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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第一章 救出と救済

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第五十五話 赤枝家とユウヒ 後編

 どうもHekutoです。


 修正等完了しましたので投稿させていただきます。すぐ読み終われる量だと思うので、お暇な一時のお供に楽しんで頂ければ幸いです。



『赤枝家とユウヒ 後編』


 忍者達が朝日の下、眼下の人々に気づかれる事無く病院へと向かって屋根や電柱の上を跳び駆け、異世界ではパフェが嫌な予感に背中を丸め震わせている頃、ユウヒは全開に開け放たれている観音開きの大きな玄関扉前で、嫌そうに顔を引きつらせ固まって居た。


「おかえりなさいませ若様」

 固まるユウヒの目の前では、先ほど応対したヘレナが恭しく彼を出迎えているのだが、


「いや、おかしいだろ・・・」

 ヘレナが綺麗な45度のお辞儀を見せながらユウヒを迎えると、その光景にドン引きするユウヒの前には彼女に続いて複数のメイドがヘレナ同様に綺麗なお辞儀で出迎える。


「いえいえ、今のうちからせんの・・・まいんど・・・練習することは悪くありませんよ?」


「なんか怖い言葉が聞こえた上に何の練習なんだよ・・・」

 まるで家長でも出迎えるかのような下にも置かない対応を見せるヘレナに対して疲れたように肩を落とすユウヒに、彼女は機嫌よさ気な笑みを浮かべるとそう話し、ユウヒはその不穏な言葉が見え隠れする答えにわけがわからないと言った表情を浮かべるのだった。


「・・・まだまだですね、どうぞ奥様がお待ちです」

 ユウヒの表情を見て困った様に首を横に振ったヘレナは、すぐに涼しい笑みを浮かべ直し奥へとユウヒを招くよう体を半歩引き、パフェの母親がすでに待っていると言いだす。


「えっと、来訪理由とか聞かない感じ?」


「お嬢様の事だと推測していますが、違いますか?」

 何も聞かずに奥へと招きだすヘレナに、ユウヒは少し戸惑ったような声で来訪理由は聞かないのかと問うも、問われたヘレナはきょとんとした表情で小首を傾げると来訪の理由を言い当てる。


「まぁそんなとこですけど、探偵とかなれるんじゃないですか?」


「この程度、赤枝家の力をもってすれば雑作もありません」

 ヘレナの後に続いて靴を脱ぐことなく家の奥へと歩くユウヒは、ほぼ正解を言い当てた目の前のメイド長に向かって感心した声で呟くが、シンプルなスカートの裾を僅かに揺らし歩くヘレナは、顔を少しユウヒに振り向かせると謙遜と言った感情を感じさせない笑みを浮かべて見せるのだった。


「流石金持ち・・・」


「それだけではありませんが・・・奥様、若様をお連れしました」

 自然と気品を感じる様な軽やか笑みを浮かべて見せるヘレナの表情に、圧倒的金持ちの風格を感じたユウヒは、どこか恐れ戦くような表情で小さく呟く。その呟きを聞いたヘレナは思わず苦笑を浮かべてしまうも、目的の場所へ着いたのか立ち止ると、ユウヒの部屋の薄っぺらい扉とは違う重厚な木の扉をノックして部屋の中へと声をかける。


「入っていいわよ」

 すると間を置くことなく入室を許可する女性の声が聞こえ、その返事にヘレナはにこりとした表情をユウヒに浮かべて見せるが、そんな彼女に対してユウヒはげんなりとした表情を浮かべて返した。


「おう、その呼称はここまで浸透してんのか」

 何故ならヘレナの『若様』と言う言葉に対して、ユウヒも聞き覚えのある人物の返事には全く動じる気配が無く、それはヘレナの言葉が使い慣れたものであることを如実に語っていたからである。


「はい、七割は掌握済みです若様」


「すんな!」

 不満満載なユウヒの声に対して、扉を開けたヘレナは一切悪びれることなく、むしろ褒めてもいいのですよと言いたげなドヤ顔で振り返り、その表情に苛立ちを覚えたユウヒは、部屋の奥で笑みを浮かべる女性に目もくれずドヤ顔メイドに突っ込みの声を上げるのであった。


「ふふ、ユウヒ君いらっしゃい」


「どうも、ご無沙汰してます」

 目の前でメイドとじゃれ合う様に入室するユウヒを見て、楽しそうな笑い声を漏らした女性は、赤枝あかえだ 生来せらと言い、パフェの実の母親である。その日本人離れした美しい女性の声がする方へと、疲れた表情を隠すことなく向けたユウヒは、彼女の前まで近づくと立ったまま会釈をして見せた。


「ほんとよ、何時あの娘もらってくれるの? 賞味期限切れちゃうわよ?」

 高級感を漂わせるソファーに腰掛けた生来は、その挨拶に不満そうな表情を浮かべると、ユウヒの顔を見上げながら彼女の感じていた不満を声に出し始める。


「親の言葉とは思えねぇ・・・」


「うふふ、母親ですもの・・・それで? 今度は何をしたのかしらあの子」

 しかしその不満はユウヒの挨拶にではなく、またお茶の準備をしてあるテーブルの前に座ろうとしない事でも無かった。そう、彼女の不満は自分の娘と仲の良い男性であるユウヒが、未だにその娘であるパフェに手を出さない事なのである。


 実の娘に対する何とも不躾な物言いを口にする生来に、思わず感情のままに呟きを洩らしてしまうユウヒ。目の前でコロコロと笑う、とても子供が居るとは思えない若々しい女性の姿に肩を落としたユウヒであったが、にこにことした表情で問いかけてくる生来に少しだけ表情を引き締める。


「そこは確定なんですね」


「だって、ユウヒ君が来るときは大抵そうなんだもの、思わず身構えちゃうわ」

 自分が訪れた理由を察しているのか知っているのかわからないものの、ユウヒの確認するような言葉に彼女は身構えるようなジェスチャーをとって見せた。


「そんな楽しそうに言われても説得力ないですよ」


「楽しくて身構えちゃうのよ?」


「はぁ、えっと・・・娘さんは今、いろいろありましたが無事に夏のバカンスを某所で友人たちと楽しんでます。家の妹込みで」

 しかしその身構えるジェスチャーは驚きや警戒などではなく、全力で楽しみに来ている少女の様なものであり、そのあべこべな行動に突っ込みを入れたユウヒは、生来の不思議そうな返事に疲労を感じたのか背中を丸め小さく溜息を漏らすと、早く帰りたいのか口早に用件を伝える。


 この家に来ることをユウヒが乗り気でなかった理由は、この家の女性陣が一癖も二癖もある事と同時に、飄々としながらも油断できない気配を常に纏う彼女が苦手と言うこともあった。


「・・・それはもしかしてユウヒ君を探すためかしら?」


「調べました?」


「少しね」

 ぱっと見で隙が多そうに見えても隙の無い彼女は、ユウヒの少ない言葉からすぐに正解を引き当てると、僅かに細めた視線でユウヒに問いかけ、その言葉に表情を引き攣らせながら問い返したユウヒに、満足そうな笑みを浮かべて見せる。


「申し訳ない・・・」


「あなたは被害者でしょうに、頭を下げる必要はないのよ。でも、あの子は仕方ない子ね・・・さすがにお説教かしら?」

 僅かな問答で現状を察した彼女は、申し訳なさそうに頭を下げるユウヒに思わず苦笑を浮かべると、ユウヒを慰める様な優しい声をかけるのであった。そんな彼女は少し前のめりになっていた体を柔らかなソファーの背に預けると、困った様に眉を寄せて無事だと言う娘の処遇を考え始める。


「あぁその辺は俺もしたので控え目で」


「「え?」」


「え?」

 しかしその言葉に、ユウヒは少し前の事を思い出しながら申し訳なさそうな苦笑を浮かべると、パフェを庇うような事を口にした。しかしその言葉はユウヒの予想と違う緊迫した空気をその場に作りだし、急激な空気の変化と驚きの声に首を傾げるユウヒ。


「・・・ねぇヘレナ、あの子自殺してないかしら」


「・・・少なくとも自傷行為はしていると思われますので、すぐに医療スタッフを用意します」

 緊迫した空気の中、先ほどまで飄々とした雰囲気を浮かべ娘の処遇を考えていた生来は、その顔を蒼くすると静かに狼狽え腰を浮かせながらヘレナに問いかけ、問いかけられたヘレナもまた蒼い顔で生唾を飲み込むと、僅かに震える手でスマホを取り出し操作し始める。


「えぇぇ・・・一応フォローもしておいたので、今頃異世界を満喫してると思いますよ?実は―――」

 急に顔を蒼くさせながらとんでも無い事を言い出す二人に、ユウヒは脱力感を感じながらも、二人を安心させるために何があったか軽く説明を始めるのだった。


「・・・そうなのね、よかったわ。前は大変だったから」

 ユウヒの一通りの説明を神妙な表情で聞いた二人は、その説明で問題が無い事がわかった様でほっとした息を吐いた。前に何があったのか、飄々とした雰囲気が消えていた生来は息を吐くと、何かを思い出す様な遠い目をしながら胸を軽く抑える。


「若様の説教は尋問レベルですからね」


「俺の評価がおかしい!?」

 まさに胸を撫で下ろすと言う言葉がふさわしい生来に、冷たい飲み物を用意するヘレナは、未だにソファーに座らないユウヒを見詰めるとやはり何か思い出す様に苦笑を浮かべ、そんな苦笑を浮かべる二人の女性の言葉に、ユウヒは納得のいかない表情で思わず大きな声を上げてしまうのであった。


「うん、まぁいいわ。なるほど、今日は安否報告と言うことなのね」


「え、まぁはい、そういうことです・・・?」

 大きな声を出すユウヒに苦笑を深めた生来は、一つ頷きユウヒが何を報告しに来たのか理解すると、笑顔の前で両手を合わせ小首を傾げる。急に話を纏めはじめた生来に、ヘレナに対してジト目を向けていたユウヒは少し土盛りながらも頷く。


「ありがとう。さて、ユウヒ君の用事も終わったことだし! 未来の義母さんと親睦を深めましょうか」

 妙な気配を感じたらしいユウヒに優しく微笑んだ生来は、急に元気よく立ち上がると軽く手を叩き明るい声を上げ、肩に掛けていたショールをどこか艶めかしい仕草で脱ぎ始めると、ユウヒに潤んだ瞳を向けながら親睦を深めようと言い出す。


「うい!? いろいろとまだ用事があるんで! 俺はこれで失礼します!」

 ショールだけでなくドレスの様な服の肩口に手をかけ肌蹴させ始めた人妻に、思わず後ずさったユウヒは、目の前でその面積を広げていく肌色に顔を赤くすると、姿を現した艶めかしい鎖骨から目を逸らし用事があるからと入ってきた扉に向かって後退り続ける。


「あら残念、ヘレナ送ってあげて・・・つまみ食いは駄目よ」

 ペロリと唇を濡らしながらじりじりとユウヒに迫っていた生来は、ユウヒの苦し紛れの言葉に笑みを浮かべると立ち止り、今にも出て行きそうなユウヒを送る様に口元を緩めて見ていたヘレナに注意込みで指示を出す。


「それは残念です。若様おくりおお・・・おくりします」


「今何を言おうとした!?」


「そんな言わせるなんて・・・ぽっ」

 指示を出されたヘレナはその注意に心底残念そうな表情を浮かべると、僅かに淀んだ目でユウヒにゆっくりと近づき、ユウヒの突っ込みを受けると恥ずかしそうに赤く染まった頬へと手を当てる。


「あ、逃げた」


「ああ! お待ちください若様!」

 頬を手で押さえたことで視線の外れたヘレナの隙をついて蹴破る様な勢いで部屋から跳び出したユウヒに、驚き半分可笑しさ半分と言った声を漏らす生来。そんな彼女の呟きに慌てて顔を上げたヘレナは、軽快な音を立てて逃げる羊を、まるで狼の様な視線で嬉しそうに追いかけていくのだった。


 尚、この女性二人は以前にユウヒを性的な意味で襲った前科があり、しかしユウヒの危機回避能力の高さによって全て未遂に終わっている。そう全てと言うことからわかる様に、その回数一件や二件ではないのだ。


「うふふ、楽しいわね・・・。それにしても、あのいつも気だる気で覇気を感じない子が赤狐と黒鬼の息子で人脈も異常、今回の騒動でも最前線を歩き回っている。とても信じられないわよね? ポール」

 冗談なのか本気なのか分からない笑みを浮かべてソファーに座った生来は、どこか懐かしそうに話し出すと、いつの間にか現れていた背後の男性に目を向けてくすくすと笑い声を漏らす。


「奥様、彼を侮ってはいけません。以前までの彼もまた危険でしたが、何があったのか・・・以前より一層洗練された気配を感じます。あれは過酷な戦場を切り抜けた者と同じ気配です(隠れていた私にも気が付いていた節がありましたし、察知能力だけでもさらに磨きがかかっていましたな・・・)」

 執事然とした姿をしながらも、服の上からでも分かる鍛え上げられた体から一般人とは違う逸脱した気配を醸し出す男性は、ポールと言う名前の様だ。そんな初老とも言える年齢の男性は、真剣な表情でユウヒの飛び出て行った扉を見詰めると、表情と同じ雰囲気の声でユウヒをそう評価し、心の中では隠れていた自分に気が付いていたユウヒをさらに一段階高く警戒する。


「・・・そう、ドームの向こうはそんなに大変な世界なのね。家の娘のことは、この程度の感謝じゃ足りないかしら」

 ポールの評価を聞いた生来は、ポールが評価した能力が平和な日本で磨けるわけがない事を知っており、それは即ち、ユウヒが閉じ込められていたと思われるドームの中で磨かれたものだと察すると、そんな危険な場所に娘の為だけではないにしろ、身一つで向かわせることになったユウヒに、さらに感謝の念を覚えるのであった。


「興味がありますな」


「あら、あなたも男の子なのね?」

 一方、ポールはユウヒに感謝する心と同時に、ユウヒを成長させるほどの危険に満ちたドームに僅かな興味が湧き、その感情は思わず口を突いて出てしまう。彼の小さく零した言葉に少し驚いた表情を浮かべた生来は、すぐに表情を崩すと楽しそうに笑いだす。


 ユウヒには悪いが、一般の枠から大いに外れた家の様である赤枝家が、この先どうユウヒを翻弄するのか、実に楽しみである。



 いかがでしたでしょうか?


 パフェの実家の人々とユウヒの心温まる?一時でした。何やら普通とは違う家の様ですが、ユウヒの今後にどうかかわってくるのでしょうか。


 それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー

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