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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第一章 救出と救済
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第七話 お食事処【トレビ庵】

どうもHekutoです。


 修正等完了しましたので投稿させて頂きます。お忙しい人もそうでない人も、お暇のお供にでも楽しんで頂ければ幸いです。



『お食事処【トレビ庵】』


 昨夜、急に忍者達がやって来た後すぐにベットに転がり眠り、異世界では味わう事の無かった朝の定番である母の声に、不覚にもホロリと来てしまったユウヒです。


 そんなこんなで俺は朝食後、妙に機嫌の良い母親とやつれた父親に見送られ、朝っぱらから繁華街の中でもアレなお店が犇めく、歓楽街にやって来ている。自分の足でやって来ておいてなんだが、俺はこの『ザクロの樹商店街』の中心部にはあまり近づきたくはない。


「・・・うーむ、この時間ならあまり人はいないと思うが」

 その理由は、都心から離れている割に人が多いと言うのもあるが、色んな意味で絡んでくる人間が多いからである。


「でも人がいないと聞き込みが出来ない、でも見つかると厄介・・・こまったもんだ」

 俺は一般人でありノンケであって、決してそっちの人から声をかけられたとしても微塵も嬉しくない。かと言って、この区域は棲み分けが出来ている関係でそっち関係のエリアを避けるとなると、一般男性向けの、所謂男を惑わす蝶が舞い飛ぶ店が多い区画を通らざるを得ない。


「とりあえずママのとこいくとするか」

 しかも今から向かう店と仲良くしている影響もあり、一般男性向けエリアの夜の蝶からは好意的な目で見られてしまい、悪い気はしないが健康な男のこちらとしては目に耳に肌にと、あらゆる意味で精神的な毒状態なのである。


「あら? 夕陽じゃない! 無事だったのね?」

 そんな事を考えながら、歓楽街のほぼ中央に位置する知り合いの店に向かっていると、細い路地の奥から声をかけられ、反射的に声のした方へ目を向けるとそこには朝には似つかわしくない、【ほとんど見えている服装】の女性が躊躇することなく駆け寄って来る姿が見えた。


「ん? ・・・・・・もう仕事か?」


「終わったところよぉ、ユウヒがどうしてもって言うなら頑張って残業しちゃうけど? うふふどぅ?」

 慣れとは怖いもので、学生時分には思わず前屈みになっていただろう扇情的な姿の女性にも、今では普通に・・・いや、余計な事を考えないで話すことが出来るようになり、自然と手を取って耳元で囁く彼女に弄ばれる事も、少なくなってきている。


「忙しいからパス」


「あらそう? ザンネン・・・うふふ」

 今向かっているお店の店長、ママさんの関係で知り合う女性には、その職種の関係上美人が多く、そのおかげで昔からこの手の女性への免疫は鍛えられているのだが、どうしてこう母さんの知り合いは悪戯好きが多いのだろうか。俺の好みが純情系や純粋な娘に傾いた理由は、確実にこの人達の影響が大きいと思う。


「ぐぬぬ、いいから放してくれ・・・俺は刺されたくない」

 と言うかこの歓楽街の知り合いは唯でさえ美人美少女揃いな上に、そう言った店で普段から男性を相手にしている為当然ファンは多く、中にはいろんな意味で危険なファンも多い。その為、今みたいに腕に絡みつかれると男なので嬉しくもあるのだが、それ以上に何時刺されないかと言う恐怖を先に感じてしまう。


「大丈夫よぉそんな事する男は、私が先に刺しておいてあ・げ・る」


「こわ!?」

 何それコワイ!?


 今まで実際に刺された事までは無いが、その代わりなのか何なのか脅迫状が送られた事は多数あった。しかしその話を彼女達やママにすると、それ以降は不思議と沈静化していたのだが、まさか本当に・・・。


「・・・冗談よ?」


「疑問形な所が余計に怖いな・・・」

 なぜにはっきり否定しないんでしょうか? 嘘だよね? そんな否定の仕方をされても只々怖さが増すだけですよ? おね・・・あ、あぁこの人は同い年でした。


「えー「何独り占めしてんのよ!」あらら、ここまでか」


「ふぅ」

 猫なで声で腕に絡みつく姿は尻尾を立てて絡みついてくる猫の様で、一仕事終えた後にも拘らずその首筋から香り立つ香りは嫌な感じ一つさせない。そんな誘惑に喜びと共に恐怖を感じていると、店のある二階の窓から身を乗り出す女性の声に、苦笑を洩らしながら俺の腕を解放する彼女。


「・・・ふふ、まだまだ喜んでもらえそうね」


「勘弁してくれ」

 女性相手に無理やり振り解くわけにもいかない腕を、ようやく解放された事で俺が思わずホッとした息を洩らしてしまうと、目敏くその溜め息に気が付いた夜の蝶がその称号に違わぬ笑みを浮かべ、俺の心からの声を聞いて楽しそうに笑う。


「ママのとこ行くの?」


「ああ、ちょっとな・・・ところでうちの妹見てないか?」


「んー? 少し前にあなたを見なかったか聞かれてからは見てないわね」

 彼女の笑みに疲れを感じながら歩を進め始めると、ふいに先ほどまでの作った声では無い自然な声で問いかけられ、彼女に返事をするとともについでと思い流華について聞くも、返答はこれまでの情報とさして変わらない。


「そうか、あんがとさん」

 大方バイトの行き帰りにでも彼女達に聞いたのであろう。


 流華のバイト通勤コースもこの辺を通っているのだが、その理由は彼女達が流華を見守る為であるらしく、流華も彼女達の事を姉と呼んで懐いているし、何故か知らんが彼女達夜の蝶も喜んでいるのだと、いまから向かう店のママさんが楽しそうに話していた。


「うふふ、お礼なら店に来てくれるだけでいいわよぉ?」

 彼女達や妹の事を考えても男の俺には解りそうにないので、問題なさそうならそれでいいと思っている。


「たけーな・・・考えとくよ」

 だが、彼女の店に行くと俺の財布がヘリウムガスを入れられたように軽くなるのは、火を見るより明らかである為、彼女の提案は無職となった今だと余計安易に受けいれる事は出来そうにない。


「あてになんないなぁもぅ・・・」

 そんな俺の感情を読み取ったのか、困ったように綺麗な苦笑を浮かべた彼女は立ち去る俺に手を振った後、店から駆け足で出て来た女性と軽やかに口論を始めるのであった。


 正直、彼女が見せる仕事の笑みより、ああ言うふいに見せる自然な笑顔の方が俺は好みである。純粋とか純真って、すばらしいと思います。





 そんな感じで、朝日の下でまどろむ夜の蝶に何度かエンカウントしながらも、無事ユウヒがたどり着いたのは一軒の小さくも大きくも無い蝶が居そうな店の前。


「疲れた・・・まぁ反対側よりマシだけど」

 何度も朝舞う夜の蝶に誘惑されたユウヒは、嬉しくも精神的に疲れたのか思わずその疲れを口から吐き出し、しかしながら別のルートを通ればこの程度の疲れでは済まない事を考えると、まだマシな様である。


「さて、ママはいるかね?」

 朝の澄んだ空気を深く吸ったユウヒは、気を取り直すと背筋を伸ばし、ワインレッドに銀の刺繍がなされた暖簾を潜って店に入って行く。


 ユウヒが潜ったあと揺れ続ける暖簾には、カタカナと漢字で『トレビあん』と言う店の名前が書かれていた。


「ちわーママ居るー?」

 ユウヒが慣れた感じで声をかけながら入った店内は、数人の客が座っている内装こそキャバクラの様なボックス席や、バーの様なカウンター席が並んでいるが、壁にはどこか食堂を彷彿とさせるお品書きが張られており、なんとも違和感たっぷりの世界を作り出していた。


「だ・か・らぁん! じぇにふぁーって呼びなさいっていってるでしょぉん!」

 そんなちょっと変わったお食事処『トレビ菴』の主は、ユウヒの声を聞いて店の奥から跳びだす様に現れる。


「ハイハイじぇにふぁーじぇにふぁー」

 何ともねっとりとした言葉遣いでユウヒに抗議の声を上げるのは、綺麗なロングの金髪に透き通るような白い肌の白人美女、にしか見えない男性であった。じぇにふぁーと呼ばれた彼女? が、ユウヒの御座なりな対応に頬を膨らませる姿はどこからどう見ても美女にしか見えず、店内の男性客は総じて頬を緩めたり赤くしたりと言った様子である。


「もん! ひどいわん! ・・・でもそんな所もス・テ・キ! いやぁん逝っちゃった」


「何かイントネーションが違う気が・・・はぁ」

 頬を膨らませたじぇにふぁーは、まるで彼女が彼氏じゃれ付く様な仕草でユウヒの肩を叩き、ユウヒのジト目を見詰めるとポッと頬を赤く染めて、両手でその頬を覆うとクネクネと体を揺らす。


 そんな彼女の様子にユウヒは疲れた様な声を洩らし、同時に周囲から突き刺さる殺気の籠った視線に疲れた溜息を漏らすのだった。


「気のせいよ」


「はぁ・・・俺が今日来た理由は、解ってる?」

 ユウヒの違和感を気のせいだと言ってのけるじぇにふぁーは、にこにこと微笑みながらユウヒの腕に絡みついてくる。それと同時に増す周囲の殺気に、ユウヒはもう一度溜息を漏らすと、じぇにふぁーに今日来た要件が分かるか問い掛ける。


「もちろん婚姻届は用意・・・」

 普通ならいきなり来て要件が解るかと問われても解るわけがないのだが、ユウヒの言葉を聞いたじぇにふぁーは、目を光らせるとユウヒから素早く離れ、懐からハンコを押すだけの状態にされた『婚姻届』と書かれた用紙を取出す。


「アアン、その目で見られたら、ワタシ果てちゃう!」

 しかし、すぐにユウヒから注がれる視線が冷たい事に気が付くと、頬を上気させ自らの体をきつく抱きしめ荒い呼吸と共に痙攣するように体を震えさせる。


「・・・それで流華知らない?」

 そんなじぇにふぁーの姿に周囲の男性客が前屈みになる中、ユウヒはげんなりとした表情で肩を落とすと、本題である流華の事について尋ね、周囲から様々な視線を向けられるのであった。


「もうちょっと遊んでくれてもいいのに・・・。そうね、お兄さんを探してちょっと危なっかしい事やってたみたいね」


「やっぱりか」

 肩を落としながら問い掛けてくるユウヒに、ぷっくりとした唇を尖らせると、じぇにふぁーは最初から用意していたようにユウヒの求める情報を話し出す。ユウヒが眉を寄せた情報を提供したじぇにふぁー、彼女はザクロの樹商店街一帯の顔役と同時に、その立場を使い様々な情報を提供する情報屋の様な事をしている。


「それでラストウォッチングはアーケード街で、一緒に居たのは森の熊さんと愉快な仲間達よん」

 本来なら高額な報酬を必要とする彼女の情報だが、ユウヒと彼女の間ではその必要は無いのか、ユウヒの表情を楽しそうに見詰めながら、ユウヒの求める流華に関する情報を伝えるじぇにふぁー。


「・・・愉快な仲間達だと? それは嫌な予感しかしねェ」

 そんな情報の中に気になるものがあったのか、ユウヒは眉を上げ確認するような声を洩らすと、じぇにふぁーの微笑む姿に頭を抱えだす。


「うふふ、ここから先は別料金・・・当然お支払いはあなたのカ・ラ「カエル」あん、もういけずねぇん」

 大体の情報を話し終えたじぇにふぁーは、楽しそうだった笑みを妖艶に歪めると別料金と言いながら、薄手のドレスを着崩し肩を曝け出すが、踵を返したユウヒが出口に向かい歩き出すと、慌てて服を着直して追いかける。


「普通に喋れば・・・いや、喋らなければ美人なのにな」


「私からアイデンティティ奪わないでよん」

 入口の手前で振り返ったユウヒは、残念そうな表情を浮かべると勿体無いとでも言いたげに声を洩らし、その言葉にじぇにふぁーは、クネクネと科を作りながら心外そうな表情を浮かべるのだった。


「もうお帰りですか、アニキ」

 そんな二人の様子をバックヤードから見詰めていた人物が一人、小さな通路から現れると、ユウヒを見上げながらフランス人形のような可憐な顔で小首を傾げる。


「ん? コニファーか、元気にしてたか?」

 この人物の名前はコニファーと言い、種別的にはじぇにふぁーと同じ、所謂男の娘と呼ばれる少年であった。その容姿は全て天然のものであり、一切手を加えずにもかかわらず少女にしか見えない彼は、心は男のはずにも関わらず、じぇにふぁーによって毎日ドレスを着せられている。


「え? えっと、はい・・・僕はいつも通りですけど? 珍しいですねアニキがそんな事言ってくれるなんて」


「そうか?」

 そんなコニファーは、ユウヒが何気なくかけた言葉に違和感を感じたのか、少し目を見開き驚きながらも、どこか嬉しそうな少女の様にはにかんでみせるのだった。


「はい、長期に会わなかったなら別ですけど、まだ最後に会ってから七日と二時間三十五分程度しか経過していません。これまでの経験上僅かに不自然さを感じました」


「あー・・・・コメントに困るな」

 一週間ほど前に会ったばかりのユウヒとは思えないパターンの言葉だと、自信満々に答えてみせるコニファーに、キョトンとした表情を浮かべていたユウヒは、思わず何とも言えない顔になってしまう。


「愛されてるわねぇ」

 そんなユウヒとコニファーの姿に生暖かい目を向けるじぇにふぁーは、どこか羨まし気でもあった。


「まぁうん、色々あるんだよ」


「ア、アニキ・・・・・・ぁ」

 じぇにふぁーの視線と不思議そうに見上げてくるコニファーの顔に、ユウヒは異世界で過ごした長い期間の事を思い出し苦笑を洩らすと、自然とコニファーの頭を撫で、その久しぶりに感じる感触に優しく微笑む。


「そいじゃちょっと森の熊さん当ってみるわ」


「生殺しね・・・気を付けなさいねぇ? ドームのせいであっちこっちの馬鹿が動いてるから」

 ユウヒに撫でられ顔を真っ赤にし、さらにユウヒの手が離れるとともに寂しげな表情を浮かべるコニファーに、じぇにふぁーは何とも言えない表情をユウヒに向ける。しかしすぐに表情をいつものママの顔に戻すと、外に出ようとするユウヒに声をかけ注意を促す。


「ドームかぁ」


「あんな見るから危ない物に首つっこむなんて、勇者かおバカさんか命知らずくらいよ」

 現在世界各国で調査されているドーム、その実物が最近になって近所に現れた事で、好奇心や野心を持つ者がユウヒの住むこの町にも現れ出し、その人間達は俄かに町を騒がしくしている様だ。


「そっちもしらべてんのね」


「あら、わかっちゃう? 流石お姉さまの子ね」

 そんな注意を促してくるじぇにふぁーに、ユウヒは振り返るとじっと見つめてそう漏らし、ユウヒの言葉を否定することなく微笑んだじぇにふぁーは、流石お姉さまの子だとユウヒを評価する。


「あ、そう言えば母さんがよろしくだってさ」

 そのお姉さまとは、ユウヒの母親である明華の事であるのだが、


「・・・き、来てないわよね?」

 ユウヒが明華から言われた事を思い出し伝えると、今までの余裕のある笑みを浮かべていたじぇにふぁーの顔は真っ蒼に染まり、気のせいかコニファーも少し顔色が悪い。


「いや来てないよ」


「もうぅ・・・びっくりさせないでよぉ」

 そんな様子に何とも言えないジト目を浮かべたユウヒが、じぇにふぁーに明華は来ていない事を伝えると、じぇにふぁーは明らかにホッとした様に息を吐き、コニファーもまたホッとした様な表情を浮かべる。


「・・・そいじゃ(いつもながらマジの冷や汗なんだが、母さん何したんだろなぁ)」

 いつもの事である様だが、このやり取りをする度にユウヒは首を傾げるしかなく、同時に何があったのか明華に聞くことが只々怖くなり続けるのだった。


「・・・アニキ」

 物理的にも、またユウヒ限定で視線でも冷房の効いていた店内から、怠そうな表情を浮かべて蒸し暑い外界へと旅立っていったユウヒ。そんなユウヒを見送ったコニファーが寂しそうに一人呟いていると、なにやら店のバックヤードから慌ただしい足音が聞えてくる。


「にぃちゃんは!?」

 その足音の人物は、一際大きな音を立ててじぇにふぁーの前に現れ急停止すると、肩口で切りそろえられた髪を振り見出し、喜びと必死さの相まった表情でじぇにふぁーを見上げて問い掛けた。


「ざぁんねん、今しがた帰ったわよぉん」

 どうやら彼女の言う『にぃちゃん』とは、先ほどじぇにふぁー達が見送り、暑い日差しの中をふらふら歩いて行ったユウヒの事の様である。


「・・・ええええ!?」

 息を荒げて見上げてくる少女に対して、じぇにふぁーが可笑しそうな表情でユウヒが帰った事を伝えると、少女は言葉の意味を理解した瞬間、その顔を絶望に染めて大きな声を上げるのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 今回のお話は、ユウヒの妙な知り合いのお話でした。ほかにもユウヒと言う人間の性格などに影響を与えた人物がいますが、少しでも出せたらいいなと思ってます。


 それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー

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