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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第一章 救出と救済

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第七十四話 救援隊、森の悪魔と魔王様

 どうもHekutoです。


 修正等完了しましたので投稿させていただきます。ちょっとした時間のお供にでも楽しんで頂ければ幸いです。



『救援隊、森の悪魔と魔王様』


 日本と僅かな時差のある名も無き異世界は、そろそろおやつを食べるのにちょうどよい時間となっていた。この世界に三時のおやつと言うものが存在するか分からないものの、ハラリアの獣人達にとってはそろそろお昼寝から目を覚ます時間帯の様である。


「・・・むぅ」

 これからまた活発に活動が始まりそうなハラリアの作業場では、黙ってさえいれば非の打ち所のない美人であるパフェが、歪められても尚整った顔の眉間に皺を寄せて唸り声を上げていた。


「えっと・・・何かあったんですか?」


「お、ルカちゃん歩けるようになったんだぁね」

 クマとリンゴが、唸るパフェに呆れ顔を浮かべていると、杖を使えば問題なく歩けるようになったルカが付き添いのメロンと一緒にリハビリがてら作業場に現れ、ずいぶん元気になったルカの姿に、振り返ったクマはホッとした様な笑みを浮かべる。


「あ、はい。まだ杖の使い方に慣れないですけど・・・それで、パフェさんはなんで唸っているのでしょうか?」

 振り返ったクマに頷いて応え、笑みを浮かべて手を振ってくるリンゴを見て口元に笑みを浮かべたルカは、ぎこちない足取りで彼らの座る丸太に近付くと、まるでどこかの考える人を模した芸術品の様なポーズで唸るパフェを不思議そうに見詰めた。


「ん? あぁ・・・たぶんユウヒのせいなんだろうけど、考えてることは複雑そうでわからんな」

 作業場で寛いでいた三人の顔を不思議そうに見比べるルカに、クマは苦笑いを浮かべて簡単に説明するも、ユウヒが立ち寄った後から不機嫌そうに唸るだけの状態であるパフェが、何を考えているかまではわからないと言う。


「お、兄さんがどうしたんですか?」


「おりょ? 会っとらんの?」

 しかしそんなパフェの思考よりも、ルカが気になったのは兄が原因と言うことの様で、首を傾げるルカの姿にクマも首を傾げて問い返す。


「戻ってきてるんですか?」


「あらぁ妹に会いに来ないとかユウヒ君だめねぇ」

 実はユウヒ、ハラリアに戻ってきてからまだ一度もルカに会っていないのだ。それは同時に、ルカに付き添っていたメロンにも会っていないと言う事であり、妹に会わない兄を咎めるような言葉を漏らすメロンであるが、いつもと少しだけ違う笑みにはそれ以外にも不服な事がありそうである。

 

「あはは、入れ違いは良くあるんで気にしてないですよ」


「あいつは普段動くこと嫌うけど、行動力自体はあるからな」

 そんなメロンの僅かな変化は周囲の者に気が付かれることも無く、乾いた笑いを漏らすルカにクマはうんうんと頷いて、昔の事を思い出しながら困った様にそう語るのだった。


「そうなんですよね、と言うことは何かあったんですか?」

 ユウヒとクマが一緒にいる姿を昔から何度か見ているルカは、当時の事を思い出しながら苦笑すると、兄が何か行動を起こすようなことがあったのだと気が付きクマへ問いかける。


「ああそれは「ユウヒはお姫様を助けに行った!」まぁ、そう言うことになるな」


「・・・え?」

 ルカの問いかけに、そう言えばまだ言ってなかったと言った表情で口を開くクマであったが、その言葉は苛立たしげなパフェの声に遮られてしまう。一応パフェの叫び声の内容を認識できたらしいルカにクマが肩を竦めて見せると、彼女は数秒視線を彷徨わせたのち小さな声を漏らして小首を傾げる。


「なんでも基人族のお姫様が近くに来てるみたいでな、ユウヒが獣人とエルフ何人かと一緒に迎え? 助け? に行ったよ」


「はぁ? なんで兄さんが?」

 叫ぶだけ叫ぶとまた唸り出すパフェに周囲が苦笑を浮かべる中、クマはルカに向き直り何があったのか簡単に説明を始め、しかしそれでもお姫様などと言う雲の上の人物と兄が結びつかず、ルカは不思議そうな表情を浮かべ続けた。


「そうだユウヒばかり狡い! 私も異世界でお姫様助ける冒険がしたいぃ!」


「はいはい、あんたがしゃべると話が脱線するから黙ってなさい」

 そんなルカの疑問にクマが首を傾げた瞬間、唸り声を上げていたパフェが再度叫びだすもその内容は何とも私利私欲にまみれた内容で、めんどくさそうに立ち上がったリンゴは話が進まないからと、彼女を後ろから抱きすくめて今にも叫び出しそうな柔らかく血色の良い唇を手で塞ぐ。


「もご! もごもご! もごもごもも、もごごもごもー!? (ぐぬ! しかもなんだ! なんで綺麗な女性ばかりと一緒に、ハーレムなのかユウヒー!?)」

 しかしその程度でトラブルメーカーと定評のあるパフェが止まるわけもなく、口をふさがれたままもごもごと叫びだし、彼女の口を手で抑えるリンゴはこそばゆそうに眉を寄せる。


「・・・はぁ、ユウヒの魔法ならすぐ居場所がわかるらしくてな、さらにそのお姫様ってのが元々エルフと獣人のお客さんらしくて、さらに現在進行形でピンチかもしれないらしい」


「ぐもも! ぐもももごもー! (王道か! 王道なのかユウヒー!)」


「・・・大丈夫かな」

 そんな大人の女性二人の姿に深い溜息を吐いたクマは、比較的静かになったことでルカへの説明を口早に終わらせるともう一度肩を竦めて見せ、クマから未だ叫び続けるパフェへと視線を移したルカは何か納得した様な表情を浮かべると小さく呟く。


「だいじょぶだろ、結構な人数だったぞ? あの猫の嬢ちゃんたちも居たし」


「ネムさん達もですか」

 ルカの呟きに、クマは現地人であるネシュ族が一緒の様だから大丈夫だろうと言い、その言葉にルカも少しほっとしたような表情を浮かべ、


「そうそう、ほかにエルフも何人か・・・しかしエルフってのは本当に美人ばかりだよなぁ」


「・・・」

 続くエルフの美人と言う、ふやけた表情でクマが漏らした言葉にどこか複雑そうな表情を浮かべる。


「・・・」

 ふやけた表情を浮かべるクマの言葉で表情を変えたのはルカだけではなかったようで、目を細めたリンゴは不満そうに眉を寄せると、意志とは関係なく体に妙な力が入るのを感じていた。


「リンゴ、それ落ちてるわよ?」

 そんなリンゴの姿に少し顔を蒼くしたメロンは、彼女の肩を叩きながら目の前で起きている状況を苦笑交じりに伝える。


「あ、しまった。おーいしっかりしろーパフェー!」

 口を押えているうちに鼻まで押えてしまっていた上に、腕の力もじわじわと強めてしまったリンゴ。そうなれば彼女が抱きすくめていたパフェが唯で済むわけがなく、呼吸を止められた彼女が顔を蒼くして意識を失うこととなるのは自明の理である。


「大丈夫かな・・・」

 呼吸困難で目を回すパフェを慌てて介抱するリンゴとメロン、そんな二人を呆れた様に眺めているクマの隣では、パフェの事になど全く気が付いていないルカが空を見上げ、兄を心配し不安そうに呟くであった。





 一方、息を吹き返したパフェが涙目でリンゴに抗議している頃、ルカに心配されているユウヒはと言うと、


「あの、大丈夫でしょうか?」


「え? なにが?」

 陸上短距離選手もびっくりな速度で森の中を縫う様に疾走しながら、隣で同じように並走するエルフの女性に心配されていた。


「だ、大丈夫ならいいのですが」

 リーヴェンから派遣されたエルフ女性は、きょとんとした表情を浮かべ振り返りながらも汗一つ掻かず、平気な顔で森を走り続けるユウヒの姿に頬を引きつらせると、先頭を走り続けながら首を傾げるユウヒにキラキラとした目を向け続ける。


「ユウヒ、消費魔力の事にゃ」


「ん? あー問題ないよ? たいした魔法じゃないし、くそ不味い魔力回復薬も飲んだからもうリカバリー出来てるし」

 そんな羨望の眼差しをユウヒに送り続けるエルフの気持ちを代弁したのは、ユウヒを挟んで反対側を並走しているネムであった。


「・・・さすが母樹様が御認めになった方ですね」

 ユウヒとの付き合いの中で、常識が当てはまらないユウヒにも慣れてきたネムは、エルフ女性が何を心配しているのか簡潔に説明する。ネムの説明でようやく何の心配だか思い当たったユウヒは、エルフ女性に振り返ると軽く笑みを浮かべながら問題ないと語り、そんなユウヒにエルフの女性とその後ろに続く同じく若いエルフの女性達は、目を見開き感心するのであった。


「いろいろあって保有できる魔力の総量は多いからね」


「・・・その色々がとても気になるにゃ」

 ウォボルの策略に対抗して、リーヴェンがユウヒに付けたのは神官職の若い女性達。今回の救助隊編成時に、どんな策略が練られたのか聞いて思いっきり祖父の顎を蹴り上げたネムは、魔法の力で森を走る集団を何とも言えない感情で眺め小さな溜息を吐くと、ユウヒとの距離を少しだけ縮める。


「はっはっは、過度の好奇心は身を滅ぼすぞ?」


「え、そんな話なのかにゃ」

 しかし、ユウヒへ問いかけた返事から剣呑な空気を感じると、元の距離に戻り表情を強張らせるのだった。


「さてな、おっともうすぐそこだな」

 明らかに腰の引けているネムに苦笑を洩らしたユウヒは、特に詳しく語ることも無く前を向き直ると、【探知】の魔法で視界の中に浮かぶレーダーを確認し、すぐそこまで救援対象が近づいている事に気が付くと少し大きめの声を出す。


「ユウヒは、規格外すぎにゃ。確認できたにゃ・・・」


「こちらも場所を把握しました。でもこれは・・・」

 基人族より五感の鋭いネシュ族よりも、さらに森と相性の良いエルフよりも先に救援対象を捕捉したユウヒに呆れた声を漏らしたネムは、魔法の力で元から鋭い聴覚と嗅覚の感度を上げるとユウヒの指さす方に対象の存在を確認する。しかし同じく確認が取れたらしいエルフと共に、眉を寄せた険しい表情を少し汗ばんできた顔に浮かべていた。


「人数多いけど追われてるのかな?」


「そのようです」


「急ぐのにゃ!」

 何故なら確認の取れた方向では、対象と思しき女性達を複数の人間が追いかけている気配があったからである。その移動スピードなど聴覚と嗅覚から分る様々な情報を統合すると、ユウヒの呟いた内容に行きつき、ネムが声を上げるとネシュ族とエルフ族の混成部隊はユウヒを追い抜く勢いで移動スピード上げるのであった。





 安定した地面を走っていたネム達が、移動スピードを上げる為に木から木へと残像の尾を引きながら跳び移る後ろを、ユウヒが感心した表情で飛んで追いかけている頃、


「しまった木の柵が・・・」

 ユウヒが捕捉した女性達は、母樹達が逃げる時に設置した木の柵で足止めを食らっていた。


「やぁっと止まりやがったか、手間かけさせる」

 すでに疲れた馬を森の中へ放棄した彼女達は、お姫様を守る様に木の柵を背に立ち止まり。彼女達を追い掛けていた数十名の男たちは、彼女たちの退路を塞ぐように遠巻きに囲み汗を乱暴に拭っている。


「突破できるか?」

 数が圧倒的に多いにもかかわらず彼女達をすぐに捕まえないのは、男達を睨みつけたまま腰の西洋剣に手をかける騎士姿の女性を恐れての様だ。そんな彼女は、へらへらと笑う男達から視線を外さずに後ろの女性に声をかける。


「少し時間かかるけど壊せそうね」


「手伝います」

 お姫様と一緒に白馬に乗っていた女性騎士は、木の柵を調べ壊せそうだと口にすると腰に差していた短刀を抜き、同じくお姫様も腰の辺りに差していた細身のナイフ抜いて木の柵の破壊を手伝い始めた。


「わかった。時間稼ぎは任せろ」

 後方からの返答に頷いた女性は、刃渡り80㎝はありそうな厚みのある両刃の西洋剣を抜くと、ブレの無い構えをとって先ほどまでより一層覇気を感じる目で男達を睨みつける。


「おいおい、こっちに何人いると思ってんだ? それともその体で時間稼ぎしてくれんのか? お?」


「マジか! いいなそりゃ、それなら一刻だろうが半日だろうが待ってやるよ!」

 その覇気に男たちの集団は僅かに後ずさるも、リーダーと思われる男の大きくわざとらしい物言いに女性の覇気に飲み込まれ掛けた男たちは余裕を取り戻し、その声に賛同してより大きな声を上げた男の言葉に周囲では卑しい笑いが溢れ始めた。


「まぁその場合はお姫様にも相手してもらうわけだけどな! あははは!」


「・・・下種が」

 各々に得物を抜いてにじり寄る男たちに、心の底から軽蔑した表情を浮かべた女性は小さな声を吐き捨て、西洋剣の柄を持つ手に力を込める。


「いいねぇいいねぇ! こういう気の強い女ほど屈服させるのが楽しいんだよ!」

 絶体絶命の状況でも諦めない女性の強い眼光に興奮した男は、まるで演劇でもしているかのように手を振り上げると、薄汚れた履物に包まれた股間を大きく膨らませて目を見開いて大きな声で叫ぶ。


「へー異世界でもくっころ萌えってあるんだ」

 丁度その時である、そんな欲望に濡れた叫び声を聞き表情を険しくする女性達の頭上から、その場に全く似つかわしくない間延びした声が聞こえてくる。


「あ? ・・・は?」

 意識していなかった場所から聞こえて来た声に間の抜けた声を漏らした男は、声のした方向を見上げ、もう一度間の抜けた声を漏らす。


「くっころ?」

 謎の声を聞いて顔を上げたのは男だけではなく、ほぼ真上から聞こえて来た声に頭上を見上げたお姫様は、耳慣れない言葉に短刀を持った女性騎士の隣できょとんとした表情を浮かべる。


「まぁ美人女騎士に萌えるのはわかるけど、実際やったらただの犯罪なんだけどな」


「だ、だれだてめぇ!」

 声の主を探すお姫様の少し上方、木の柵のてっぺんに立つ謎の男は、眼下に見える美人騎士とお姫様を見ると何度も頷き男たちの気持ちを理解しつつ、しかしそれは妄想の中だけで留めていないと犯罪だと、どこかずれた感想を漏らす。そんな謎の男に驚いた男性集団のリーダーと思しき男は、彼の姿を確認すると剣を振りかざし叫ぶ。


「え?」


「いつの間に!? 姫お下がりください!」

 男の振りかざした剣の先に視線を動かした女性騎士は、短刀を構えながらお姫様を背中に庇い、西洋剣を手にした女性との間にお姫様を誘導する。


「あ、どうも上から失礼しますお姫様。ハラリアからお迎えに上がりましたユウヒと言います」

 緊急事態に次ぐ緊急事態に語気を荒げる女性達に対して、謎の人物もといユウヒはいつもと変わらず覇気がない声で場に似つかわしくない自己紹介を始めだす。


「え? 獣人・・・には見えませんが」


「にゃんことエルフも一緒ですよ」

 そんなユウヒの自己紹介に、お姫様は木の柵の上で紳士の様な礼を見せるユウヒの頭や腰回りを見回し首を傾げ、何を確認しているのか気が付いたユウヒは周囲に両手を広げながらハラリアの獣人とエルフも紹介し始める。


「にゃんこ・・・」

 にゃんこと言う紹介の仕方にがっくりと肩を落とすネムに、周囲のエルフ達が苦笑を洩らす中、ユウヒの見下ろす先では男たちが急に騒ぎ始めていた。


「頭!? 森の悪魔がこんなに!」


「う、狼狽えんな! ちっと増えたところでまだこっちの方が多いんだ!」

 一人の男が上げた悲鳴のような声に何十人と居る男達が一斉に周囲の木々を見上げ、先ほどまでの馬鹿笑いがまるで嘘であったかの如く、その顔に悲壮感を滲ませ小さな悲鳴まで上げ始める。中には腰を抜かしたのかその場に座り込むものまで現れ、リーダーと思われる男性は恐怖を誤魔化す様に大声を張り上げると武器を構えた。


「森の悪魔・・・どちらの事を言われてるのでしょうか?」

 ユウヒに紹介されたエルフ達は、先ほどまで浮かべていた笑みを消すと冷めた視線で男達を木の上から見下ろし、その中でも常にユウヒの傍を並走していたエルフの女性は不機嫌そうに呟く。


「悪魔呼ばわりとかむかつくにゃ。でも、どっちにしろ悪魔以上に怖い氷原の魔王様が目の前に居るんだから、もう詰んでるんだけどね・・・」

 木の柵より高い樹上に待機しているのはネシュ族少女達とエルフ女性達、男達がどちらを悪魔と呼んだのか、それとも個人を名指しにしたのかわからないものの、ユウヒ以外であることは彼らの言動と視線から理解したネム。彼女はエルフ達同様に不機嫌そうに鼻を鳴らすも、すぐに笑みを浮かべ直すとユウヒを横目にわざとらしく肩を竦めて見せる。


「そうでした」

 ネムの言葉を聞いたネシュ族少女とエルフ女性達は、そろって笑みを浮かべるとユウヒに視線を移し頷いて見せた。


「おま!? その情報源姉さん達だろ!」

 一方、異世界の人間が知っているわけもない黒歴史の呼び名を呼ばれたユウヒは、驚いたように振り返ると、視線の先でしまったと言った表情を浮かべるネムに情報源をほぼ確定しながら問いただす。


「にゃ、なんのことかにゃ? 口止めなんてされてないにゃ?」


「・・・はぁ、とりあえず鬱憤は山賊の集団にでもぶつけとくか」

 ユウヒに問いただされてふらふらと目を泳がせ必死に? 誤魔化そうとするネムに、ユウヒは背中を丸めて溜息を吐くと、今ここにいない人物に説教出来ない鬱憤を目の前で武器を構える男達にぶつけることにしたようで、険しく細めた目に理不尽な怒りを灯しながら何もない空間に一歩踏み出した。


「と・・・飛んだ」

 最初に誰が呟いたのか、悲鳴や驚きの声などでざわつく周囲も意に介さず、【飛翔】魔法の使い方にもだいぶ慣れてきたユウヒは、まるで見えない床でもあるかの様に空中を歩き、お姫様達と男達の中間辺りで立ち止るとゆっくりとした動きで手を前に突きだし魔力を練り上げ始める。


「ままま、魔王だと!? そそ、そんなわけあるか! 撃ち落とせ!」

 魔力を練り上げ始めた事でユウヒの特殊な両目は呼応するように明るく青と金に光り出す。その光は日暮れにより暗くなり始めた薄暗い森の中でひどく目立ち、まるで人魂の様に恐ろしげな青の光と、敵対者を容赦なく射殺さんばかりに強く輝く黄金の光を見た男達の心は、魔法を使うまでもなくすでに崩壊寸前にまで追いやられていた。


「凍てつく山の息吹よ世界を隔てよ【アイスウォール】」

 しかしそんな事など気にしないユウヒは、魔力の燐光を周囲に撒き散らしながら十分な妄想により形作られた魔法を言葉によって発動させる。


「・・・【クラッシュ】」

 ユウヒの唱えた魔法により出現する巨大な氷の壁、その威容を見た者達は誰もが【氷原の魔王】と言う名の意味を理解し、理解した男達は目の前に広がる氷塊の雪崩を最後にその意識を途絶えさせるのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 魔王軍ゲフン、ユウヒの救援隊が到着しました。無事お姫様の救助に成功したユウヒ、逆に怯えられそうな登場の様な気もするのですが、この先どうなるのかは次回以降をお楽しみに。


 それではこの辺で、次回もここでお会いしましょう、さようならー

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