目を向けると気を取り直してこれからの行動方針を決める。
「・・・」
「そんな顔をするな、精霊に導きなのだ。それだけで十分信頼に足る」
「そうですね。今も近くに多数精霊の気配を感じます」
副団長の決定に一つ頷くユウヒを、睨むように見詰めていたヘリアンは、声を出さずとも明らかに不満、いや不安そうな表情を浮かべていた。そんな彼女に気が付いた副団長は、彼女の肩に手を置いて優しく語り掛け、見上げる様に視線を向けられたキエラも視線の主であるヘリアンに微笑みかける。
「わかりました」
「うむ、小休止を入れたのち日暮れまで移動を続けるのでしっかり休むように」
『はい!』
二人の気遣いを感じたヘリアンは、自然と握りしめていた手に自分の意志で力を籠めると、それまで暗い表情を浮かべていた顔に覇気を籠め直して元気よく返事を返す。その返事を受けて頷いた副団長は周囲で微笑まし気な表情を浮かべていた部下達に声をかけ、綺麗にそろった返答に満足気に頷いて見せた。
「ユウヒ殿もそれでいいだろうか? 途中辛くなれば誰かが担ぐので、出来ればこのまま一緒に行動してほしいのだが・・・」
副団長の指示を受けて休憩のために動き出すラミア達。そんな成り行きを特に何も考えていない様な表情で見ていたユウヒに、副団長はそれまでの自信で満たされた表情と違うどこか居心地の悪そうな顔でユウヒに向き直り問いかけ始める。
「担ぐって・・・まぁ問題ないだろ、乗りかかった船だからな? お姫様を目にするくらいまでは付き合おう」
つい先ほどの痴態を気にしているらしい副団長であるが、その事に気が付いていないユウヒは、魔族目線で基人族を気遣っての言動に引き攣った様な苦笑いを浮かべると、肩を竦めて同行することを約束するのだった。
「ありがたい。この先は山岳地帯を複数挟むので辛くなったら遠慮なく言ってくれ」
「アップダウンが激しくなるのか、まぁ問題ないだろ。それより森から出たら急激に荒々しくなったな」
ユウヒの返答にホッとした様な笑みを浮かべた副団長は、先ほどユウヒを気遣った理由を口にしながら進行方向と思われる方角を指さして見せる。
その方角にはパッと見ただけでも複数の山が連なっており、普通なら見ただけで草臥れるそうな山々を目にしたユウヒは、しかし魔法と言う強い味方が居れば問題ないかと思い直し、山の険しさよりも荒々しさの方に目を向けた。
「ここも数年前までは緑豊かな場所だったのだがな、勇者が乗り込んで来たあの日以降魔王領はあちこちでこんな状態になっているらしい」
「・・・そうか」
目の前に広がる山岳地帯には緑色の部分が極めて少なく、その大半が枯れ木と山の地肌に固そうな色合いの岩ばかり、山の急斜面には多くの土砂崩れの跡と思われる部分も存在している。
副団長のどこか寂しそうな声に、ユウヒは目の前の光景が世界樹の封印の影響だと察すると、この世界における世界樹の重要性を再認識して気持ちを入れ直し、様々な事態を妄想し対策を考えながら休憩時間を静かに過ごすのであった。
いかがでしたでしょうか?
ようやく魔王領に足を踏み入れたユウヒでした。厄介事に首を突っ込み、行く先に不穏な空気の流れる中、ユウヒはどのように魔王国を歩くのか、この先も楽しみにして頂ければ幸いです。
それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー




