第五十六話 アーケード街の片隅で
どうもHekutoです。
修正等完了しましたので投稿させていただきます。それなりの量を用意させていただきましたので、ごゆるりと楽しんで頂ければ幸いです。
『アーケード街の片隅で』
日はまだ中天に届かず昼食を摂るには少しだけ早い時間、これから益々暑くなる予感を感じさせる日の光が、短い影を色濃く浮き立たせる寂しいアーケード街の一画に、汗ばむ体を日陰で冷やしながら歩くユウヒの姿があった。
「ふぅ暑かった。とりあえず牛丼片手にここまで来たけど・・・ほんと人いねぇなぁ」
赤枝邸と呼びたくなるような大きな家の門から逃げ出す様に飛び出したユウヒは、なるべく涼しい経路を選びここまでやってきたのだが、その途中で見つけた牛丼のチェーン店の芳しい誘惑に負けたらしく、その右手には四角い容器の入ったビニール袋を提げている。
「自衛隊に警察に謎の黒服集団、ドームを中心にいろいろと人が集まってるが、この辺はさびしくなっちゃって」
近所の牛丼屋からの帰りの様なラフな格好で、気軽にアーケード街を歩くユウヒであるが、そこはすでに警察の定めた規制線の内側であった。いつも通り魔法の力を使い監視の目を掻い潜ったユウヒであるが、その道中目にした人々を思い出すと、キナ臭げな顔で人の居ない寂しいアーケード街を眺める。
「まぁあんだけ警戒してれば入れないか・・・俺も魔法が無ければみつかるかな? スニークミッションごっこにはうってつけなんだが、危ない橋は渡る気しないしなぁ」
日本のあちこちでユウヒの様に規制線の中に入る者達が後を絶たない日本、しかしこの辺りの規制はなぜか特に厳重であり、ユウヒの様に特殊な方法を使わない限り見つからずに侵入するのは至難の業のようだ。
「お、にゃんこだ」
しかしそんな監視の目が厳しい場所も動物にとっては関係ないようで、ユウヒを見つけた一匹のトラ猫が甘える様な鳴き声を出しながら足にすり寄ってくる。
「野良には人の警戒網とか関係なしか、ほれほれ愛いやつめ」
餌を求めているのか撫でろと催促しているのか、マーキングするように体を自分の足に擦り付けてくる猫に、ユウヒは頬を緩めると屈んで猫の喉元を撫ではじめ、猫はごろごろと言う音を鳴らしてその手に頭を擦り付けるのだった。
「おっと? むぅ、気紛れだな・・・ん? あっちから何か聞こえた様な」
それから数分ほど猫を撫でていたユウヒであるが、急に動きを止めた猫は虚空を見詰めたかと思うと、先ほどまでの緩慢な動きが嘘のように俊敏な動きでどこかへ走り去る。満足したのか急にそっけなく走り去る猫に、ユウヒは苦笑を浮かべながら小さく呟くと立ち上がり肩を竦め、すぐに何か聞こえたのか耳を澄まし始めた。
「猫っぽいような・・・行ってみるか」
猫は満足してもユウヒは満足できていないのか、涼しいアーケードの影と言うこともあり元気が出てきたユウヒは、別の猫にもう一撫でさせてもらおうと、アーケード街の店主たちに飼いならされた野良猫求め、路地の奥へと歩いて行くのであった。
一方その頃、炎天下よりは涼しくても夏らしい温風が流れるアーケード街と違い、心地よい冷風が流れる薄暗い部屋では、猫に癒されたユウヒとは違う険しい表情を浮かべる者が一人。
「しまったなぁ・・・調査の為とは言えシステム弄ってる間に流入されちゃうなんて」
キーボードとマウスを動かしながら、時折乱雑に頭を掻いて一つのモニターを見詰めていた。
「強制送還システムを外してあったタイミングで入ってくるとかどんな確率よ」
そのモニターには、一般人には到底理解できない内容が躍るウィンドウがいくつも開かれており、その中の一つは簡易マップの様な画像と点滅する赤い点が表示されている。
「うぅ・・・一応マーキングの方は効いてるから位置は確認できてるけど、どうしよう」
どうやらその簡易マップで点滅する赤い点は、苦い顔で唸り声を洩らす人物にとって非常に困る物であるらしく、しかも対応に困るものでもあるようだ。
「移動してないのはうれしいんだけど、誰かこれ元に戻してくれないかなぁ」
現在声の主に出来ることはその位置を見失わない様に監視する事だけの様で、生き物と思われるその赤い光点を見詰める人物は、思わず希望的観測と言う現実逃避を呟いてしまう。
「戻してくれたらキスしてあげるのに・・・ん? これは要観察対象004?」
監視をしながらも、柔らかそうな唇を窄ませ妄想すると言う器用な事を行っていると、簡易マップに変化が訪れる。赤い光点を中心に表示されたマップ上に、青い光点が現れたのである。
「まっすぐ対象に近づいてる・・・まず!? もし狂暴な生物だったら不味い! 非常に不味い」
その青い光点の横には、『004』と言うナンバーがふってあり、薄暗い部屋の中でモニターに詰め寄ったことでモニターの光に映し出された女性は、まさかの展開に赤い光点にまっすぐ近づいて行く光点の様に顔を蒼く染めて行く。
そして光点は重なる。
「って接触した! ・・・あれ? 変化な、飛びついた!? やっぱり野犬か何かだっ・・・あれ? バイタル変化なし?」
すぐに女性がその場所を拡大したことで、簡易マップ上では1メートルほどの距離で向かい合う光点が表示されたのだが、その距離も次の瞬間には赤い光点が素早い動きを見せることで青い光点と重なってしまう。しかし彼女が危惧したような事は起きなかったのか、重なり合った光点のうち、青い方には何の変化も起きていないようである。
「問題なし? ・・・ぇ? 魔力反応! こいつ異世界人!? いやまさか管理の・・・でも調査結果では普通の一般人だったはず」
何も無い事に安堵の息を吐いた女性であるがしかし、すぐに危惧した内容とは違う変化が起こり驚きの声を上げた。簡易マップには【魔力反応検知】と言う赤い表示が映し出され、またもや女性は顔を蒼くする。
「ちょっと知り合いがバラエティに富んでるけど、本人はいたって普通の見た目だったし・・・やっぱり直接会ってみないとダメかな」
どうやら彼女は魔法と言うものに関する知識があり、また地球上に魔法が存在しないことも、さらには異世界やそれらを管理する存在についても知っている様だ。険しい表情でキーボードを操作し始めた彼女の目には、モニターの一つに表示された調査書と言う文書が映っており、どうやらそれは『要観察対象004』と言う人物に関するものの様である。
「・・・その方向で調整が必要ね、そのためにもあのバカ国家のドーム設定の変更を急がないと、うまくいけばリソース減らせるかな・・・何が起きても私の責任じゃないんだから」
会わないとだめかと呟き調査内容に目を通し直した彼女は、方針が固まったのか一つ頷いて背筋を伸ばすも、別のモニターに映し出されたドームと様々な操作項目に目を移して悪態をつくと、入れたばかりの気合が抜けてしまったのか背中を丸め、のろのろとした動きでキーボードとマウスを動かすのであった。
時は少し遡り、薄暗い部屋の中で女性が険しい表情でモニターを見詰めている頃、
「ねこ~ねこ~♪ かわいいにゃんこ~♪」
彼女が見詰める先の現実では、ユウヒが呑気に即席の歌を口遊みながら路地裏を歩いていた。
「殺伐とした俺の人生に一滴の癒しを? 耳?」
実に安直な歌であるが、その歌詞からはユウヒの心情がよく伝わってくる。そんな歌を口遊みながら、何かの鳴き声が聞こえた場所に向けて歩いていたユウヒは、視界の端に動くものを見つけた様で、路地裏の地面に置かれたエアコンの室外機から生える動物の耳に首を傾げた。
「動いた・・・え? かなり大きくね? メイクィーン・・・ちがったメインクーンかな?」
正確には室外機から生えているのではなく、室外機の向こうに隠れている動物の耳が見えているだけなのだが、パッと見て室外機から生えてる様に見えた理由は、彼が思い描いている猫の耳より幾分大きく、室外機との対比に違和感が無かったからである。
しかし動く猫耳が生えた室外機などこの世に存在するわけもなく、あってもこんなところにはないだろうと、心の中で自分に突っ込みを入れたユウヒは、その耳の大きさから隠れている猫の大きさを推測し、それに該当する猫の種類を思い出しながら室外機に近づく。
「猫さん猫さん「猫じゃないにゃ!」・・・あ?」
「へ?」
陽気な歌を歌いながら警戒されないように近づくユウヒであったが、彼の歌が気に食わなかったのか、隠れていた猫は苛立ちの籠った声と共に室外機から顔を出す。その顔を見たユウヒは、ポカンとした表情を浮かべる相手と同じように間の抜けた表情で小さな声を漏らした。
「・・・・・・あれぇぇ?」
「ゆ、ゆ、ゆ・・・」
何故なら、ユウヒは目の前でポカンとした表情を浮かべる相手に見覚えがあり、それは相手も同じなのか、室外機の影から出した顔は次第に怒りから友好的なものへ、そして喜びの涙を目に浮かべはじめる。
「あぁ【意思疎通】・・・もしかしなくても、茶色の子?」
そう、彼女はあの簡易マップに表示されていた赤い光点であるドームの向こうからの闖入者であり、青い光点の要観察対象004であるユウヒは、彼女が誰であるか認識するとすぐに言語翻訳効果のある魔法を使い呼びかけた。
「ゆうぎしゃまぁああ!!」
ユウヒが呼びかけた瞬間、呼びかけられた相手は涙で鼻を詰まらせながらも、歓喜に満ちた声を上げながら駆け出しユウヒのお腹に抱きつく。
「おおっと!? おま、どうしてってちょ!? ええ!?」
ユウヒのお腹に抱きついた少女の名前はシシリ、本来ならここに存在するはずもない異世界のネシュ族少女であった。
突然の邂逅な上にいきなり抱きつかれたユウヒは、軽い彼女のタックルみたいな抱きつきに驚きながらも優しく抱き留め、そっとその小さな背中に手を当てると、その柔らかで密度の高い毛に驚きの声を漏らす。
「こわかった! こわかったですぅぅ!」
「おおう、そうか怖かったんだな? うん大丈夫だぞ?」
「うぅ・・・」
ユウヒの驚きの声など聞こえていないとばかりにユウヒのお腹に顔を埋めたシシリは、感情が爆発したかのように泣きじゃくりながら、ちょっと前に見た猫の様に頭をぐりぐりとユウヒのお腹にこすり付ける。
怒涛の様に訪れた精神的衝撃の連続に狼狽えるユウヒであったが、幼い子供の泣き声に気を取り直すと、彼女を落ち着かせるように小さな背中を優したたく。その行為は泣いた小さな子供をあやす仕草であり、ユウヒが昔ルカにしてあげていたものと同じ種類の行為であった。
「あぁ・・・とりあえずちょっとはなれ、たら不味いような今のままでもまずいような」
「スンスン・・・?」
ユウヒは泣きじゃくるシシリにどこか懐かしげな表情を浮かべるも、すぐに正気を取り戻すと離れる様に口にしようとするが、今の状況を再認識して頬を赤くすると思わず口ごもりどうしたものかと眉を寄せる。
なぜユウヒがそんな表情を浮かべるのか、それはドームを通ってきたのであろう彼女が自前の毛皮以外に何も身に着けておらず、進化の過程で体毛が退化した体の一部がむき出しのままユウヒに押し付けらているからであった。このまま彼女が離れれば、見てはいけない部分を見てしまいかねない事実と、誰かに見られれば通報待ったなしの状況の板挟みに、流石のユウヒも思考が鈍っている様だ。
「あ、とりあえず上着を加工してっと」
「わわ!」
危機的状況に嫌な汗が流れるのを背中に感じたユウヒは、何か思いついたの顔を上げると、シシリの背中から手を離して自らの地味なチェック柄の上着を掴み、合成魔法を使うとあっという間にシャツを風呂敷の様な一枚布に作り替える。
「ほい、先ずはこれを羽織ってくれるか? 流石にいろいろとな」
「・・・あ」
赤系のチェックシャツをただの正方形な布に変えたユウヒは、魔法の光に驚くシシリの肩にそっと布をかけてやり、その事に気が付いた彼女は、照れた様に視線を逸らすユウヒの顔を見上げると、その場から少し離れながら肩に掛けられた布の端を胸の前で合わせゆるりと長い尾を揺らす。
「大丈夫、暗くて見えなかったから!」
「うにゅ? あの、ユウヒ様」
薄暗い路地裏で裸に布一枚のシシリは、チェック柄からグラデーション柄に変わった元シャツを見詰めていたが、土盛り気味なユウヒの声に耳を立てると不思議そうに顔を上げる。
「お、おう? どした?」
声を掛けられたユウヒは、際どいラインの前でちらちらと動く布に目がいかないように注意しながらシシリを見下ろすと、いつもより少し早いリズムを刻む心音と裏返りそうになる声を誤魔化しながら首を傾げて見せた。
「この羽織り物お借りしていいのですか?」
「いやまぁ・・・裸じゃ恥ずかしいだろうし、加工しちゃったからあげるけど」
一方シシリの方はと言うと、特に恥ずかしげもなくキラキラとした目でユウヒを見上げると、元ユウヒのシャツを小さな手で掴み、嬉しさの伝わる小刻みな動きで際どく布を揺らしながら、これは借りていいのかと問いかける。
そんなシシリの誘惑する様なチラリズムと揺れる長い尾と耳から、全く危機意識を感じられない事に感情が一周まわって落ち着き始め、無防備な少女を心配する父親然とした感情が湧き出て来たユウヒは、いつものやる気なさげな表情に父性を添加したような顔で、いつの間にか強張っていた体から力を抜くのであった。
「こんないい物いただけるのですか!?」
「安もんだから気にすんな、それよりさっさと向こうに戻ろうか? いつまでもそんな恰好じゃ恥ずかしいだろ?」
しかし過剰に見え隠れする肌に何も感じないかと言うとそうでもなく。ユウヒの言葉に耳と尾を立て喜ぶシシリに、ユウヒはそっと彼女のお腹の前で左右に広がろうとする布を押さえると、ドームの方に目を向けながら帰還を促す。
「うにゅ? いえ、特に恥ずかしくないです。どちらかというと、いつもの装備が無いので不安でしょうか?」
「え?」
ユウヒに布を合せられるままに布を巻きなおすシシリは、とても不思議そうな鳴き声を漏らすと、ユウヒに背中を見せながら本来そこにあるはずの弓と矢を思い出し、不思議と不安の混ざった表情で首を傾げて見せ、その言葉に今度はユウヒが不思議そうな疑問の声を漏らした。
「でもユウヒ様と一緒なのでもう不安ないです! 百人力です! しかもこんないい物までもらえました! シシリは幸せです!」
しかしそんなシシリの表情も一瞬だけ、彼女の認識の中ではすでに最強と言っても過言ではないユウヒが現れたことで、未知の場所に怯え震えていた心細さなどどこ吹く風か、いつも通りのテンションに戻った彼女は綺麗な布までもらえたことで嬉しさのあまり踊り始める。
「ちょま!? みえるみえる!? 踊るんじゃない!」
どこかエスニックな雰囲気を感じるステップを踏むシシリと、そのステップに合わせてひらひらと舞い広がる布。元からそれほど質の良いシャツではなかった布は薄く柔らかく、慌てるユウヒを誘惑するようにひらひらと舞い広がるのであった。
「うにゅ? ユウヒ様はシシリの体に興味あるですか? まだまだ小さいですし経験ないですがお相手「言わせないよ!?」ふにゃっ!?」
見てしまわないようにと手を広げ視界のシシリを隠すユウヒを、不思議そうな表情で見上げた彼女は、急にくねくねと腰を揺らしだすと、好奇と羞恥の混ざった表情と決意の籠った声で話し始める。しかしその言葉はユウヒの大きな声で遮られ、大きな手で頭を押さえ動きを強制的の止められたシシリは、目を見開き瞳孔を細く立てに縮め奇妙な鳴き声を漏らすのであった。
「あぁこれがワールドギャップ? なのかな・・・いや種族的な気がする」
「?」
これ以上シシリが誘惑の踊りを踊らないようにと、彼女の頭を押さえたままのユウヒは、疲れた様に肩を落とすと大きな感性の隔たりを感じたのか小さく呟き、そんなユウヒにシシリは動かしづらい頭で小首をかしげる。
「俺たちの種族はむやみやたらと裸を見せないんだよ、自重してくれ」
「そうなのですか、でもシシリ達だって相手は選びますよ?」
「あぁはいはい、そんなことより帰るぞ」
異世界の住人との間にある認識の違いについて説明するユウヒは、シシリの返答に苦笑を浮かべ彼女の頭を軽く撫でながら生返事を返すと、彼女の背中を押しながら黒いドームに向かって歩き出す。
「うにゅ・・・はぁい」
ユウヒの自分に対する扱いに不満そうな鳴き声を零したシシリは、不承不承と言った表情で返事を返し、ユウヒに背中を押されるままにドームのある路地裏の奥に向かって歩き始める。
「それと、たぶん向こうに戻ったらその風呂敷? 消えると思うぞ?」
「にゃんと!?」
口をすぼめ明らかに不満気な表情で頬を膨らませるシシリに首を傾げたユウヒは、彼女の体をすっぽりと包む元シャツに目を向けると苦笑を浮かべ、大事そうに元シャツを握るシシリに残酷な現実を突きつけ、彼女に驚きの表情と声を上げさせるのであった。
貰った物が無くなると聞き荒ぶるシシリが、ユウヒと共に泣く泣くドームの向こうに戻った頃、あの薄暗い部屋では一人の女性が安堵の声を洩らす。
「・・・あ、向こう側に戻った」
これまでドームに様々な対策を講じて来た彼女にとっての最大の危機は、偶然通りかかったユウヒの手によって平和日常の裡に解決されたのである。その奇跡に安堵した彼女は、凝視していたモニターから目を離すと、目頭を指で摘まむように揉み解しながら、背後の大きなクッションに埋もれる様に背中から倒れ込む。
「うむぅ、映像系の観測装置飛ばしてないから何が何だか」
クッションに埋もれたまま複数のモニターを見渡した彼女は、いくつかのドームを映すモニターと違い、簡易マップしか見ることのできない場所で何が起こったのかと、疲れを感じる目を瞬かせる。
「やっぱり実際に会わないと話になりませんね」
要観察対象004侵入中と言う表示がされたアーケード街のドームの情報を眺める彼女は、難しい表情を浮かべると実際に対象と接触することを真剣に考え始めたようだ。
「要観察対象の001から003の方も気になりますが、リアル忍者よりこっちの方が安全そうですし」
実は他にも、彼女の言葉から誰だかすぐわかる様な三人の要観察対象が存在するのだが、最近ワイドショーやニューステレビを賑わせている謎の人物に接触するのは、何処か危険な気がしてならないようで、
「そうと決まれば準備!? ・・・スーツ着れば、いや女としてそこは気を付けないとだめか」
比較的、そう比較的安全そうな要観察対象004こと、ユウヒに絞って接触を試みることにした女性は、思い立ったが吉日と言わんばかりに勢いよく立ち上がり着替えを始めようとする。
しかし、勢いよく立った瞬間感じた体の臭いに表情を引きつらせると、背中を丸め妥協しようとする自分を律し、長い髪の毛が特徴の頭を無造作に掻きながら気だる気に浴室へと向かって歩き出すのであった。
ユウヒの取り巻く環境は、一仕事終えたにもかかわらずまた新たな段階へと移り変わる様であるが、その速度は牛歩が早く見えるほど遅々としたものの様だ。
いかがでしたでしょうか?
アーケード街の片隅で鳴く異世界にゃんこでした。手慣れた感じで猫を撫で愛でるあたりどうやらユウヒは猫好きの様ですが、皆さんはどうでしょうか? まぁ犬派の人でも街角の人に慣れた猫は可愛いものだと思います。
それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー




