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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第一章 救出と救済

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第五十話 お小遣いを求めて

 どうもHekutoです。


 修正等完了しましたので投稿させていただきます。皆様のお暇のお供にどうぞ楽しんで行ってください。



『お小遣いを求めて』


 太陽は中天を過ぎ、都心の一角にあるどこにでもありそうな繁華街は、一日で最も暑い時間に差し掛かっている。ジリジリとした日の照り付けによる陽炎で地面が歪んで見える道を、ユウヒは溶けてしまいそうな感覚を覚えながらも、目的の場所へと無言で歩を進めていた。


「・・・提灯? お祭りでもあるのか? ママいきてるかー?」

 それから数分後、何時にも増してだらけきった表情を浮かべたユウヒの姿は、何時もは掲げられていない提灯が軒先に下げられた一軒の店の前にあった。赤提灯の似合わない店先で首を傾げたユウヒは、不思議そうな表情のまま暖簾の先の扉を開くと、冷気の流れ出す室内にほっとした表情を浮かべながら奥に入っていく。


「あ! にいちゃんいらっしゃい!」


「おっと? ファオか、お前は変わらんな」

 どこからどう見ても疲れたサラリーマンの様な表情のユウヒを迎えたのは、店内から止めどなく流れ出す冷気だけではなかったようで、入ってきたのがユウヒだとわかると嬉しそうな声を上げて飛びついてくる小さな人影。


「そんなすぐに変わらないよ」

 腰にしがみ付いて来た、少女の様に小柄な女性を見下ろし、懐かしげな笑みを浮かべたユウヒ。そんなユウヒの腰にしがみ付き、嬉しそうに目を細めて見上げるのは、前回ユウヒがトレビ庵を訪れた時には留守であったファオと言う健康的な褐色の肌が特徴の女性である。


「あらあら、いらっしゃぁい、今日はどうしたのぉ?」


 前回の入れ違いで悔しそうにしていた彼女の、嬉しそうな表情を見て微笑みながら現れた店主のじぇにふぁーは、ユウヒをいつも通りの調子で出迎えると、用があると言うこと前提で小首を傾げながら問いかけた。


「ああ、流華を見つけたって報告とお小遣い稼ぎ?」


「そう、やっぱり入ってたのね・・・無茶するんだから、血筋なのかしら?」

 その問いかけに、ユウヒが腰にしがみ付いたままのファオの頭に手を置きながら、苦笑と共に来店理由を口にすると、じぇにふぁーもまた困った様な笑みで頬を片手で押さえ、ため息交じりの声で誰かを思い浮かべながら小さく呟く。


「あえてどっちの血筋かは聞かないけど、ドームの話をするとお小遣いもらえると聞いたんだが」


「いいわよん、裏の話になるでしょうから奥に来てぇん」


「あいよー」

 血筋と言う言葉に二人ほど候補を思い浮かべたユウヒは、どっちでもあり得そうだと苦笑を浮かべるとお小遣いの話を口にして、じぇにふぁーが勧めるままに慣れた様子で奥へと・・・腰にファオをぶら下げたまま入っていく。


「・・・ファオはお店番でぇす」


「えー! どくせんきんしほう違反だ!」

 しかしそんなユウヒのオプションは、じぇにふぁーによってあっさり取り外されてしまい。特に気にした様子もなく奥へと入っていくユウヒの後ろでは、まるで親猫に持ち上げられた子猫の様に首根っこを掴まれたファオが、じぇにふぁーと口喧嘩を始める。


「おほほほ、この店では私が法律なのよぉん、誰も聞き耳しないように見張ってなっさぁい」


「むぅ・・・はぁい」

 喧嘩と言っても可愛い我がままの様なもので、じぇにふぁーが言わんとすることを全て理解している彼女は、口をすぼめて唸り声を漏らすと小さく溜息を吐いて諦めるのであった。天真爛漫な雰囲気と違いファオの理性が勝利する一方、


「・・・」

 自らの欲望に正直なものが一人。


「シャー! コニも道連れなんだから!」


「そんな!?」

 ユウヒの後を追う様に何食わぬ顔で店の裏に入ろうとするも、即座に飛び掛かったファオによって後ろから羽交い絞めにされてしまう。その少女、もとい性別上は男性という男の娘のコニファーは、ファオの言葉で目に涙を浮かべると、ふらふらと手をユウヒに向かって揺らしながら引きずられて行き、ファオに何か怒られると大人しく・・・いや、消沈した様子で店番に戻る。


「相変わらず仲良いな」


「付き合い長いしねぇ」

 離れてしまった事で何を話しているのかわからないが、その表情に険悪なものは無く、むしろ楽しげな雰囲気が伝わり、ユウヒは思わずそう零すと微笑む。まるで親の様なユウヒの笑みに苦笑を浮かべたじぇにふぁーは、二人の様子を横目で見ながらユウヒの背を押すと、店の奥にある個室へと入っていくのだった。





 一方その頃、人によっては寒いと感じるほど冷えたトレビ庵と違い、まさに灼熱と言いたくなるような日差しの下では、暑苦しい格好の男たちが絶望の感情を張り付けた顔から、止めどなく汗を流していた。


「なんというすれ違い」

「これが女の子なら萌えるのに・・・」

「拙者ら、ユウヒ殿に避けられてないでござらんか?」


 それは夏だと言うのに、露出が極めて少ない全身真っ黒な忍者コーデのジライダ達である。彼らはすでにユウヒがドームから戻ってきていることを聞き込みによって把握すると、ドームの周囲を探しまわり、しかしすでに家に帰っている様だと聞くと今度はユウヒの自宅へと走った。


「・・・否定できねぇ」

「ユウヒの勘なら察知されてそうだお」

「追いかけるか、それとも待ち伏せでござるか」


 しかし彼らを待っていたのは、ユウヒがすでに出かけたと言う事実である。女の子なら萌えるのにと口にしたヒゾウは、ゴエンモの言葉に何の否定も出来ないジライダに目を向けると蒼い顔で頭を抱えた。このまま追いかけても状況は好転しないと考えたゴエンモは、神妙な表情で腕を組んで悩ましげに首を傾げる。


「・・・休憩に一票」

「二票」

「・・・満場一致でござるな、どっかで休憩するでござるか」


 そんな彼らは、今一番自分たちに必要な作戦を無言で考えると、最初にヒゾウ次にジライダが同じ考えを口にし、それはゴエンモも同様だったようで、互いに汗だくの顔で頷くと親指を立てあうのであった。


 さすがに忍者と言っても元は割と怠惰な生活を送っていた一般人、これから一日で一番暑い時間を迎えるであろうお外で待ち伏せなど、ましてや走って追いかけるなど考えたくも無いようだ。


「茶店!」

「ファミレス!」

「・・・・・・レディ・ファイッ!」


 意思の疎通が完璧になされた仲の良い三人であるが、休憩するならどこがいいかと笑みを浮かべて意見を言い合うも、考えのすれ違うジライダとヒゾウ。そして鋭く細められた目で睨み合う二人をあえて煽るゴエンモ。


「「さいしょはグー! ジャンケンおらぁ!」」


 ゴエンモの声で右手を隠すヒゾウと、その動きを見て左手を隠し構えるジライダは、お決まりの声を上げながら強く握り込んだ手を出すと、思いっきり振りかぶってほぼ同時に突きだす。およそ一般人では目で追う事の出来ない速度で突き出された拳は、そのまま真っ直ぐに伸びて行き、互いの頬を打ち抜きあう。


「・・・あいこでござるな」


 ヒゾウの右腕とジライダの左腕が交差し合い、互いの顔を殴り合ったまま動きを止める二人。その様子に何が起きるか予測できていたゴエンモは、満足そうな表情を浮かべながら地面に崩れ落ちる二人を見詰めるとため息交じりの声で小さく呟き、二人を無造作に掴んだかと思うとそのまま引き摺りながら移動を開始するのであった。





 忍者達がいつものじゃれ合いを行っている頃、ユウヒは少し薄暗い個室の中で、すっきりとした苦みが特徴のじぇにふぁーブレンドアイスコーヒーを、細めのストローで吸い上げていた。


「なるほどねぇ、流華ちゃんったら大冒険ね」


「冒険のし過ぎにもほどがあるがな」

 ドームに入ってからの事を一部ぼかしつつ話し終わり、渇いた喉をコーヒーで潤しているユウヒの前では、じぇにふぁーがノートパソコンを使ってユウヒの話をまとめている。しかしその作業もすぐ終わると、苦笑を張り付けた表情をユウヒに向けて笑い、そんなじぇにふぁーの言葉にユウヒは眉を寄せた渋面で、今にも溜息を吐きそうな呆れた声を零す。


「そんな危険地帯に身一つで助けに行くとか、愛されてるって・・・良いわよねぇ、あぁんいぃわぁ」

 ユウヒの渋面と呆れの声の中に、明らかな安心と慈愛の感情を感じたじぇにふぁーは、聞かされた内容の危険性に肩を竦めるも、すぐに頬を高揚させながら科を作って羨ましそうな声を上げ、熱い視線でユウヒを見詰める。


「家族愛な」


「・・・まぁ、そう言うことにしておいてあげる。それにしても異世界に亜人獣人に精霊に果ては魔法ね。・・・もしかして、ユウヒくん使えちゃったりするの?」

 明らかに愛と言う部分に含みのあるじぇにふぁーの言葉に、一応念押しするように呟きストローでコーヒーを吸い上げるユウヒ。一方詰まらなさそうにユウヒの呟きを見詰めたじぇにふぁーは、特にその言葉で自分の妄想を変える気は無さそうで、困った様な笑みを浮かべ肩を竦めると、ノートパソコンの画面に視線を落として真剣な表情を浮かべ、そのままもう一度ユウヒに目を向ける。


「ナニガ?」


「使えるのね。私も使えるかしらぁ?」

 じぇにふぁーの視線と問いかけに思わず声がおかしくなるユウヒ、じぇにふぁーは呆れた様に肩を落とすと、ユウヒの妙に詳しすぎる話と今の言動ですべてを察したようで、頬に片手を当てて虚空を見詰めると、魔法を使う自分の姿でも妄想しているのか楽しそうな表情を浮かべはじめた。


「さぁ? 俺は取得経路が特殊だからなぁ・・・それにこっちの世界には魔力とか無いぞ?」

 夢見る少女の様な表情を浮かべる目の前の男性に、ユウヒは何とも言えない表情でソファーの背に深く凭れ掛かると、自分の体験とこの世界で軽く調べた事実を話し出す。


「魔力ってゲームとかでよくあるMPマジックポイント的な?」


「そんな感じ、俺の知るだけでは二種類ほどあるんだが両方とも無い。そのせいで俺もこっちにいるとMP的なものが回復しないんだよなぁ」

 きょとんとした表情のじぇにふぁーに頷き答えるユウヒの言うように、ユウヒが帰って来てからその金の右目で見た限り、現在地球上に魔力は存在していない。


 すべてを探したわけではないにしろ、異世界ではどこにでもあった物が全く見当たらないと言う事は、現状無いと言って良いだろうし、魔法と言うものが一般的に無いとされていると言う現実が、彼の予想を肯定している様なモノである。


「残念、黒いワンピースで箒にまたがって飛んでみたかったのに」

 魔力が回復しないと困った様に呟くユウヒの姿に、口を窄めて詰まらなさそうな表情を浮かべ、某有名アニメ映画のワンシーンを実現する自分を妄想するじぇにふぁー。


「勘弁してくれ、見上げた人のSAN値が削れる」


「ひどっ!?」

 箒に跨り空を自由に飛ぶ自分を想像して思わずじぇにふぁーが口元を緩める一方、ユウヒも同じような想像を見上げる側で想像すると、気持ち悪そうに口を押さえて地上の民の気持ちを代弁する。


「とりあえず今のところは以上だな、俺もこっちで魔力の有無は調べるけど期待はしないでくれ」

 それから十数分後、ユウヒの率直な感想にじぇにふぁーが抗議したせいで若干時間がとられたものの、ユウヒの調べた内容はほぼ、情報屋の仕事もしているじぇにふぁーに伝えられ、じぇにふぁーから魔力について抗議ついでに依頼を受けたユウヒは疲れた表情で肩を竦めて見せた。


「楽しみにしているわ。・・・それじゃこれが情報料ね」


「・・・多いな」

 肩を竦めるユウヒに、彼の真面目さを知っているじぇにふぁーは嬉しそうに頷くと、足下に置いていたブランドのロゴが散りばめられたバッグから、明らかに厚みがあることがわかる封筒を取り出しユウヒの前にそっと置く。何度か似たような情報提供をしたことがあるユウヒは、その厚みから中身を想像したのか引きつった表情で思わず心の声を洩らしてしまう。


「情報は鮮度が命、その上実体験と簡単とか言っといて割と詳しい調査報告付きなら、それぐらいは当然よ? 今はどこも喉から手が出るほど欲しい情報だしね、特に国とか国とか」

 おっかなびっくりと言った動きで封筒を手に取り、中身を確認して目を見開くユウヒを困った様に見詰め、視線でこんなに良いのかと聞いてくるユウヒに苦笑を漏らしたじぇにふぁーは、ユウヒの齎した情報の価値を口にし、ドームに関する現在の状況とその情報を催促してくる相手を思い出し、小さく肩を竦めて見せる。


「そんなに進んどらんの?」


「まぁね、今までに経験したことのない未知の現象過ぎてどの国も手を拱いているの、一部では過激な行動に出始めてるし」

 じぇにふぁーの僅かに疲れを感じさせる表情に、ユウヒは不思議そうに首を傾げ、そんなユウヒにじぇにふぁーはソファーの背に体重をあずけながら現状について語った。実際彼女の言ったように、どの国のどの組織も調査が順調とはとても言えず、一部は順調そうに見せつつその実態は力任せなものである。


「・・・そうなのか」


「日本はまだ大丈夫だけど・・・そうね、念のためにアーケード街のドームに関しては、馬鹿なことしないようにもう一度圧力かけておくわね」

 思っていたものとは全く違う現状に思わず腕を組んで顔を俯かせるユウヒ。そんなユウヒを見詰めていたじぇにふぁーは、微笑みを浮かべるとソファーの背から体を起こしてバッグから大き目のスマホを取り出し、不穏な事を口にしながらスマホを弄りだす。


「・・・俺は何も聞いてないっす」


「うふふ、賢明よ? でも二人の息子だし意味ないかも」

 何をしようとしているのか、いや現在進行形でナニカやっていそうなじぇにふぁーに、ユウヒは軽く耳を塞ぐと首を横に振る。ユウヒの仕草に楽しそうな笑い声を溢したじぇにふぁーは、しかしその表情に反してユウヒに追い打ちとも言える言葉を投げかけ、


「あれ? 生まれた時から詰んでる?」


「ご愁傷様」


「oh…」

 ショックを受けた様に動きを止めるユウヒに、ニッコリと、それでいて気の毒そうな笑みで止めを刺すのであった。


「ご愁傷様ついでなんだけど」


「ん?」

 止めを刺されたユウヒが頭を抱えて深く俯く姿に、どこか興奮したように頬を赤くするじぇにふぁーは、手元のスマホを見詰めると真剣な表情でユウヒに声をかける。


「もしもの時はママに協力してくれないかしら?」


「状況にもよるけど、知り合い割引で安くはしとくよ」


「・・・簡単に引き受けちゃうのね」

 声をかけられたユウヒが、世の不条理を感じてそうな表情のまま顔を上げると、じぇにふぁーは変わらず真剣な表情でそう切り出し、その表情と声にいつものやる気なさげな顔に戻ったユウヒは背筋を伸ばしながら苦笑交じりにそう答えた。ユウヒの勘の良さを十分理解して居るじぇにふぁーは、彼が何も考えずに、また感じずにユウヒが返事をしたとは思えず、しかしどこか不安そうに疑問を口にする。


「んーなんとなく問題はなさそうかなと? 選択次第では荒れる予感はヒシヒシと感じるけど」


「何それ怖い」

 そんなじぇにふぁーに、ユウヒは首を傾げながらいつもと変わらず脳裏を駆ける勘のまま口を開き、しかし急に意地の悪そうな笑みを浮かべると荒れると言う言葉を口にして、じぇにふぁーに先ほどの止めの意趣返しを行う。


 そんな意趣返しを理解しつつも、天野家二代にわたる異常な勘の良さを実体験として知っているじぇにふぁーは、ユウヒの意趣返しをただの意趣返しとして捉えることが出来ず、彼が見つめ続ける間、引き攣った表情を元に戻すことが出来ないのであった



 いかがでしたでしょうか?


 お食事処トレビ庵のもう一つの顔でした。どうやらユウヒと交友関係にある人物には、普通の人物は少ない様です。まぁ現実でも普通と言う存在は、いろんな意味で貴重かもしれませんが。


 それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー

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