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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第一章 救出と救済

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第五十四話 赤枝家とユウヒ 前編

 どうもHekutoです。


 修正等完了しましたので投稿させていただきます。少々量は物足りないかもしれませんが、ちょっとしたお暇のお供にでも楽しんで頂ければ幸いです。



『赤枝家とユウヒ 前編』


 異世界とは違う慣れ親しんだ日本の朝、俺は今それを満喫している。


「清々しくも湿度を感じる夏の空気と、香ばしいパンとコーヒーの香り・・・平和だ」

 日本であればどこでも感じることが出来そうな夏らしい空気、それから目覚めのコーヒーとパンの焼ける香ばしい平和な香りが、荒れた俺の心を優しく癒してくれるかのようだ。


「老け込んだな・・・」


「その原因が何を言うか、根掘り葉掘りと」

 なんで俺がこんなに平和を感じているのかと言うと、昨夜忍者三人が帰った後に起きた不幸が原因である。その不幸とは、立ち聞きしたことを悪びれもしない両親による、好奇心丸出しの尋問? を受けたからだ。


「だってぇ」

 今なら、呆れた表情でコーヒーに口をつける父に威圧的なジト目を向けたとしても、俺は許されると思う。と言うか小さく舌を出して科を作る母さんが一番根掘り葉掘り聞いていたような気がするのだが、その仕草がミカンたちと重なり俺は思わず肩を落としてしまう。


「だっておまえ革命だぞ? 医療革命なんて鼻で笑われるレベルの物だぞ?」


「もう崩壊レベルね、あれが量産されたら世界中の医療関係者は軒並み失業よ」

 二人が一番気にしていたのは、昨日三人に渡した様な回復薬関連の話しであった。父さんと母さんの昔の仕事は怪我する人が多かったらしく、そのせいか回復薬の話しに妙に食いついて来たのである。


 実際問題二人の言い分もよくわかるし、その効果を目にしている身としては頷かずにいられない・・・が、


「量産するきねぇし無理だろうなぁ」

 面倒なのもあるがこの世界に魔力が無い以上、魔力を用いて作った回復薬は作れないのだ。無理をすれば作れるかもしれないけど、どのみち量産なんてのは無理、と言うかやりたくない。


「魔力だったか、異世界はすごいな」


「こっちにはないのよね?」


「探せば分からないけど今のとこ見てないな」

 そんな危険極まりない薬を作って魔力を浪費するよりも、この世界の魔力探しをする方が有意義である。精霊とクシャミの関係性も気になるので、時間があれば旅行がてら探してみたいものだ。


「残念ね、お母さん箒で飛んでみたかったのに」


「・・・子供か」

 首を横に振って分からないと答えた俺に、片手を自分の頬に当てて残念そうな表情を浮かべた母さんが、何処かで聞いたことのある様な事を口にし、飛んでる自分でも想像しているのか今度はニコニコとした笑みを浮かべはじめる。


「そういう物は作れないのか?」


「空飛ぶ箒? んー材料がないし、なぜかこっちの材料じゃあんな風にならないんだよ」

 笑みを浮かべる母さんに、俺と同じく何とも言えない表情浮かべていた父さんは、その表情のまま俺に何とかならないかと、問いかけてくる。基本母さん大好きな父なので、その願いを叶えてあげたいとか考えているのであろうが、すでに帰ってきてから何度か試しており、しかし今のところ異世界で作った様な特別な効果は発現していない。


「世界の法則ってやつかね? まてよ・・・ならドームの向こうの物でなら作れるのか」


「まぁね? でも持ち帰れないって話なんだろ?」

 一方、父さんが言う様にドームの向こう側の素材では、アミールの管理する世界ほどではないがそれなりに高い効果が発現している。試行回数も情報も少ないから何とも言えないが、たぶん魔力や神秘的な物が関わっているのではないだろうか? まぁ、今のところ作れたとしても持ち帰る目途は立ってないのだけど。


「そうだな、一部持ち帰れるのではという話も出てるが、まだ公になってないようだ」

 え? そうなの? てか公にできてない情報をどこから仕入れているかの方が気になります。


「たぶん一部少量なら持ち帰れてると思うわ、明らかにあの人たち隠し事してたし、ユウちゃんも調べてみたら?」

 えっと、お母様の勘だとそれはもうほぼ確定、と言うか誰の隠し事なのですか? 俺に向けてくるウィンク付きの笑みと唇を押さえている人差し指に恐怖を感じるんですけど。


「・・・どこからの情報か怖くて聞けないけど、今日の予定が終わったら調べてみようかな」

 でもまぁ調べる事には賛成と言うか、むしろ未知のものを調べるのはどっちかと言うと大好物なので、今日の用事を済ませた帰りにでも少し調べてみようと思う。


「今日はどうするんだ?」


「あぁ友人宅まで安否報告に行ってくる」

 今日の予定は今のところ一件だけだし、たぶん早めに帰ってこれると思うので丁度いいとも言える。


「まだあるのか?」


「ちと遠いんだよ」

 本当なら昨日のうちに済ませたいところでもあったのだが、その場所は家から割と離れており、昨日の予定に含めるのは少し危険があったのだ。


「近所じゃないのか」


「世田谷某所」

 俺の家も一応都内なのだが、世田谷と比べれば圧倒的な差があるだろう、主に住んでる人間の質とか懐具合とか、別に今住んでる町が嫌いとかではないのだが、地理的格差はどうしても感じざるを得ないと言うものである。


「あぁ・・・お金持ちのお友達って女狐ね」


「ん、ん? イントネーションがおかしかったような」

 なんだろう、母さんの笑みに僅かな凄味を感じるのだが、と言うかイントネーション可笑しかったよね? これは姉さんと母さんは会わせないほうがいいだろうか? うん、特に会わせる必要もないしそうしとこう。


「気のせいよ・・・気を付けてね」


「んん? わかった」

 俺の判断は間違いじゃなさそうだけど、やっぱり何かイントネーションと言うか、言葉に込められた感情がおかしい気がするのだが、唯でさえ行くのに覚悟がいると言うのに余計に気が滅入りそうだよ。





 ユウヒがいつもよりやる気を感じない表情で、のろのろと出掛ける準備をしている頃、とあるアパートの一室では、すでに出かける準備を済ませた全身黒尽くめの男たちが、やる気に満ちた表情を浮かべていた。


「さて行くか」

「おう、シチュー美味かったな」

「絶品でござった」


 例のごとくヒゾウの部屋に集まった忍者達の目の前には、ビーフシチューを食べた後の洗われていない皿がちゃぶ台に置かれており、その中心には空っぽになった保温機能付き弁当箱が、どこか大事そうに一段高く置かれている。


「しかし、面会時間とか盲点でござった」

「だな、流石に不法侵入は不味いしな」

「良いイメージを作る前に犯罪者になるとこだったお」


 シチューの味を思い出し頬を緩める忍者達は、しかし今から行く場所を思い出すと今度は何とも言えない表情で肩を落とした。実は、昨日ユウヒから魔法薬をもらえたのは良いのだが、屋根から屋根へ跳び移り迷走しつつも病院に駆け付けた彼らを待っていたのは、面会時間終了のお知らせだったのだ。


「「「・・・・・・」」」


 三回ほど面会終了の文字を読み返した忍者達がその場に崩れ去る姿は、あまりにも悲壮なものであったのか、気が付いた看護師が慌てて駆けつけるほどであった。しかし規則は規則、特に厳重な規制が敷かれている患者であることもあり、三人は大人しくその場を去ったのである。


「さて、先ずはマスゴミ煽りの時間だな」

「おう! 背中に張り付ける張り紙の準備は万全だお!」

「○貞とか○漏とか、チョイスがひどいでござる・・・」


 そんなこともあったと言った遠い目と表情でしみじみとした沈黙作り出した三人は、すぐに開き直ると慌ただしく荷物を腰に巻いたり懐に入れたりと最終準備を始める。そんな中、ヒゾウは家庭用コンパクトプリンターの前に置かれた紙の束を手に取ると、隠すことの出来ない悪辣な笑みを浮かべ、その紙に書かれた文字に目を向けたゴエンモは、その言葉の選択を見て呆れた様に呟くのであった。





 所変わりここは東京都世田谷某所にある住宅地の一画、そこにある一軒の邸宅の前では、いつもの三割増しで気だる気な表情を浮かべたユウヒが、目の前の大きな門を見上げていた。


「・・・さて、行くか」

 まさに不承不承と言った声を漏らしたユウヒは、門を支える大きな支柱に取り付けられた小さなボタンを押すと、強化ガラスで保護された目の前の液晶画面に目を向ける。


「でかい家ってのはそれだけで威圧感ぱないよな・・・痛くないけど胃が痛い気がする」

 液晶画面に映るしばらくお待ちくださいの文字と『赤枝』と彫られた表札を横目に、再度門を見上げたユウヒは、その門の向こうに見える大きな屋敷に小さくため息を漏らすと、住む世界の違いに思わずお腹を押さえてしまう。


「・・・」

 しばらくそのまま待っていると、ユウヒの見詰めていた液晶画面が切り替わり女性を映し出し、


『はいどち・・・若様ですか、どうぞお入りください』

 艶のあるライトブラウンの髪を揺らして視線を向けた女性は、ユウヒの姿を確認した瞬間誰何の声を中断すると、即座にユウヒを招き入れる為に何かの機器を素早い動きで操作し始める。


「・・・ヘレナさん、毎度言いますけどその呼称は可笑しいと思うんですよ」


『ふふ』

 綺麗な髪に負けない綺麗な瞳をした彼女の名前はヘレナ・ウェールズ。ヤメロンギルドのギルドマスターを務めるパフェの家に仕えるメイドであり、赤枝家で奉仕するメイド達を纏めるメイド長でもある。


 そんな女性の見せる見慣れた行動に、毎度ながら違和感しか感じないと言うユウヒは呆れた表情で肩を落とし、じとっとした視線を感じたヘレナはどこか嬉しそうな笑みを浮かべると、液晶画面から消えるのだった。


「・・・行くか」

 液晶画面の映像が暗転して途切れると同時に目の前で動き出す重厚な門を見上げたユウヒは、人一人分だけ開いて止まった門に何とも言えない表情を浮かべる。


 このまま帰りたいと言う感情が一瞬頭をよぎったユウヒは、そんな天使の誘惑を振り払うように小さくため息を吐くと、覚悟を決めて歩き出す。通り抜けた瞬間閉まり出す門に退路を塞がれた様な気分を味わいながら、彼は大きな玄関に向けて重い脚を引きずって行くのであった。





 ユウヒがじっくり時間をかけて歩いている頃、


「はぅあ!?」

 異世界ではパフェ、実名を赤枝あかえだ 水幸みゆきと言う女性が何かを感じ取ったのか、肩を躍らせ周囲を窺っていた。


「どうしたにゃ?」


「いや、何か嫌な予感が」

 現在パフェはリンゴと一緒にネムの家で寛いでいる。なんだかんだと仲良くなった彼女たちは同性と言うこともありすっかり打ち解けることが出来た様だ。


「まるでユウヒみたいな事を言うのにゃ、異世界人はみんな勘がいいの?」

 楽しげな談笑中にいきなり奇声を上げたパフェが、ネムの問いかけに顔色を悪くして答えると、その内容が勘の良いユウヒの様だとどこか呆れた表情を浮かべるネム。


「いやそんなことは・・・あぁ」

 ネムの中で日本人=エスパーの式が成り立ちそうな事に苦笑を浮かべるパフェであったが、ユウヒと言う名前に何か察すると疲れた表情で力が抜けた様な声を漏らす。


「何かわかったの?」


「たぶん、ユウヒが家に居る」

 急に頭を抱えだしたパフェに首を傾げたリンゴは、ネムが入れてくれたお茶を口につけながら彼女に問いかけ、大して心配した印象を感じない問いかけに顔を力なく上げたパフェは、まるで見て来たかのように真実を口にするのだった。


「なるほどね・・・無事だといいわね」


「・・・」

 まるでユウヒの様な事をやってのけるパフェに、特に驚くことなくその言葉を信じたリンゴは、先ほどまでとは打って変わって気遣うような表情を浮かべると、湯呑を置いた手をパフェの肩にそっと置いて彼女を慰める。


「うにゃ?」

 なぜ彼女たちが暗い雰囲気を漏らしだしたのか解らないネムは、少ない情報から答えを探すもやはりわからないと首を傾げると、そっとパフェのお茶を新しいものに変えてあげるのであった。


 急に暗い雰囲気を漏らし始めた二人が何を感じ何を察したのか、それは彼女たちにしかわからないものの、それがユウヒに関わる事であることは確かであろう。いったいユウヒに身に何が起きようとしているのか、少なくとも彼女たちにとってはうれしいものでは無いようであるが、頭を抱えつつも赤くなる頬を隠すパフェの様子から、彼女にとってはそう悪いことばかりではない様である。



 いかがでしたでしょうか?


 どうやらユウヒが向かったのはパフェの家である様だが、そこは普通の家とは少し違う様である。異世界の地で心配されるユウヒは何もなく帰れるのか、次回をお楽しみに。


 それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー

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