第四十六話 出来る子出来ない子
どうもHekutoです。
修正等完了しましたのでお暇な時にでも楽しんで頂ければ幸いです。
『出来る子出来ない子』
異世界の深い森の中に存在する大きな獣人の里ハラリア。稀に見る慌ただしい一日を終え眠りについた獣人達が朝日と共に目を覚まし、ネムを筆頭に一部の者が未だ夢の中に居る頃、ユウヒ達は異世界で初めてまともに摂る朝食を堪能していた。
「・・・うまい」
「・・・そうね」
そこでは、微妙に機嫌が悪かったパフェがスープを口にした瞬間笑顔に戻り、しかしすぐに何とも言えない感情で眉を寄せ、その隣ではリンゴが同じように眉を寄せている。
「なんで美味いと言いながら目が死んでんだよ・・・」
うまいと言いつつなぜか目が死んでいく二人の女性に、ユウヒはよくわからないと言った表情でジト目を向け、その視線に二人は同じ逃げる様な仕草で顔をそむけてしまう。
「うふふ、それはユウヒ君の女子力に打ちのめされているからよぉ」
そんな二人と違い、いつもと変わらぬ幸せそうな笑みを浮かべたメロンは、楽しそうな笑い声を漏らすと、首を傾げるユウヒに目を向けて彼が求める答えを口にする。
「「「うぐぅ」」」
そう、いま彼女たちが口にしたスープは異世界の食材を使ってはいるものの、その料理を作ったのは地球人であるユウヒであった。しかもそのスープは特に問題もなく、日本であっても一般的においしいスープの範疇に入る味付けであり、料理の腕に問題を抱える女性陣は、ユウヒを見詰めながら楽しそうに語るメロンの言葉に胸を押さえると、思わず苦悶の声を洩らしてしまう。
「女子力って・・・というか流華、おまえもなのか」
二人の女性の心に、わざと響くような言い回しを使ったメロンに目を向けたユウヒは、その言葉に喜んでいいのかどうか微妙な表情を浮かべるも、聞こえて来た苦悶の声にルカの声も混ざっていた事に気が付くと、視線を妹に向けてどこか悲しそうな表情を浮かべる。
「た、卵焼きなら・・・ぅ、スクランブルエッグ? いや、卵そぼろ?」
「ルカちゃん・・・」
胸を押さえ表情を固くしていたルカは、兄から注がれる視線に気が付くと慌てた様に言い繕うも、嘘が苦手なのかそれとも注がれ続ける兄の視線に良心が痛んだのか、視線を彷徨わせながら料理の形態がどんどん変わっていく。その料理の出来ない子特有の言い訳に、すべてを察したクマは彼女の名前を呟きながら、不憫そうな表情で目尻に涙を滲ませる。
「なんで泣くの!?」
「うぅむ」
急にクマが流し始めた涙とその表情に驚きと衝撃の混ざった声を洩らすルカ、そんなルカの将来に一抹の不安を感じたのかクマと視線で語りながら呻くような声を洩らすユウヒ。
「と言うかだ! 異世界の食材でまともに料理出来るユウヒがおかしいんであってだな!」
「そうよ! なんで初めての食材でおいしくできるのよ!」
ユウヒとクマの間で視線を彷徨わせるルカが、真剣に料理と自分の将来について悩みそうになる中、大人の女性は悩むことをやめて開き直った様だ。確かに彼女たちの言い分も理解できるが、しかし必死の形相で語る彼女たちの姿は、どう見ても言い訳をしているようにしか見えず、その言い訳は男性陣の顔を残念そうなものへと変えていく。
「いや、おいしいと言ってくれるのはうれしいが・・・味見と基本さえ知っていれば、そのくらいのスープは、な?」
リンゴとパフェ理論によるユウヒ可笑しい説を静かに聞いていたユウヒは、彼女たちの口が息切れで止まると徐に口を開き、いつもより二割増しにやる気無さそうな表情で彼なりの正論を口にする。
実際問題この世界と地球との間で、それほど大きな味覚の違いは見受けられず、これまで彼女達が口にしてきた食料も、このハラリアで食されている食材も、見た目や生態こそ違うものの味に大きな問題は無かった。
「うふふ、そぉねぇ・・・でも、基本味見と言うものをしない二人にそれは、酷と言うものよ?」
「「なるほど」」
結局のところ、ユウヒがスープをおいしく作ることが出来た理由は、経験によるところであったわけだが、女性陣二人は経験以前の問題がある様で、苦笑を浮かべたメロンの爽やかな声によって吐かれた毒により、ユウヒとクマは全てを理解し深く頷くのであった。
「「裏切られた!?」」
「・・・味見、大事」
仲間だと、味方だと思っていたメロンによる突然の裏切りに驚愕の表情を浮かべるリンゴとパフェは、しかし返す言葉もない為それ以上何も言えず悔しそうな表情を浮かべる。一方、唯一の学生であるルカは、二人の残念な大人を反面教師にしたのか、メロンの言葉と無言で頷くユウヒとクマの姿を眺めながら心に深く味見の重要性を刻むのだった。
集会場の一室で騒がしくも楽しげな空気が満ちている頃、ユウヒがそっと抜け出してきたネムの家でも楽しそうな声が聞こえている。
「うへへ・・・ゆうひぃ」
ただしそれは、布団から体の八割以上を露出させたネム一人の口から漏れ聞こえる寝言であった。
「・・・ネム様、起きてください。ネム様」
「ふへぇ? ・・・チャコ?」
とてもユウヒには見せられない緩みきった彼女の表情に、黒毛のネシュ族少女チャコは小さくため息を洩らすと、どこか愛しげな苦笑を浮かべながらネムを揺り起こす。
「はいそうです。目は覚めましたか?」
「・・・・・・は!」
楽しい夢の世界から揺り起こされゆっくりと意識を浮上させたネムは、目の前のチャコに気が付くとその表情と同じ緩み切った声を出しながらのろのろと起き上がり、苦笑を洩らす彼女をしばし見詰めていたかと思うと、急に目を見開き縦に割れた瞳孔で周囲を警戒し始める。
「あれ? ユウヒは?」
「ふふふ、ユウヒ殿なら友人の方々と朝食を摂っているとの事ですよ?」
その様子に堪らず笑い声を洩らしてしまったチャコは、ネムが突然起こした謎の行動の理由も分かっていたらしく、彼女の問いかけに可笑しそうな笑い声を洩らしながらもしっかりと受け答える。
「うにゃ!? ・・・もしかして寝すぎてたかにゃ?」
「はい、見てわかるとおりに」
自らの醜態をユウヒに見られなかったかという心配と、姿の見えないユウヒがどこにいるのかという心配が同時に頭を駆け巡ったネムは、チャコの答えに驚きの声を洩らすと、すっかり明るくなった外に目を向け肩を落とす。
「ぐぬぬ、昨日は体力も魔力も使いすぎたから・・・」
明らかな寝坊と、ユウヒと朝の挨拶を交わせなかったと言う敗北感に打ちのめされた彼女は、しっかりと寝たにも関わらず体に残っている疲労感に対して忌々しそうに声を洩らすと、布団を叩くように尻尾を揺らした。
「ふふふ、特に今日はお勤めも無いのでご安心ください」
「ほっ・・・としたらお腹がすいて来たにゃ」
「だろうと思って準備しております」
ころころと変わるネムの表情に、楽しそうな笑い声が絶えないチャコは、今日の仕事が休みになったことを伝えると、嬉しそうな表情を浮かべて布団に倒れる腹ペコネムを引き起こしながら、朝食の用意が出来ていることを伝える。
「さすがチャコ! 頼りになるにゃ」
「ありがとうございます。すぐに用意しますね」
二人にとってはこれが日常の様で、違和感のない慣れたやり取りを交わすネムとチャコは、朝食の良い香りが漂う囲炉裏へと仲良く歩きだし、いつもと違う姿を見せる一角に視線を向けると、少し前までそこに居たと思われる人物の話しに花を咲かせるのであった。
そんな話題の人物はと言うと、テーブルの上の食事に気を使いクシャミを噛み殺して鼻を擦ると、何事もなかったように背筋を伸ばし友人たちへ自分の予定を語り出す。
「・・・と言うわけで、俺は一度向こうに戻って報告してくるから」
「弁護を・・・」
妹と友人の安否を確認できたユウヒは、一度地球に戻り彼ら彼女らを心配しているだろう人間に、現状の報告を行う予定の様だ。軽い調子でユウヒが予定を話す一方、クマは沈痛な面持ちで下げた頭の前で拝むように手を合わせると、何度目かになる弁護の依頼をユウヒに頼む。
「あいあい、三人は何か伝言ある?」
クマの懸念が主に彼の父親の怒りであることは十分ユウヒにも理解できており、苦笑を浮かべたユウヒは軽い調子で何度目かになる返事を返しつつ、お腹を満たし寛ぐ女性達に目を向ける。
「・・・そうだな、お母様に大丈夫だと伝えてくれないか? 多分それなりに心配していると思うんだ」
食べ過ぎたのかお腹をさすっていたパフェは、ユウヒの視線に気が付くと恥ずかしそうに居住まいを整え、何事も無かったような表情で母親に安否を伝えておいてほしいとユウヒに頼む。
「親父さんにはいらんのけ?」
「さぁ? 必要ならお母様が連絡するだろ?」
「・・・わかった。リンゴとメロンさんは?」
どこかふわっとしたパフェの頼み方に、彼女の家庭環境や家族構成を思い出しながら、苦笑と共に首を傾げ問いかけるユウヒ。しかし問いかけに対して返ってきたパフェの声はひどくあっさりとしており、その言葉だけで彼女の家のヒエラルキーが伺え、ユウヒはある程度付き合いのある彼女の家族を思い出すと思わず苦笑が洩れ、その苦笑を隠す様に今度はリンゴとメロンに問いかける。
「そぅねぇ? 二人に心配ないって言っておいてくれる?」
「私もそれで」
なぜ二人同時に問いかけたのかと言うと、この二人は同じ場所に住んでいるからで、より正確に言うならば、彼女たち二人にパン屋とミカンを含めた四人は、ユウヒが訪ねた『パン屋さん』で一緒に生活しているのであった。
「・・・うん、生きてたら伝えとく」
そのため二人同人に問いかけたのだが、リンゴの言う『二人』の事を思い出した瞬間ユウヒは思わず表情を固くし、ここに来る前最後に見た惨状を思い出すと二人から視線外し固い表情のまま頷く。
「・・・なにしたユウヒ」
「説教」
明らかに挙動不審なユウヒになんとなく予想は出来ているものの、確認のために彼の肩に手を置き問いかけたクマ。そんなクマにユウヒは、無駄にキリッとした表情で振り返ると一言で説明を終わらせた。
「あちゃー・・・パン子のやつ、思い余ってリスカでもしてなければいいけど」
「うふふ、むしろ悦に浸ってるかもねぇ」
ユウヒもなんとなく気が付いている事なのだが、パン屋はユウヒに対して異常とも言える好意を寄せている。一緒に生活しているリンゴは当然そのことを知っており、ユウヒに説教されたと聞けば若干心配にもなるが、それ以上にパン屋の性格と性癖を把握していしているらしいメロンは、笑みを浮かべ楽しそうな笑い声を漏らす。
「・・・ミカンにはフォローしておくつもりだ」
「「「「把握」」」」
「・・・?」
冗談めかしの様なメロンの言葉に首を傾げるルカをちらりと一瞬だけ見たユウヒは、小さくため息を吐き肩を落とすと、彼女以外に分かる様な遠回しな状況説明を口にし、その説明は一瞬で友人たちに理解されたようだ。
「流華はまだ知らなくていい世界だよ、そいじゃそんな感じで今日は戻らない確率高いから」
「まぁ心配はしてないさ」
不思議そうに首を傾げる妹の姿に汚れた心を癒されたユウヒは、彼女に笑いかけながら話を元の路線に戻して今日は戻らないだろうと説明し、その説明にクマは軽く返事を返す。
「なんだ、冷たい自称親友だな」
「あんなの見たら心配する気もなくなるだろ、なにがあったんだよ?」
あまりにあっさりとした友人の返答に、ユウヒは笑いながら苦情を口にするも、クマは呆れた様に肩を竦めると逆に何があったのかと、前々から気になっていたことを問う。その問いには周りの女性陣も興味があるらしく、ユウヒの話しを聞くために姿勢を若干前のめりに整え始める。
「うむ、ちょっと神様にあって異世界冒険してきた」
そんな友人と妹の姿に、ユウヒは無駄に真面目ぶった表情を作ると真実だけを口にした。
「テンプレ乙ww」
「神様! どんなだった? おひげか? 幼女か? まさか外宇宙的な感じか!?」
しかしそんな御伽話の様な話が、普通の人間に信じられるわけもなく、しかし一部の人間には信じてもらえてるようで、クマの笑い声を遮る様にパフェが身を乗り出してユウヒに話の続きを促す。
「なぜそのチョイスなんだ。うーんそうだな・・・うん、誰もが頷くレベルの金髪美女だな」
どこまで信じているのか分からないが興奮した様に食いつくパフェ、苦笑を洩らしながらある程度真実を話しているのだろうと言った顔のリンゴやクマ、いつもと変わらない笑みのメロンときょとんとした表情のルカ。そんな面々に肩を竦めたユウヒは、パフェの考える神様像に苦笑を洩らすと、初めて会った神様を思い出し始め、その人物にふさわしくかつ簡潔な説明を口にする。
「「「なん、だと・・・!?」」」
「ん?」
その瞬間その場の空気が凍ったように静かになり、ユウヒは不思議そうに首を傾げた。
「写真とかねぇの!?」
驚きの声を上げたクマは逸早く正気を取り戻すと、普段は美人なんて言葉を使って人を評価しないユウヒに、その人物の写真は無いのかと彼の両肩を揺すりながら問いただす。
「スマホ持って行ってないし、いろいろあって今は連絡が取れん」
「残念、しかし色々ってなんなんだユウヒ? 怒らせたとか? やらかしたとか?」
しかし返ってきた答えは『NO』、スマホを家において異世界に行ったユウヒは、何一つとしてアミールの存在を証明する物を持っていない。そんなユウヒは、軽く落胆するクマに肩を竦めて見せ、クマは連絡が取れないと言うユウヒから離れテーブルに肘をつくと、何があったのかと話の続きを促した。
「「「!?」」」
しかし彼の促し方が悪かったのか、口元をニヤ付かせたクマをパフェとリンゴは軽く睨み、珍しくメロンも目を僅かに開くとどこか責める様な表情でユウヒを見詰める。
「おにいちゃん・・・」
「その目は何さ・・・俺もよくわからんがこう、世界規模とか複数の異世界に関わる規模の事件? 事故? 災害? の影響で通信不能な感じだな」
またルカもクマの言葉から色々と想像してしまったのか、心配と蔑みが含まれた視線と声をユウヒに向けた。突然周囲から注がれ始める刺々しい視線に、困惑と遣る瀬なさに満ちた表情を浮かべたユウヒは、変わらず嘘ではない彼にとっての真実を語り続ける。
「え、なにそれ怖い・・・世界滅ばないよな?」
「寸前っぽかったけど、神様よりすごい人が解決してくれた感じだな」
「えぇぇ・・・」
話を進めれば進めるほどに現実的ではなくなって行くユウヒの話しに、友人たちは何を隠しているのかと疑いの目を険しくしていき、ルカは兄から嘘の気配がしないことに困惑を深めていった。
「まぁその話しはまた今度だな、俺は荷物取り行ったらそのまま行くけど・・・嵌め外すなよ?」
そんな友人たちの感情を読み取り苦笑を洩らしたユウヒは、じっと見上げてくるルカの頭をひと撫ですると、話を切り上げ立ち上がり最後にもう一度釘をさす。
「まぁしばらくは大丈夫だろ、な?」
「「「大丈夫だ問題ない(わぁ)」」」
「・・・(フラグ? フラグなの? 戻ってきたときに何もなければいいけどなぁ)」
そんなユウヒの刺した釘に、クマは三人の女性へ振り返りながら問いかけるも、返ってきたのは打ち合わせていたかのようなわざとらしい反応。ネタとしか思えない答えを返す女性たちの姿が、悪いフラグの様に見えたユウヒは、呆れるクマの前で大丈夫だと親指を立てるパフェの姿に一抹の不安を覚えるのであった。
いかがでしたでしょうか?
料理が出来る子はユウヒとメロンとクマ、出来ない子はパフェとリンゴとルカでした。ルカはただの経験不足ですが、パフェ(大雑把)とリンゴ(めんどくさがり屋)は性格的に合わない様です。
それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー




