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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第一章 救出と救済

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第七十二話 異世界・・・バカンス?

 どうもHekutoです。


 修正等完了しましたので、投稿させていただきます。楽しんで頂ければ幸いです。



『異世界・・・バカンス?』


 ユウヒが、風の精霊の笑みに黒い物を感じて諦めの境地で空をダラダラ飛んでいる頃、彼の目指すハラリアはいつも以上の活気に満ちていた。


「なかなかいい出来じゃないか!」


「あざーっす」

 その理由は、森の至る所からハラリアへと獣人が集まり、さらにその住居を作るために次々と大工が集まって汗を流しているからである。そんな、鋸で木を切りテンポよく打ち付ける音を奏でている獣人達に混ざって、どこかで見たことのある人の顔も見受けられた。


「・・・なんで俺、こんなところで大工してんだろ?」


「そんなのパフェに聞いてよ、私だっていきなりやるぞとか言われて引っ張ってこられたんだから」


「なんだいつもの事か、ところでリンゴはこんなことも出来るんだな」

 それは自称ユウヒの親友であるクマと、自称素敵なお姉さんであるリンゴの二人である。獣人大工に褒められ満更でもない表情を浮かべるも、すぐに眉を寄せて首を傾げるクマに、リンゴは大振りの木槌で肩を叩きながら呆れた表情を浮かべ答えた。どうやらすべてはすぐ近くで鋸を振るうパフェが原因の様である。


「別に大したことないわよ、切って削ってくっつけるだけでしょ? プラモとかガレキとたいした違いないし」

 クマ同様に木工を熟すリンゴは、純粋に感心した表情を浮かべるクマに肩を竦めて見せると、本当にどうとも思っていないらしく綺麗に組み上げられた箱型住宅のパーツを前に首を傾げた。


「プラモ、ガレキってガレージキットだったか・・・リンゴそう言うの作るのか?」


「仕事よ仕事、別に好きで作ったことなんてないわ。実際ちょっとネットで調べればテクニックなんてすぐ理解出来たし、あとは簡単な応用だったわね。材料費は全部経費で落としたし」

 リンゴの様なタイプの女性にしては珍しい趣味だと言った感じの表情を浮かべるクマに、木枠の臍を合わせ木槌で叩き入れるリンゴは、趣味ではなく仕事だと語る。


 現在はパン屋さんの相談役と言う、無職なのかニートなのかよく分からない職に就いているリンゴ。それ以前は割と大きな会社の上から数えた方が早い役職であった彼女だが、日々の仕事が楽しくなかったのか昇進も決まりかけていた仕事先を、周囲に惜しまれつつ辞めた後は、仕事もせずに日がな一日ゲーム三昧の生活をおくっていた。そんな彼女が今の様な生活に至った理由は、当然の如くユウヒが原因であるがその話しは長くなりそうなので割愛しておこうと思う。


「はぁ・・・天才ってのはどこか一部分で致命的な欠陥があるんだよなぁ」

 自他共に認める天才の部類に入る残念女性を目の前にしたクマは、落胆が多分に含まれた溜息を垂れ流すと頭を掻きながら自分の作業に戻る。


「あ、手が滑ったー」


「ほわっ!? 今絶対狙っただろ!」

 しかしその瞬間、抑揚を殺したようなリンゴの声と共に、恐ろしいスピードで木槌が飛んでくるのを見たクマは全力で横に飛び込み避けると、恐ろしい音を上げながら地面に刺さる木槌を横目に、倒れた姿勢のまま板を盾に抗議の声を上げるのだった。


「誰かが変な事のたまうから手がすべったのよー」


「驚くほど棒読みだ!?」

 不注意な言動に対する過剰な攻撃に抗議をするも、当のリンゴは一切悪びれた様子もなく冷たい視線を注ぎ、その視線に涙目で驚愕するクマは立ち上がりながら盾にする板を持つ手に汗を掻く。


「・・・・・・そこ! 楽しそうにだべるんじゃない!」

 追撃を恐れ身構えるクマとにらみ合うリンゴの後ろで黙々と作業をこなしていたパフェは、急に動きを止めて振るえだすと勢いよく起き上がり牽制し合う二人に向かって叫ぶ。


「お、おう」


「ちゃんとやってるわよ?」

 作業を中断させたことを怒られ怯むクマと肩を竦めて見せるリンゴは、同時にパフェへと目を向けたのだが、


「違う! そんな楽しそうにじゃれ合って! 私が疎外感を感じるだろ!」


「「・・・そっちかよ(い)」」

 そこには怒っていると言うより寂しそうな表情で仁王立ちするパフェの姿があり、鋸の先端を突きつけながら疎外感を感じると言うパフェの姿に、二人は同時に全く同じ突込みを入れると、何とも言えない脱力感を感じて背中を丸めるのであった。





 何故か正座させられたリンゴとクマが、パフェからマシンガンの様に不満をぶつけられている頃、里の集会場には数人のネシュ族と共にルカとメロンの姿があった。


「ルカちゃんどう?」


「・・・はい、問題なく歩けそうです」

 どうやらルカは彼女達から包帯を巻き直してもらっていたようで、捻挫した足もだいぶ良くなってきたのか、そっと怪我した足に体重を乗せながら立ち上がったルカは、痛まない足にホッとした様な表情で頷く。


「無理は良くないよ? これを使ってねぇ」


「あ、ありがとうございます」

 薬を塗った足を包帯で締めて固定しているおかげでだいぶ楽なようであるが、少し体重をかけすぎるとやはり痛むようで、痛みを感じて僅かにふらつくルカは、すぐにネシュ族の少女に支えられると、彼女から木の杖を渡される。彼女たちの距離感が近い事から分る通り、ハラリアで接する間にだいぶ仲の良くなったルカとネシュ族少女。


「気にすんな、ユウヒ殿がいない間に悪化なんてされたら・・・困るのはこっちだからな」


「氷の檻はもういやなの・・・」

 そんな少女達のやり取りを微笑ましげに見つめていたメロンであるが、何かを思い出し急に震えだしたネシュ族少女に思わず苦笑いを浮かべ、


「・・・家の兄が大変ご迷惑を」

 さらにルカの申し訳なさそうな表情を見るとその苦笑いを深めて、しかし楽しげに小さく口元を緩めるのであった。


「いや、相手の力量も分からないで噛みついたうちらが悪いんだから気にすんな」


「手加減してくれてたしね、まさか矢を掴まれて弓の弦まで切られるとは思わなかったよぉ」

 そんなメロンの見守る中、心底申し訳なさそうな表情を浮かべるルカに、眉を寄せながら頭を掻く灰毛のネシュ族少女は、つい最近知ることになったユウヒの実力を思い出し溜息を漏らす。またルカに杖を渡したトラ猫柄のネシュ族少女は、どうやらユウヒと初めて遭遇したときに弓を射った少女であったらしく、当時の事を思い出して不思議と嬉しそうに笑う。


「あぁお兄ちゃんがどんどん人間をやめていく・・・」

 そんな彼女達の話を聞いたルカは、自分の知らない兄の姿が人外染みていくことに落ち込むと、土間に突いていた杖を持つ手から力を抜いて小上がりに座り込む。


「うふふ、いまさらねぇ」


「「(すごい言われようだな)」」

 終いには頭を抱え小さく唸り出すルカを困った様に見つめていたメロンは、慰めるかと思いきや追い打ちをかける様に笑い声を漏らし、二人のネシュ族少女にジト目を向けながら終始機嫌よさ気に微笑み続けるのであった。





 一方その頃、盛大なクシャミに鼻を擦りつつハラリア上空に到着したユウヒは、


「・・・あれ? ハラリアって要塞だったか? 元々壁はすごかったけど・・・バリスタ? 投石器? それに高層住宅多すぎね?」

 眼下に広がるハラリアを見渡しながら首を傾げ目を擦り、しかし見直したところで変わらない、いや変わりすぎた獣人の里の姿に大きく首を傾げる。


 ユウヒの見下ろす先には、太い丸太の壁に囲まれた広大なハラリアと、いくつも建てられたユウヒ考案の高層住宅。それだけならまだユウヒも納得するものの、それ以外に明らかに作ったばかりの真新しさがある攻撃的な物品も見られ、長閑だった獣人の里は宛ら要塞の様になっていた。


「まさかと思うが・・・うぅむ【探知】えっといたいた」

 ユウヒは、この世界に来て一度も見たことが無い、しかも歴史の本で見たことがある様な大型兵器や攻城兵器の姿に嫌な予感を感じ、その知識をこの世界に持ち込んだであろう人物に当たりを付けると、【探知】の魔法を使いその人物を探し当てる。


「うん、原因は姉さんでいいかな」

 ユウヒの予想した原因の名前はパフェ、ゲームの世界でも現実の世界でもトラブルを呼び込み作り出す女性。


「巻き込まれたな・・・しかしこの短期間でやる辺り流石だよなぁ」

 そんな彼女が絶賛大工達の集まる工作場に居るのを確認したユウヒは、同じ場所にクマとリンゴが居るのを確認すると、何処か不憫そうな表情を浮かべゆっくりと、しかし真っ直ぐと目的の場所へ降下していくのであった。





 そんな目的の場所にユウヒが到着して数分後、


「そうだろ!」

 そこにはユウヒの前でヒマワリの様な笑顔で胸を張り揺らすパフェの姿があった。


「褒めてねーけどなー」


「なんだと!?」

 しかしそんな笑顔も、呆れた様なユウヒの言葉を耳にした瞬間純粋な驚きへと変わり、本気で意味が解らないと言った感情を隠すことのないパフェの姿に、ユウヒは思わず溜息を漏らす。


「お、ユウヒ戻ったのね」


「おぉう・・・それにしても増えたなぁ」

 そんな風にパフェとユウヒがじゃれ合っていると、右手に木槌を持ち、左手でたんこぶ付きクマを引きずるリンゴが姿を現し、戻ってきたユウヒに木槌を持った手を振りながら声をかける。何があったのか一発で解る状況に思わず言葉を失うユウヒは、しかし見慣れた姿でもあることで気持ちを持ち直すと、何事も無かったように話し出す。


「いろいろ増えたわよ、人も建物も兵器もね」


「ふふん!」

 クマの襟首から手を離したリンゴは、木槌を持ったまま胸の前で腕を組むと軽やかに笑いながら様々な物が作られている工作場を振り返り、その隣ではやはりパフェがドヤ顔で胸を張り揺らす。


「何かするだろうと思ってたけど、良くこの短期間で再現できたもんだな」

 目の前で元気よく揺れる双丘から視線を避けたユウヒは、今も量産されているらしい投石器や、大型の矢を投射する兵器であるバリスタに目を向け呆れた様な声を漏らす。


「や、元々昔は使っていたらしいわよ? ただ詳しい人が居なくなってからは、修理もされずにそのまま放置されてたみたいね」


「なるほど、足りない部分を新しく作って補ったってことか」

 だがリンゴ曰く、どうやらこの世界には元々それらの兵器は存在していたらしく、エルフの国の衰退と共に失われて行った技術なのだとか、その証拠にいくつかのバリスタの中には、真新しい木材の中に部分部分年季を感じる部品も含まれている。


「そ、まぁ大して複雑なものじゃないからね」

 木槌で自分の肩を軽く叩きながら、大したことではないと笑っているリンゴであるが、一般人であれば大体の部品が残っているは言え、そこから短期間でそれらを修復する事など出来るわけもなく、自分の事を棚に上げたユウヒは何とも言えない表情で高性能ダメ人間リンゴを見詰めると、諦めた様に視線を別の対象に移し口を開く。


「それじゃあの高層住宅群は?」


「ありゃ半分ユウヒのせいだな」


「半分?」

 しかし次の対象の原因はユウヒであったらしく、服に着いた泥を払いながら起き上がったクマは、高層住宅を見上げるユウヒに向かって呆れを隠す気のない声で説明を始める。


「もう半分はほれあそこ、飛べる獣人? 鳥人? の移動速度が他より早くて集まるのも早かったんだそうだ」


「なるほど」

 ユウヒがハラリアでモデル住宅を乱立させた当初は、作り始めと言う事もあり比較的簡単な小さめの箱型住居が作られていた。しかしその間にも足の速い獣人が続々と集まり始め、特に翼を持ち空を飛べる種族の集まりはとても速く、そんな空飛ぶ彼らに合った住宅こそユウヒの自重の箍が外れた事で作られることとなった箱型高層住宅である。


 自分の頭に出来たタンコブを撫でながら何があったのか話すクマにより、ある程度状況を把握したユウヒは、予想もしていなかった状況に頷きつつもどこか感心と満足感を感じる表情で頷く。


「おお! ユウヒ親方! どうですかい俺らの作品は!」


「親方って・・・いんじゃないですか?」

 そんなユウヒに友人たちがジト目を向けていると、獣人大工の一人がユウヒの姿に気が付き、走り寄ってくるなり自分たちの建てた作品の評価を求める。いきなり評価を求められた上に、最近よく聞くようになった名詞で呼ばれたユウヒは、苦笑を浮かべながら右目で建物を見詰めると、特に問題はなさそうだと頷いた。


「ほんとですかい!? お前ら! 親方からお墨付きもらえたぞ!」


『おおお!』


 その瞬間、厳つい顔にどこか愛嬌のある笑みを浮かべた犬系獣人大工は、顔と同じように嬉しそうな声を上げると、そのまま仲間のいる場所に走りだし大きな声でユウヒのお墨付きが出たと叫ぶ。その声を聞いた獣人達は動きを止めて喜びの声を上げ、その声は津波の様に作業場全体へと広がっていく。


「・・・お・や・か・た」

 それまで以上に騒がしくなる作業場に目を向けていたクマは、徐に振り返るとその顔にニヤニヤとした笑みを浮かべユウヒをからかいだす。


「やめい、最近呼ばれ慣れて違和感が無くなってきてるんだから」


「「「え?」」」


 親方などと呼ばれ恥ずかしがるユウヒの顔を拝もうと思っていたクマであったが、そこにあったユウヒの表情は何とも言えないしかめっ面であり、その少し困った様に口を開く表情を見たクマ達は、その後無言で頭を掻くユウヒを不思議そうに見詰めるのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 心労続くユウヒの予感通りにやらかしていたパフェ達でした。パフェが動く、巻き込まれる周囲、クマが不平不満で軽くなった口を開く、主にリンゴによる制裁と言う流れはヤメロンの日常なのである。


 それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー

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