第六十一話 急性
どうもHekutoです。
修正等完了しましたので投稿させていただきます。楽しんで頂ければ幸いです。
『急性』
歓喜に狂った世界樹の精霊が正気に戻り、目の前で疲弊するユウヒに慌てると言う事件が起こったのは一時間前、ウォボル達によって着々と進められた世界樹急成長計画の準備は完了し、あとはユウヒが魔法をかけるだけとなっていた。
「んー魔力足りるかな? これやったら本格的に魔力補給の道具作らないと一向に全快する感覚を感じない」
急成長時の危険を考え柵を広げ周囲を広く拓いた世界樹の苗木の前には、いつもより少し疲れの色の濃い顔をしたユウヒが、機嫌良さそうに揺れる世界樹の苗木の前に屈み、揺れる若葉を優しく突きながらごちっている。
「ユウヒ大丈夫かにゃ? 無理っぽいならじーちゃんに無理って言ってあげるよ?」
「そん時は頼むさ」
その隣には、そろえた両膝に手を乗せて少し前に屈んだネムが、目の前にあるユウヒの顔を覗き込んでおり、その顔に溜まった疲労の色を見て申し訳なさそうに眉を寄せていた。ユウヒが疲れた表情を見せる原因は魔力の使い過ぎもあるのだが、現在感じている疲労の大半が母樹のテンションによるところが大きいユウヒは、申し訳なさそうな表情を浮かべるネムとその後ろに浮いている同じ表情の母樹に思わず笑みを漏らす。
「わかったにゃ、気を付けてね?」
ユウヒの言葉に頷いたネムは、一言そう残すと予め話し合っていた段取り通りにユウヒから離れた場所に駆け出し、獣人たちの手で用意された小さな柵で作られた物陰から頭と尾を出してユウヒの背中を見詰める。
そんな風にユウヒを見詰めるのはネムだけではなく、発案者のウォボルを筆頭にそれなりの地位にある獣人数名、リーヴェンやザックと共に後ろで控える世界樹のお世話をしているエルフの女性神官、あと好奇心丸出しの目を爛々と光らせるパフェと愉快な仲間達に、心配そうに眉を歪めて柵から顔を出すルカ。
「あいあい、さてやるか【単体化】【高速化】んでもって今回は魔力少なめに【グローアップ】・・・どうだ」
様々な視線を主に背中側から感じるユウヒは、ネムに軽く後ろ手を振ると、目の前のまだ小さな苗木を見詰めながらこれまでの経験を思い浮かべて細心の注意を払い、妄想と魔法の選定を行う。
『・・・お、おおお!?』
すべての魔法のキーワードを唱え終わったユウヒは、無用なフラグを立てないように言葉を選びながら、目の前で小刻みに揺れ始める世界樹の苗木を見詰め小さく呟く。その瞬間、世界樹の苗木から明るく暖かな光が溢れだし、周囲で見守る者達をの目を見開かせ驚きの声を上げさせるのだった。
一方その頃、世界の壁を越えた日本の某所でも驚きの声が上がっていた。
「おおおおお!」
「ふおおおお!?」
「なんじゃこりゃぁ!?」
しかしそこには光溢れる何かがあるわけではなく、むしろ真黒な服を着た忍者が三人顔を寄せ合い低い声を上げており、神々しさを感じさせる世界樹とは全く真逆に近い面妖な光景を作り出している。
「お、お母さん・・・私の足どうなってるの?」
彼ら三人が見つめていたものとは、不安そうに揺れる子供特有の高い声の主である少女の両足、そこに深く刻まれた痛々しい傷跡であった。そう、彼ら三人はユウヒから貰い受けた薬をようやく使うことが出来たのである・・・が、
「・・・oh」
「ええ!? 何その顔! ねぇお母さん!?」
その傷薬の効果と光景には、忍者三人だけでなく少女の母親も驚きを禁じ得ないようで、少女が不安そうに声をかける中、顔を蒼くしたリサは口を押え小さく驚きの声を洩らすことしか出来ない。
「逆再生だな」
「流石ユウヒの封印指定品、薄めてこれかよ」
「と言うか、おっさん三人で少女の足を凝視するとか通報待ったなしでござるな」
直視するには少々グロテスクな光景を目の前に、忍者三人はうつぶせで寝ながら目に涙を滲ませる少女の両脚をじっと見詰め、ユウヒから渡された魔法薬の効果に戦き、ゴエンモの呟きに反応するとゆっくりと彼女の母親に目を向けながら顔を上げる。
「すごい・・・こんな急激な細胞活性なのに綺麗に修復? 再生されるなんて、現代医学が崩壊します。デモこれ、安全なノ?」
「え? やぁユウヒは大丈夫だって言ってたけど?」
「えっと? 魔法の力で対象の細胞から情報を読み取り、体の欠損部位を再構成するだとさ」
「薬品はつなぎでメインは液体化した魔力による欠損部の再構成と分裂活性化でござったか?」
しかし、彼らが目を向けた母親のリサは、蒼い顔と鋭い眼差しで母国語混じりの日本語をぶつぶつと呟いており、その雰囲気がどこかマッドモードなユウヒの様で思わず言葉を失う三人。
そんな三人の視線に気が付いたリサは、誤魔化す様な笑みと不安そうな笑みを足して割った様な微妙な表情で小首を傾げ、その問いにジライダは懐から取り出した紙を読み、ゴエンモもその紙を覗き込みながらユウヒに聞かされていた効能を口にする。
「まさに奇跡デス・・・」
「メモにまだいろいろ書いてたような・・・あった。傷が塞がってる様に見えるのは魔力による疑似細胞なんだと、しばらくすると自分の細胞と入れ替わるらしいお、その活性化もしてるから、薄めたやつでも切断レベルを完全に繋ぐのに一日あれば良いんだと」
もともと理系のリサは、忍者達のふわっとした説明でもある程度薬の効果を把握できたらしく、驚きの表情で娘の足を見詰め、そこに刻まれていたはずの傷が無い事をその手で確認すると、ヒゾウのさらなる説明を聞きその完治の早さに座っているにも関わらず僅かな眩暈を感じている様だ。
「・・・皆サン、本当にありがとう」
不安そうに見詰めて来る娘に綺麗な笑みを浮かべて返したリサは、彼女の足を優しく何度も撫でながら忍者達を見上げ、お礼の言葉と同時に頭を下げる。
「お、おう」
「拙者らはユウヒ殿に凸しただけでござるがな」
「まぁ問題なく動けるようになるにはリハビリがいるんじゃないかって言ってたけどな」
慈愛に満ちた母親の笑みを向けられたヒゾウは顔を赤くしながら返事を返し、ゴエンモも少し照れくさそうにしながら肩を竦めてみせ、特に大変な事をしていないと言った顔でジライダに視線で同意を求め、同意を求められたジライダは軽く頷きリハビリは必要だろうと少女に目を向けた。
「お母さん、私また歩けるの?」
「ええ、歩けるわ!」
「やったー!」
ジライダの視線を受けた少女は、期待と不安の混ざる目で母親を見上げ問いかけ、その問いに対して最高の回答が返ってきたことで、いままで不安そうに歪められていた顔に花を開かせる。
「えーはなしやな」
「いかんな、最近歳のせいか涙腺が」
「ささ、妹ちゃんの傷も治すでござる」
母親と娘が作り出す空気にあてられた三人は思わずその目に涙を浮かべ、その涙を隠す様に顔を逸らした二人に苦笑を浮かべたゴエンモは、潤んだ目を強引に擦って誤魔化しながら少女に声をかけるのだった。
「そうね、すぐ連れてくるわ!」
ゴエンモの言葉に抱きついていたリサから離れた彼女は、ゴエンモにニコッと笑いかけると、治ったばかりで力の入れ辛い脚を庇いながらベットの脇に置かれた車椅子に移動を始める。
「ところでゴエンモ」
「ござ?」
今まで自分で動く気力すらなくなっていた少女が、自分の力だけでベットから降りようとする姿に、リサ同様に感動を覚えるゴエンモであったが、妙な表情で話しかけてきたジライダに気が付くと小首を傾げた。
「俺らここの医者の仕事奪ったわけだが、大丈夫だろうか?」
「・・・おぉ、拙いでござるな」
「いろんな意味でヤヴァイ?」
緊急搬送されたこの病院の医師達が、元通りに治すのは困難だと揃って口にした二人の怪我。そんな怪我を面会時間であっという間に治してしまった三人は、問題解決と共に冷静になった頭で現状を再認識したようで、この先どう言う展開になるか分からないものの良くない状況であることはわかるのか、互いに見つめ合って顔を蒼くする。
「・・・」
それはリサも同様であるのか、引きつった様な苦笑いを張り付けた彼女は、何をどう説明したらいいのかと悩んでいる様子だ。
「まぁ幼子の笑顔に比べればなんてことないでござる」
「まぁね、余った薬は有効活用してくれって言われたけど、割と厄介だな」
「原液持ってるユウヒはもっと大変だお」
しかしそこは忍者になったことで無駄に前向きな思考に拍車がかかった三人、やったものは仕方がないと開き直ると笑いだし、優先順位は少女の笑顔だと言いだすとさらにユウヒの心配まではじめる。
「薬の事は秘密だな、嬢ちゃんもいいかい?」
「わかった! 秘密だね!」
三人の笑い声に思わず微笑んだリサの前では、ジライダと車椅子に移動できた少女が指切りをしており、そのどこか可笑しく幸せな光景は彼女の涙腺をまたほんの少し緩めるのであった。
そんな暖かな病院の個室から遠く離れた名も無き異世界の、日本の野点傘にも見える大きな傘の下では、
「そうですね、しばらくは秘密が良いでしょう。これからはその場所を守るために注力いたしましょう」
「それはありがたいが、いいのか?」
真剣な表情のリーヴェンと首を傾げるユウヒとの間で、何かの秘密の取り扱いについて取り決められている様だ。
「はは、守るべき聖域もなくなってしまいそうですからね」
「ふむ、ならついでになんだが」
「はい?」
住む場所も守る場所も無くしてしまったリーヴェンは、ユウヒの言葉に力の籠らない笑い声を漏らすと肩を竦め、そんな彼にユウヒは何か納得した様に頷くとさらに何か注文を口にしはじめ、その真剣な表情にリーヴェンはきょとんとした表情を浮かべる。
「俺が今回の世界樹復興に関わったと言う情報も秘密に「無理でしょうな」・・・なんで?」
しかしそんな表情も束の間、ユウヒが真剣な表情でお願い事を口にするも、その言葉は途中で苦笑を浮かべたリーヴェンにより切られてしまう。
「急成長を見ていた者も多く、また精霊様に知れ渡っているようですし・・・精霊の声が聞こえるだけなら、割とこの森にも多いですから」
「マジか・・・まぁ良いか」
真剣な表情からいつもの気力を感じない表情に戻って疑問を口にするユウヒに、リーヴェンは笑みを浮かべながら理由を説明し始める。
ユウヒが秘密にしておいて欲しかった事とは、案の定やりすぎて大きくし過ぎてしまった世界樹についてであった。当初3メートルほどの高さまで成長させるつもりでいた世界樹は、何が理由か定かではないが大きく急成長を果たし、ココの世界樹ほどではないにしろ、5メートルを超える大きさにまで成長してしまう。
そこまで大きくなってしまうと、周囲の目を遮るための囲いの外からでも急成長する世界樹の姿を見ることが出来てしまい、それ以前にこの世界の精霊達もご多分に漏れずうわさ好きで、彼女たちはすでに精霊の声が聞こえる獣人やエルフの下へと飛び立った後なのだとか。
「お父さん、名前きまった?」
そんな事実に背中を丸めて肩を落とすユウヒの肩には、今の母樹より少し大きい幼女がぴったりと寄り添っており、ユウヒを父と呼び笑いかけている。
「いやまだだ、日単位で待ってくれると嬉しいんだが」
「わかった! おかあさぁんまだみたぁい!」
大きさこそ母樹より大きいものの、まさに幼女と言う言葉にふさわしい頭身でユウヒの言葉に元気良く頷いた彼女は、例の如く急成長を遂げたハラリアの世界樹から生まれた世界樹の精霊であった。
「・・・素晴らしいです。大きな母樹様も良いですが、小さいお子様も微笑ましい」
「つ・・・うーむ、これで三児? 三樹? の父か、俺まだ結婚もしてないんだけどなぁ」
今の今まで真面目に話してリーヴェンであるが、目の前をふわふわと飛んで世界樹の根で休む母樹の下へ向かう精霊の姿に、思わず目尻を緩めると鼻息を荒くしはじめる。その姿に、頭の片隅で通報と言う言葉を過らせたユウヒは、小さくため息を吐くと大きく育った世界樹を見上げながら思わず愚痴を零す。
「当ては無いのですか?」
「ないよ、しかしユラから立て続けと言うわけでもないが世界樹の名付け親が続くな・・・そうだ」
「ふふ」
ユウヒの愚痴に視線を戻したリーヴェンは至極不思議そうな表情で首を傾げ、そんな彼の問いにユウヒはぶっきらぼうにも感じられる声で短く返す。短い返答がこれ以上聞くなと言う意味も込められていることに気が付いたリーヴェンは、申し訳なさそうに口をつぐむも目の前で世界樹を見上げるユウヒの表情を見詰めると思わず笑みが洩れだしてしまう。
「何その笑み、まぁいいか。それで集落についてだけど、基礎的な土木工事は当てがあるからやっておくよ」
「良いのですか?」
煩わし気な表情から楽しげな声を零すユウヒの姿に微笑ましさを感じたリーヴェンは、ユウヒのジト目に首を振ると、続く言葉を聞いて驚いたように目を見開く。
「こっちも出入り口を守ってもらうわけだからな、うまくいくかわからんが、その間は対基人族に集中しててくれ」
「わかりました。ユウヒ殿の妹君や御友人には一切指を触れさせませんのご安心を」
すでに本決まりとなってきているココ周辺へのエルフ移住計画。母樹の移動を踏まえたその計画の第一段階として、ココの世界樹周辺の整地は必要で有り、その作業をユウヒが請け負うと言うのだ。
ユウヒの魔力と魔法の凄さを知っているリーヴェンとしては、ユウヒの行動を心配してはいないのだが、頼ってばかりになっている現状に申し訳なく感じている様で、表情を引き締めた彼は胸を叩くと、ユウヒの心労を少しでも減らそうと言う感情が良くわかる提案を口にする。
「・・・俺はあいつらが暴走しないか、そっちの方が心配なんだがな」
しかしそんなリーヴェンの心を知ってか知らずか、ユウヒは肩を落とし気味にそう洩らし、どこからともなく聞こえて来たパフェの声に、二人は互いに苦笑を浮かべ合うのであった。
「話はまとまったかの? まとまったよな? うむ、まとまったなら昼飯じゃ! もうわしは待てぬぞ!」
「・・・」
真面目な話が終わり談笑へと移り変わる大きな傘の下、そこへ現れる大きな人影。それはハラリアの族長の影であり、彼の口から飛び出す大音量に驚いたユウヒは、腕を胸の前で組みどっしりと大地に立つウォボルをポカンとした表情で見上げ首を傾げる。
「ふふふ・・・お孫、ネム殿の手作り料理が食べれるから待てなかったのですね」
「・・・なるほど」
そんなユウヒの前で可笑しそうに笑うリーヴェンの言葉に、ポカンとした表情を浮かべていたユウヒの脳裏には、流華の手作り料理を幸せそうに食べていた父親の姿が自然と浮かび、すべてを理解し彼は納得した様に頷きゆっくりと立ち上がるのであった。
いかがでしたでしょうか?
急成長する世界樹と急激に回復する足の大ケガでした。どちらも目の前で見たら言葉を失う事請け合いですね。
それではこの辺で、次回もまたここでお会いしましょう。さようならー




