第七十一話 純粋で疲れを知らぬ者達
どうもHekutoです。
修正等完了しましたので投稿させていただきます。皆様の日常に一笑の出来る様なゆとりある一時を提供出来れば幸いです。
『純粋で疲れを知らぬ者達』
東京某所路地裏ドーム前、そろそろ日が中天に達する時間と言う事もあって、路地裏は一時薄暗さから解放されていた。
「その装置は常に身に着けておいてね? ドームに入っても解除はされないから」
「了解、しかしそんなことになっていたとはね」
そんな路地裏の奥ではユウヒとスーツ姿の女性が会話をしており、女性から受け取ったブレスレットの様な物を腕に付けたユウヒは、ブレスレットを付けた感触を確かめる様に腕を振り返事を返すと、女性に向かって肩を竦めて見せる。
「私が知ってることは一部だけ、本来の目的もよくわからないし・・・」
「探し人見つかるといいですね」
「・・・うん、ありがと」
雰囲気の良い喫茶店で互いの誤解が解けた後、二人は情報と認識の摺合せを行っていた。その摺合せによりある程度彼女の為人や置かれた状況を知ったユウヒは、首を横に振る女性に微笑みかけ、その笑みに女性は困った様な笑みで返す。
「まぁ、うちの様に探されている方が探しているかもしれませんが」
「・・・実際の体験談なだけに笑えないわね」
どうやら女性には探し人が存在する様で、妹を探し当てることに成功しているユウヒの言葉に、女性は実体験と言う事もあって思わず笑みを引き攣らせてしまう。
「ははは、それじゃすべて終わったらまた」
「ええ、その時はちゃんと本来の姿で出迎えるわ」
女性の表情からその感情を察したユウヒは、軽く笑いながらドーム向かって歩きだし、中に入る一歩手前で振り返ると女性に手を振って見せる。そんなユウヒに女性は一つ頷いて見せると、小さく手を上げドームへと入っていくユウヒを見送った。
「・・・うん、忍者を選ばなくてよかった」
ユウヒの背中がドームの向こうに消えるのを見送った女性は、ゆっくりとした動作で手を下げると口元に小さな笑みを浮かべて頷く。いったいユウヒから何を聞いたのかそんなことを呟いた女性は、ゆっくりとした足取りで踵を返し歩きはじめ、その足取りは心なしか軽く感じられるのであった。
一方その頃、見知らぬ女性からやんわりとディスられてるとも知らない三人の忍者達は、
「ぶえっくしょん!!」
「きった・・・いっくしょん!」
「へーっぷしっ!」
三人そろって盛大なくしゃみをしていた。
「全員してクシャミとかwww縁起でもねぇ・・・」
「異世界から何か変な病気もらってきたか?」
「ありえなくはないでござるが、この体のスペックで病気になるでござるか?」
三人同時にくしゃみを漏らしたこ事で、変な病気を疑うジライダにゴエンモは難しい表情で首を傾げる。彼らの体は忍者になった瞬間から強靭な物へと作り替えられているため、大半の毒は効かず病原体も裸足で逃げ出す健康体? となっていた。
「まぁ用心するべ」
「だなって電話だぞゴエンモ」
「およ? どこからでござ・・・キタ!」
そんな体に抵抗できる病気があるものかと三人が不思議そうに首を傾げていると、布団の外された炬燵の上に置かれているスマホが振動を始める。スマホの所有者であるゴエンモは、ジライダに促されるとゆるゆるとした動きでスマホを手に取り、画面を見詰めた瞬間歓喜の声を上げて立ち上がるのであった。
ゴエンモが歓喜の声を上げて小躍りしている頃、
「親方帰って来たよ!」
「・・・」
ドームの向こうに広がる異世界へ戻ってきたユウヒは、一号さんの明るい喜びの声で出迎えられていた。しかし、彼の表情はどこか固く、白い壁の周囲を囲む世界樹の根で出来た小部屋から出てくると、駆け寄ってくる者達に目を向けることなく只々正面だけを見詰めている。
「マスターおかえりなさいませ」
『おかえりー』
「お父様おかえりなさい」
そんな立ち尽くすユウヒに駆け寄って来たゴーレム達は口々に帰還を歓迎し、またココもユウヒの傍に舞い降りると、嬉しそうに花の様な笑顔を見せた。
「お、おう・・・ただいま?」
そこまで来てようやく正気を取り戻したユウヒは、焦点を周囲の者達に合わせるとぎこちなく返事を返し、やはりその視線を彼女達ではなくその向こう側に広がる空間へと向けてしまう。
「親方、僕たち頑張ったよ! どうかな? ねぇどうかな?」
「いや、頑張りすぎだろ・・・」
ユウヒの視線の先をカメラアイで把握した一号さんは、体を避けてユウヒの視界をさらに広げると、その先に広がる光景に手を広げ自信の伝わる声を上げ、その声にユウヒは唖然としたまま小さく呟くのであった。
「説明させていただきます。先ず、世界樹の周囲は生育を邪魔しないように広く空間を開け、斜面だった場所は土を盛って平らに均しました」
ユウヒはたっぷりと時間をかけて周囲の光景を眺めた後、説明を求める様な、それでいて困惑の色が残った視線を二号さんに向け、ユウヒの視線に頷き恭しく礼をとった二号さんは、乱れの無い声で説明を始める。
元々白い壁があった場所は山の中腹に当たり、その為地面は緩やかな傾斜となっていた。そこをユウヒが魔法で切り拓き世界樹を植え、さらに急成長させた場所は今、機械で計測してもほとんど傾きが出ないほど綺麗な土の平地となっており、それはユウヒが拓いた空間の何倍もにもなっている。
「確かに、でこぼこの斜面が綺麗な土のグラウンドになってる」
そんな、野球や陸上競技を行ったとしても何ら支障が出ないような広さの土の平地に、ユウヒは地面を何度か踏み締めると感嘆の声を漏らす。しかしユウヒが驚いた主な原因はそれではない。
「次に地球側からの侵入及び、こちら側からのゲートへの接触を阻むために高さ8メートルの壁を設置、壁の上部には監視するのに十分な巡回用通路と立哨の為の空間を設けております」
「・・・コンクリート?」
ユウヒが最も驚いた物とは、何処か誇らしげな声で二号さんが説明する壁であった。パッと見ただけでも分厚そうに見える無骨な石の壁は、世界樹を守る様に360度を囲む円形状であり、その高さは8メートルとちょっとしたビルの三階に匹敵する物である。
「申し訳ありません。何分急造の為、装飾などは省かせていただきました」
「いや、そこに突っ込んでるわけじゃないんだが・・・ん? あれは出入り口か?」
少し濃い灰色をした無骨な壁はどうやらコンクリート壁の様で、ユウヒに呟きを耳にした二号さんは申し訳なさそうに頭を下げるも、ユウヒが突っ込みたかったのは装飾云々ではなくどこから調達したかであった。しかし突っ込む気力が湧かないユウヒは苦笑を浮かべると、振り返った先に見えた複数の出入り口に目が行く。
「あちらはマスターの作ってくださった私たちの住居スペースへの入口ですね。外への出入りは東西の二箇所に設置してあります」
数は三つ、一つは地下に降りるスロープ状の出入り口で、そこはユウヒの作った小さな丘の様な住居に繋がっており、残る二つはこの世界にも存在するらしい東西に作られた大きな門である。
「おお、もっと近くで・・・む? 金属製?」
少し離れた場所にあってもその大きさの伝わる門に思わず声が漏れるユウヒは、しかしその門の材質に目を細めると、不思議そうに小さく呟く。
「やっぱり、どこから持ってきたんだ?」
ユウヒがなぜ不思議そうにしていたのかと言うと、ゆっくりと門に向かって歩いていたユウヒの目に映る大きな門は明らかに金属の光沢を放っており、そんな金属の門をどこから調達したのか疑問に思ったからである。
「はい、周辺に少しですが鉱脈の反応がありましたので、掘って簡単に精製して使ってます」
「あぁそういえば、D型標準装備には簡易工房キットが入ってたか・・・そこまで再現してたのかぁ」
その疑問はユウヒの半歩後ろを歩く二号さんの説明ですぐに解明されるも、同時にユウヒは呆れと驚愕で小さく頭を抱えてしまうのであった。
現在一号さんや二号さんゴーレム達が装備しているのはD型装備と呼ばれる追加装甲で、これはクロモリオンライン内でユウヒが設定していたオリジナルの装備セットである。D型のDは大工セットの略であり、その中身には採掘から製錬、加工まで行える道具も入っており、大工の範疇を越えた装備であふれていた。
「すごいでしょ! ちゃんと僕も通れる大きさなんだよ!」
「おう、いろんな意味ですげぇ・・・開閉もスムーズだな」
そんな装備を身に纏った疲れることを知らない一号さん達は、ユウヒが地球に戻っている間一切休憩を挟まずに整地、鉱脈の探査に採掘、そこから製錬し加工まで済ませた上に見事ユウヒの予想の斜め上を行く設備を作り上げたのである。
「小型、中型、大型の三段階で開閉できますので、通常の使用にも物資の出し入れにも困りません」
軽く押しただけですんなり開く、人が通れるサイズの門の作りに感心しながら門の先に進むユウヒに、二号さんは大型の門を開きながら嬉しそうに説明を続け、その説明にユウヒは感心しきりな表情で頷いていた。
「へぇ、俺の城は大型オンリーだったからなぁぁ・・・んじゃこりゃぁぁ」
のだが、クロモリオンラインで作った自分の城を思い出し、自分が作るより凝っているなと口にしようとしていたユウヒは、門を通り抜けた先に広がる光景に驚きの声を上げ目を見張る。
「世界樹を中心にと言うことでしたので、円形に切り開き平らに均しました。斜面は一部を削って盛り土に使ってますが、足りない分は採掘で発生した土砂も使っております」
何故ならそこには世界樹を囲う壁の内側など比べ物にならないほど広大で平らな地面が広がっていたからだ。周囲を見渡せば明らかに大きく削られた山の斜面に、下っていたはずの地面遠くまで平地になっている。
「・・・この石畳は?」
「こちらも採掘時に出た石材を精製したり、足りない分は即席圧縮レンガを作って補ってます」
さらに壁の外側は内側と違い石畳が敷かれており、踏み締めた感触からそれなりの厚みを感じたユウヒは、二号さんの説明に驚きが収まらず、しかしカメラアイを嬉しそうに瞬かせるゴーレム達に気が付くと、それ以上何も言えなくなるのであった。
「はぁ・・・広く作ったなぁ」
広大な石畳を歩きながら溜息を漏らすユウヒは、苦笑いを深めながら頭を掻いて思わずそう呟く。
「どれくらいの規模になるか分からなかったので、出来る範囲で広くしてみましたが・・・駄目でしたか?」
「あぁいや、大は小を兼ねるって言うし・・・問題ないよ、頑張ったね」
「はい」
ユウヒの顔を見詰めていた二号さんは、その表情にカメラアイの光を曇らせどこか申し訳なさそうな声で問いかけるも、ユウヒは慌てて振り返り身振り手振りも交えて問題ないと彼女の不安を否定すると、小さく微笑み二号さんを労う。
実際問題、ユウヒがしっかりとした指示を出さなかったのが原因であり、苦い笑みを堪えながら二号さんに微笑みかけるユウヒもそう思っている為、彼女達を責めることなどまったく考えてはいなかった。
「僕も頑張ったんだよ?」
「「「・・・・・・」」」
労いを受ける二号さんの姿を羨ましく感じたのか、一号さんは身を屈めユウヒに顔を近づけ、同じく羨ましかった小型の三人も自分を指さしながら、褒めろと言わんばかりにユウヒに顔を近づける。
「ふふ、そうだなよくやった、おつかれさん。これだけやればとりあえず十分だから、みんなゆっくりしていてくれ」
『はーい』
大きな体で子供っぽい仕草を見せるゴーレム達の姿に思わず純粋な笑みが零れ出たユウヒは、一人ずつ優しく頭を撫でて労う。たったそれだけで満足なのか、ユウヒの言葉に元気よく返事を返した四人は、カメラアイに嬉しそうな色を瞬かせると、軽い足取りで世界樹を囲う壁の中へと戻っていく。
「それではマスター失礼します」
「おう」
一方落ち着いた性格の二号さんは礼を残しゆっくりとした動きで戻って行き、対照的な姉妹の背中を見送るユウヒは、感慨深そうにその背中を見詰め続けるのであった。
「・・・しかし、これどう説明しようか?」
そんなゴーレム、いや娘たちを見送ったユウヒは、勝手に集まってくる精霊達を伴って整地された地面の感触を確認しつつ、その足で石畳の縁までやってきていた。今彼の目の前は盛り土によって急な崖の様になっており、そこから世界樹の方に目を向けると広大な平地が広がっている。
「すげぇ石垣ですね。山城建っちゃうよこれ・・・提案してみるか?」
「お城ですか? 知識ならありますが大きな石造りの家ですよね?」
また崖の方は土や石がむき出しになっているわけではなく、まるでお城の石垣の様に綺麗にカットされた石が詰まれていた。その石積みを四つん這いになりながら上から見下ろしたユウヒは、小さいころ両親と訪れたお城の石垣を思い出す。
「俺の国じゃ木造だけどな」
「それはステキです! 私としても石造りより木の方が親しみが持てます」
昔を思い出し懐かしそうな表情を浮かべるユウヒに、ココは興味深そうに質問し、石ではなく木のお城があると知ると今度は興奮した様に目を輝かせる。
「そんなもんか、それじゃ提案してみるよ」
「はい!」
どうやら木造のお城と言うワードには、世界樹の精霊の琴線に触れる何かがあったようで、きょとんとした表情で彼女を見詰めたユウヒは、目を輝かせるココに興味深そうな表情を浮かべると、エルフへの提案を一つ増やすのであった。
「次来るときは多分母樹と一緒に来ると思うから、それまで一号さんたちと仲良くやっててくれ」
一頻りココの興奮を受け止めたユウヒは、彼女が落ち着いたのを確認すると【飛翔】の魔法で宙に浮きながら、子供にお留守番をお願いする親の様な言葉をかける。
「はい! 皆さんにもっとお父様の武勇伝を聞いておきます!」
ユウヒの言葉に元気よく返事を返したココは、問題発言を残してその場から軽やかに飛び上がり世界樹へと戻っていく。
「おうってちょっとまって!? ココさぁん! っておま!? ・・・あぁ、また俺の黒歴史が流布される」
そんなココの後ろ姿に軽く返事を返そうとしたユウヒは、彼女の残していった言葉と、彼女の後ろに続きながら振り返る風の精霊二人組の黒い笑みに慌てるも時すでに遅く、親指を立てて遠ざかって行く風の精霊の姿に不穏な未来を感じて頭を抱えるのであった。
いかがでしたでしょうか?
前作を知っている方ならまたかと言いそうな、一号さん達の居る光景でした。ユウヒの影響かそれとも生まれたばかり故か、彼女たちの行動には一切の悪意は存在しません。
それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー




