第八十三話 名も無き異世界のゴブリン 前編
どうもHekutoです。
修正等完了しましたので、投稿させていただきます。いつの間にか増えた文書量で前後編に分けたにもかかわらず、さらに増えて誤字脱字が不安ですが楽しんで頂ければ幸いです。
『名も無き異世界のゴブリン 前編』
ここは、名も無き異世界では数少ない緑あふれる森林地帯。
「さて、面倒な姉さん達はクマに任せたから良いとして・・・やっぱり魔法がうまく使えないな」
その森の中にある獣道よりは整えられた道を一人歩くユウヒは、生贄にささげた友人の冥福を祈りながら軽い足取りの割には不満そうな表情を浮かべる。どうやら活性魔力で満たされていたハラリア周辺と違い、活性魔力がまだまだ薄いその場所では、魔法を使うのを邪魔する負荷が多いようだ。
「活性化は進んでいるはずなんだが、やっぱり原因はあれなんかねぇ」
夏の冷房が効いた部屋から暑い外に出ると余計に暑く感じる様に、魔力豊富な場所から薄い場所へと出た事で余計に負荷を感じ始めたユウヒは、ぶつぶつと呟きながら道中で拾った小枝を腕の振りに任せて振り歩く。
「さてどうするか・・・急いでたから魔王城の場所がわからん。魔王領はあっち側ってことはわかるんだが、やっぱ遠すぎると指針も役に立たないな」
そんなユウヒの手に振られる小枝は、ハラリアを出てすぐに拾ったもので、同時に【指針】の魔法で道を指し示してくれた枝でもある様だ。しかしその枝が魔王城を指し示す方向は漠然としたものであったらしく、正確な場所がわからないユウヒは、とりあえずふらふらと頼りなく指示された方向に向かって歩いていた。
「あ、そうか。魔都の場所を知っている・・・魔族の下へ【指針】」
どうするか悩みつつ、しかし軽い足取りでサクサク森を歩いていたユウヒは、名案でも思いついたのか明るい表情を浮かべた顔を上げ、再度枝を使って【指針】を唱える。
「お、あっちだなっ・・・へっぷし!」
ユウヒに魔法を込められ投げられた枝は、その小ぶりな体を宙に浮かべてくるくる回ると、ユウヒの妄想通りにその細い先端で真っ直ぐと道を指し示す。その指し示す方向は、魔王城があると思われる方向から少しずれてはいたが、魔王城を示した時と違いユウヒがくしゃみを放つまでピタリと一定の方向を示していた。
ユウヒがくしゃみで小枝を吹き飛ばしている頃、生贄がささげられたハラリアでは、その生贄が冷たい板で出来た地に伏していた。
「ユウヒのバカァアアア!!」
「荒れてるわねぇ」
「まったく・・・うるさいわよパフェ」
生贄、もといクマが地に伏すこととなった原因であるパフェは、彼から告げられた内容に怒ったことで集会所の縁側で咆哮を上げており、そんな様子を友人たちは呆れた様に見上げていた。
「ぐぬ! お前たちは悔しくないのか! いや悔しいはずだ!」
「どっちかて言うと苦しかったかな?」
若干の涙目で叫ぶパフェと違い眠そうな表情で呆れて見せるメロンとリンゴに、パフェは勢いよく振り返ると二人に向かって大きく身振り手振りを交えて叫ぶ。そんな頭上の騒音に、うつ伏せの状態で地に伏していたクマは起き上がると、自らの首を撫でながら疲れた様にそう呟く。
「綺麗に首を締め上げられていたものねぇ」
ユウヒから言伝を頼まれたクマは、集会所に戻ると丁度目を覚ましたらしいパフェ達にユウヒに言われたままの内容を伝えたのだが、彼の言葉を理解した瞬間動き出したパフェによって、ユウヒと同じネックハンギングツリーで締め上げられたのであった。
「クマはどうでもいいとして、ユウヒの判断は妥当でしょうに」
クマの疲れた表情にくすくす笑うメロンが彼の背中を軽く撫でる中、どうでもよさそうにクマを一見したリンゴは、柱に背中を預け座ったまま気だるげな表情でパフェを見上げると、軽く肩を竦めて見せる。
「どこが!?」
「そぉねぇ、ユウヒ君にまた心配されたいの?」
「・・・むぅ、いやそれはそれで」
朝早くから頭も体も使いたくないリンゴの言葉に噛みつくパフェは、苦笑を浮かべるメロンの言葉に一瞬眉を寄せ肩を落とすも、何か妄想でもしたのか急に頬を赤らめると妙な笑みを浮かべ顎に手を当てた。
「そんなこと言って嫌われても知らないわよ?」
「それは嫌だ!」
顎に指を添えながら妄想にふけ始めるパフェの姿を見て眉間に僅かな皺を寄せたリンゴは、緩慢な動きで口元を歪めるとからかい気味な口調でそう呟き、リンゴの言葉を聞いたパフェは驚いた表情で振り返ると即座に嫌だと子供の様な声を上げる。
「・・・ところでルカが妙に機嫌良いんだが、なぜ?」
ニヤニヤと笑うリンゴの顔を見て遊ばれていることを察したパフェは、頬をぷくりと膨らませ不満そうな唸り声をあげていたのだが、妙に静かな一角にふと目を向けると目にした光景に首を傾げた。
「ふえ!?」
何故なら、そこには妙に幸せそうな表情で頭を押さえているルカの姿があったからで、その妙な姿に訝しげな表情を浮かべるパフェの指摘に、ルカは気の抜けた声と共に慌てて顔を上げる。
「良い事でもあったんだろ?」
「うふふ」
疑問を含んだパフェの言葉で周囲の視線が一斉に集まり、妙な恥ずかしさから視線を彷徨わせるルカ。そんな彼女を温かい目で見ていたクマは、ユウヒが自分の意見を取り入れた事とその結果を理解し満足げな笑みを浮かべ、その笑みにメロンは何か察した様に、やはり温かい笑みでルカを見詰める。
「・・・クマ! まだ何か隠してるな!」
「俺は最初から何も隠してねぇ!」
一方そういった察すると言う事に関して穴だらけなパフェは、どこか仲間外れにされた気分に陥り、手短なクマに対して鬱憤をぶつけ始め。鬱憤と同時に手が出てきそうなパフェの言動に後ずさったクマは、いつも通りの理不尽な彼女に突っ込みを入れている。
「ははぁん」
「な、なんですか?」
そんないつも通りなヤメロンメンバーのやり取りを、起き抜けでパフェをおちょくり疲れたリンゴは、眠たげな目で見詰めながらゆっくりと状況を察すると、先ほどと同じようなニヤニヤ顔を浮かべてルカを見詰め。
「いやいや、よかったわね」
その目を生温かなものに変えると、ルカの頭を撫でようとした手を一旦止め、首を傾げるルカの肩をぽんぽんと軽く撫でる様に叩くのであった。
一方その頃、魔王城の場所について詳しい人を探すユウヒは、
「ふむ、あちこちに獣人の反応があるな、多分みんなハラリアに向かってるんだろうけど・・・多いんだなぁ」
歩き難い森から空へと上がり、【指針】と連動して対象を捕捉し続ける【探知】のレーダーを頼りに真っ直ぐと飛んでいた。その間も【探知】に引っかかる獣人の流れを見て、ハラリアに集まり続ける獣人族の多さに感心した様に呟いている。
「この先なんだが、まだ氷が解けてない・・・やりすぎたかなぁ」
森に住む獣人の多さと、同時にそれらと遭遇しなかった事に首を傾げていたユウヒは、眼下に見えてきた凍りついた森に苦笑いを浮かべると、精霊は問題ないと言っていても気にしているらしく何とも言えない感情に苛まれるのであった。
「おっと、だいぶ近いな一気にっとと・・・うん、いきなり目の前に降りたらびっくりするか」
そんな感情で眼下に広がる氷原を死んだ目で見おろしていたユウヒは、視界のレーダーに映る光点が近くまで来たことで目に光を戻し、目標に向かって急降下しようとするも慌てて体を急停止させると、少し離れた場所に目標を変えて降下していく。
「お、右目の効力圏内に入ったな。えーっと何々、種族はゴブリン・・・ゴブリン?」
凍りついた森の向こう側にある緑の森の中に着陸したユウヒは、遠目に目標の魔族を確認すると歩きながら右目の力で対象が何者なのか調べる。間違って余計なことまで調べない様に配慮していたユウヒであるが、その調べた内容と近くまで近寄って見た相手の姿に想像との違いを感じ思わず声を洩らす。
「ゴブ? ・・・!?」
「あ、どうも」
人の手が入らず障害物の多い森の中で、しっかり相手を視認できる位置まで行くとなると、思わず飛び出た声など聞こえるくらい近くなるわけで、ユウヒの呟いた声は相手のゴブリンにも聞こえた様だ。
きょとんとした表情で振り返ったのは、地球のファンタジー物で定番の様な醜悪なゴブリン。ではなく、背格好は中学生1,2年ほどで灰色の肌、顔も人の少年とそれほど変わらずむしろ整っている方であろう。違うところと言えばエルフのように細く後ろに伸びた耳くらいなもので、鼻も少し長いがユウヒ達の様な人類でもたまにいるくらいの僅差でしかない。
「イツノマニ!? キジン族・・・イヤ、クロカミ? 魔族カ?」
そんな色黒美少年ゴブリンは、ユウヒの姿に目を見開き驚くとその小柄な体で大きく飛び退き、薄手のローブをはためかせて腰のナイフに手を伸ばすが、ユウヒの髪色と目を見詰めると眉を寄せて首を傾げる。
「残念異世界人でした」
「ゴブ?」
片言の言葉で疑問を口にする姿がどこか愛らしく見え、ユウヒは苦笑を浮かべながら特に身構えること無く異世界人だと伝えるも、良くわからなかったのかやはり首を傾げるのだった。
「ところで、あなたはゴブリンさんで間違いないですかね?」
「ゴブ、オレゴブリン族」
苦笑を浮かべるユウヒから敵意を感じないからか、ゴブリンは身構えていた体から力を抜くと、ユウヒの髪の毛の先から足先まで観察を始め、問いかけに対してはどこか自信を感じる表情で答える。
「はぁ、この世界のゴブリン族はイケメンなのか・・・うむ、ショタ受けしそうだな」
一応確認のために種族を問いかけたユウヒは、右目から齎される様々な情報から目の前のゴブリンが立派な大人であることを知ると、少し驚いたような表情でなんともひどい感想を呟く。
「イケメン? ショタ? シラナイ言葉ダ」
「かっこいいってことだよ」
ユウヒの小さな呟き声も彼のとんがり耳には十分にはっきりと聞こえたらしく、しかし言葉の意味まではわからなかった様で、興味深そうな表情でユウヒを見詰める。その好奇心溢れる表情が、何処からどう見ても子供のそれにしか見えないユウヒは、微笑みながら微妙に濁した意味を説明した。
「・・・オレ、ホメラレタ?」
「そだね」
ショタと言う概念がこの世界にあるかは知らないユウヒは、その内容を伝えるべきではないと判断したようで、問い返し続けるイケメンショタゴブリンに頷き微笑む。
「・・・オマエ、ヨイヤツ! ソレデ、ナニヨウカ?」
ユウヒの頷きで自分が褒められたと理解したゴブリンは、黄色い瞳を見開き頬を緩めると、それまで手を添えていた腰のナイフから手を離してユウヒを指さし声を上げる。そして次の瞬間には好奇心で輝く顔を傾げ用件を問いかけはじめた。
「あぁ、魔王のお城に行きたいんだけど・・・道知ってる?」
「シッテル、デモセツメイタイヘン・・・・・・ツイテクル」
どうやらユウヒの対する警戒を解いたらしいゴブリンは、少しびっくりした表情のユウヒから用件を聞くと元気よく知っていると応え、しかしすぐに耳を垂れさせると目を細めて眉をしかめる。しばらくそのまま唸っていたゴブリンは、くるりと回って方向転換をするとユウヒに顔だけ向けて手招いて見せた。
「ん? どこに?」
「キングガキテル、ヨイヤツコイ!」
「あ、あぁ・・・キングって王様のことか?」
着いてくるように話すゴブリンにユウヒはどこに行くのか問いかけるも、その答えは今一つ解り辛い説明で、とりあえずゴブリンの王様が来ていると判断したユウヒは、頷き歩き出すゴブリンに着いて歩き出す。
「軽い足取りだな・・・ゴブリンと言うよりはダークエルフ? いや大きさ的はホビットくらいだが、見た目はまだ少年と言った感じだし少年ダークエルフ的な感じか?」
前を歩くゴブリンの後ろ姿はどこからどう見てもただの小柄な少年で、ローブを揺らし歩く姿はとても身軽であった。そんな少年の後ろ姿を見詰めていたユウヒの感想は、ゴブリンと言うよりはダークエルフと言われた方が納得すると言うものの様だ。
「見た目と言い、服装と言い、ショタ様なら涎を流しそうだな・・・」
さらに丈の短いローブの下からは、膝上までしかない短いズボンとその裾から伸びる綺麗で未発達な足が見えており、一見女性の足にも見えそうな足を見たユウヒは、なんとも多方面に失礼な感想洩らすのであった。
ゴブリンが日本にやってきてしまった場合の危険性、主にゴブリン達の身の危険などをユウヒが真剣に考えること数十分。ユウヒの姿は多数のゴブリンが集まるテント群の中にあった。
「ツイタ! マッテロ!」
「お、おう・・・いいのか? めっちゃ見られてんだけど」
一際大きなテントの前まで案内されたユウヒは、まってろと言う声と共に駆けだしたゴブリンを見送ると、周囲から降り注ぐ視線に頬を引きつらせる。そんな周囲からは興味深げな視線と共に、キジン? マゾク? などと言う声が聞こえてきており、最初に出会ったゴブリン同様にユウヒの姿を見て困惑する気配が広がっていた。
「しっかし、これはあれだなショタだけじゃないんやでぇロリでもあるんやでぇみたいな?」
一方、周囲から観察されるユウヒの心にも動揺が広がっているようで。なぜならば、観察されると同時に周囲を観察しているユウヒの目には、何処を見ても大人の姿が映らなかったからである。それは年齢などではなく見た目の話で、右目で大人だと分かる者すべてが人間にとっては未成年にしか見えない光景に混乱したのか、ユウヒは思わず感情のままに独り言を呟く。
「絶対に忍者は連れてきちゃだめだな、爆破と事案の極致になりそうだ」
男はどれを見てもイケメンショタボーイ、女は男より少し大人っぽい見た目であるがどんなに頑張っても高校生になる直前程度の美少女である。周囲をぐるりと見渡したユウヒは、彼らの身を案じて忍者にこのことを教えない事を決めるのであった。
「ヨイヤツ! キングアウ、コイ!」
「ん、おう・・・おじゃましまーす」
ユウヒが妙な決意を心に決めていると、テントの中から飛び出してきたゴブリンがユウヒの前で跳びはね、すぐにまた踵を返すと手招きをしながらテントの中へと駆けだす。ハイテンションなゴブリンの姿に少し驚いたユウヒであるが、すぐに気を取り直すとゴブリンに続いて大きなテントの入り口を潜る。
「キング! コイツヨイヤツ! ハナシキク」
「ふむ、お主が森で出会ったヨイヤツか・・・。儂はゴブリンキングのロハンじゃ、まぁ楽にするとよい」
テントの入り口をくぐった先で待っていたのは、折り畳みの出来そうな簡素な、しかし大きな椅子に座った大男であった。小柄なゴブリンの見た目と相まって余計に大きく見えるその姿は、ゴブリンより少し黒い灰色でゴブリンと違い筋骨隆々の体にベージュ色のトーガの様な衣服を巻き付けている。
「おお、どうも異世界人のユウヒです」
テントを潜った先に座っていた大男に思わず声を洩らしたユウヒは、クマをも超えそうな長身、肌着を着ていないことでトーガの隙間から見える固そうな大胸筋、さらにその先のイケメンフェイスを見上げると、細マッチョな印象を感じるキングと簡単な挨拶を交わす。
「イセカイジン? 知らぬ種族だの、して何事か知りたいと言う事だが?」
特に恐れなどの特別な感情を感じないあっさりとしたユウヒの自己紹介に少しだけ目を見開き、それと同時に初めて聞く種族名に小首を傾げたゴブリンキングは、その若い見た目に似つかわしくない言葉遣いで話し、ユウヒの知りたいことについて問いかける。
「あ、はい。魔王の城に行きたいのですが道か方角を教えてもらいたくて」
「む? それならこの・・・逃げおったな、まったく」
座っていても見上げないといけない相手に、小さなゴブリン達の首の疲労を心配していたユウヒ。彼は、すでに小さなゴブリンに伝えていたはずの内容であるが、問われたので特に気にする事無く話し始める。そんなユウヒの来訪理由を聞いたゴブリンキングは、不思議そうな表情を浮かべると足下を見下ろし、しかし先ほどまでそこにいたはずの小さなゴブリンが居ないことに、呆れを多分に含んだ顔を顰めて見せた。
「えーっと?」
「すまぬの、どうもあ奴は喋りが苦手での・・・大方説明するのが面倒で儂のところに来たのであろう」
どうやら、ゴブリンが言っていた難しい理由は、単純にしゃべりが拙い為に分かり易く説明することが難しいと言う意味であったらしく、今回ゴブリンキングは面倒事を押し付けられた形の様である。
「あぁ、そんな感じですか」
「まぁよい、儂もいろいろと聞きたいことがあってこの森に来たのだ」
普通なら怒られても仕方がなさそうなゴブリンの行動に、苦笑を浮かべるだけで済ませたゴブリンキングは、納得したように頷くユウヒを見詰めるとどこか恥かしそうに自らの顎を弄り、少し間を挟んで気持ちを切り替えた彼はユウヒを見詰め話を再開した。
「聞きたいこと?」
話を再開するゴブリンキングを僅かに見上げたユウヒは、彼の言葉に小首を傾げ聞き返す。どうやらゴブリンキングにとってもユウヒの来訪は渡りに船とも言えた様で、それ故にすんなりとここまで来れたのかと納得するユウヒ。
「お主の匂いは獣人と、それにエルフとも仲が良さそうじゃし、教えてくれんかの? この先の森で何が起きたかを」
「臭い・・・んー? えっとこの先と言うと、氷漬けの森の事かなぁっと思うんだけど」
自分の知っている事なのか少しだけ不安になるユウヒであるが、どうやらゴブリンキングにはある程度の確信があっての問いかけの様だ。
その理由は、ユウヒの体から獣人の臭いや、エルフ達の好む草木の香りを感じたからのようで、その香りの意味を嗅ぎ取ったゴブリンキングの言葉に自らの体を思わず嗅いだユウヒは、目の前からの視線に気が付くと顔を上げて僅かに引き攣った笑みを浮かべる。
「そうじゃ、その目は詳しく知ってそうじゃな。なに、別にとって食おうなどと言う話にはならんじゃろうから心配するな。どんな内容であろうと危害はくわえんと約束しよう」
思わず思考を自らの体臭に向けてしまったユウヒであるが、この先の森を凍り付かせた主犯としては、ゴブリンキングの問いかけに答える事を思わず躊躇してしまう。そんなユウヒの姿に目を細めたゴブリンキングは、彼が森の状況に詳しい事を察すると表情を緩めて、どんな内容であろうと危害を加えないことを約束して僅かに体を前に倒す。
「あーっと、まぁそれがいろいろとありまして」
そんな聞きの体勢に入ったゴブリンキングに、退路を失ったような感覚に襲われたユウヒは、引き攣った笑みを浮かべたまま腹を決めるのであった。
森が氷漬けになった理由を話すこと十分程度だろうか? 実際に被害を受けた範囲こそ広大であるが、俺がやったことはそれほど説明を必要としない。なんせ簡単な話、邪魔なオークを魔法で屠っただけであるのだ。
「むぅぅぅ」
「えっとぉ・・・怒りますよね?」
一応殺生は極力控えたつもりであるが、まったく殺していないとは言えず。しかし襲いかかてきて、さらに威嚇の後も尚その姿勢が変わらなかった相手に対してなので、俺としてはそれほど気にはしていない。しかしそれは俺が少し異常なのと、異世界のしかも魔族だからであって、同じ魔族であろうゴブリンが気にしないと言う事は無いと思われ、俺の声は自然と先細っていく。
「ん? お主にか?」
「ええ、同じ国の人間、魔族? をやっちゃったわけですし」
「かまわん」
「へ?」
しかし、俺の考えとは裏腹にゴブリンキングの返事は素気ないものであった。どこか下らなさそうな表情で鼻息を一つ漏らしたゴブリンキングは、俺の問いかけに対して一言で返すと首を横に振る。
「魔族は力こそ全て、と言うのは古い考えではあるがそういった傾向にある。その上敵対国でもない森に侵入した挙句の無法である。オークの馬鹿共にもほとほと呆れる、大方ゴブル達はオーク共に脅されたのであろう」
どうやらこの世界の魔族、少なくともゴブリン族と言うのは魔族と言う括りの仲間意識より弱肉強食の傾向にある様で、さらに無法を行ったオークに憤慨した様子もうかがえる。
それにしても、このゴブリンキングは見れば見るほどに筋肉系イケメンである、良くあるファンタジーでのゴブリンと言えば、オークと一緒に吹っ飛ばしたゴブルの方が似ているのだが・・・。
「はぁ・・・ゴブル族とゴブリン族は名前が似てますが?」
「種族的にはだいぶ遠いの・・・まぁよく間違われるので慣れておるよ」
「はぁ」
やっぱり名前が似てるだけで全く違う種の様である。種族名を聞かないで出会っていれば先ず同一視しないであろうが、この世界でもよく間違われる様だ。
「まぁオークもゴブルも相当屠った様だが安心せよ、よくある事じゃ・・・それより問題はオーク共の処遇だな」
「処遇?」
よくあるのか、いや別に嬉々として屠ったわけではないんですよ? ゴブルは大半が突風と衝撃波で吹っ飛んでいたのでその時点では生きていたはずだし・・・まぁその後どうなったかは知らないけど。オークの方も分厚い脂肪がたっぷり詰まった体のおかげか、先端の平らなボルトでは貫かれることは無かったし、衝撃波を受けてころころ転がっていたし、まぁコロコロと転がっていった先で凍り付いてたりしたけども・・・しかし処遇てなんだろうか。
「うむ、話を聞くにそのオーク達は雄の民兵どもであろうからな、国境警備隊である我らとしては捕まえんといかん」
「もしかしてキングさんがここに来た理由は・・・」
キング氏曰く、森に侵入してきたオークは民兵であって正規の兵士ではないそうだ。
「うむ、最近あちこちの国境で馬鹿をやる者が増えてきてな。今回はその規模が大きいらしいと言う事で出張って来たのだが・・・ちと遅かったようだすまぬ」
さらにここに居る小さなゴブリン達は皆、国境警備を担う正規兵で国境侵犯を行った魔族を捕まえに来たのだと言う。
「あぁいえいえ、何とかなったので」
正直あの小さなゴブリン達がどうやって巨体のオークを捕まえるのか気になるところであるが、そこは正規兵士と言うだけあって何かあるのであろう。ファンタジーやゲームでもゴブリンはいろいろな姿で描かれ、中には魔法を使う者も居るのだ。
キングさんに至ってはこの筋肉だ、どう考えても問題なさそうであるなのでそんなに背中を丸めて謝らなくても大丈夫ですよ? ネム達も特に被害は無かったと言っていたわけですし。
「そうか、しかし奴らも災難よの・・・あのような魔王級の魔法使いが居る場所に足を踏み入れたのじゃから」
「ははは・・・」
そうですか、魔族から見ても俺の魔法は魔王級ですか。確かに劣化してしまった感じがすると言っても元は神様印の能力と豊富な魔力なわけで、確かにそう言われる素質はあるのかもしれなけど、その品定めするかのような目はなんですかね。
「それではユウヒ殿、しばしゆっくりしていると良い。簡単であるが地図を用意するでの」
「あ、大体の目印が解る程度で良いので」
「うむ」
その後、静かに俺を見詰めていたゴブリンキングさんは満足げに立ち上がると、地図を用意してくれると言い、数人のゴブリンと共にテントの奥へと姿を消す。いったいなんで見詰められ、何に満足したのかわからないが、こっそり右目で彼を調べたところその年齢は見た目に反し老齢であった。どうやら俺の考えるゴブリンとは根本的に違うようだ。
『・・・・・・』
「・・・むぅ」
あと先ほどから妙な視線をテントの奥の暗がりから感じるのだがなんなのだろうか? とりあえず地図が出来るまでテントの外で待っておくことにしよう。決して向けられる視線から逃げるわけではないので悪しからず・・・俺は誰に言い訳をしてるんだか。
いかがでしたでしょうか?
世界が変わればゴブリンの基準も変わるようです。純粋でアホっぽい合法イケメンショタボーイなゴブリン、ありだと思います。次回後編もお楽しみに。
それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー




