表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第一章 救出と救済

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

70/356

第六十九話 緩やかに

 どうもHekutoです。


 修正等完了しましたので投稿させていただきます。お暇のお供にでも楽しんで頂ければ幸いです。



『緩やかに』


 夏の日差しが益々強くなる東京某所。


 異世界でバカンスを楽しむ友人たちが、そろそろ日本食に飢え始める頃合いだろうと予測したユウヒは、暑さに屈し遠出することを早々に諦めると、近場のスーパーで購入した荷物を片手にいつもの場所へとやってきていた。


「ちょいと荷物が増えたけど・・・分割して入れるしかないか」

 真っ黒な中に森の様な文様が揺れるドームを見上げたユウヒは、パッと見ただけでも軽く数キロを超えてそうな荷物を揺らすと、少しめんどくさそうに呟きその場に荷物を下ろす。


「一号さんたちどのくらい進んだかな、ちょっと不安もあるけど期待も「ちょっと待ってもらえる?」・・・はい?」

 昨日、一号さん達に世界樹周辺の整地を頼んだユウヒは、彼女たちの新事実に苦悩していた事を忘れた様に、楽しそうな表情を浮かべながら彼女達へのお土産を分けつつ、これから向かうドームの向こうへと思いを馳せていた。しかしそんな独り言は、後ろから聞こえて来た声で驚き止まり、妙な圧力を感じる背後の気配にユウヒはそっと後ろを振り返る。


「ドームの向こうに行くのは止めないけど、少し御話を聞かせてもらえないかしら」


「えっと・・・その節はなにやら申し訳なく」

 屈んだまま恐る恐る後ろを振り返ったユウヒの目の前には、彼が危惧した女性が射抜くような視線を向けながら真っ直ぐと立っており、その威圧感を前に元々強気な女性が少し苦手なユウヒは、何時でも目を守れるように身構え立ち上がり、言葉を選びながら小さく頭を下げるのだった。


「そのことについても詳しく話しましょ? ・・・こっちよ」


「・・・(おこってるぅ絶対怒ってるぅ・・・やっぱ女の人は何が禁句かわかんねぇ)」

 しかしそんなユウヒの選んだ言葉は、彼女にとって好意的に受け止めることの出来る言葉ではなかったようだ。


 不安そうなユウヒの前で、眉を寄せていた目をさらに細めた女性の表情は、その見た目も相まって非常に冷たく感じられ、火に油を注いでしまったと感じたユウヒは心の中で後悔を叫ぶと、先を歩き始めた女性の後を無言でついて行く事しか出来ないのであった。


 彼女の目的地に着くまでの間終始無言であったユウヒの表情は、偶然その姿を見かけた知り合いの主婦曰く、断頭台の階段を上る死刑囚の様に青ざめていたと言う。





 ユウヒが真夏に真冬の気分を体験している頃、とある仮設感漂う建物の一室では、白い壁を照らすプロジェクターの隣に立った男性が、統一された服装の男女の前で何かの説明を終えていた。


「以上が今回新しく判明した事実だ。よってその確認と機材搬入が今後の主任務となる。・・・いいぞ」

 説明の終了を意味する締めの言葉を口にした男性に、すぐ目の前のパイプ椅子に座っていた若い男性が手を真っ直ぐ上げる。


「はい、今回の情報ですがいったいどこの部隊で判明したのでしょうか? あとこのサイトに登録と言うのは、うわさは本当であると?」


「あぁ・・・今回の情報は外部から入手されたものだ。それらすべて石木大臣からもたらされている」

 挙手した若い男は、説明をしていた男性の許可をもらうと座ったまま疑問に思った事を複数問いかけ、その疑問に思わず苦笑を洩らした男性はすぐに表情を戻すと、防衛大臣の名前を出しながら情報は外部から齎されたものだと話す。


「外部・・・」


「あぁお前の考えているとことは違うぞ? 外部ってのは一般人からってことらしい」


「・・・」

 男性の使った外部と言う言葉に眉を寄せた若い男性、その反応は他の若者達からも漏れ出し始める。しかし、彼らが外部と言う言葉を国外からと考えた事を察した男性は、プロジェクターのスイッチを切りながら勘違いを訂正するも、目の前の若い男性を筆頭に大半の人間がぽかんとした表情で言葉を失ってしまう。


「言いたいことはわかるがな、世の中一般人ってもんを隠れ蓑にしている化け物もいるんだ。あまり偏って考え無い方がいいぞ?」


「化け物、ですか?」

 彼らはその特徴あるベージュ色の半袖ワイシャツと、胸に付けられた階級章から陸上自衛隊の隊員であることがわかる。そんな彼らの上司にあたるのであろう人物の口から跳び出した、化け物と言う言葉に若い隊員の男性は首を傾げ訝しげに呟く。


「ベテラン連中は耳にしたことがあるかもしれんがな、現実は小説より奇なりってのはよく言ったもんさ」


「まさか・・・」

 一向に納得のいかない表情を浮かべる隊員達に口元を緩めた男性は、同年代か自分より上にも見える隊員達に目を向けると意味ありげな事を語りだし、その姿に何か察したベテラン隊員達は揃って顔を蒼くする。


「ふふ、俺たちが接触するわけじゃないんだ。そう嫌な顔をしないでくれよ」


「勘弁してほしいですよ」

 顔を蒼くする隊員に頷いて見せた男性は、しかし肩を竦めるとフォローするように話しだし、その言葉を聞いて互いに顔を見合わせながら肩の力を抜く隊員達。彼らは思わず互いに苦笑を浮かべ合うと、少し皺の目立ち始めた男性が代表して口を開き、正面でニヤリとした笑みを浮かべ続けている男性に向かって肩を竦めて見せると、溜息混じりの声を漏らすのであった。





 急に緩んだ空気に笑い声が漏れる一室から少し離れた、幾分小さめの部屋の中では、壁に貼られたホワイトボードシートの前で三十台に足を踏み入れてそうな男性が、胸を張り両手を腰に当てた姿勢で、目の前のパイプ椅子に座る女性達を見下ろしていた。


「諸君、我々に新しい任務が下った」


『・・・』

 そんな男性はその立ち姿同様に気合の籠った声で話し出すも、話しかけられた『諸君』は、ただ静かに冷たい視線を返すだけである。


「いや、そう睨まないでほしいんだけど・・・」


「どうせまたドーム関連じゃないですか、隊長はそんなに私たちの裸が見たいんですか?」

 冷たくじっとりした視線の群れに睨まれた男性は、さっきまでの姿が嘘のように背中を少し丸めると、悲しみと疲れたの混ざった声を漏らす。どうやら彼を筆頭に彼女らも自衛隊員の様で、ドームの対応に奔走している様だ。


「見たいかと言われたら見たくないとは、ちょちょ!? その黒い刃物は抜いちゃダメだって!?」


「隊長、正直な事は美徳ですが・・・時と場所は選びましょうね?」

 しかしその奔走もうまくは行っていない様で、思わず自らの性を発露し始める男性に暗い表情を浮かべた女性は、何処から取り出したのか反射防止塗装の施された黒いナイフ手にすると、徐に立ち上がり腰の引けた男性ににじり寄りその耳元で小さく呟く。


「まったく、俺のウィットに富んだ冗談をなんだと思ってるんだ。安心しろ、今回は中に入ることは多分ない」

 にじり寄られ頬をナイフの先端で突かれながら注意を受けた男性は、少し頬を赤くしながら悪態つくと、資料片手に背中を壁にあずけて本題に戻り説明を再開する。


「たぶん・・・」


「あとお隣が裸にならなくて良い方法の実証に入るから、そのうち問題なくなるだろ」

 しかし微妙に安心できない内容の話に女性達の表情は優れず、視線を上げた男性はその表情を見ながら窓の外を指さしながら一応のフォローを試みるのだった。


「・・・あの噂ですか?」


「そ、何か確度の高い情報が入ったらしいよ?」

 彼女たちはとある掲示板で騒がれていたドーム突入部隊に参加していた自衛隊員であるのだが、その際に生まれたままの姿を同僚に見られると言う不幸にあって以来、ドームに極力接触していない。


 そんな彼女達一部の自衛隊員の中には、ユウヒ達同様にジャージ姿に変わっていた者も居り、それ故にネットの一部でうわさになっている話も耳にしていた。その信憑性はわからないものの、噂はこの場に居る人間達の間では共有化されており、当然それは彼女たちの目の前で説明を続ける男性も知っているため、女性の不明瞭な疑問にも大きく頷いて応える。


「一応、期待しておきます」


「はぁ、んで任務と言うのがだな・・・えーっとこのドーム、ここの警備兼中から出てきた人間の支援及び保護だ」

 現在女性達に説明をしている男性は一応彼女たちの上司になるのだが、急造の部隊である為信頼関係は今一つの様で、女性陣からの不満たらたらな視線にお腹を摩った男性は、溜息を漏らしながら任務について説明し始めた。


「保護と・・・支援、ですか?」


「それって、中から人が出てくること前提ってことですよね? しかも支援って、出入りしている部隊が居ると言うことですか?」

 しかしその内容に怪訝な表情を浮かべた女性陣は、すぐに疑問を口にし始め、そのことを想定していた男性は何とも言えない困った表情で腕を組む。


「・・・ココからは秘密厳守なんだが、今回様々な情報を流してくれた民間協力者、その情報源となっている人物が、現在このドーム内に入り遭難者の救出及びドームの調査を実行しているそうだ」


「民間? それって、要は一般市民ってことですよね?」


「違う・・・と言いたいが、その通りらしい」

 何事か考え込んでいた男性は、意を決した様に表情を引き締めると、すこし小さめの声でゆっくりと話し始める。どこかで聞いたことのある様な話を、壁に貼られたどこか見覚えのあるアーケード街のドーム写真の前で話す男性は、ナイフを手にしていた女性の驚いたような声に力なく頷く。


「規制しないんですか?」


「そうですねぇ? ドームへの接触は禁止、見かけたら注意もしくは捕縛と言うことでしたのに」


「俺も詳しくは分からん! 分からんが、なんでもドームからの自力帰還者で? その辺の自称専門家よりいろいろと詳しい人物だそうだ」

 現在日本では一般人によるドームへの接触は規制対象であり、見つかると高確率で捕縛され小さな部屋で頭を冷やすことになっている。自衛隊員や警察、一部の研究者以外の接触を一応禁じている現状で、秘密裏にとは言え一般人のドーム接触を容認する内容の命令を聞いて、この場に納得している者は居ない様だ。


「専門家・・・あんな怪奇現象に、専門家とか居たですか?」


「俺に聞くな、そんなこと俺の方が聞きたいっつの」

 しかしそこは命令である為、無理やり納得することにしている男性は、呆れた様な疑問の声をぞんざいに扱うと、頭を乱暴に掻きながら肩を落とす。


「第一部隊支援の次は民間協力者の支援ですか、これは格下げされたんですかね?」


「うぅん? まぁ格下げではないが、秘匿性は上がってるだろうな・・・なんせあと数部隊このドームに着く予定らしいし? 自衛隊以外も来るらしいからな」

 肩を落としたまま自分用のパイプ椅子に前後逆、背凭れを前にしてまたがる様に座った男性は、苦笑を浮かべる女性の格下げ発現にどうでもよさ気な表情で返事をすると、背凭れのふちに載せた腕に顎を載せながらめんどくさそうに呟く。


「え?」


「厄介そうですね」


「全くだ。なんで一部とは言えうちが仕切らにゃならんのか・・・」

 心底めんどくさげな男性の言葉に思わず小さな声を洩らし、周囲と視線で語り合う女性陣に気だるげな視線を向けていた男性は、目の前の女性の苦笑いを伴った言葉に頷くと、その後しばらく愚痴を零し続け、女性達から少しだけ温くなった冷たい目を受けるのであった。





 今日もユウヒの知らない場所で彼の噂がされている頃、ドナドナと悲しげな歌を幻聴しながら女性の後に続いて歩いていたユウヒは、


「・・・」


「・・・」

 人気のそれほど多くない町の奥まった一画にある喫茶店の、こじんまりとした席で女性と向かい合っていた。


「・・・(よ、呼び出したのは良いけど・・・何から話したらいいの?)」


「・・・(睨まれてる!? めっちゃ睨まれてる!)」

 静かに向かい合って見つめ合う二人は、一見すると初々しい恋人同士に見えなくもないが、二人の心境はそんな甘い物では無いようだ。


 目を細め睨むようにユウヒを見詰める女性は、出たり入ったりを頻繁に繰り返すユウヒがドームの向こうに消える前に慌てて引き留め、喫茶店まで連れ込んだはいいが、後の事を考えてなかったことでここに来てどうしたらいいか混乱しながらも考え中の様である。


 一方ユウヒはと言うと完全に相手を怒らせてしまったと勘違いしており、実際射殺さんばかりに細められた彼女の視線は、混乱した内心の為かちょっとした人殺しの眼であった。


「・・・(いきなり核心突いて違ったらあれだし、でもスーツの事からも何かしらかの組織に関係ありそうだし・・・うーん)」

 緊張しながらもポーカーフェイスを維持しつつ、女性から見えない背中に気持ち悪い汗を掻くユウヒを見詰める女性は、唇に曲げた人差し指の甲を当てながら考え込むと、未だに謎の多い相手にどう話を切り出したものかと、考え過ぎて思わず唸る。


「・・・(唸ってらっしゃる!? 噛みつかれる? 噛みつかれるの? いやまぁ美人から噛まれると言うのもなかなか得難い経験・・・いかん、緊張しすぎて思考が忍者化してる、ここは先手を取って場の空気を制す!)」

 またユウヒは、その唸り声が恨みか怒りか威嚇かと恐怖し、背中の発汗量を増やしながら彼女の背後に怒れるキツネを幻視してしまい、思わず現実逃避により某三人の忍者達の様な発想を始め、キツネの甘噛みを妄想して頬を緩めそうになるも、すぐに正気を取り戻すと気を張り直す。


 固着状態が続く中、ユウヒは意を決すると膝の上、テーブルの下で隠れている手を握り込み顔を上げる。


「「あ、あの! はい!?」」

 すると全く同じ動作を行っていた女性と言葉が重なってしまい、驚いたユウヒと女性はやはり全く同じタイミングで驚き、びくりと肩を振るわせしてしまう。


「「・・・・・・」」

 まるでラブコメのワンシーンの様な状態に陥ってしまったユウヒは、思わぬ事態に混乱しつつも頬が熱くなってくるのを感じ、そんなユウヒの表情に何か感じた女性は僅かに目を見開き恥ずかしそうに俯く。


 それまでは、一見したら初々しい恋人の様に見えるもよく見たらそうでもなかった二人は、今のやり取りで完全にカップルのそれにしか見えなくなる。客がそれほど多くないとは言え、人がいないわけではない店内、少し離れた場所でお茶を楽しむ老夫婦や女性客はそんな二人にこっそりと温かい視線を向けていた。


「・・・(何あれ、もげればいいのに)」

 そんな視線に気が付き余計に恥ずかしくなるユウヒと、顔を隠す様に俯きを深くした女性は、その後もしばらくそのままの状態で一言もしゃべることが出来なくなる。その間もずっと二人を見詰めていた店員の女性は、心の中で小さく呪詛を呟くと、徐に自分のコーヒーに砂糖ではなく塩を振りいれるのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 ユウヒの知らないところで、ドーム関連の話しが緩やかな加速を見せ、緩やかな空気の流れる場所でようやくユウヒとまともな接触に成功? した謎の女性。この流れがどこへと向かうのか、ゆっくり楽しんで頂ければと思います。


 それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ