第七十六話 名も無き異世界は荒廃している
どうもHekutoです。
修正等完了しましたので投稿させていただきます。今回は無意識のうちに文書量が増えてしまったようで、色々と不安ですが、読みに来ていただいた方に楽しんで頂ければ幸いです。
『名も無き異世界は荒廃している』
異世界女子同士の談笑から早々に逃げたユウヒが、朝靄の中で目を覚まし移動を開始したのはもう何時間も前の話、まだ明るい夕暮れ空を見上げ歩く一行の姿は、予想よりはるかに早くハラリア近郊にたどり着いている様だ。
「もう一泊覚悟してたが問題なく着きそうだな」
「馬のおかげだにゃ」
視界のレーダー付きマップに表示されたハラリアの姿を見て、ホッと息を吐くユウヒを助けたのは、朝靄の奥から現れた一頭の白馬であった。ネムの言葉に後ろを振り向いたユウヒは、すぐ後ろをテンポ良く歩く白馬を見つめると笑みを浮かべる。
「自分から主人を探しに来るとは良い馬だな」
その白馬は、マルターナのお姫様であるカデリアがハラリアを目指して移動するときに乗っていた馬であり、途中で乗り捨てた馬である。カデリア曰くメスの白馬である彼女は、自らの主人が山賊の魔の手を恐れて自分を逃がした事を解っており、主人の安全が確保されたのを確認すると、朝靄に乗じてユウヒ達の下を訪れていたのだ。
「ありがとうございます。この子は仔馬のころから付き合いでしたから」
「馬は我が国の特産だからな、良い馬で当然だ」
「なんであなたが偉そうなのよ」
現在白馬は、その背に鎧を脱いで軽装となったカデリアと騎士の二人を乗せ、涼しい顔でユウヒ達と共に小走りでハラリアへと向かっている。普通なら人を三人も載せて走るのにこうはいかないのだが、本来のスペックとユウヒの魔法により強化された今の彼女には、雑作も無い事の様だ。
「まぁそれでも疲れてるだろうから、ハラリアの里に着いたらゆっくりしてくれ」
しかし、全く疲れないと言う事があるわけもなく、右目の力で馬の疲労を見透かしたユウヒは、白馬の鼻を一撫ですると微笑みながら話しかけ、話しかけられた白馬は嬉しそうに嘶くと器用にユウヒへと顔を擦り付ける。
「・・・この子がこんなに懐くなんて、ユウヒ様と相性がいいのかしら?」
ユウヒと白馬との戯れに獣人少女達がどこか不機嫌そうに眉を寄せる中、白馬に乗るカデリアは驚いたように目を見開き、男性にはなかなか懐くことのない愛馬の姿に首を傾げて見せた。
「いや、魔法の力で話してるからな」
異世界に転移したことで手に入れた後天的な力の影響で、動物に好かれやすくあるユウヒであるが、彼女と仲良く話せる理由は彼が使っている【意思疎通】の魔法にある。かつてワールズダストでも馬と話すのに使ったこの魔法により、馬とも問題なく話すことが出来るユウヒは、道すがらずっと彼女と話をしており、その事から仲良くなっていてもおかしくはない。
「動物とお話しできるのですか!? それはとてもステキです。今この子はなんと言っているのでしょうか」
そのことをここで初めて知ったカデリアは驚き、それは騎士も当然でありエルフ達も驚いていた。驚いてないのは獣人だけの様で、彼女達は驚かない代わりにどこか不満そうな表情である。
「・・・うん、知らない方が幸せな事もあると思う。それよりほかに特産とかあるのか? この世界の事は知らない事の方が多いから教えてもらえるとうれしいんだが」
馬と話せると聞いたカデリアは目を輝かせユウヒを見詰めるが、ここまでの道のりで白馬から聞いた話の9割はお姫様の話であり、その内容が非常にプライベートかつお姫様の恥ずかしい秘密とも言える内容であった為、ユウヒは苦笑いを浮かべると話を別の方へと逸らすのであった。
「ふん、無知な奴めあいた!?」
「あなたはしばらく黙ってなさい」
わざとらしく話を逸らすユウヒを訝しげな目で睨む勝気な女性騎士は、ジト目を向けながらユウヒに悪態をつくが、背後の同僚女性騎士に頭を小突かれると小声で説教を受け始める。
「ふふ、そうですね。我が国は森にも近く土壌にも恵まれていますので、主に農作物を他国に輸出しています」
そんな二人の女性騎士に苦笑を洩らすユウヒに、カデリアもつられたように微笑むとユウヒに目を向けてマルターナ王国について話しはじめ、自らの国のことを話すその表情はどこか嬉しそうだ。
「他の国は農業が盛んじゃないのか?」
「そうですね、平原の民である基人族国家の中では一番と言っていいかと」
マルターナ王国は大きな湖を中心に発展した王国であり、その豊富な水源と森に近い立地と言う肥沃な平地では農作物の生産や牧場の経営が盛んで、その規模と生産力は基人族国家の中でも一番である。それほど大きくない国にも拘らず発言力があるのには、そういった生産物の輸出国と言った背景もある様だ。
「基人族のくせにそんなこともむぐぅ!?」
話をそらすための話題転換であったが、話を聞く間に異世界国家の事情に興味が出て来たユウヒ。彼がいろいろとお姫様に問いかけ、そのたびに嬉しそうに説明をするカデリアの姿にネムが頬を膨らませる中、同じく面白くなさそうな表情をお姫様の後ろで浮かべていた勝気な女性騎士は我慢できずに口を開くも、その口は即座に後ろから伸びて来た手により力強く塞がれる。
「・・・平原はもうすでに8割ほどが枯れてしまいました」
「世界樹を枯らしたのですから当然でしょう」
「やはりそうなのですね・・・それでは近い将来我が国も」
勝気な女性騎士の姿が誰かに似ているなと考えながら視線を後ろに向けるユウヒに、カデリアはその端正な顔に影を落としながら平原の実情を語るも、その言葉に対してユウヒの隣を歩くエルフ女性の言葉は辛辣であった。
この場に居るエルフ女性は皆リーヴェンにより選りすぐられた世界樹の神官である。その為、世界樹を唯の便利な素材としてしか扱わない基人族には冷たく、それが最近まで唯一平原に残っていた世界樹を守っていたマルターナ王家の人間であっても、彼女達の抱く感情はあまり良いものではない。
「ふむ、そんなに荒れてんのか」
「そうにゃ、全体で言っても多分まともに緑が残ってるのはもう4割も無いかもにゃ・・・」
沈痛な表情でエルフ女性と話すカデリアの方に耳を傾けていたユウヒは、基人族の持つ世界樹が一本も残っていない事と、世界樹が減ると共に荒れていく平原の話を聞いて小さく声を漏らす。そんなユウヒに振り返ったネムは、興味がありそうな声で呟くユウヒにこの世界の現状を説明する。
「はい、そのことについても相談しようと思い私が派遣されたのです。貿易と同時に世界樹の恩恵を分けてもらえないかと」
「・・・恩恵ね?」
ネムの説明を受けて、思った以上にこの世界が荒廃していることを知ったユウヒが難しい表情を浮かべていると、カデリアが今回訪問したもう一つの理由について話し出す。彼女は基人族と森との貿易の話と同時に、数少ない世界樹が残る森の民に頼んで世界樹の恩恵を分けてもらえないか相談に来たのだと言う。
「はい、学者の調べた話によると世界樹には苗木を生み出す力があり、はるか昔はその苗木を植えて世界樹を増やしたとか」
それ故、本来なら文官が派遣されるところを王族であるカデリアが森を訪れたのである。彼女のほかにも文官団や世界樹の文献を紐解いた学者達が森を訪れていたのだが、今回のエルフの里襲撃と言う異常事態の為、彼らは安全を考慮して騎士団と共に王都に急ぎ戻っている途中であるのだと言う。
「せめて種だけでも手に入ればと思っているのです」
そんなマルターナ王国全権大使であるカデリアは、学者の調べで判明した世界樹の種子を譲ってもらうため、今回の様な危険な行為に出てこの場に居るのだが、
「・・・あぁ」
「・・・にゃぁ」
「・・・まぁ」
一通りの話を聞いたユウヒと森の民達の表情は何とも言えないものになっており、先ほどまで冷たい視線を向けていたエルフ達さえ非常に同情的な表情でカデリアを見詰め、そのままユウヒに視線を向けるのであった。
「なんだその反応は、お前ら何か知っているな! 隠しだてもごご!?」
「だまってて・・・ね?」
「!?」
周囲の視線が自然と世界樹の救世主ユウヒに集まったことで、勝気な女性騎士が語気を荒げユウヒを睨むも、やはりその行動は口を顔ごと力強く抱きしめる様に同僚の女性に止められ、そんな女性達を背負う白馬どこか呆れた様に嘶く。
「あの、ユウヒ様は何か知ってらっしゃるのでしょうか?」
「あぁうん・・・そうだね」
背後の部下も気になるが、それ以上に訳知り顔で生暖かい視線を向けてくるユウヒの方が気になったカデリアは、一縷の望みと不安を隠すことなくその顔に浮かべると、そろりと言う言葉が似合う丁寧かつ慎重な声でユウヒに問いかけ、問いかけられたユウヒは、悪い事をしているわけでもないのに申し訳なさそうな表情で視線を彷徨わせるのだった。
ユウヒが視線を彷徨わせるも、彷徨わせる先々から視線を受け言葉を詰まらせている頃、
「そうでござる」
忍者達は自身満々で頷いていた。
「やっぱそうか、ニンジャって聞いていたがそのまんまなんだな」
彼らが頷く先には、陸上自衛隊の隊員と思しき男性が立っており、その周囲では同じく自衛隊の人々が忙しなく動いている。彼らの忍者姿にどこか呆れた表情を浮かべる男性は、もう一度その姿を足元の忍び足袋から頭の先の頭巾まで見詰めると、満足したのか一つ頷く。
「この姿は拙者たちアイデンティティでござるからして」
「まぁ異世界に行けばジャージになっちまうけどな」
「一応今回は覆面を持ち込むつもりだ」
そんなどこか感心を含んだ男性の言葉に胸を張り、両手を広げて忍び服を見せつけるゴエンモ。しかし彼らもドームを越えればジャージになってしまうため、今回は素顔を隠す意味も含めて一キロ以内の荷物に予備の頭巾も持ってきている様だ。
「・・・いや、そこはもっと他にあるだろ」
予備の頭巾を広げどこか満足げなオーラを放つ三人の姿に、僅かに肩を落とした男性は思わず突っ込みを漏らす。
実はこの男性は現在この場に展開している部隊を纏める部隊長であり、忍者達の偉い人センサーに反応するほど見た目にも凄味があるのだが、武装や装備を持って化け物級の忍者がやってくると聞いていた割には、武器も持たずのほほんとした空気しか感じない忍者達が現れた事に、呆れの混ざった苦笑を浮かべている。
「あぁ護符も持っていくでござる」
「刃物持てないからせめてこれくらいはな」
「刃物なんかよりよっぽど威力高い件について」
「それが、か?」
丸腰でドームに入るのであれば、彼らにも自衛隊の装備を支給する必要があると考えていた彼に、忍者達はきょとんとした表情を浮かべると懐からユウヒ謹製の危険物、もとい忍術の触媒である護符を取り出し男性に見せるといつもと変わらぬ笑みを浮かべるが、その護符に男性は訝しげな表情を浮かべた。
「後で見せるでござる」
上層部から入った情報の中に、非常に強力な武装を持つ忍者と言うものがあり、その武装に少なからず興味のあった男性であるが、強力な武装と目の前の紙の束が結びつかず首を傾げ、そんな男性にゴエンモはニコニコと笑みを浮かべると自信ありげにそう語る。
「ふむ、まぁいいか。とりあえず今回のメンバーはこっちにいるから挨拶だけでも先にしておいてくれ」
「あいわかった」
ゴエンモの笑みに肩を竦めた男性は、これ以上考えても分からないと開き直ると、彼ら三人をこれから仲間となる隊員へ紹介する為先導し始め、そんな男性の返事を返した彼らは、ジライダを先頭に一列に並ぶと笑みの中に緊張を隠しながら、自衛隊の臨時宿営地の奥へと案内されていくのであった。
それから小一時間ほど経過した名も無き異世界。
「はぁ・・・」
「姫・・・」
「・・・」
そこには意気消沈を絵にしたようなカデリア姫と、彼女に寄り添うもやはり表情のすぐれない女性騎士の二人が、ハラリアの里の門を潜るユウヒの背後を歩きついてきている。
「俺のせいだろうか?」
「現実を知っただけにゃ」
カデリアの背後には白馬が気遣わしげな嘶きを漏らしながらついてきており、そんな背後に広がる暗い雰囲気にユウヒは気まずそうな表情で苦笑いを浮かべ、ユウヒの呟きにネムは肩を竦めて首を振る。
「まぁ何か方法を探してみるさ」
「ありがとうございます・・・」
「むぅ・・・」
どこか冷たいネムの言葉で目を潤ませるカデリアに、ユウヒが困った様に微笑みそう声をかけると、今度は別の感情で潤んだ瞳をユウヒに向けて微笑むお姫様。そんな二人の様子を横目に、ネムがムスッとした表情を浮かべていると、彼らの進行方向から複数の人影が小走りで走り寄ってきた。
「お兄ちゃん!」
「おお、ルカにその他大勢ただいま」
その人影とは、嬉しそうにユウヒの目の前に杖を突いて走り寄ってきたルカと、パフェ達女性陣である。走り寄ってきたルカの頭を少し荒く撫でたユウヒは、目を細めるルカの足の調子が良くなっていることに笑みを浮かべ、その視線を歩いてくるパフェ達に向けた。
「その他でまとめるな! ・・・で? そちらがお姫様か? 顔色が悪いが」
優しく対応したルカと違い、いつもと変わらず大雑把に扱われたパフェは声を荒げ不満そうな表情を浮かべ、その後ろからついてくるリンゴとメロンは困った子を見る様な笑みを浮かべている。そんな慣れ親しんだ空気感にユウヒが口元を緩めていると、目敏くお姫様を見つけたパフェがユウヒの体越しに覗き込むようにしてカデリア達を見詰め、しかし表情のすぐれない彼女たちの姿に小さく首を傾げた。
「あぁ・・・まぁそうだな」
「・・・ユウヒ何したの?」
不思議そうにカデリアを見詰めるパフェの言葉に、ユウヒは思わず口元を引き攣らせ目を泳がせる。明らかに怪しいユウヒの表情が見逃されるわけもなく、すっと目を細めたリンゴがまるで尋問するように声を低くしてユウヒに問いかけると、ユウヒは引きつった表情のまま動きを止めた。
「ナニカしたのかユウヒ!」
「なんで俺、まぁうん・・・なんと言ったらいいか」
まるで犯人はお前だと言った表情を浮かべるリンゴの問いかけに、思わず動きを止めてしまったユウヒは、パフェに首元を掴まれ揺すられると気だるげな表情を浮かべ肩を落とす。しかし自分の語った話の内容が今の状況を作っているため、否定もできず何とも言えない表情で口ごもってしまうユウヒ。
「・・・兄さん」
「そんな目で見られても」
口ごもったことが余計に疑惑を深めてしまったのか、先ほどまでユウヒの帰りを喜んでいたルカまで不審者を見る様な目でユウヒを見上げ始め、ユウヒは困った様に眉を寄せると頭を掻く。
「何をしたユウヒ! きりきり話せ!」
「実は・・・」
まるで夫の浮気を疑うような女性陣の視線とパフェの物理的圧力に苦笑いを浮かべたユウヒは、カデリアに話した世界樹の真実について、パフェ達にも分かりやすく噛み砕き説明し始めるのであった。
ジト目を受けながら説明を終えたユウヒが、パフェのネックハンギングツリーから解放され、女性陣がカデリアを慰めているうちにこっそりその場を離れたのは小一時間前。
「と言うわけなんだが、どうにかなる?」
そんなユウヒの姿は世界樹の足元にあった。
「そぅですねぇ。もう知ってると思いますが、私は枝に移ってしまったので今は種を作れなくなっていますし」
どうやらユウヒは、カデリアの一件を母樹に説明して何とかならないかと相談に来ていたようだ。女性陣から逃げる意味もあった様であるが、それ以上に精霊達に癒される目的の方が大きかった様で、今も母樹と話しながら周囲を飛びかう小さな精霊や娘である世界樹の精霊を優しい笑みで愛でている。
「やっぱりそうなのか」
「はい、本体となる世界樹がしっかりと成熟していないと種が作れないのです」
そんな中、母樹が種を作れなくなったであろうと予想していたユウヒは、母樹の言葉に少しだけ肩を落すも、申し訳なさそうに眉を寄せる体の小さくなった母樹の頭を撫でると、首を振って笑みを浮かべた。
「しかし成熟か・・・」
「一応・・・この子も種を作ることは出来ますけど?」
「?」
成熟しないと種は作れないと言う母樹の言葉に、世界樹を見上げ考え込むユウヒの視界に、宙をふわふわ漂う娘が入り込む。ユウヒに笑みを浮かべる彼女を見詰めたユウヒに、母樹も彼女を見上げるとその目に僅かな好色の色を灯らせ、どうします? と言いたげな表情でユウヒに問いかける。
「・・・それはちょっと」
その問いかけまで予測していたユウヒは、母樹から送られてくる熱のこもった視線から逃げる様に首を動かすと、絞り出す様に小さく却下の意の籠った言葉を呟く。
「私的には構わないと言うか、孫もあなたの子供なんて素敵だと思いませんか?」
そんなユウヒの姿に小さく口を窄めた母樹は、すぐに口元を緩めて笑みを浮かべたかと思うと、頬を赤らめユウヒの着るジャージの袖を摘まんで引っ張り、自らの考えに同意を求める。
「どんだけ複雑な家庭だよ・・・どう考えても事案だわ」
「ですよねー・・・でしたら安定した魔力をどこからか大量に調達するしか」
いくら同意を求められてもユウヒの倫理観は揺らぐことが無い様で、呆れた様に肩を落とすユウヒの返答を聞いた母樹は、少し残念そうに苦笑を漏らすとすぐに表情を戻して別の方法を考え始めた。
種はユウヒの娘二人から調達可能である為、もう一つの問題となっている安定した魔力の大量入手を解決する必要がある。これは一人の人間から取り出す均一な活性魔力か、もしくは自然界の活性魔力でなければならず、不安定な場合は種が腐り、魔力が足りなければ発芽しない。
「あれじゃ足りないか?」
そんな魔力を急にほしいと言っても手に入るわけもなく、精霊が長期に魔力を溜め込もうとしても現状の自然界には負担が多すぎた。そこへ現れたユウヒが今のように救世主扱いされるのは道理である。
「そうですね・・・あれがもっとあれば魔力を溜め込んでおけるので何とかなるかもしれませんね」
世界樹復興の功績により精霊たちやエルフを中心にユウヒが救世主扱いされる中、彼が指さす土管の完成により精霊達はユウヒを神聖視すらする始末。何故ならその土管があればユウヒに頼らなくても世界樹復興がなされる可能性があるからだ。
「そうか・・・もう少し改良も必要そうだしいくつか作りたいところだが」
しかし、魔力活性化装置一つだけではそう上手くはいかない様で、複数必要になると話す母樹に、ユウヒは手持ちの材料を思い浮かべてすぐに難しい表情を浮かべる。
「私も今後の為に魔力をためておきたいのですが・・・無理でしょうか?」
腕を組んで首を傾げるユウヒに、ダメ元でお願いをする母樹は狙ってかそれとも素なのか、男を誘うように頭を小さく傾げ、つぶらな瞳を潤ませるとユウヒを足下から見上げ見詰めた。
「・・・苦いお薬ならあるけど?」
そんな母樹の姿に頬を僅かに赤くしたユウヒは、困った様に苦い表情を浮かべると、ポケットの中に入っている薬を思い出し、取り出して世界樹の精霊二人に問いかける。
「苦いのヤ!」
「・・・苦いのはちょっと」
自分に関わりのある話と言う事もあり、ユウヒの手元を覗き込んだ彼の娘は、ユウヒの問いかけを聞いた瞬間で体全体で拒否の意思を示して飛び退き、母樹も嫌そうな表情で小さく後ずさってしまう。
「そうか、なら活性化装置を増産するしかないが・・・魔力も、いや先ず材料がなぁ」
二人の拒絶する姿に、世界樹の精霊が持つ嗜好を察したユウヒは、そっと薬の入った瓶をポケットにしまうと、眉を寄せて土管の様な魔力活性化装置を見詰めながら頭を悩める。
現在、ユウヒの魔力容量は回復量より使用量の方が多く、回復と消費を繰り返しながら緩やかに枯渇へと向かっていた。その原因は無計画な魔力使用も大きな理由であるが、それ以上に回復量の少なさが大きな原因である。
「何が必要なのですか?」
その為に作ったのが魔力活性化装置なのであるが、この装置をさらに増やすにはさらに魔力を使てしまうため、魔法任せに無理やり作っていたのではすぐに魔力枯渇となって本末転倒。かといってすぐに手に入る素材で作ろうとすると、どうしても合成魔法と言う大量の魔力を消費する魔法で、より良い素材へと加工する必要が出てくる。
「外装や骨組みなんかはとりあえず粘土で作るとして、あとは魔力が流れやすい金属か木材に、魔力と魔法を込めやすい石かな」
その対処法は、ある意味普通の事であるが良い材料を用意する事であった。今までユウヒは、適していない材料は無理やり魔法で適した物へと作り変えており、その作業が入らないだけで随分と消費魔力が削減できる。
「世界樹は元々魔力の通りがいいので、この子に分けてもらえばいいかと」
ユウヒの呟きの解決は割と近い場所にあった様で、母樹の明るい声に振り返ったユウヒは、苦いの嫌だと飛び退いていたと思ったらすでにユウヒの近くに戻っていた娘に目を向け、
「いいよ! でも・・・優しくしてね?」
視線に気が付き顔を上げた彼女は、ユウヒの目を見詰めて元気よく頷き、しかしすぐに赤くなった顔を小さな両手で覆うと恥かしそうに体をくねらせるのであった。
「・・・あぁうん、枝の剪定がてら少しもらうとするよ」
その仕草がおませな女の子のそれにしか見えないユウヒは、乾いた笑みを浮かべとりあえず返事をしておくと、自分の魔法で急成長した世界樹を見上げ、その無秩序に伸び空を遮る枝を確認すると剪定の必要性に思い至る。
「後は石ですか」
その後、御座なりな対応に頬を膨らませた娘の対応に十数分の時間を必要としたユウヒは、膝の上で眠る娘の頭を撫でながらもう一つの問題を母樹と話し合う。
「魔法を込められる、できれば壊れにくく硬い石、になると輝石か宝石か・・・魔力があれば無理やり作るんだが」
これは魔力伝達の良い素材以上に物が少なく、今まではほぼ合成魔法で無理やり作っていた。ユウヒ自身どんな素材が適しているのかよくわからない為、右目と合成魔法頼みで素材を作っており、その効率の悪さは母樹も目を覆いたくなるような惨状である。
そんな惨状に光明を指す者達は、頭を突き合い悩むユウヒと母樹の足下から現れた。
<出番ですか!><影が薄いなんて言わせない!><呼ばれた気がした!>
突如地面が小さく振動したかと思うと、地面に目を向けたユウヒの視線の先で土が盛り上がり、すぐにその小さな土の山から複数の小人が姿を現して思い思いに声を上げ始める。
「・・・土か大地の精霊かな?」
状況と左目が教えてくれる内容で、土か大地の精霊だと察して小首を傾げるユウヒと苦笑を漏らす母樹。
<土です!><いけます!><頼って!>≪そしてお給料は魔力でお願いします!≫
土色の服に緑のスカーフを巻いた彼女達は、短い手足を大きく振り回し自己を主張しはじめ、まるで渇望するような目でユウヒを見上げる。
「・・・えっと、この地では土の属性は軽視される事が多くてその」
その必死に雇用を求める様な姿に首を傾げるユウヒに、苦笑を漏らしていた母樹はそう語った。
「なるほど・・・それじゃこのくらいの大きさをした魔力の乗りが良さそうな石を出来るだけ多く頼む。とりあえず前金として少しだけな【放出】」
<優しそうな顔してさらっと難しい要求!?><でもその容赦の無さにしびれる!><しかも気前よく前金とは、惚れる!>
何が理由で軽視されているかわからないユウヒであるが、彼女達は自分たちが役に立つところを見せ、賃金として魔力を分けてもらいたいのだと言う事は理解出来た様で、指で直径2㎝くらいを示して採って来てほしいものを伝えると、前金としてほんの僅かに魔力を放出する。
「土の精霊はあまり接点が無かったが・・・また変わった子たちだな」
「良い子たちなんですけど、何かと不憫な子たちで・・・」
ユウヒの指示にそれぞれ色々な意味で震えながらも、一様に嬉しそうな表情で土の中へと潜り消える土の精霊達。彼女たちの姿に今まで接点の少なかった土の精霊の性格を理解したらしいユウヒに、母樹は自らの頬に手を添えながら苦笑を漏らすと、遠ざかって行く彼女たちの気配を見詰め、首を傾げるユウヒの前で何とも言えない感情の籠った溜息を漏らすのであった。
いかがでしたでしょうか?
今まで見渡す限り緑豊かな森ばかりの名も無き異世界は、思ったより荒廃していたようです。その事実がユウヒにどう影響するのか、また次回以降をお楽しみに。
それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー




