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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第一章 救出と救済

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第六十話 活気に満ちる森

 どうもHekutoです。


 修正等完了しましたので投稿させていただきます。お暇な一時にでも楽しんで頂ければ幸いです。



『活気に満ちる森』


 名も無き異世界にある獣人の里ハラリア、その主要な住民である獣人に、エルフの里から逃げてきた者達、また彼らが集まる集会所で寝泊まりしているルカ達の前に現れた者。その姿を一同が様々な感情と共に見詰める中、ユウヒはその人物を表すのに最も簡易な言葉を呟く。


「狼?」

 その姿はまさに姿勢よく直立する狼そのものである、体こそ進化の過程で二足歩行に適した体つきになっているものの、その鋭い牙が見え隠れする口元や目、肌を覆う灰色の毛皮はまさに狼である。


「む? おお! お主がユウヒ殿だな」


「え? まぁそうですね」

 突然襖の向こうから現れた直立する狼を見てきょとんとした表情を浮かべるユウヒに、その狼は目を輝かせながら口角を上げ楽しげな声を洩らすと、ユウヒをよく見る様に囲炉裏を挟んだ対面にどっしりと座った。


「うむうむ、ネムの言うた通りの風貌じゃな」


「ユウヒ殿、こちらはウォボル族長と言って、ハラリアや森に住む獣人族すべての長を務めている方です」

 機嫌よさ気に目を細め笑い、しかしその風貌も相まって威嚇しているようにも見える狼の男性は、リーヴェン曰く、このハラリア延いては獣人全体にとっての長を務めていて、名をウォボルと言う様だ。


 彼の勢いで思わず後ずさっていたパフェ達は、ハラリアでも珍しい獣の特徴を色濃く残すその姿に目を丸くして見つめており、特に狼が絶滅して久しい日本の人間としては二重の意味で興味深げな様である。


「族長ですか、初めまして天野夕陽と言います。妹達に対する手厚い対応、心から感謝いたします」


「はっはっは! なんとも礼儀正しい男だなお主、そこまで畏まることはない。何せ礼を言わねばならんのはこっちの方じゃからな」

 族長=偉い人と言う単純な公式を思い浮かべたユウヒは、姿勢を正すと妹たちへの対応について礼を述べ、そんなユウヒの丁寧な所作に機嫌よく大きな笑い声をあげたウォボルは、ゆっくりと頭を振ると真剣な表情でユウヒと同じように頭を下げた。その鋭く細められた目には様々な感情が見て取れるが、特に申し訳なさそうな色合いが濃いようだ。


「それは世界樹の苗のことで?」


「そうだ、我らに希望を与えてくれたこと深く感謝する」


「どういたしまして? と言っても、俺は母樹の願いを聞いただけですので、そんな畏まらないでください」

 御礼を言ったら逆に御礼を返されたユウヒは、一瞬ピンときてなかったがすぐに苗木の事を思い出し問い返す。ユウヒにとってはそれほど大変でもなければ命の危機でもなかった行為に対して、何度も頭を下げられては居心地が悪いらしく、苦笑を浮かべながら日本人らしい謙虚さを見せるユウヒ。


「ふふ、死んでおってもおかしくない偉業を成しておいてその謙虚さ・・・気に入「どういう事おにいちゃん!」おぅ!?」

 その謙虚さが益々気に入ったのか、犬歯を見せる様な笑みを浮かべたウォボルは、大きな声でユウヒを再度称賛、しようとしたのだが、彼の言葉の一部に過剰反応したルカの声によってその言葉は遮られ、ルカの大声と珍しく驚いた表情を見せる族長に、周囲の者達も驚きの表情を浮かべる。


「死ぬって何したの!?」


「あぁまぁ、うん、今度ゆっくり話そうな?」

 そんな驚きの連鎖が広がる空間の中、驚かない者達が数人、


「やっぱり、またか・・・」


「あぁやっぱそういうことかい・・・」


「この男は、ほんと自重しないわね」


「うふふ、でもそんなところもユウヒ君の良いところなのよね」

 ルカに詰め寄られてしどろもどろになるユウヒを、生暖かい目で見詰めていた。


 それは獣人達やエルフ達に出会ってから常に気になっていた妙な対応の良さ、その疑問が氷解した友人達である。


「また? やっぱり? お兄ちゃん!」


「お、おう?」

 じーっとユウヒを見詰めながらぽつぽつと呟きあうギルドメンバーの言葉に、あわてて口に人差し指を当てるジェスチャーを見せるユウヒであったが、時すでに遅く彼ら彼女らの言葉に反応したルカは、目を吊り上げるとさらにユウヒへと詰め寄るのであった。


 忍び笑いや苦笑が満ちる集会場では、その後も今後についての話し合いは続けられることになるのだが、その話し合いを再開するまでには、まだ半時ほど時間が必要なようである。





 ハラリアの集会場で話し合いがされている頃、深い森のあちらこちらでは獣人たちが忙しなく森を移動している姿が見られ、その移動する姿は立ち枯れた樹が目立つ森の一画でも見ることが出来た。


「ほんれ、いそぐっぺ!」


「いんわれなくても、分かっとるがな!」


「おまんら、喧嘩すんにゃ!」

 その場にいたのは三人の異なる種族の獣人達の様で、先頭を歩く人と猫が半分づつ混ざった様な獣人の女性は、後ろで口喧嘩をしながら歩く犬とサルの特徴を持つ獣人を度々叱りつけている様だ。


「んだどもおめぇ、ただの招集じゃねぇだぞ?」


「そだそだ、立国の招集なんておらがぁ生きとる間に聞けるたぁ思わんかったけ」


「さっすが、ウォボル様じゃ」

 しかし三人は仲が悪い為に声を荒げているわけではないようで、どこか興奮した様に仲良く頷き合う犬とサルの二人に、猫の獣人が興奮しすぎないように諌めているだけの様である。


「そりゃわかるけど・・・なんだありゃ?」

 口喧嘩をしたかと思えば今度は仲良く肩を組み合ったりと忙しない二人に、思わず背中を丸めて溜息を漏らしたくなった猫の獣人は、枯木や枯れ枝が邪魔な道をかけ分けた瞬間急に開けた目の前の光景に息を飲み小さく絞り出す様に呟く。


「あ? は?」


「今、ふゆだったかぁにゃ?」


「そんなもんじゃねぇ・・・」

 動きを止めた猫獣人の後ろからは、肩を組み合いおどけて歩いて来た犬の獣人が目の前の光景に言葉を失い、猫獣人の問いかけに対して猿の獣人は顔を撫でる冷気に体を震わせる。


『・・・大地がこおっちょる』

 そこに広がる光景は当然ユウヒの所業によるものであり、その光景を見た獣人は三人だけにとどまらず、森のあちこちで移動を開始した獣人の半数はその光景を目にする事となるのであった。





 様々な森の獣人がユウヒの作り出した絶景に足を止め、ある者は恐れをなし、ある者はその美しい光景に溜息を漏らしている頃、


「なるほど、わからん」


「わかれよユウヒ・・・つか解ってるだろお前」

 何とか荒ぶる妹を宥めたユウヒは、メロンの背後から注がれる視線を感じつつウォボル達の話を聞いていた。その話しも一通り終わり、ユウヒは真剣な表情と自信に満ちた声でそう呟き、周囲でシリアスな空気を生み出していた者達を脱力させ、クマからは即座に突っ込みを受けてしまう。


「まぁ、要は諸事情により分かれて生活していた親戚一同が集まって、大きな町作ろうぜってことだな」


「はい、立国の招集と言って獣人族の悲願ですね」

 ルカから注がれる矢のような視線にストレスを感じているうえに、苦手なシリアス空間と化した集会場の空気に耐え切れなくなり冗談を口にしたユウヒに、リーヴェンは苦笑と共に頷く。


「とんでもなく遠い昔は、一つの世界樹の傘の下でみんな平和に暮らしてたらしいがな、その世界樹の加護が無くなるといろいろと問題が出て自然に解れてしまったんじゃよ」

 獣人の悲願であると言う【立国の招集】とは、遠い昔大国として君臨していた獣人王国を再興すると言うものであるらしく、世界樹の喪失と共に滅んだ獣人の国はそれ以降一度も再興できておらず、纏まっても数部族単位で生活するのが精一杯なのであった。


「国が分裂するレベルの存在か、それをユウヒがね?」


「俺もまさかこんな未来が待っているとは思わなかったさ」

 そんな悲願の要とも言える世界樹を新しく生み出す一助となったユウヒは、獣人やエルフの話を聞いて呆れた様に肩を竦めて見せるクマのジト目に、肩を竦め返すと困った様に笑う。


「私たちはその辺のことも含めて、最初からじっくり詳しく聞きたいんだけどねぇ?」


「まぁまた今度な、それで今あっちこっちの里から仲間が集まってきてるからついでに防備も固めようと」

 クマからのジト目は大して気にならないユウヒ、しかしリンゴが代表して追及してくる女性陣からの視線には一定の効果があるらしく、ユウヒは口元をひくつかせるとわざとらしく話を逸らす。


「そうじゃ、大方基人族共はこちらにまで手を伸ばすじゃろうからの」

 ユウヒ達のやり取りに目を細めていたウォボルは、話を逸らすダシに使われたことを気にするそぶりを見せることなく、顎の髭を撫でながら真剣な表情で頷き答える。


「エルフさんも一緒に暮らす感じ?」


「しばらくは良いのでしょうが、長期的に見るなら住処を分けたほうがいいでしょうね」

 一方、住む場所を失ったエルフは短期的にハラリアへ避難したとしても、長期的に考えるとハラリアには住めないと言う。


「一緒に暮らせばいいんじゃないの?」


「まぁエルフと獣人ではいろいろと生活習慣が違いますから、信頼していますが同時に分ける必要もあるのですよ」


「難しいのねぇ」

 リンゴの質問と疑問に答えたリーヴェンは苦笑を浮かべると、こちらも困った様に顎髭を扱くウォボルと共に小さく頷く。どうやらエルフと獣人族との間では共通した認識として明確な生活習慣の違いがある様で、どんな事なのか分からないものの、二人と共に周囲で苦笑を浮かべ合う獣人やエルフ達の表情でその難しさを察したメロンは、不思議そうな表情のルカと共に首を傾げるのだった。


「それでですねユウヒ様」


「ん?」

 妙な苦笑が満たす室内のおかげでストレスが軽減したユウヒ、の頭の上から彼に呼びかける声が聞こえてくる。それは今もユウヒから魔力を少しずつ供給してもらっている母樹の、小さく申し訳なさそうな声であった。


「ユウヒ様に託した子の下にエルフの里を作ろうと思うのですが、私もそこに引っ越してその子を見守ろうかと」


「ココの居る場所と言うと白壁が問題になるし、簡単に拓いたと言っても住む場所作るとか大変だぞ?」


「ココ?」

 どうやらエルフ達の計画としては、ユウヒに託された世界樹の周囲に母樹を伴って新しい里を作ると言うものがあるらしい。そんな提案を聞いたユウヒは、日本に繋がる白壁の周囲を思い浮かべながら目線を上に向け、頭の上の母樹を意識しながら考え込むように口を窄める。


「うぅむ全く何も見えん」


「はっはっは、見える者の方が少ないのですよ」

 一方、予めユウヒの頭の上に世界樹の精霊が座っていると聞いていたパフェは、ファンタジー代表の様な精霊と言う存在を見たいのか、目を細め睨みつけるように目を凝らすも何も見えてこない事に詰まらなさそうに口を窄め、同じように目を細めている女性陣にリーヴェンは楽しげに笑う。


「そういえば言ってなかったな、名前を付けてほしいと頼まれたのでつけてしまったんだよ、悪いな」


「なるほど、いえ問題は無いのですが・・・ん? 頼まれた?」

 視界に入ってこない母樹を見上げていたユウヒは、彼女に名付けの件を伝えていない事を思い出し苦笑と共に謝罪する。一方謝罪の言葉を聞いた母樹は納得した様に頷きかけて急停止すると、ユウヒの視界に逆さまになりながら入り込み、見開いた目で彼の目を驚いたように見詰めだす。


「・・・」


「どうして視線を逸らすのですか?」

 その視線にはっとしたユウヒは、思わず母樹の視線から逃げる様に目をすっと左下に泳がせ、その視線の動きにきょとんとした表情で問いかける母樹。


「う、やぁまぁ・・・そのなんだ」

 只々不思議そうに首を傾げる母樹からの視線は、特段痛々しく感じる様な視線ではないものの、いろいろ言い辛い事実を抱えるユウヒの心はストレスを感じているせいか、口から出る声は要領を得ない声しか出てこない。


「やらかした顔だ」


「そうね」


「ユウヒ、ばれてんぞ」

 その言動が示す意味を即座に察したパフェはジト目で小さく呟き、その声にリンゴは短く同意の声を告げ、さらにメロンの静かな苦笑まで確認したクマは、感情を隠しきれていないユウヒに向かってニヤニヤとした笑みを浮かべるのだった。


「ぐぬ・・・その、成長する魔法があると言っただろ?」


「はい、聞きました。私も初めて聞く魔法でしたので興味がありますが・・・まさか」

 何かと付き合いの長いギルドメンバーからの裏切りに、思わず唸り声を漏らしてしまうユウヒは、頭から降りて目の前でふわふわと浮いている母樹に目を向けると、気まずげな表情で自分のやらかした失敗について話し出す。


「ちっとばかし調整をミスってな」


「あら、いつものパターンねぇ」


「そうなんですか?」

 ゆっくりと話すユウヒに周囲が注目し、母樹が心配そうな表情を浮かべる中、調整ミスと言う言葉にメロンはくすくすと楽しげに笑い、彼女の言葉にルカは不思議そうに視線をパフェやリンゴ、メロンの間で彷徨わせる。


「・・・どうなったんですか?」


「・・・立派な大樹に成長しました」


「ユウヒ様・・・」

 視線を彷徨わせるルカに対して深く静かに頷いたパフェとリンゴに、何も言えないでいるユウヒは、母樹の問いかけに視線を逸らしながら自分のやったことを簡潔に話し、その言葉に母樹は虚ろな目でユウヒの名を小さく呟く。


「わ、悪気はなかったんだ!? こんなことになるとは思っても見なくもなくも・・・うぅん、前回の事を教訓に制御したんだがなぁ」

 その小さな呟きがまるで自分を責めてる様に感じたユウヒは、慌てて母樹に目を向けると言い訳を始め、しかし途中で声が小さくなり始めると苦悩に満ちた後悔の念を洩らす。


「すごいです」


「へ?」

 今にも頭を抱えだしそうな顔色の悪いユウヒを、友人たちが温かい眼差しで見つめる中、目に光を取り戻した母樹はぽつりと呟き、気の抜けた声を漏らして顔を上げるユウヒをキラキラと輝きだした瞳で見詰める。


「すごい事ですよ! かつての魔導師達も無し得なかったことです! ああ! なんて素敵な―――」


「そ、そう? 喜んでもらえたならよかった」

 ユウヒからの魔力譲渡で少しだけ大きくなった母樹は、それでもまだ小さな手でユウヒの頬を挟むように掴むと、感極まった表情で捲し立てる様に語りだし、その逃げれられない圧力にユウヒは乾いた笑いを漏らす。


「ふむ・・・なるほど、よし! ユウヒ殿、我が里の世界樹様にも同じ秘術を施してくださらんか?」


「・・・へ?」

 精霊の見えないウォボルが、母樹と同じく感極まってそうな表情を浮かべるリーヴェンから状況を説明され、その漏れ聞こえてくる声に周囲が耳を澄ませている数分の間も、母樹のマシンガン賛美は止まらず。そんな母樹と周囲からの視線に苦笑を浮かべていたユウヒは、リーヴェンの話しを聞くために身を屈めていたウォボルが突然立ち上がり、大きな声で話しかけてきたことに驚き顔を上げると、その内容を把握して再度呆けた声を漏らすのであった。


 予想外な場所からの予想外な提案にユウヒが目を丸くする中、ウォボルの提案に賛同した母樹のテンションはさらに上がり、マシンガン賛美がさらに加速する。しかしその声を聞ける者はこの場に少なく、ユウヒが目に見えて疲弊していく姿に、ルカやパフェ達は不思議そうに首を傾げるのだった。



 いかがでしたでしょうか?


 ユウヒがルカを探し、なんとなく勘の向くまま受けた依頼が次第に異世界を騒がしくし始めた様です。いつもの事ではありますが、さてこの波紋はどこまで波及し、またどこでさらなる波紋を打つのやら、どうぞ次回もお楽しみください。


 それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー

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