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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第一章 救出と救済

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第五話 彼に忍び寄る怪しい影

 どうもHekutoです。


 慌ただしさに疲労を感じる日常に一時の安らぎ? を、加筆修正完了いたしましたので投稿いたします。ユウヒの日常をお楽しみください。



『彼に忍び寄る怪しい影』


 今日の御勤めを終えた夏の太陽は、大地へとゆっくりと沈みながら、最後の一仕事に空をオレンジから紫、濃い青へと移り変わる綺麗なグラデーションで彩っていた。


「ふぅ、歩きだと結構な距離だよな」

 夜の住人達が空に舞い始める時間へと移り変わり、肌に感じる気温が和らぐもどこか重たく感じる空気の中、ユウヒは一人家路への道を歩きながら、汗でべたつく体にため息を洩らす。


 少し前まで冬へと向かう異世界で過ごしていたユウヒは、女神アミールからもらった高性能なポンチョの助けもあり、割と快適に過ごしていたこともあってか、一日やそこらでは日本の特徴的な夏に体も心も適応できないでいる様だ。


「久しぶりに高校行ったからって、懐かしがって色々見て回ったのが失敗だったか・・・」

 またそれと同時に、夏の熱いさなかを懐かしいからとその場のテンションに任せてあちこち見て回ったり、手に下げたビニール袋から解る様に、近所では買えない物を買って回ったことが、よりユウヒの体力を削ったのだった。


「ただいまー」


「お帰りユウちゃん!」

 疲れて独り言を零しながらもようやく我が家に辿り着いたユウヒは、蓄積された熱と疲れにより崩れた姿勢のまま玄関を開ける。そんな彼を待っていたのは、いや・・・待ち構えていたのはユウヒの母親である明華であった。


「もう晩御飯出来てるわよ? 晩御飯にする? お風呂にする? それともわ・た「風呂入ってくる」・・・ぶぅ」


「なんでそこで不機嫌だよ、汗で気持ち悪いんだから勘弁してくれ」

 ユウヒの帰りを察した明華は、ユウヒが玄関から入ってくるタイミングに合わせてスタンバイしていた様だ。しかしそれはいつもの事らしく、何事も無く靴を脱いで上り框に足をかけたユウヒは、明華お決まりのセリフを途中で遮ると、不機嫌そうに頬を膨らませる母親に呆れた様にジト目を向ける。


「むぅ・・・しょうがない、ダーリンに相手してもらうもん!」


「もんって・・・」

 ユウヒの見せる冷めた態度に対して、まるで子供のような調子で不平不満を露わにした明華は、踵を返すと軽い足取りでリビングへと駆けだす。


 そんな実の母親の後ろ姿を見送ったユウヒは、気のせいか疲れが倍増した様な気分に陥り、ぼそりと呆れた声を洩らすと早々にお風呂に入る準備をするのだった。





 異世界のだだっ広い王家風呂や自前露店風呂とは違い、しっかりとした設備の揃った自宅の風呂から満足気に上がったユウヒを交え、エアコンの効いたダイニングで晩御飯を食べ終えた天野一家。その後、流華だけの居ないリビングでは、ユウヒによるざっくりとした今日の調査報告がなされていたのだが・・・。


「なん、だと!?」


「あらぁ、繁華街の奥に消えて行く男と女・・・流華ちゃんも大人ね」

 その報告を最後まで聞いた両親の反応は、またしても真逆であった。最後の最後にユウヒが落した繁華街で流華が男と会っていたと言う爆弾に、勇治は驚愕に目を見開き、明華はポッと頬を赤らめるとわざとらしく微笑んでみせる。


「ファァァァアアアック!!」


「うっさい」

 さらに、明華が尾鰭を追加した言葉に目を血走らせた勇治は、立ち上がると今にも超人に進化しそうな裂帛の咆哮を上げ始め、両耳を押えたユウヒからはジト目で見上げられ、


「はぁい、おくちちゃーっく!」


「ごふっ!? ・・・そこは、みぞおち・・・」

 何故か見た目の印象と反して冷気を感じる満面の笑みを浮かべた明華の軽い声と、その声とは相反する鋭くキレのあるツッコミ? により、人体の急所を打ち抜かれ崩れ落ちるのであった。


「・・・まぁ、なんとなーく落ちが見えてはいるんだけど、明日は歓楽街の方に行ってみるよ」

 ソファーの前の床に崩れ落ちた父親の姿を、情けなさ半分痛々しさ半分と言った表情で見下ろしたユウヒは、何も見なかったことにして明日の予定を話し始める。


 ユウヒの住む地域には二つの繁華街存在し、その一つは駅を中心に栄えたアーケード街の有る繁華街で、老若男女に広く親しまれていた。一方もう一つの繁華街は歴史が浅く、しかしある意味で駅前以上に賑わっており、その理由はユウヒが行くと言った『歓楽街』にある。


「わかったわ、それならジェニちゃんによろしく言っておいてくれる?」


「自分で行けばいいんじゃね?」

 まぁぶっちゃけると昼間賑わうのが駅前繁華街、夕暮れ時から翌早朝に渡っていい女や良い男で賑わうのが、天野家からほど近い場所にある繁華街『ザクロの樹商店街』であった。思いのほか周辺住民からは親しまれているこの地域は、いつごろからか様々な人種が集まり出し、いつの間にか繁華街になっていたと言う変わった町である。


「うーん、あの子ったら私が行くと緊張しちゃうからなぁ」

 そんな歓楽街を有するザクロの樹商店街には、流華が普段バイトをしているお店があり、そこに顔を出すのもユウヒの目的で、そこには明華の言うジェニちゃんと言う人物が居るのだが・・・・。


「毎度思うが、何したんだよ母さん・・・」


「え? な、なにもしてないよ? ・・・多分?」

 ユウヒの素朴な疑問はその人物と知り合った頃からのものであり、何気なくそう零したユウヒに対して問われた明華は目を泳がせ明らかに狼狽え始める。


「・・・」


「・・・」


「・・・」

 そのあまりにベタ過ぎるリアクションにユウヒは目を細めると明華をじっと凝視し始め、普段なら喜びそうな息子からの熱視線? から逃げる様に明華は視線を逸らした。すると今度は床から起き上がりソファーに座り直した勇治に同じ視線を向けるユウヒ。


「・・・・・・ユウヒ、大人には隠したい過去の一つや二つあってもおかしくは、いや三つ? 四つ? いや五つかなぁ?」


「母さんの秘密多いな」

 息子からの視線を受けた勇治は、ユウヒと明華を見比べ何か悩むように目を瞑ったかと思うと、徐に真剣な表情で話し始めるも、その語調は尻すぼみに可笑しくなり始める。そんな勇治の姿にユウヒは再度母親を見詰めると、そうぼそりと呟くのであった。


「うぅぅ・・・そんな事言う勇治さんなんて嫌い! ぷんぷん!」


「ええ!?」

 顔を背け続けていた明華も、ユウヒの呟きにはショックを受けたのか、顔をぐるりと回し勇治を睨みつけると、驚く勇治に向かって頬を膨らませながら軽い連続パンチによる八つ当たりを開始する。


「おかしいな、そんなに食ってないのに胸やけが・・・俺部屋戻ってるわ」

 そんなバカップルの姿を直視することになってしまったユウヒは、鳩尾の辺りを押さえて顔をやる気なく歪めたかと思うと、立ち上がりフラフラと自室に向かって歩き出す。


「おい夕陽!? 父さんがピンチだぞ!」


「・・・しらんがな」

 そんなユウヒの姿に慌てて勇治が助けを求めるが、ユウヒは痴話喧嘩を続ける父親を見詰めると、やさぐれた犬になったかのような気持ちで切って捨てるのであった。


「ぷんぷんぷん!」

 その後、この痴話喧嘩は夜遅くまで続いたのだが、ユウヒには興味のない話である。何故なら、次の日には確実にいつものバカップルに戻っているからだ。





 調査報告会からいつの間にか、悪食な犬でも食わない痴話喧嘩会場となったリビングから抜け出してきた胸焼け気味なユウヒは、自室の扉を開くと気持ち悪そうに表情を歪める。


「ふぅ・・・まだ体が慣れないな、魔法使うか?」

 夏の熱気と陽射しに晒されていた部屋は、日が完全に沈んだ現在も湿度を含んだ重く感じる熱気を溜め込んだままであった。そのあまりの熱さに、ユウヒはエアコンを起動させながら思わず魔法を使おうか悩んでしまう。


 思わず悩んでしまうユウヒは、日本に戻って来てからあまり魔法を使っていない。それは異世界で飛行魔法を使うのに慎重になった理由と同じように、異端視や危険視される事を回避する為であった。まぁそんな事言っても、ひょんなことから自重の箍が外れるのが彼である為、この先に期待である。


「エアコン、まさに文明の利器だねぇぇ」

 そんなユウヒは、床に敷かれた黒い三本杉のロゴが書かれたロングマットに寝ころぶと、急速冷房機能で最大風量を吐き出して室内の空気を一気に下げるエアコンの風を受けながら、その体全体で文明の英知を感じ取っていた。


「・・・よっと、確かクロモリ終了のお知らせ見たのが最後かぁ」

 しばらくの間目を瞑り無言で冷風を満喫していたユウヒは、ようやく体が冷えて来たのか目を開くと、その逆さになった視界にパソコンが入っている事に気が付き体を起す。


 起き上がってパソコンの置いてある机に向き直ったユウヒは、どこか寂しげな表情であの日の事、この世界では数日前の事を思い出しながら死んだように静かなパソコンを見詰める。


 あの日、ユウヒが異世界に旅立った日に突然サービスが終了したクロモリオンライン、それはまさにユウヒにとっての青春であり、一つの人生と言っても良い存在であった。それが突然終わりを告げた事でユウヒは異世界に行くこととなり、そして流華はユウヒを探して行方不明となったのである。


「久しぶりに立ち上げてみるか、まぁ動かしたからと言って何もすることが・・・」

 その事に何とも言えない表情を浮かべたユウヒは、嫌な想像を振り払う様に頭を掻くと徐に立ち上がって机に近づく。起動したところでもう二度と遊ぶ事の出来ないゲームの事を考えると、あれから数か月ほどの時が流れた心に何とも言えない焦燥感が膨れ上がるのを感じる。


「いや、連絡でも入れてみて・・・何奴!?」

 そんな焦燥感を振り払う様に机に一歩足を踏み出したユウヒだったが、背後に何者かの濃密な気配を感じて目を鋭く細めると、勢いよく戦闘態勢をとりながら振り返り、気配の元と思われるカーテンの開け放たれた窓の外に目を向けた。


「おいてけぇぇ」

「むしろたすけてぇぇ」

「ユウヒどのぉぉ」


「っ!? ・・・ってお前らか、無駄に怖いわ! つか妖怪かよ!」

 視界に映る窓の外の暗くなった室外から、こちらに恨めし気な表情を浮かべ見詰めてくる三体の黒く巨大なゴキ・・・もとい、忍者達の姿に素で驚くユウヒ。しかし相手がおバカ忍者の三人だと解ると、驚き見開かれた目をすぐに呆れが多分に含まれたジト目に変えて、律儀にツッコミを入れるのだった。


「かゆいよぉぉいれてぇぇ」

「むしあついんだよぉぉ」

「そうだんがあるんでござるぅぅ」


 ユウヒがしばらくの間ジト目を注ぎ続けると、恨めし気な目は次第に情けなく潤み始める。


 ヒゾウは蚊に刺されたらしく痒みを訴えながら入室を求め、ジライダは額に玉の汗を浮かべながら窓越しに感じる冷気求め張り付き、ゴエンモはどこか必死さを感じる表情で相談があるのだと言い始める。


「・・・はぁ」

 用事がるのなら普通に尋ねて来れば良いものを、ネタを織り交ぜなければ気の済まない忍者達の行動に、理解を示す事は出来ても溜め息を堪える事は出来なかったユウヒ。


 肩を落としため息吐いたユウヒは、彼らを室内に入れるべく、PCへ向けていた体の向きを窓辺へ変えると、暑苦しさの増した錯覚を感じながら三人を焦らすようにゆっくりと歩き出すのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 はい、予想出来ていた方も居そうですが、怪しい影と言ったら彼等三人です。楽しんで頂けたでしょうか? 正直、夜に彼らが窓に張り付いていたら肝を冷やす思います。


 それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー

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