第七十話 接触、謎の美女
どうもHekutoです。
修正等完了しましたので投稿させていただきます。一笑でもして頂ける時間を提供出来れば幸いです。
『接触、謎の美女』
喫茶店の若い女性店員が、三杯目の自分用塩コーヒーを淹れる頃、ようやく心に落ち着きを取り戻し始めたユウヒは視線を前に戻し、どこか恨めしそうな上目づかいで見つめて来る女性と向かい合っていた。
「・・・」
「・・・」
ここまで来ると流石のユウヒも勘違いに気が付いた様で、しかし彼女が何を考えているか分からず、只々困った表情を浮かべている。
「わ、私からいいかしら?」
「あ、はい」
緊張が緩み過ぎていつもの状態に戻ってきたユウヒが、僅かな眠気を感じていると、少し頬が赤く見える女性が上擦った声で話しだし、その声にユウヒは緩んでいた背筋を慌てて伸ばす。
「・・・先ず最初に聞くけど、あなたはいったい何者なの?」
「えっと、それは哲学的な?」
混乱から立ち直った女性が最初に問いかけたのは、ユウヒが何者であるかと言う問であった。しかし、ユウヒからしてみればすでに自分の名前を知っている相手が今更何者か聞いてくるとは思わず、ならば別の意味でもあるのかと首を傾げると、混乱した頭で考え付いた内容を問い返す。
「違うわよ! ・・・外に声が洩れないように細工しておいたから、隠し事しなくていいわ」
しかし返ってきたのは、僅かに苛立ちと羞恥が混ざった女性の大声である。びくりと肩を震わせたユウヒは思わず心配そうな顔で周囲を伺うも、コーヒーを啜っていた女性店員から目を逸らされる以外特に変化はなく、周りのお客から大声を咎める様な目が無い事に首を傾げ、その姿に女性は肩から力を抜くと細工をしたと言ってじっとユウヒを見詰めた。
「へ? おお、何かある」
女性の言葉に目を見開いたユウヒは、両目に力を込めながらもう一度周囲を見渡すと、そこに魔力由来の見えない壁が存在することに気が付き、興味深そうにその見えない壁へとピントを合わせ始める。
「・・・見えるの? やっぱりあなた、管理神かその関係者なのね・・・」
「え? あぁ関係者と言えばそうなるけど・・・むしろ、そちらこそ何者なのかと?」
一方そんなユウヒの姿に目を細め険しい表情を浮かべて見詰める女性は、明らかにテンションを低くしながら呟くと、ユウヒの事を管理神の関係者だと断定し、脱力するように小さく俯く。
表情の良く変わる女性の姿に首を傾げたユウヒは、急に元気をなくして背中を丸める姿を心配そうに見詰めながら、管理神を知っていて自分の事も知っていそうな女性の正体について問いかける。
「え? 私の調査に来たんじゃないの?」
「ん?」
どうやらこの二人の間にはかなり混沌とした勘違いの壁が乱立している様で、ユウヒの問いかけにきょとんとした表情を浮かべた女性は、テーブルの上に少し身を乗り出すと目を見開きユウヒを見詰め問いかけ返し、その問いかけに対してユウヒも首を傾げ小さく声を洩らす。
「え?」
互いに同じような表情で見つめ合う事数分、自分が多大な勘違いのもと行動していたことに気が付いた女性は、急激にその顔を赤くし始め、その赤くなる顔を見て彼女の状況を察したユウヒは苦笑いを浮かべると、力なく革張りの背凭れに体を預けるのであった。
そんな見つめ合う二人からほんの少し離れたビルの屋上。
「こちらトレビ2」
そこには数種類の灰色で構成された迷彩柄の服を着た少女が、後ろに束ねた髪を温い風で揺らしながら双眼鏡片手に誰かと話していた。
<はぁいこちらトレビリーダー、通信は良好よぉん>
彼女の名前はトレビ2ことファオ、いつもはとある歓楽街のお食事処で明るい笑顔を振りまいている、老若男女に幅広く人気な店員である。
「対象はにい・・・護衛対象1と接触、隠れ家っぽい雰囲気の良い喫茶店でお茶なんか飲んでるし!」
しかし現在その顔にはまったく笑顔と呼べるものは無く、まるで怒れる野犬の様に歯をむき出しながら鬼のような視線をある一点に向けており、手元の通信機に向かってしゃべる口調も、平静を保つことが出来ないでいる様だ。
<はいはい、私情は仕舞っておきなさいねぇ>
「むぅぅぅ・・・・・・今のところ特に危険はなさそう」
通信機の向こうから聞こえてくるトレビリーダーことじぇにふぁーは、いつもと変わらない口調で吠える野犬を軽く往なし、そんな彼女にファオは頬を大きく膨らませたかと思うと、長い溜息をゆっくりと吐いてようやく平静を取り戻せたのか、通信機に少し平坦な声を向ける。
<りょうかぁい。それじゃカメラ設置後観察対象3に移動してねぇ>
「え!? 私このまま観察したい! と言うか兄ちゃんとお茶したい!」
しかしそんな落ち着き始めたファオの顔も、じぇにふぁーの指示によってまた大きく変化を見せ、
<はいはいまた今度お願いしなさいね>
欲望願望の塊を通信機にぶつけはじめる彼女に、じぇにふぁーはやはりいつもと変わらない声で却下を下すのであった。
「ご慈悲を<だめぇ>・・・くすん」
<泣かない泣かない、ユウ・・・護衛対象1は逃げないわよ>
「逃げないけど遭遇率低すぎるの!」
それでも一縷の望みに縋るファオ、彼女はなぜかユウヒとの遭遇率が低く、その影響もあってか好意を抱くユウヒに会えると積極的な行動に出ることが多いのだが、その見た目の小ささが影響してかユウヒからは妹や小さい子供扱いを受ける不憫な、大人の女性である。
ファオが泣く泣くビルの屋上から立ち去ってから三十分後、お互いの勘違いを修正し合ったユウヒと眼鏡の似合う大人の女性は、お茶を口にして何とも言えない、しかし真剣な表情で見つめ合っていた。
「なるほど、あなたは異世界人で今回のドームの関係者であると」
「ええ、まさかあなたが管理神の被害者だったなんて・・・勘違いもいいとこだったみたいね」
女性の話を聞いたユウヒは、少し遠くを見るような目で彼女からの説明を簡単にまとめ呟き、女性は紅茶のカップをテーブルに置いて頷くと、急に頭を抱えて項垂れはじめ疲れと安心の籠った声を洩らし、垂れさがった前髪の隙間からユウヒの顔を見上げる。
「被害と言うほどでもないようなある様な、まぁ公的にはドーム被害者になってますし?」
前髪の奥で光る眼がちょっと怖い、などと言う感情をおくびにも出さないユウヒは、肩を竦め苦笑を洩らす。
「要は神隠しみたいなものだし、現状じゃたいした違いなんて無いわよ」
「・・・それで、俺にいろいろ聞きたいとの事でしたが」
そんなユウヒの表情を見上げていた女性は、どこか釈然としない表情で荒っぽく声を漏らすと、背筋を少し伸ばしながら背凭れに身を預ける。そんな彼女の仕草や表情から今一つ相手の感情が読めないユウヒは、少しだけ眉を寄せながら彼女を見詰めると、テーブルに肘を乗せて身を乗り出し、停滞していた本題について問いかけた。
「ええ、最悪の場合敵対もあり得たし・・・その場合は消そうとも思ってたんだけど」
「え、なにそれこわい」
この喫茶店までユウヒを連れて来た時の女性は、まるで射殺す様な視線をしていたのだが、ユウヒの問いかけに真剣な表情でそう話し始めた今の彼女は、ユウヒの呟きにじっとりしたしかし幾分優しくなった視線で、やる気なさ気な苦笑が張り付けられた目の前の顔を見詰めている。
「全然怖がっている様に見えないわよ・・・。それでいくつか確認したいんだけど、どこでこのスーツの事知ったの? これはこの世界とは違う世界で発達したもので、この世界には基礎技術すら存在しないはずよ」
「それはその、出会いがしらについ調べてしまって・・・」
すっかり毒気を抜かれてしまった女性からの、責める様な視線に頭を掻きながら申し訳なさそうに答えるユウヒ。どうやら彼女のスーツは、ユウヒが考えた様な最先端ファンションと言った物ではなく、異世界で発展した技術で作られた特殊な服であるようだ。
「・・・あなた魔眼持ちなの!? なるほど、それなら分からなくもないのかしら」
ユウヒの返答に少し考える様なそぶりを見せていた女性は、ユウヒが指さす金色の目を見て何か察すると、目を見開き驚いたような声を上げる。どうやらユウヒのセリフと目に思い当たる何かがあったらしく、またも頭を抱えた彼女はぶつぶつと小さな声を洩らす。
「えっと、知っちゃいけなかったですかね?」
「同じ世界か管理神の調査員を疑っただけよ・・・ほ、本当の姿を視たわけじゃないのよね?」
感情の上下が激しい女性に対して、少し引いたような苦笑を顔に張り付けたままのユウヒは、なぜか憮然とした表情の女性に睨まれ口元を引きつらせるも、すぐに顔を逸らし恥ずかしそうに体を抱きしめだした女性の横目で睨まれ首を傾げる。
「本当?」
「・・・このスーツがなんなのか視たのよね?」
「いや、今のところ名前だけですけど・・・」
きょとんとしたユウヒを懐疑的な目で睨んだ女性の服は普通の服ではないらしく、名称しか視ていないユウヒは彼女の問いかけに知識欲が疼いたのか思わず右目に力を込めてしまう。
「あぁなるほど、光学的に姿を偽るスーツですか、元々は撮影用で」
「み、視るな!?」
すっかり馴染んだ金色の右目は、ユウヒの意志に従って彼が求める情報をその視界に文字として映し出す。少しづつ視界を埋める文字を読みながら、納得した様に頷くユウヒの言葉に、女性は過敏に反応すると自分の体を隠す様に抱きしめ悲鳴にも似た声を上げる。
「あ、すいませんつい・・・元の姿を見てはいないので安心してください」
「・・・ほんと?」
どうやら、彼女の来ている服は彼女の本来の姿を偽る効果があるらしく、ユウヒの言葉に不安と羞恥で潤んだ目を細め睨む女性は、小さな声で呟き問う。
「ええ、俺の勘が見たら殺されると警告してるので・・・」
「ならいいのよ・・・」
どこか情緒不安定な女性をなるべく安心させるように微笑み頷くユウヒ。事実彼の鋭敏な勘は、先ほどから最大級の危険を告げていたようで、ほっとした様に体から力を抜く女性を見て危機回避の成功を感じると、ユウヒも体から力を抜いて心の中で溜息を漏らす。
「それで疑いが晴れたのなら無罪放免でよろしいでしょうか?」
「疑いついでって言うのもなんだけど、実はあなたに協力を依頼したいの」
「協力?」
連れてこられた理由も判明し、ほっとした表情で少し湿った背中を背凭れ預けたユウヒは、周囲から微笑ましげな目を向けられていることに気が付き、何とも言えない感情を覚える。周囲の視線に気が付いたことで急に居心地が悪く感じ始めたユウヒは、この場を離れたいと言う感情が騒ぎ始めるのであったが、どうやら真剣な表情を浮かべ直した女性曰く、本題はまだ別にある様だ。
「そう、世界中に出現したドームを元に戻すために、最悪元に戻せなくても何とか鎮静化させるために協力してほしいの」
「・・・それじゃ、あなたはドームがなんなのか詳しく知っていると?」
それは現在世界中を騒がせているドーム、その解決に協力してほしいと言うものであった。
「最後まで協力してくれると約束してくれるなら、知っていること全部教えてあげる。もちろん本来の私の姿も信頼の形として見せてあげるわ」
「ふむ・・・一応聞いときますけど」
女性がドームに少なからず関係していると聞いていたユウヒは、突然世界に現れた非現実の解決に協力すること自体には、すでに片足突っ込んでいる事もありやぶさかではないようで、しかしその前にはっきりさせておかなければならない事もある様だ。
「あなたがドームを世界中にばら撒いたわけじゃないんですよね?」
「当然よ! だいたいがこの世界の馬鹿共が悪いんだから!」
「おう、そですか・・・」
それは今回起きた一連のドーム災害の主犯が彼女ではないのかと言う疑惑についてであったのだが、その疑問は即座に放たれた彼女の強い口調で否定される。実際世界中の誰よりもドームに関して詳しそうな彼女を疑うのは当然と言えるのだが、怒りと悔しさで目を潤ませ叫ぶ彼女を見たユウヒには、それ以上疑惑を持ち続けることは出来なかった。
「・・・確かに、原因は私にもあるけれど、人の不幸を願ったりしないわ」
「・・・・・・ふぅむ、まぁこれも何かの縁なのかね」
ユウヒが尻込みするような怒りを露わにした女性であったが、すぐに表情を暗くすると浮いていた腰をソファーに下ろし、小さな声でぼそぼそと話し出す。その内容は、彼女が少なからずドーム発生に関わっている事を示すものであったが、ユウヒはあまりその事を気にせずに己の勘が示すままに答えを出したようだ。
「え?」
「良いですよ、出来る範囲で協力しましょう」
「いいの!?」
ユウヒの呟きに顔を上げた女性は、その視線の先で微笑むユウヒの言葉を聞くとパッと明るい表情を浮かべる。
「ええ、どうせ仕事を失くして暇ですし? あ、でも先に今やってること終わらせてからになりますが?」
どのみちユウヒは、今抱えている解決可能な問題を終わらせればただの無職な暇人になるのだ。アミールからの連絡も未だつかず、楽しみの大半を占めていたクロモリオンラインもサービス停止となった今、何もやる事のない日常は元社畜のユウヒにとって不安でしかなかった。
「ええ! それで構わないわ! よかった、やっと協力者が出来た」
彼女の提案を受けた方が良いという勘の他にも、そっちの方が楽しそうなどと言う打算もあるユウヒは、最初に会った時より幾分幼く感じられる女性が、本気で喜ぶ姿に暖かい目で苦笑を浮かべる。
「・・・なるほど(なんとなぁく親しみやすさを感じていたけど、なるほどボッチの波動だったか・・・)」
何故なら、彼女の言動からはボッチが持つ特有の気配が感じられ、その気配はユウヒ自身ひどく慣れ親しんだものであったからだ。
「と、ところで」
「・・・ん?」
なんだかんだと知り合いの多いユウヒであるが、昔から団体行動より単独行動の方を好む性質で、それは今も変わらず、少人数なら何ともないが集団の中ではいつの間にか孤立する傾向にある。
そんな過去のトラウマが脳裏でちらちら顔を出すことで、口の中が苦くなったように感じたユウヒがお茶で口を潤していると、つい先ほどまで大喜びしていた女性は急にピタリと動きを止めて上目遣いでユウヒへ問いかけてくる。
「職を失くしたのって、もしかしなくても・・・」
それはユウヒが職をなくした理由。
「・・・ドームの影響やね」
「・・・ごめんなさい」
酷く聞き辛そうな表情の彼女に何と答えようか考えたユウヒであったが、名前を調べ上げられる様な相手に嘘をついたところですぐばれるだろうと、少し困った様に眉を寄せると真実を口にし、その言葉を聞いた女性は俯き萎れてしまう。
「ははは」
周囲に声は洩れないものの、一喜一憂する女性と、終始疲れているかのような顔で苦笑を浮かべるユウヒの姿は周囲から丸見えであり、声が聞こえないが故により一層想像をかきたてられた周囲の視線は、その後もしばらくの間ユウヒの精神的疲労を助長させるのであった。
いかがでしたでしょうか?
謎の美女とユウヒの尋問?デート?でした。周囲からは完全に痴話喧嘩の末の仲直り現場だと思われてチア様ですね・・・。
それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー




