第四十五話 ハラリアでの朝
どうもHekutoです。
修正等・・・もう少しやりたい気持ちもあるのですが、とりあえず出せそうなので投稿させていただきます。週一回のワールズダスト、楽しんで頂ければ幸いです。
『ハラリアでの朝』
問、あなたは仮眠三時間で働けますか?
答、はい、働・・・きます。
「ふわぁぁ・・・まぁ、働けわするってレベルだけど」
夢の中でも社畜なのはいかがなものかと思う今日この頃、おはようございます。強制ショートスリーパーユウヒです。
「ユウヒ殿、大丈夫ですか?」
「ああ、睡眠不足は慣れてるんで大丈夫ですよ」
仮眠中に見た仕事の夢を思い出しながら、早朝のきりっとした空気が流れるハラリアの細道を歩く俺の隣では、盛大にアクビを洩らす俺を心配そうに見詰めるイケメン。社会人になる前から徹夜は慣れっこであるが、超イケメンな精霊騎士団の隊長と早朝の道を歩くのには慣れそうにありません。
「慣れですか・・・」
「いやぁそれにしても隊長さんがいてくれてよかった。ネムが起きそうになかったから誰に案内してもらおうかと悩んでたんですよ」
なんですかその難しそうな視線は、ただ俺が社蓄でネトゲ中毒なだけなんですが、何か勘違いしてませんかね。
それにしても正直助かった。仮眠している間にネムも目を覚ますかと思ったのだが、俺が起きてもまだぐっすり寝ているようで、寝息の聞こえてくる寝室の戸を見詰めて途方に暮れていると、何か用でもあったのか隊長さんがやってきたのである。妹たちの寝泊まりしている場所まで案内してほしかっただけなので、魔法を使えばよかったのだろうが、今は出来るだけ魔力を節約しておきたかったのだ。
「ははは、ネシュ族は良く寝る種族と言われてますからな・・・それと私の事はザック、と呼んでください。本当はもっと長いのですが、周りからはそう呼ばれてますので」
「そう? じゃザックさんで、うちの連中は迷惑かけてませんか?」
ここに来てこのイケメンの名前を初めて聞いた。基本名前なんてあまり気にしないのだが、長い名前は覚えるのが大変なので正直ありがたい。相手はエルフ、御多分に洩れず長寿らしいので、さん付けで呼ぶことにし、ついでに家のアホどもの様子を聞いてみる。事と場合によっては、先ほど渡して今も手に持ってらっしゃる傷薬セットを倍増しで贈るつもりだ。
「いえ、むしろみなさん物腰が丁寧だと、世話役が恐縮してましたよ」
「あぁ・・・それは国民性なのかなぁ」
しかし特に問題は無いらしく、いつも無駄にテンションの高い友人たちも常識はしっかりと持ち合わせている様だ。ある意味これは国民性なのかもしれないが、まだ安心してはいけない、なぜなら天災は忘れた頃にやってくるのだから。
「あそこですな、そろそろ朝食の準備も始まるでしょうから誰かしら起きていると思いますよ」
過去に起きた数々の騒動を思い出しそうになっていると、隣のイケメ・・・ザックさんが目的地を指さし教えてくれる。頭を上げた先にあったのは、ネムの家の何倍も大きく複数の家を繋げたような建物で、煙突の様な場所からは白い煙が昇っていた。
「朝食か・・・」
昨日ネムが作ってくれたスープは、濃いめの味でなかなか野性味あふれる感じであったが、こちらの食事はああいう物なのだろうか? 出来れば朝食はあっさりしたものがいいので、こちらで俺にも一品作らせてもらえないか交渉してみよう。
ユウヒが朝食を作るべく集会場の調理場に突撃し、その後ろ姿をザックが笑いながら見送ってからしばらく、集会場の奥ではゆっくりと目を覚ます者が一人。
「・・・・・・ここは」
綿が詰められ柔らかくも締まった感触の敷布団に肘をついて、ふわふわの掛布団を持ち上げながら起き上がり、ぼーっとした表情で周囲を見渡し首を傾げたのは、ユウヒの妹であるルカであった。
「スピー・・・スピー・・・」
「・・・ぅん」
「・・・ねこみみ・・・いぬみみ・・・うふふ、くま? ・・・氏ね」
彼女の周囲では、同じように布団に包まった女性が三人、規則正しく寝息を洩らしたり、大きな果実を揺らして寝返りをうったり、緩みきった表情で寝言を言ったかと思えば急に険しい表情で不穏な言葉を洩らしたりと、まだ全く起きる気配はない。
「そっか、助かったんだ」
そんな女性たちの様子に、ようやく意識がはっきりとしてきたルカは、今の状況を思い出して安心した表情を浮かべる。
「・・・いま何時だろう?」
木と薄い皮で作られた引き戸に囲まれた部屋は、四人が横になってもまだ余裕があり、彼女たちの少ない私物ではそのスペースを埋めることは出来ていない。そんな部屋の中をうかがうも、時間がわかりそうな物は存在せず、唯一戸の隙間から漏れる外の光だけは夜が明けたことを知らせており、ルカはそっと布団から出ると光に向かって歩き出す。
「はぅ」
三人の女性に気を配りそっと歩くルカは、地面やスニーカーとは違う温かみのある木の感触を足の裏に感じながら、隙間から光を漏らし続ける戸へ手を掛けた。のだが、その瞬間何とも可愛らしい音が彼女のお腹から聞こえ、お腹に感じる物淋しい感覚と音に思わず小さな声を洩らした彼女は、お腹に手を当てながら恥ずかしそうに辺りを窺うのだった。
「良いにおいがする・・・」
それから数分後、しばらく周囲を窺っていたルカであったが、疲れ切った三人の女性は目を覚ますこともなく、第三者の気配も無い事にほっと息を吐くと、彼女は静かに光溢れる戸の外へと足を踏み出し、部屋の中とは違う空気の流れとその流れに乗って鼻を擽る香りの誘惑に導かれていた。
「こっち、もうみんな起きてるんだ」
そんな彼女が導かれた場所とは、就寝と言う断食を終えて朝目覚めた人間なら思わず立ち寄ってしまいそうな場所、それは朝食を作る台所または炊事場である。
「・・・お、おはようございます」
そっと様子をうかがう様に歩を進め、その先で複数の女性が調理をしているのだろう声を聞き、少し申し訳ない気持ちになったルカは意を決すると、ジャージのお腹の辺りを握りながら調理場の中に足を踏み入れ、誰にと言うわけではないが朝の挨拶を口にした。
「ん? おう、流華が一番か? 流石若いだけはあるねぇ」
「お、おにいちゃん?」
若干人見知りなところのある彼女が、勇気を出して発した声に返事をした最初に人物は、腕まくりをした姿で竈の鍋をかき混ぜていた実の兄、ユウヒであった。きっと昨日もお世話してもらった獣人族の女性が居るのだろうと思っていたルカにしてみれば、当然の驚きであり、さらに料理までしているとなると驚きすぎて若干のパニックである。
「おはようさん、飯はもう少しかかるから待ててくれ」
「え? あ、うん?」
目を白黒させるルカに笑いながら朝の挨拶を返すユウヒは、味見をしていたのか左手に小皿、右手にお玉と言う出で立ちで竈のある土間に立っており、その姿に何とも言えない安心感を感じたルカは混乱した頭のまま頷き、立っていた板張りの床に体育座りで座ると、料理を続ける兄の背中を見詰め続けるのであった。
それから、無駄に慣れた手つきで料理をする兄に感心したり、獣人の女性に味見を求められる兄の姿にもやもやしたりすること十数分後、ルカ同様、朝の香りに釣られた者が二人、
「ごはーん」
「良いにおいねぇ」
パフェとリンゴ。寝るときにでも脱いでいたのであろう、着崩れたキャミソールの上から引っかけただけのジャージの上着、その隙間からは肌色の部分が多く露出している。
「あ・・・ぁ」
「ん?」
そのあられもない姿を最初に見たのは、すぐ近くで座っていたルカ。声に気が付き振り返るや否や小さく声を洩らすと慌てて立ち上がり、遅れて振り返ったユウヒから彼女たちの体を隠そうと両手を広げるも、小柄な彼女の体ではカバーするのに少々面積が足りず。
「「・・・・・・ユウヒ?」」
二人の女性がユウヒの存在に気が付いた時には、いろいろと観てしまったユウヒが、空気を呼んで視線をズラした後であった。
「二人とも腹ペコか? 飯はもうちょいかかるから、とりま着崩れた服を何とかして出直してこい」
目の前のユウヒを見詰めたまま硬直するパフェとリンゴに、ユウヒはしっかり見ないように視界の端で彼女たちを捉えながら苦笑を洩らすと、まるで妹に掛ける様な優しい声で着替えを促す。
「「ひ、ひゃぁぁ!?」」
「お兄ちゃん、め!」
しかしその選択は間違っていたのか、ユウヒの言葉を聞いた瞬間顔を真っ赤にした二人は小さく可愛い悲鳴を上げると、引っかけていたジャージの前を合わせながら走り去り、彼女達を見送ったルカは兄に向き直ると頬を膨らませ人差し指を突きつける。
「俺が悪いのか?」
そんな妹の判定に首を傾げるユウヒは、周囲に視線を向けるも答えてくれる者は一人も居らず。開け放たれた木戸から差し込む朝日の中、笑いをこらえる獣人女性と不機嫌そうな妹の姿に再度首を傾げるしかないのであった。
それからさらに数分後、パフェとリンゴが駆けだした後すぐに聞こえて来た男の叫び声に何が起きたか察したユウヒは、スープの完成を確認するとルカの座る板張りに、獣人女性から受け取ったお茶の入った湯呑を五つお盆に載せ持ってくる。
「・・・? ・・・ぁっ」
ユウヒが用意したお茶の数に首を傾げながらも、湯呑を受け取り少し癖のある温かいお茶に口をつけるルカ。
「お、ユウヒおはーっす」
「おはー」
そんな彼女の様子にユウヒが笑顔を浮かべていると、先ほどパフェとリンゴが駆けこんで行った通路の奥から、あちこち着崩れ頭がぼさぼさな状態の熊、もといクマが現れ、軽く手を上げるとその仕草と同じような軽い朝の挨拶をユウヒと交わす。
「さんきゅー・・・ユウヒよぉ、俺はつくづく思うんだ」
「何がよ?」
ユウヒに向かって上げた手を、土間から少し離れた板張りに座ってお茶を飲むルカにも向けて軽い朝の挨拶を済ませたクマは、土間の小上がりに下りると一段高い板張りに腰を下ろした。そんなクマに湯呑を渡したユウヒは、黄昏た表情を浮かべ語り出すクマに首を傾げる。
「リアル女は怖いって・・・」
そして彼は深く息を吸うと、僅かに笑いをこらえる様に口を震わせるユウヒにそう語った。
「ふふ、よかったじゃないか、美女二人に叩き起こされて」
ほんの数分間に起きた悲劇・・・いや喜劇を明瞭に察していたユウヒは、羞恥を怒りに変えた美女二人の襲撃により、文字通り叩き起こされたクマに悪戯小僧の様な笑み浮かべる。
「叩く部分が無ければな! 出来ればそちらの可愛い御嬢さんたちに起こしてもらいたかったぜ・・・まったく」
いつも通り何が起きたか理解した上で分からぬ振りをしていたユウヒに、じゃれ合う様な雰囲気の声で噛みついたクマは、笑いを堪えきれずくすくすと小さく笑い声を洩らす獣人女性を見詰め、不貞腐れた様にそう洩らす。
「お巡りさんこの人です」
「まだなにもしてねー」
クマが見詰める先には、異世界だからかそれとも獣人と言う種の為か、割と肌の露出が多い獣人女性達。それはルカたちのお世話の為に集まった、獣よりも人寄りの獣人女性達も同じで、胸の谷間や脇、長い脚もスリットから太腿の付け根が見えるほど出ていた。
そんな煽情的とも言える姿に思わず鼻の下を伸ばす友人に、ユウヒは理解しつつもとりあえずの精神で弄りだし、国家権力の代名詞を呼ばれたクマは笑いながら突っ込みを入れる。
「悪い目はあらかじめ摘んで、いや潰しておかないとな」
「oh・・・自分でも理解してるから何も言えね」
さらに、お巡りさんを呼ぶために両手を広げ口元に当てていたユウヒは、突っ込みを入れ笑いながらも女性から目を離さないクマに苦笑を洩らすと、指二本でチョキを作って目を突くようなジェスチャーを見せ、そのジェスチャーから両手で目を庇いながらも、開かれた指の隙間から女性の胸元を見詰めてしまうクマ。
馬鹿な大人の会話を絵にしたような二人のやり取りに、奥の通路から戻ってきたリンゴとパフェは苦笑を浮かべながら、床に座るルカの左右に座る。
「・・・」
「どしたのルカちゃん?」
しかし隣に座ったと言うのに反応を示さず、只々ユウヒとクマを見詰めるルカに首を傾げた二人は、どこか不思議そうな表情を浮かべるルカの肩に手を置くと、パフェから目配せを受けたリンゴがどうしたのか問いかける。
「あ、いえ・・・あんな風に話すお、兄さんが珍しくて」
肩に手を置かれて初めて隣に二人が座っていることに気が付いたのか、小さな声を漏らすルカは、若干土盛りながらも再度ユウヒに目を向けて不思議そうな表情を浮かべる。
「そうなのか?」
「あの二人はいつもあんな感じよ?」
ルカの言うあんな風とは、まるで子供の様に振る舞うユウヒの姿であった。年が離れていることもあるが、それ以上に老成と言っても良いくらい昔から大人びた雰囲気を持っていたユウヒ。しかしそれは人前でだけであって、割と子供っぽいところがあるのは、彼の内から度々漏れ出す黒歴史が裏付けている。
「・・・」
人前とは少し違い、自分の姿が見られないネットの世界は、日ごろから抑圧していたものを吐き出すにはうってつけであり、そんな場所でユウヒと接していたリンゴとパフェは不思議そうに首を傾げ、不思議そうに見詰めてくる二人をどこか羨ましそうな目で見詰め返すルカは、再度ユウヒに目を向けるのだった。
「まぁ、昨日の怪我も今日新しく出来た怪我もゆっくり治すことだな、休みはまだあるんだろ?」
「おう、たっぷり有休余ってたからな! そう言うユウヒは良いのか? おまえんとこブラックで有休なんか取れないとか言ってなかったか?」
そんな風に周囲から視線を集める二人は、特に周りの視線など気にすることなく笑い合っている。しかしその会話は、子供っぽいじゃれ合いながらもどこか社会人らしい話も含まれており、それは次第に休みの話しへと移り変わっていく。
親友を名乗るだけあり、クマはユウヒの勤務内容もなんとなく理解しており、そこが巷でブラックと呼ばれていることも知っていた。それ故、今ここにユウヒが居ることに僅かな違和感を感じたのか、クマはその違和感のままに不思議そうな表情を浮かべ首を傾げる。
「ふ・・・まかせろ」
「お?」
ユウヒの今の状況を考えれば、普通苦笑いの一つも浮かべそうな質問にもかかわらず、ユウヒは不敵な笑みを浮かべ溜めをつくると、少し身を乗り出すクマ、同じく身を乗り出す女性陣にチラリと目を向け、
「会社・・・クビになったからな!」
無駄に暑苦しさを感じる笑顔で胸を張り大きな声で、実に分かり易く今ここに居れる理由を告げたのだった。
『・・・?』
ユウヒが突然大きな声を上げたことで、周囲の獣人女性たちは一様に耳を立て動かし驚いた様に振り返るも、状況がよくわかっていない表情で小首を傾げている。
『・・・・・・はぁっ!?』
一方、ユウヒの口から飛び出した言葉を正しく理解できるクマやパフェ達は驚愕に目を見開き、驚き過ぎて口をパクパクと開け閉めするだけでその喉からは声が出てきていない。しかしそんな状況も短い時間だけであり、すぐに正気を取り戻した四人はため込んでいた驚愕を一気に吐き出す。
「ななな、何があったんだユウヒ!? まさか、まさか私たちの為に・・・」
バタバタ音を立て四つん這いのまま小上がりの手前までユウヒに近寄ったパフェは、驚きに染まった顔でユウヒを見上げ、何を想像しているのか失敗そうな表情を浮かべたり頬を赤らめたり蒼くしたりと、忙しなく表情を変える。
「・・・おお、お兄ちゃんそれほんと!? 私のせいなの!?」
またパフェと同じように小上がりの手前までやって来たルカは、パフェの予想を理解すると顔を蒼くしながらユウヒを見上げて問いかけた。自分達を探すために休みの取れない会社を辞めて来たのかと。
「いや? うちの本社がドームに飲み込まれてさ、仕事になんないから大半の社員がリストラされたんだと」
パフェとルカに蒼い顔で見上げられ、立ち上がったクマからは心配そうに見下ろされ、離れた場所からは冷静そうに見えて実は焦っているリンゴに見詰まられたユウヒは、自分が想像した状況と違う事に首を傾げると、何でもない様にクビになった理由を説明する
「いやいやいや、何気軽に言っちゃってんの? それ即時解雇じゃないのか? ちゃんと予告受けたり手当受けたりできたのか? まだだったら良い弁護士紹介するぞ?」
「なるほど、中間マージンとるんですねわかり「とらねぇよ!?」」
まるで他人事のようなユウヒの説明に、まるで自分の事のように狼狽え怒るクマ。実際問題ユウヒの状況を考えるとあまりに一方的な解雇でもあるのだが、ユウヒの会社の黒さを考えると叩けば埃が出て来そうで、クマの心配も強ち間違いとは言えない。
「大丈夫なのかユウヒ? 困ってるならすぐにでもうちの会社にねじ込むが・・・」
「いやいや、そんなんダメだろ・・・まぁ貯金もあるし実家暮らしだし、しばらくは問題ないさ」
現代社会において、社会人が突然会社を首になると言う事は、言葉にする以上に大変な事である。ましてやそれが一方的かつ突然の解雇ともなれば、様々な弊害が労働者を襲う。その辺の事について、立場上色々と詳しいパフェは板張りの上にぺたりとお尻を付けて座ったまま、ユウヒをじっと見上げると不穏な事を口にし、ユウヒは引きつった表情でツッコミを入れる。
金持ちの家のお嬢様であるパフェは、父の溺愛もあり小さな会社のトップと言う地位を有しており、その会社に対する人事権も当然持っているのだが、その事を知っているユウヒは彼女のシャレにならない言葉に、心の中でお金持ちの恐ろしさを感じるのであった。
「むぅ・・・しかしこのご時世新しい職と言ってもなぁ、家に来るか? ユウヒなら歓迎されると思うぞ?」
「んー・・・だめだな、親父さんの胃に穴が開きそうな予感がする」
「あぁそうかぁ・・・そうなるよなぁ」
真面目に考えた案に対しツッコミを受けて不服そうに口をすぼめるパフェに、ユウヒが苦笑いを浮かべる一方、クマもまた友人としてユウヒの境遇に何か手を差し伸べられないかと、自分にできる精一杯の提案を口にするも、その提案はユウヒの異常な勘が告げる未来によって却下となり、ユウヒの言葉にクマが何かに思い当たったような表情で頭を抱える。
「そいじゃアタシが紹介してあげよっか?」
「だからいらねって、そのうち自分でなんとかするさ」
そんなやり取りをどこか外側から見詰めていたリンゴは、他に案が無いのであればとユウヒに仕事を紹介すると口にするも、元々再就職などまだ考えてもいないユウヒは肩を落としながら、心配する友人たちに嬉しくも困った様な苦笑を洩らす。
「「「・・・」」」
本来、ユウヒは今の様な湿っぽさを嫌って無駄に明るく振舞っていたのだが、ユウヒが思っていた以上に友人たちはユウヒの仕事を気にしていたらしく、彼の思惑から外れ今もじっと心配そうな表情を浮かべている。
「・・・ほれ! それより飯だ飯だ! ルカはメロンさんを起こしてきてくれ」
「あ、うん」
いつか話すことになるとは思っていたユウヒも、まさかこれほど心配されるとは思っていなかったようで、困った様に頬を人差し指で掻くと、突然大きな声を上げて飯だとはやし立てると、呆けていたルカにメロンを起こすように声をかけ、強制的に空気の入れ替えるための行動に移った。
「ユウヒ殿、配膳は私たちがしますのでどうぞ奥に」
「そか、悪いな」
ルカを立たせたユウヒは、一瞬クマに目配せをするとスープの入った鍋のある竈へと向き直り配膳の準備を始めようとするも、その動きを敏感に感じ取った獣人女性に慌てて制止されてしまい、自分が彼女たちの仕事を奪おうとしていたことに気が付くと申し訳なさそうに頭を掻く。
「むしろ助かったのはこちらですから、味見していただきありがとうございます」
そんなユウヒに、女性はニコリと微笑むと小さく頭を下げて味見のお礼を口にする。
「なに! ユウヒ先に食うとかずりぃぞ」
「俺から言ったんじゃねぇよ、口に合うか心配だったんだとさ・・・昨日微妙な顔したんだろ?」
そんなやり取りを見ていたクマは、わざとらしく大きな声を上げると先に料理を口にしたというユウヒに不満を漏らし、そんなクマのニヤニヤとした表情に同種の表情で振り返り味見を受けた理由を口にした。ユウヒが味見を求められた理由は、どうやら昨夜の夕食時に問題があったらしく、口に合うか心配になった獣人女性が料理作ると言ってきたユウヒにお願いしたものであったようだ
「うぐ・・・すまない、モリコマンドが動いているのを見た後だったから」
「なんじゃそら?」
ジト目を向けてくるユウヒの言葉に、最も鋭敏な反応見せたのはパフェである。びくりと肩を跳ねさせた彼女が気まずそうにもごもごと話す言葉にユウヒは首を傾げ、そんなパフェとユウヒのやり取り、それからクマのホッとした様な表情にリンゴは苦笑を洩らす。
「それはだなぁ」
事情が分からないユウヒが説明を求めてクマとリンゴに視線を送ると、不敵で楽しそうな表情を浮かべたクマが口を開く。
「こ、こらクマ言うじゃない! うわ、何をするリンゴ!? くっはなもごもごー!」
そんなクマの行動に、彼の口を物理的に塞ごうと慌てて立ち上がったパフェであるが、彼女が一歩踏み出した瞬間その体は後ろから拘束されてしまい、背後から伸びるリンゴのしなやかな手によって口も一緒に塞がれてしまう。
「よし話せクマ」
「おう!」
すべてを察した出来る女の目配せに、ユウヒは満足気な頷きで返すとクマに話の続きを求め、リンゴにサムズアップを見せたクマはユウヒに返事を返すと、涙目のパフェに申し訳なさそうな表情を浮かべながら、昨日起きた出来事を嬉々として話し出すのであった。
いかがでしたでしょうか?
今回の話は、ラッキースケベに遭遇したユウヒと可愛い嫉妬を見せるルカでした。まぁこのくらい大したあれではないですが、私は書いてて楽しかったです。
それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー




