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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第一章 救出と救済

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第八十五話 ラミア騎士団

 どうもHekutoです。


 修正等完了しましたので投稿させていただきます。いつの間にか文字数が増えてしまったので、その分楽しんで頂ければ幸いです。



『ラミア騎士団』


 名も無き異世界の森の中、樹々が揺れて葉擦れの音を奏でる他は獣達の生活音や鳥の鳴き声くらいしか聞こえることのない場所に、今日は不自然な音が響いていた。


「このまま行くと街道に出るな」


「こっちでいいの?」


「ええ、精霊達が今も先導してくれていますから」

 その音は女性らしい声による会話、先頭を歩く長身の女性の声を聞いて疑問の声を上げる小柄な女性。その問いかけに自信のある声で頷き答える軽装な女性の声。


「今回は協力的なのだな」

 そんな女性の声に呆れと疑問の混ざった呟きを漏らす女性を筆頭に、後ろに続く女性達の身に着けた鎧が奏でる金属のぶつかり合う硬質な音。


「それだけその人物が精霊達の興味を引くに足る存在なのでしょう」


「精霊が興味ねぇ?」

 軽装な姿故に静かな布擦れの音しか残さない女性のどこか浮ついた声に、訝し気な呟きを漏らす小柄な女性から聞こえて来る鎧の音は、規則正しい周囲の音と違ってどこかぎこちなさを感じる。


「詳しい人物像などはわからないのか?」

 様々な音で森を騒がせる女性達は、森の野生動物から好奇の視線を集めながら真っ直ぐと精霊の囁きに従い道無き森の中を突き進んでいた。その理由は彼女らの目的を達成するのに必要な人物に会うためであり、その人物を勧めたのは軽装な女性の周りを飛び交う精霊達である。


「対話と言っても詳しく話をしているわけではないので、うまく説明できませんが大体の内容しかわからないの・・・ごめんなさい」

 精霊とある程度意思疎通がとれる軽装な女性は、しかしその姿を見ることが出来るわけではないようで、周囲を飛び交う精霊達は引っ切り無しに彼女の耳元で囁くも、視線を交わしてもらえない事に不満そうな表情を浮かべていた。


「いや、謝る必要はない頼りにしている」


「ありがとう・・・もう、すぐ近くまで来ているみたいね」

 声に関しても明瞭なものではないらしく、それらの事実が彼女の自信に僅かな翳りを見せるも、顔を振り返らせた長身の女性の言葉に笑みを取り戻す。


「もうそろそろ街道出ちゃうね」

 そんな会話を交わしている間に、不整地な森を驚くような速さで突き進んでいた彼女達は、その身を草木生い茂る深い森の中から拓けた街道沿いの草地へと晒そうとしていた。





 女性達がその視線の先に拓けた街道を視認し始めた頃、精霊のお願いに答えて寄り道中のユウヒはと言うと、


「そんなに引っ張るなって」

 出発した時同様に精霊達から引っ張られていた。しかしゴブリン達の目の前から飛び立ったはずのユウヒは、なぜか地面の上を小走りで走っている。


「おまえら・・・急かしてるんじゃなくて、服引っ張ることを楽しんでるだけだろ」


≪ばれた!?≫


 なぜそうなったかと言うと、空を自由に跳べる精霊と言うのは種類が限られており、低空を飛ぶ事しか出来ない精霊達から、高空を飛ぶユウヒへと謎のクレームが出たためであった。そんな精霊達からのクレームに苦笑を洩らしながら地面に降りたユウヒは、すぐに今の様な服のあちこちを精霊達に引っ張られる姿となってしまったのだが、彼女らはすでに案内より服を引っ張ることに夢中の様だ。


「いやばれるだろ」

 驚きの声を上げて一斉にユウヒから飛び退く精霊達は、しかしすぐに笑い声をあげながらユウヒに纏わり付き、少し大人しめに服を引っ張ると道案内を続ける。


「しっかし、寄り道させて何があるんだか」

 彼女たち精霊がどうしてこれほどユウヒに懐くのか、それは彼が彼女らの言葉を正しく理解し、適切に相槌を打つだけではなく、彼女達の目を見詰めてしっかりと意志を伝えるための言葉を話すからなのだ。元々好奇心の強い精霊達であるが、彼女達を正しく理解できるのは精霊だけである。その中に突然精霊以外で自分達を正しく認識できる者が現れたとなれば、無邪気な彼女達が懐かないわけがない。


「これも魔力のせいなんだろうけど、なるべく急ぎたいんだがなぁ・・・」

 しかし名も無き異世界に住む彼女たち特有の思考形態を理解できないユウヒは、単純にワールズダストの精霊同様に魔力が多いからであろうと考えている様だ。


<もうすぐ>


「もうすぐ・・・お? 道に出るな」

 彼の何とも言えない感情の籠った呟きにも嬉しそうに目を細めた精霊が一人、彼の目の前に躍り出ると視線を合わせてもうすぐだと話し、彼女と見つめ合ったユウヒはその視線を前方に移して拓けはじめた森に小さく呟く。


「・・・あぁ」

 が、土色の街道に出た瞬間その声は悲壮なものへと変わってしまう。


「基人族!?」


「総員構え! キエラは下がっていろ!」

 なぜならば、精霊に引っ張られて背の高い草叢から街道に跳び出したユウヒの目の前には、見目麗しい女性達が集まっており、そんな集団のただなかに何の心の準備も無くその身を晒してしまったからだ。


 さらに言うならば、彼女たちの腰から上は見目麗しい人間の女性であるものの、腰から下は大きな蛇の体をしており、アナコンダも驚くほどの艶めかしくも巨大な体をうねらせる女性達は、ユウヒの姿を確認するなり警戒を露わにし、手に持った槍をユウヒに突きつけ臨戦態勢を取り始める。


「おおう!?」


「基人がなんでこんなとこにいんのよ!」

 急に突きつけられた槍の先端に驚きの声を上げて後ずさるユウヒ。先端恐怖症と言うわけではないものの、敵意丸出しで突きつけられれば驚いてもしょうがないと言うものであるが、そんな後ずさるユウヒを見て優位だと感じたのか、小柄な女性はより一層槍を突きだすと怒りすら感じる声を上げる。


「なんでって言われてもなぁ」

 一方、急に槍を突き付けられて驚いたユウヒは、驚きはしても恐れは感じていない様で、相手の体と槍の長さを見て攻撃の範囲を予想すると、その範囲から離れて困った様に頭を掻く。


「何者か知らぬがこのような場所にまで入ってきて、無事に帰れると思うな」

 長身の女性は、目の前の男が冷静に間合いを図って動いたことに目を細めると、警戒心を一段上げて槍を構え直す。


「こいつが盗賊なんじゃないの?」


「かもしれん」

 苛立ちの先行する小柄な女性が、ユウヒから目を離して指さす間も、周囲の女性達は戦える人間と判断した相手から目を離さず、話しかけられた長身の女性もその金色にも見える黄色の瞳の瞳孔を開き、ユウヒの小さな動きも見逃さぬよう睨みを利かせる。


「今度は盗賊かぁ・・・シーフプレイはやったことないんだけど」

 もしユウヒがカエルならば心臓発作でも起こしていそうな鋭い視線も、彼には効果が薄い様で、周囲で慌てる小さな精霊達を気にしながらやはり困った様に笑う。現実はおろかゲームの中でも盗賊シーフなどと呼ばれたことのないユウヒは、新たに増えた呼び名に思わず愚痴の様な、諦めの様な声を洩らしてしまうのであった。


「わけのわからぬ事を「ちょっとまって!」む?」

 武装した魔族の集団を前に、一切緊張した表情を浮かべない相手に怪訝な表情を浮かべる長身の女性は、警戒しながらも思わず奇妙な相手に口を開いてしまう。しかしその言葉は後ろに下がらせていたはずの軽装な女性の声で突然遮られる。


「どうしたの? 隠れてないと危ないよ」


「その人です! その人が精霊の導き先です!」


『・・・は?』


 周囲の女性が、後ろから聞こえてくるどこか焦った声に気にしながらも前を見据える中、小柄な女性は後ろを振り向きユウヒに背中を見せながら焦る女性に声をかけ始めた。本来敵と思われる相手を前にしてそのような行為を行うのは愚策であるが、続く軽装な女性の叫ぶような声によって、その場に居合わせたすべてのラミアが全く同じ動きで背後を振り返る。


「むむ? 寄り道先はこのラミアっぽい人たちなのか? そうか・・・どう考えても厄介ごとですね」

 前方が驚きの声で溢れかえる中ユウヒは、目の前で額を拭いホッとした表情を浮かべる精霊たちの声に耳を傾け、目の前と自分が置かれた現状を把握すると一つ頷く。しかしすぐにその納得顔を顰めると、目の前で片目を瞑り舌を出し、あざとく笑みを浮かべて身をくねらせる精霊達にジト目を向けるのであった。





 ラミア達が目を白黒させ、精霊達がユウヒに弁明を繰り広げている頃、森の中に現れた氷原では複数の小さな影が動き回っていた。


「ゴブ! サムイ、コウタイ!」

 その小さな影は、何処からどう見ても中学生か小学生ほどの人影であり、影と見間違う様な肌の色を蒼く染めて氷の間をちょこちょこと走り回っている。しかしその姿は凍り付いた大地を動き回るには聊か軽装な様で、薄手の長袖の上から体を摩る一人は慌てて来た道を逆走していた。


「ハヤイ! オマエサッキコウタイシタバカリ、ハタラケ!」

 ゴブリン特有の悲鳴を上げて逆走してきた少年は、同じように薄手の服装であるが、鼻を赤くしながらも気丈に指示を出していた少女に怒られ、ついでにお尻を蹴り上げられている。


「オマエオニ! コンナサムイノニ、ヒドイヤツ!」


「ウルサイナマケモノ! ハタラケ! メシヌクゾ!!」

 お尻を蹴り上げられ飛び跳ねるゴブリンは、目に涙を滲ませ抗議の声を上げるが、その声は抗議の声以上に大きく迫力のある声によって消し飛ばされ、慌てて走り去るゴブリンに鼻息荒く溜息を吐いた少女は、すぐに次の指示に取り掛かるのであった。


「ふむ、これは時間がかかりそうだの」

 その様子を離れた場所から見ていたゴブリンキングは、部下の男女関係に目を細め笑いながらも、寒い場所故に進みの悪い作業状況に困った様な声で呟く。


 元々ゴブリンが住む地域は温暖であり、また地下などを居住とする関係で極端な温度変化に弱く、さらに季節的に暑い時期とあって薄着の者も多い。その為、部分的に真冬の様な環境になっている森の中で作業を行うゴブリンは皆、風が吹くたびに身を縮め体を震わせている。


「ボウカンソウビ、ツクレル! ジュンビスル」

 そんな姿を眺めていたゴブリンキングの隣では、背中にいくつもの羊皮紙の筒を背負ったゴブリンの女性が、そのうちの一本を確認すると大きなゴブリンキングを見上げて防寒装備の準備を始めると言う。どうやら彼女は物資を扱う担当であるらしく、持ってきた物資のリストに防寒具になりそうな物があることを確認していたようだ。


「そうじゃの、輜重隊に準備させておくれ」


「アイサー!」

 彼女の報告に笑みを浮かべたゴブリンキングは、笑みを浮かべたまま許可を出し、元気よく駆け出していくゴブリン達に目を細め見送る。 


「しかし、これが精霊の伴侶の力、いや怒りと言うものか・・・恐ろしいのう」

 そんな暖かな笑みも、眼前の凍りついた大地へと目が向けられると、凍りついた大地と同じように固く強張っていく。ユウヒの説明により目の前の光景が彼一人によって作り出されたのだと知った今、ゴブリンキングは当初知らずに見た時以上の恐怖を感じている様だ。


 精霊の伴侶と言う言葉がユウヒを差している事は、状況とその表情からうかがい知れることであるが、その言葉が彼らにとってどういう意味を持っているかまではわからない。しかし、その恐怖によって作られた表情が畏れている者の顔である辺り、それほど悪い意味ばかりではなさそうだ。





 一方、ゴブリン族の王を恐怖させる本人はと言うと、森と魔王領を繋ぐ少し広い街道上で、


「申し訳ありません」


「いや、別に怪我してないし慣れてるからいいんだけど」

 ラミア達に頭を下げられていた。


 彼女たちの中でも一番深く頭を下げる女性は、すでに何度となく頭を下げた後であるらしく、気まずい表情を浮かべたユウヒは身振り手振りも交えながら気にしていない事を伝え、さらに数分かけて頭を上げさせることに成功する。


「うぅ、精霊の声を聞きここまで来てくださったと言うのに刃を向けてしまうなど」


「・・・」


「むぅ・・・」

 体の構造上ユウヒより視線が高くなる軽装の女性は、ユウヒに視線の高さを合わせる様に申し訳なさそうな表情で背中を丸め、わざわざ出向いて来た相手に刃を向けた事を心底悔いている様だ。彼女の言葉でそのことを再認識させられた周囲のラミア達も、申し訳なさそうに顔を歪め、思わずユウヒから目を逸らしてしまう。


「頭下げられる方が居心地悪いんだけど、誤解も解けたし良しとしません?」


「良いのですか?」

 見目麗しいと言う言葉が良く合う女性達に謝罪され続けるユウヒは、いい加減居心地が悪くなっていたようで、強引に謝罪を終わらせるために少しだけ口調を強める。そんなユウヒの言葉に、軽装の女性は潤んだ瞳でユウヒの目を見返し、周囲のラミアはホッとした表情を浮かべ、特に長身の女性は隊を預かる身故か心底ほっとしている様だ。


「いんじゃないかな? 俺そんなに偉いわけでもないし、こいつらが寄り道してくれと言うから来ただけだし・・・なぁ?」

 ラミア達から視線が集中する中、問い返されたユウヒは小首を傾げて眉を寄せると、本来の原因である小さな友人たちにジト目を向け、彼女達に短く確認の声をかける。


<そうていがいでした!><それでもわたしはわるくない!><ごめんねごめんねー!>


「風の精霊は毎度軽いんだよなぁ」

 ジト目を向けられた精霊達はそのほとんどが風の精霊であり、他にも多数飛び交う色とりどりな精霊は単純にユウヒの姿を見かけ着いて来ただけであった。そんな精霊達の中でも特に言動の軽い風の精霊は、まるで悪びれた様子も無くユウヒに笑い返し、その様子にユウヒはそれ以上の苦言を諦める。


「・・・・・・」


「それで? 俺に何か用なの? こいつらからも頼まれてるから多少は力になるけど?」


「は、はい・・・実は今我々はある同族を探していまして」


「ふむ?」

 周囲で楽しそうに笑う精霊達に溜息を吐いたユウヒは、まるで凝視する様な視線を感じるとそちらに目を向け、謝罪も終わったことで本題について問いかけた。そんなユウヒの問いかけに対して、凝視していた軽装の女性はどこか慌てた様に取り繕うと、何処か話し辛そうに語り出す。


「・・・そのだな、ラミア族の恥を語る様であれなのだが、我らの姫が一人で街に出たまま戻らないのだ。調べれば攫われたと分かり、精霊の声を頼りにここまで来たのだが足取りが途絶えてしまってな」

 しかしすぐに、軽装な女性は長身な女性に視線を向けると、視線を向けられた女性が頷き続きの説明を引き受ける。


「それで俺? ・・・もしかして精霊に何か言われた?」

 彼女の説明によれば、ラミアのお姫様が行方不明になり、精霊に頼りその足取り追って森までやってきたらしいが、森に入ったところでその足取りも途絶えてしまい困っていたのだと言う。そんな彼女たちがなぜユウヒを頼るのか、頼られている本人も検討がつかないと言った表情であるが、すぐに不自然に視線を逸らす精霊達に気が付くと何とも言えない表情で長身の女性に確認を取る。


「ああ、このキエラは精霊との対話が出来る数少ない祈祷師でな、彼女が精霊から頼れる人物を紹介されたのだ」

 ユウヒの予想は正しかった様で、精霊達は只々頼れる存在だと言ってユウヒを紹介し、この場に彼を呼び出したのであった。


 祈祷師だと言う軽装のラミアの名前はキエラと言うらしく、彼女はラミアの中では数の少ない精霊と対話が出来る力を持っている。そんな彼女は、今回ラミアのお姫様が攫われる所を見ていた精霊に呼びかけここまで足取りを追えていたのだが、精霊はどこにでもいるが、だからと言って何でも見ているわけではない。


 彼女達は純粋であり頼まれれば大概快く答えてくれる為、ここまで代わる代わるキエラの声に答えて道を示したのだが、それも見ていた精霊が居なければ途切れてしまう。そんな純粋な彼女達は、困っている相手を前に平気で立ち去ることも出来ず、偶然仲間からユウヒの話を聞いた事で彼をここまで呼び出したのであった。


「おうてめぇどっからどう見ても面倒事じゃねぇか、うりうり」


<いやーん♪>

 ラミアと精霊が自分を呼び出した経緯を理解したユウヒは、目の前で手を合わせながら舌を出す精霊の小さな頬を、人差し指の腹で優しく突きながら笑みを浮かべ文句を言い。そんなユウヒの責めに体を捩りながら喜びともとれる声を上げる精霊と、その責めを受ける役を交代する為、一列に並ぶ多数の精霊達。


「・・・・・・精霊の伴侶」


「ん? まぁいいや、それで探すのを手伝ってくれってことだな」

 ユウヒが構ってアピールをしてくる精霊達を突いている姿を見たキエラは、驚きの表情を浮かべるとゴブリンキングと同じ言葉を呟く、しかしその表情には彼の様な畏れなどの感情は無かった。一方、凝視する様な視線を再度感じたユウヒは、指につかまる精霊を一振りして振り払うと、何処か困惑した表情を浮かべるラミア達に向き直って話を戻す。


「ああ、そういうことになる。何か知らないだろうか?」


「んーどう探すかな、攫ったのは何者なんだ?」

 急に話を戻したユウヒの声に返事を返した長身の女性は頷くと、ユウヒに何か情報が無いかと問いかけ、しかしユウヒも特に情報を持っているわけではないので、探す方法を考える為に彼女たちの持つ情報を聞き始める。


「可能性として高いのは最近増えている盗賊だと思われるが」


「なるほど、それで盗賊に間違われたのか」


「ぅ・・・」

 質問に答えた長身の女性を見上げたユウヒは、なぜ自分が盗賊と間違われたのか理解すると、特に何も考えずに呟いて頷く。そんな彼の呟きは、最初に彼を盗賊だと疑った小柄な女性の心にダメージを与えた様で、ユウヒと視線が同じはずの彼女の視界を低く沈める。


「とりあえず盗賊の位置を示せ【指針】」

 一頻り頷いていたユウヒは、ハラリアを出て【指針】を使ってからなぜか捨てられずにここまで持ってきていた小枝を取り出すと、盗賊を探すために宙へ放り上げて見せた。


「魔法!?」

 いきなり目の前の基人族が、何の溜めも詠唱も無く気軽な声で魔法を使い出したことに、周囲のラミア達は驚き、心にダメージを受けて背中を丸めていた女性に至っては思わず声を上げてしまう。


「んー・・・数が多い感じか」


「それじゃぁ・・・お姫様を攫った盗賊を示せ【指針】」


「・・・」

 宙に浮かんでくるくると回る枝を見詰めたユウヒは、小枝を手に取り軽く振ると対象を絞る為に妄想を膨らませ再度【指針】の魔法を使い、間も開けずに魔法を使うユウヒの姿に小柄な女性は声を出すのも忘れて口を開けたまま呆けている。


「少し減ったけど・・・お姫様を攫った盗賊多すぎだろ」

 周囲でラミア達が目を見開く中、ユウヒは空中に浮かびながら複数の箇所を代わる代わる指し示す枝を見詰めて呆れた様に呟く。盗賊が多い事に突っ込めばいいのか、お姫様を攫う盗賊に突っ込めばいいのか、それとも攫われ過ぎなお姫様に突っ込めばいいのかと、頭を掻きながら溜息を吐くと宙に浮かぶ枝を手に取る。


「ああ、直接お姫様探せばいんじゃんか、ラミアのお姫様を指し示せ【指針】」


「連続で・・・」

 枝を手に取りそのままふらふらと揺らしながら、宙に目を向けて考え込むユウヒは、対象をさらに絞る内容を思いついた様で、ラミアのお姫様を探すために三度目の【指針】を唱え枝を指ではじくように放り投げた。その姿を真剣な表情で見詰めていた長身の女性は、小さく呟くと黙り込み、すぐそばではキエラが息を飲むようにユウヒを見詰めている。


「んー・・・こっちか? ん? ふむ、あれ? もしかしてお姫様って複数いるのか?」


「あ、ああ・・・三人の姫様のうち末姫様が攫われたのだ」

 探すことに集中しているユウヒは、周囲の視線を気にすることなく枝の指す先を地図や精霊達の助言で確認しているのだが、お姫様を指していると思われる方向が複数あることに気が付くと、長身の女性に振り返って首を傾げ問いかけた。女性曰く、どうやらラミアのお姫様は何人かいるようで、今回攫われたのは一番下のお姫様であると言う。


「お名前は?」


「リミアお嬢様よ」


「おk・・・ラミアのリミア姫の居場所を示せ【指針】」

 納得した様に頷くユウヒは、なるべく絞り込めるように名前も問いかけ、その問いかけには小柄な女性が即座に答える。彼女の瞳から期待と待ちきれなさを感じたユウヒは、短く返事を返して笑みを浮かべると、指定内容を口にして枝を放り投げた。


「ん?」


「え?」

 しかし放り投げた直後、真っ直ぐと枝が指し示す方向に疑問の声を上げるユウヒと、その声に不安そうな声を洩らす小柄な女性。


「・・・こうなってこうだから、ふむふむ・・・枝君の動き的にも結構遠いのかな。うん、魔王領側に居るみたいだな」


「そんな!?」

 枝の指し示す先に疑問の声を洩らしたユウヒは、枝の様子や示す方向を確認し結論を出す。その結論は、お姫様が魔王領側に居ると言うもので、森に居るとばかり思っていたラミア達は一様に驚きの表情を浮かべ、小柄な女性に至っては悲痛さを感じる声を上げる。


「馬鹿な、足取りはこの森で消えているのだぞ」


「位置的にラミアの都からズレてるのかな? 北よりなの? ふむふむ」

 仲間同士で視線を交わし合っていた長身の女性は、軽装な女性と目で会話をした後ユウヒに向き直り、問いかけなのか否定なのか分からない声を洩らす。一方ユウヒは困った様に頭を掻くと、再度地図と睨めっこしながら枝の向きの詳細を周囲の精霊達と共に確認し始める。


「信じられるのか?」


「精霊達は好意的なままですけど・・・」

 ユウヒが地図を片手に精霊達と情報交換している間に、ラミア達は顔を寄せ居合いひそひそと相談を始めていた。長身の女性はユウヒの言葉に半信半疑の様で、その思いは周囲のラミア達も同じであるようだが、一人キエラだけは周囲の精霊達のささやきが聞こえており、その好意的な囁き故にユウヒが嘘を言っているとは思えないでいる様だ。


「ん? なるほど・・・と言う事は、良くあるパターンなのかな? それとも偶然か」

 頭を突き合わせ悩むように唸るラミア達を気にすることなく、あちこちから集まって来ている精霊達と情報交換をしていたユウヒは、無邪気で纏まりのない精霊達の話を整理し、そこから何かを導き出したのか何度か頷いた後に首を傾げる。


「何かわかるのか?」


「まぁ勘だけど、追跡者を攪乱するためにわざと森に入って、その後森を出て本来の目的地に向かってるのかなと」


「なるほど・・・」

 ユウヒの様子を見詰めていた長身の女性は、蛇の体を一つうねらせるとユウヒの傍まで近寄り問いかけ、そんな女性にユウヒは精霊達の話を整理した結果導き出される可能性を口にし、その可能性に女性はハッとしたように目を見開くと口元を手で抑えながら考え込む。


「どうするの?」


「ユウヒさんの考えにも一理ありますね」


「・・・精霊の導きだ。彼の話を信じよう」

 小柄な女性は考え込む女性を見上げると眉を寄せて小首を傾げ、キエラはユウヒの考えに賛同する精霊達の囁きに耳を傾け頷く。二人を見下ろした長身の女性は、周囲の部下達に目配せすると頷き、ユウヒの話を信じると言って彼を真剣な目で見詰める。


「おう、急に重圧が・・・」

 そんな真剣で力の籠った彼女の瞳と言葉に、ユウヒは急に自分の発言による責任や重圧を感じ始めた様で、胃の辺りを押さえると口元を引き攣らせ乾いた笑みを浮かべた。


「できれば少しでもいいので行動を共にしてほしいのだが」


「う、うーん・・・まぁ俺の目的地方面ではあるんだが」

 ユウヒの様子に精霊達が心配そうな声を囁く中、長身な女性の頼みを聞いてさらにその表情を引き攣らせるユウヒは、今更になって周囲から注がれる視線に気がついたのか困った様に笑う。現状はどう考えても退路を断たれた様なものであり、この場で逃げてしまえば彼女達の事以前に自分が良心の呵責で苦しみそうであると、ユウヒは僅かに肩を落とす。


「とりあえず移動しようか、話は道中でもできるし」


「ありがたい」


「感謝します」

 しかしすぐに、あきらめにも似た笑みを浮かべたユウヒは、肩を竦めて見せると宙に浮かび続け、いつの間にかユウヒを見詰める様に体を揺らす枝を手に取り歩き出した。街道を先へと歩き出すユウヒに、周囲のラミア達は明るい表情を浮かべた。それは長身の女性も同じで笑みを浮かべ短く謝意を口にし、キエラは胸の前で両手の指を組んで握ると頭を下げる。


「・・・」


「・・・(大体だ、美人美少女にそんな顔されて断れるかよ・・・ほんと男って馬鹿だなぁ)」

 ラミア達より先行して先を歩くユウヒの背中を、小柄なラミアの女性が複雑な表情で見詰める中、ユウヒは心の中で何とも情けない言葉を呟きながら、精霊達を引き連れいつもの様に面倒事へと首を突っ込むのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 名も無き異世界のラミア、その騎士団との出会いでした。異種族女性と出会う度に威嚇されているユウヒですが、トラブルに首を突っ込んでいく姿勢もまた健在の様なのでこの先が楽しみですね。


 それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー

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