第七十七話 名付けと魔力増産計画
どうもHekutoです。
修正等完了しましたので投稿させていただきます。今回もちょっと多めとなりましたので、その分多く楽しんで頂ければ幸いです。
『名付けと魔力増産計画』
ユウヒと愉快なお姫様救援隊が無事ハラリアに戻って来てから数時間、日暮れの早いハラリアの空はすっかり暗くなっており、少し早めの夕食を集会所で摂ったカデリア達は、囲炉裏とランプの光に照らされた一室で食後のお茶を飲み寛いでいた。
「お姫様もたいへんねぇ」
「いえ、皆それぞれに抱えているものはありますから、私なんてまだ良い方です」
そこにはユウヒを問い質した後、カデリアを元気づけていたパフェ達女性陣の姿もある。また部屋の隅にはクマの姿もあるのだが、元々この部屋で夕空を眺めながらのんびりしていたクマは襲撃者から逃げ出すタイミングを逃し、居心地悪そうにお茶を啜っていた。
「まったく、ユウヒは女心がわからないんだからな」
リンゴの労いに微笑むカデリアを見て、鼻息荒くユウヒに対する不満を漏らすパフェ。
「うふふ、とか言っていつも何とかしてくれるユウヒ君がすきなのよねぇ」
「・・・」
不満を漏らしてお茶に口を付けるパフェに、メロンは楽しそうに微笑むと彼女の肩をつつきながら揶揄い交じりにパフェの耳元で囁き、メロンの隣ではその会話を聞いたルカが目を見開いてじっとパフェを見詰める。
「な、そんなんじゃないからな! こ、こらルカそんな目で見るんじゃない!」
予想もしない場所からの口撃に怯んだパフェは、慌てて声を荒げ否定するも、その視界に瞳孔が丸く大きく開いたルカの目を捉えると、顔を赤くしながら大げさな身振り手振りで慌て始めるのだった。
「あの、皆さんはユウヒ様とは同郷なのですか?」
見た目や雰囲気、またユウヒと深い縁を感じるパフェ達の会話を聞いていたカデリアは、自己紹介こそされてはいたが、目の前の人物たちがユウヒとどういう関係かまではまだ聞いていない。そんな彼女は、楽しそうにはしゃぐパフェ達から視線を横に移動させ、部屋の隅で茶をすするクマと目が合ったのをこれ幸いと、落ち着きのある男性に見えたクマに問いかける。
「ん? まぁな、と言ってもユウヒほど特殊な経験はしてないがな」
「今絶賛してるところだけどね」
お姫様と目が合ったことで少し肩をビクつかせるクマであるが、彼女の問いかけにお茶を持った手を下ろすと、何とも言えない表情で彼女の疑問に答え、そんなクマの隣では気だるげに柱へ背を預けたリンゴが手を振り可笑しそうに笑う。
「まぁなんだ、ユウヒに任せておけば最悪の事態は回避できると思うぞ?」
「そうでしょうか・・・国の学者も王宮の魔術師や錬金術師も匙を投げていますし」
酒でも飲んだように、と言うか僅かに酒気洩らす陽気なリンゴに呆れた表情を浮かべたクマは、小首を傾げているカデリアに向き直ると、ユウヒから聞いている世界樹やこの世界の話しと、いつもの友人の性格を思い出しながら元気付ける様に話す。
そんなクマの気遣いに笑みを浮かべたいカデリアであるが、彼女の国やそれ以上に深刻な平原の国々の事を思い出すと、軽々しく彼の言葉を肯定することが出来ない様だ。
「ふん、子供でも知っていそうなことを知らない男を信用できるか」
それでも困った様に笑みを浮かべる彼女の後ろでは、ただ気に食わないと言う理由だけで食って掛かる勝気な女性騎士が、クマの言葉にも食って掛かろうとする・・・も、
「うふ」
「!?」
気の強い女性騎士の背後で静かにお茶を飲んでいた同僚の女性騎士に首を掴まれ、物理的に沈黙させられそのまま静かに退場するのだった。
「すみません口が悪くて、馬鹿なんで許してあげてください」
「あぁ気にしねぇよ」
気を失った同僚を寝かしつけた女性騎士は、カデリアの隣に座り直すとクマに向かって申し訳なさそうに頭を下げ、そんなどこか親近感を感じる女性達にクマは可笑しそうに笑みを浮かべ。
「果報は寝て待てって言うし、暫くゆっくりしてたらいいのよ」
「そうねぇ」
その近くでは、酔いがまわり始めたらしいリンゴが、竹筒に入った明らかに酒気を漏らす白濁した液体を、パフェの隣から避難してきたメロンの湯飲みに注ぎながら笑い語り、木製の湯飲みに入れられた液体に口を付けたメロンは、楽しそうな笑みを浮かべてリンゴの言葉を肯定した。
「・・・あの、ユウヒ様はいったいどういった方なのでしょうか?」
『それはだな!』
基人族と思われるにもかかわらず、獣人から信頼されエルフからは尊敬の念を向けられるユウヒ。さらに同郷の人間と思われる目の前のパフェやクマからは、無条件とも言える信頼まで感じられ、益々ユウヒと言う人物が解らなくなってきたカデリアは、今までの情報以上の情報を求めて問いかける。
「・・・(お兄ちゃんクシャミしてそうだなぁ)」
酔ったリンゴと酔い始めたメロン、ルカの黒々とした瞳孔から逃げていたパフェ、それから可笑しそうに笑っていたクマも彼女の問いかけに嬉々として説明を始め、そんな兄の友人である噂好き達の姿を見て、ルカはどこかに消えた兄の身を案じて縁側の向こうに見えるハラリアの夜に目を向けるのであった。
一方その頃、ルカに身を案じられているユウヒはと言うと、
「えーっぷしっ!」
案の定盛大にくしゃみを放っていた。
「大きなくしゃみ!」
「おう、全く誰だ俺の噂してんの」
隣の娘から勢いよく顔を逸らした瞬間解き放たれたくしゃみの後、不機嫌そうに鼻を擦るユウヒは、楽しげな声を上げる娘と二人で世界樹に上り、伸びすぎて干渉しあっている枝を採取している。
「そっちの枝要らない!」
「これだな【切断】よっとと、とりあえずここまでにして降りるか」
悪態をつきながらも片手に抱えた枝を落とさないように抱え直したユウヒは、太い枝の上を危なげなく歩きながら娘の指示に従って細い枝をまた一つ剪定すると、落ちて来た枝を掴み満足そうに頷く。
「はぁい」
ユウヒからかけられた言葉に元気よく返事を返した少女は、自ら飛んで降りることが出来るにも拘らず、魔法でゆっくり降下するユウヒの背中に飛び付いて地面へと戻るのであった。
「おかえりなさいあなた、粘土はだいぶ集まってきましたよ」
娘の要望により、ゆっくりと降下して来たユウヒは、魔力活性化装置製作場と化した淡い魔法の光で満ちる一画へと着陸するなり母樹に出迎えられ、彼女に手を上げて答えると同時にその後ろに出来た粘土の山を見て嬉しそうな笑み浮かべる。
「ありがとな。しかし精霊は世話好きと言うかなんというか」
「昔ほど認識してくれる方も多くないですから・・・かまってほしいのですよ」
その粘土を誰が集めたのかと言うと、例の如く何処からともなく集まって来た様々な精霊達であった。今も続々と粘土を両手に抱えて運んでくる精霊たちは、母樹の説明を耳にして動きを止めると、ユウヒに見詰められ照れた様な仕草を見せる。
「まぁこのくらいの構ってちゃんなら可愛いもんだがな、そうだ」
「?」
愛嬌のある小さな精霊たちの仕草に困った様に微笑んで肩を竦めるユウヒは、嬉しそうに騒ぎ出す精霊達を見て何か思い出したようで、その視線を頭上に浮かび上がっていた娘に向けた。
「名前決まったんだった」
「ほんと!?」
キョトンとした表情でユウヒを見詰め返した彼女は、続く言葉を聞くと周囲の精霊たち以上に喜びの感情を顔いっぱいに浮かべ大きな声を上げる。
「ああ、なかなかいい名前だと思うんだが。こう書いて守里と読むんだがどうかな?」
「しゅり?」
キラキラとした目で見つめてくる娘の姿に微笑んだユウヒは、彼女の視線を地面に誘導しながら、その地面に彼女の名前である『守里』と言う文字を書いて読み方を教えた。
「里を守ってくれそうな名前かなと、あと響きがお前さんに似合ってかわいかったからな」
「かわいい? えへへぇ」
ユウヒが語る名前の意味は、そのまま里を守ると言う意味を込めたらしく、いくつか候補があったのだろうが、最終的には名前の響きが彼女に合っているような気がしたことで決定した様だ。そんな命名の理由を聞いた世界樹の精霊シュリは、かわいいと言う言葉に頬を赤らめるとくねくねと体を揺らし照れて見せる。
そんなシュリの様子に笑みを浮かべていたユウヒであるが、背後に妙な寒気を感じるとそっと後ろを振り向く。
「・・・・・・」
「・・・なぜそんな射殺しそうな目で見る」
ユウヒが振り返った先には、震え上がる小さな精霊達とその中心で射殺さんばかりの眼光で静かにユウヒを見詰める母樹の姿があった。何が気に食わなかったのか、数舜前までの笑みが嘘のように無表情となっており、訳が分からないユウヒは面食らった表情を浮かべ首を深く傾げる。
そんなユウヒの疑問は、即座に母樹の口から解き放たれ、
「いいえ! ただの嫉妬です!」
「ストレート!?」
そのあまりにストレートな嫉妬に思わず大きな声を上げて驚いた彼は、限界まで頬を膨らませて不満を表す母樹に呆れると、苦笑を漏らしながら母樹の頭を撫で始めるのであった。
尚、彼女がユウヒに頭を撫でられて機嫌を直したのは、この数秒後である。
驚きの声を上げたユウヒが母樹のちょろさに一抹の不安を感じている頃、日本のとある宿営地では、
「ろいやるすとれーとふらーっしゅ!」
「ばぁぁかぁぁなぁぁああ!?」
二人の忍者が自分たちに与えられた宿営地のテントの中で、一人は歓喜と勝利の叫びを、一人は驚愕の叫びを上げていた。
「楽しそうでござるな」
めでたく国家公務員、防衛相臨時職員(仮)扱いとなった三人であるが、正規の職員ではないので行動の縛りもそこまで厳しいものでは無く、現状やる事が少ない彼らはリーダー(仮)のゴエンモ以外割と暇なのである。
「お? おつかれー、それが明日の資料か?」
「・・・」
「そうでござる。レクチャーと忍術のデモンストレーションの大体な流れも確認してきたでござる」
ゴエンモの呆れ声に気が付いたジライダは、椅子に座ったまま手を振り出迎えるとゴエンモが手に抱えた書類の束を興味深そうに見つめ、ヒゾウは真っ白に燃え尽き簡易テーブルに突っ伏していた。そんな二人の様子に小さくため息を漏らしたゴエンモは、テーブルの上に書類を置いて先ほどまで開かれていた会議の結果を話す。
「流石我らがマッパーだな」
「おれにポーカー必勝の道を示してくれ」
「永遠に迷っていると良いでござる」
それぞれに得意な事が尖っている三人は、現状自然な形で役割分担が出来ている。そんな中でゴエンモの役割はと言うと、その優秀な方向感覚による目的地への先導役や周辺地形の把握と言った役割になることが多く、ついでとばかりに彼らの行動方針もゴエンモが無い知恵を働かせているのだが、働かぬものに救いの手を出すほど彼は甘く無いようだ。
「せめんと!? ・・・ほう、使うかもしれないのは土遁と水遁か」
半分冗談の混ざったゴエンモの冷たく硬い対応に、ヒゾウは態勢を崩し驚きと悲しみに満ちた表情で叫ぶ。しかしすぐに満足したのか何事も無かったように体を起こすと、今度はゴエンモから渡された資料の一部を手に取り興味深そうに呟く。
「一番余ってる護符だな」
「派手目で提案したでござるが、却下されたでござる」
そこには、『忍術デモンストレーション予定』とゴエンモの字で書かれており、内容には一番使うことが少ないらしい水遁と土遁の地味目な忍術が記されており、派手なものも提案したらしいゴエンモであるが、それは安全の面から却下されたようだ。
「派手目はユウヒに任せよう」
「んだんだ」
少し残念そうに肩を竦めるゴエンモに視線を移した二人は、互いに無言で向き合うと全く同じことを考え察したのか、ゴエンモに向き直りそんなことを言い出す。
「ユウヒ殿には話のはの字すらもって行ってない段階なのでござるが・・・」
どうやら、彼らや彼らの周辺では、ユウヒに魔法のデモンストレーションをやってもらう話が上がっている様であるが、当の本人はドームの向こうに行ったままであり、何も知らないユウヒに任せる気満々の二人を見て苦笑を浮かべるゴエンモ。しかし彼もまたそのつもりでいるのか、二人と無言で見つめ合うと似た様な表情で笑いだすのであった。
一方忍者達の話題に上がっているユウヒはと言うと、
「ヘックション!」
例の如く盛大なクシャミを放っていた。
「風邪じゃないのですか?」
「今のは忍者だな・・・むぅ歪んでしまった」
傍らでユウヒを心配そうに見詰める母樹に、彼は先ほどまでとは違い明確な原因を口にすると、クシャミの勢いで歪んでしまった円筒形の構造物の一部に苦い表情を浮かべ、肩を落として歪んだ部分を取り除いていく。
<粘土捏ねた!><持ってきた!>
「おう、ナイスタイミングだ。流石土の精霊だな、粘土の捏ね具合が違う」
そんなユウヒが取り除いた粘土を丸めて、再利用と書かれた木箱に放り投げていると、体のあちこちを粘土で汚した土の精霊が、達成感に溢れた表情を浮かべ駆け込んでくる。その手には各々綺麗に捏ねられた粘土を持っており、そのタイミングの良さと粘土の質にユウヒは心から彼女達を称賛した。
<お褒めにあずかり!!><これは絶頂すら覚える至福!>
ユウヒからの称賛の声に、粘土を渡した精霊達はうれしさで文字通り小躍りし始め、一部は興奮しすぎたのか、荒い息を漏らした後その場に崩れ落ちピクピクと痙攣し、恍惚とした表情を浮かべている。
「ふふふ」
<おのれ! 土に負けるな!><風だっていいとこ見せるんだ!>
≪うわなんだ!? ひゃー!!≫
そんな土の精霊達の姿に母樹が嬉しそうに微笑む中、ユウヒに称賛される土の精霊を悔しげに睨んでいた風の精霊は、気合を入れ直し全力で粘土を捏ね始めたのだが、興奮のあまり強烈な風が発生してしまい、それにより飛び散っていく粘土とその巻き添えを食らう多数の精霊達。
「いや・・・無理すんなよ」
そのままの流れで精霊達による泥レスが開催されて行く光景に、上機嫌な母樹と違いユウヒは背中を丸めて呆れた声を漏らす。
「こんな光景はどれだけ振りでしょうか、昔は世界樹の樹の下は様々な精霊でいっぱいでした」
「知ってるぞ、ここで詳しいこと聞いたら乙女心がわからないと罵られるんだろ?」
呆れながらも、足元で粘土の下敷きになっている精霊を救助しているユウヒに目を向けた母樹は、郷愁の念を感じる微笑みを浮かべると胸を押さえながら目を瞑り昔を思い出し始め、その言葉に嫌そうな表情を浮かべたユウヒは、救助した500のペットボトルより背の低い精霊を立たせながら想像した展開を呟く。
「罵りはしませんが・・・それに、私たち精霊にとって年齢はあまり関係ないですから」
救助ついでに拾い上げた粘土を手の中で捏ねながら立ち上がったユウヒの、嫌そうな表情に苦笑を漏らした母樹は、なんとなくユウヒの過去を察すると、ユウヒの肩に手を添えくすくすと笑いながら精霊にとって年齢など関係ないと語る。
実際条件さえそろえば永遠に等しい時間を生きることが出来る精霊にとっては、人の長さで語る年齢などあってないようなものなのであった。
「そんなもんか、うちの奴らは誕生日を祝えと言う割に年齢を聞くと怒るからなぁ・・・怒らないのはミカンくらいだな」
「人は難しいですね」
歪んだ部分を新たな粘土で修正し、形の整った先から魔法で乾燥させていたユウヒは手を止めると、困った様に笑う母樹に目を向け眉を寄せて実体験の愚痴を零し、その愚痴に母樹は興味深そうな表情で首を傾げるのだった。
「全くだ・・・よしこんな感じだな」
同じ世界で複数の女性が同時にくしゃみをし、日本では一人の女性がなぜか急に落ち込み、その目の前で褒められた気がした少女が一人笑みを浮かべている事など知らないユウヒは、歪みを直した円柱状の大きな筒を満足そうに見詰める。
「魔力は大丈夫ですか?」
「まだな、魔法に頼りすぎなきゃ問題ないし、活性化装置の近くだと回復も早いみたいだ」
魔法の力で目に見えて乾燥していく筒に目を向けた母樹は、その魔法を使っているユウヒに目を向けると体を気遣い。気遣われたユウヒは笑みを浮かべると、すでに稼働している魔力活性化装置に目を向け、自分の思惑がうまくいっていることにその笑みを深めた。
「それはまぁ・・・これだけ活性化された場所でしたら」
楽しげなユウヒが右目と左目で周囲を観察しながら魔力回復の状況を喜ぶ一方、その姿を視ていた母樹はどこか呆れた様な表情で、ユウヒと一緒に周囲を見渡し始める。
「この周辺だけは活性魔力の方が僅かに多そうだな・・・やはり地下から不活性魔力をくみ上げるしかないかな? なるべく深くから取りたいから地下水か」
「水をくみ上げるのですか? それは少し危険を伴いますが・・・」
普通の人間には見えない世界を見渡す二人の視界には、活性化された魔力で満ちる世界樹の樹周辺が映っていた。そんな魔力に満ち満ちた世界にも満足しないユウヒは、効率を考え不活性魔力が多いと思われる地面の下に目を向けると、地下水をくみ上げて活性したいと考えるが、母樹曰くそれはこの世界では危険を伴う様な行為であるようだ。
「む、危険なのか・・・なら地下に空洞を作って空気を循環させるか、どうだろう?」
なぜ危険なのかまでは語らない母樹であるが、その表情から本当に危ない事であることを察したユウヒは、胸の前で腕を組んで考え始めるとすぐに妥協案を提案する。
「なるほど、洞窟の中は不活性魔力の溜りが出来るのでそれを人工的に作るのですね」
地面に吸収された不活性化魔力は、地下水に溶け込むものもあれば洞窟などの空気が動かない空間に溜まり続けることもある様で、ユウヒの言葉からそこに思い当たった母樹は、感心したように笑顔を浮かべた。
「そうなのか・・・まぁ簡単にだけど、土の中にある不活性魔力が上がってきたらいいなと、なら羽根無し扇風機をもう一台用意しないとな」
一方そこまで深く考えず、地面に吸われるのなら地面を掘ればいいじゃない、と言った浅い考えであったユウヒは、キラキラとした母樹の視線に何とも言えない苦笑を漏らすと、丸太の椅子に腰を落ち着け案をまとめていく。
「いやぁ作る物増えて大変だなぁ」
それから十数分後、母樹の補佐もあって一通り新しい案をまとめたユウヒは、周囲に集まる精霊達の中から立ち上がると、困った様に眉を寄せて楽しげに大変だと口にする。
「・・・楽しそうですが」
「お父さん楽しそう」
<喜んでる><我らもさらに役立てる機会を感じる><なんと、それは楽しき!>
どう見ても楽しそうにしか聞こえないユウヒの言葉に、母樹は呆れた様に、シュリは嬉しそうにユウヒを見詰め、周囲の精霊達も様々な表情でユウヒを見上げ、同時にやる気を漲らせていた。
「よし、先ずはもっと粘土用意して捏ねないとな」
<いくぞ!><ぬ!? 負けるな我らも行くぞ!><ガッテン!>
頭を掻きながら、先ずは土台やフレームとなる粘土が必要だと粘土置き場に目を移したユウヒを見た精霊たちは、ユウヒが行動や指示を出すより早く動き出す。
地面でユウヒを見上げていた木の精霊は、地中から細い竹の様な木を生やすと、木に飛び乗り細く粘りのある木のしなりを利用して空へ勢いよく飛び上がり、風の精霊は負けじと背中で風を爆発させた推進力で次々と空へ打ち上げられていく。
「わぁ・・・任せていいとして、地下で交差するように長い穴を掘って風で循環がいいか、溜まると言うのなら交差点に広場も作った方がいいのだろうか? しかしそうなると循環しない吹き溜まりの部分が・・・」
振り返った先で次々と動き出す精霊達の勢いに思わず動きを止めたユウヒは、風の爆発で起きた余波で撫でられた頬を指先で軽く掻くと、今見たことを忘れる様に魔力活性化装置に向き直り、粘土の事は問題なさそうだと別の事を考え始める。
「まぁ全部試そう」
「あまり無理はしないでくださいね」
ぶつぶつと呟きながら指折り計画を立てたユウヒは、厳選することを断念したのかいつも通り全部試す気の様で、そんなユウヒの姿を困った様に微笑んでみていた母樹は、そっとユウヒの肩に小さな手を添えると心配そうな声を漏らす。
「善処する」
「確約を希望します」
その心配に対して、頭の大半が制作に偏っていたユウヒは、どこかの政治家が口にしていそうな言葉を呟き目を逸らすも、不機嫌そうな笑みで念押しする母樹に口元を引きつらせ彼女の真剣な目を見詰める。
「ああわかった確約しよう、俺も倒れるのは御免だからな。とりあえず穴を先に掘るとしてどんな魔法が魔力の節約になるかな」
母樹を見詰め返したユウヒは、肩を竦めて苦笑を浮かべると彼女の願いを確約し、その姿に母樹は満足そうな笑みを浮かべ、握っていたユウヒの肩から手を放す。割と強く握られて少し伸びたジャージの肩に目を向けたユウヒは、その困った様な目を地面に向けて魔法の選定を始める。
<魔力分けてくれるなら私掘るよ?>
「ふむ、餅は餅屋、地面に穴掘るなら土の精霊か・・・頼めるか?」
有り余る魔力を振るっていた頃にはあまり考えなかった魔力の節約にユウヒが頭を悩めていると、その解決策は足下から聞こえて来た。そこには土の精霊が一人、自分の顔を指さしながら首を傾げており、彼女を見詰めたユウヒはそのゲーム脳的思考を働かせると、自分より魔法に関しては精霊の方がずっと有能であろうと考え、彼女の前に膝を付いて身を屈め問いかける。
<あい!>
なるべく視線の高さを小さな精霊に合わせるユウヒに、土の精霊は大きく手を上げて元気よく了承の返事を返し、必要な魔力を受け取るべくユウヒの指を両手で掴む。
「・・・あなた、精霊魔法って知ってます?」
「ん?」
まるで巨人とこびとが握手をしているような光景を見ていた母樹は、嬉しそうな、それでいて少し困った様に微笑むと、微笑まし気に精霊と握手するユウヒに問いかける。
精霊魔法とは、一部の魔族とエルフだけが使うことのできる魔法とされるこの世界でも大きな力を発揮する魔法の一種である。その実態は、契約した精霊に魔力を分け与えることで、その精霊の属性合った魔法を人には不可能な効率で発動させると言うものだ。
要は、今ユウヒが行っている事はそのまま精霊魔法の原理と変わらない行為なのである。
いかがでしたでしょうか?
ようやくハラリアの世界樹の精霊にも名前が付きました。そしてユウヒの生産活動も活発になり始めた様です。困ったと言いつつ嬉々として魔力活性化装置を作る速度が上がっていくユウヒ、彼の子の行動が何を引き起こすのか、また次回をお楽しみに。
それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー




