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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第一章 救出と救済

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第四十四話 忍者、煽る

 どうもHekutoです。


 修正等完了しましたので投稿させて頂きます。楽しんで頂ければ幸いです。



『忍者、煽る』


 ユウヒ達が訪れた、ドームの向こう側に存在する名も無き異世界。そんな異世界にも朝と夜は存在し、静かな夜は山の峰から零れだし始めた日の光により、爽やかな空気を伴い朝へと移り変わる。


「・・・む? 少し明るくなってきたか」

 森の中にある獣人たちの里にも、その日の光はゆっくりと降り注ぎ、適度に切り開かれた木々の隙間から漏れ出す日の光は、作業の手を休めたユウヒの視界の先を、うっすらと照らし出し始めたようだ。


「完徹か・・・しかし、良いものが出来た。ふふ、均等に量産されたものが整然と並ぶ姿は、やはり美しいな」

 朝日が差し込む、少し開けられた木窓に目を向けたユウヒの前には、ネムに渡したものと同じ形、同じ大きさをした素焼き風の小さな壺が整然と並べられており、並べた本人は朝日に照らしだされた作品を満足げに見つめて頷く。


「粘土も全部処理出来たし、案の定大量に採って来た薬草はファンタジーな傷薬に早変わりしたし、特に魔力回復促進薬はばっちり」

 量産品の美と言う何ともマイナーな感性を満足させる壺には、中に何が入っているか分かる様に絵文字が刻まれている。そんな小壺とは別に、細長い素焼きの小瓶を手に取ったユウヒは、その小瓶を軽く振るとニヤリと笑みを浮かべて、ジャージのポケットにそっと仕舞う。


「活性化装置は一応形になったけど、まだ改良したいところ。まぁ材料が足りないからいろいろ探さないといけないけど」

 ジャージのポケットを軽く叩き中身の感触を確認しながら、今度は目の前の土間に目を向け、そこに置いてある粘土と石で作られた円筒状のナニカに難しい表情を浮かべる。どうやら及第点を与える出来の様だが、ユウヒが満足するには及ばないその装置は、まだまだ手を加えられる予定の様だ。


「さてと、報告周りに帰らないといけないし、少しは仮眠とらないとな」

 一通り自分の作品を見回したユウヒは、満足げに板張りの床に倒れ込むと、今日の予定を考えながら朝日の差し込む木窓の向こうで白み始める空を見上げる。


「父さんが、暴走して・・・犯罪を犯す前に・・・すぅ―――」

 朝日に照らされているにもかかわらず、ユウヒの脳は睡眠を要求しているらしく、次第に瞼はゆっくりと閉じられ、ユウヒの勘が告げる何とも物騒な内容を最後に、ユウヒと精霊達の寝息だけがその場を支配するのだった。





 ようやくユウヒが眠りにつき精霊達と寝息を漏らす頃、地球では小さな寝息を立てる少女達が居た。


「・・・」

「・・・」

「そうでござるか・・・」


 小さく可愛い寝息をたてる彼女達の周りには、その寝顔に似つかわしくない重く沈痛な空気が流れていた。それは三人の黒尽くめの男性と、綺麗な金髪の女性との間で流れている様である。


「ダイジョウブ、まだイノチがあるの、まだミライがあるの、あなたたちには感謝しても感謝しきれない恩があるわ。だから、そんな悲しまないで、ネ?」

 その重い空気の理由は、忍者達が助けることに成功したものの、重い怪我を負うことになった少女達の容態が関係していた。彼女たちの母親であるリサが気丈に微笑みを浮かべ語る様に、命を繋ぎまだまだ未来を紡ぐことを約束されたサラの姉二人、しかしその足に刻まれた傷は深く、すでに一部壊死を始めていたらしく現代医療でも綺麗治すことは不可能、今後の状況次第によっては切断を覚悟する必要もあると言う。


「いやそうは言っても・・・なぁ?」

「うむ、幼子の心一つ、いや二つ三つ救えずして何が忍者か」


「ヒゾウさん、ジライダさん、ゴエンモサ・・・」

 それは歩くことも困難であると言うことであり、その事実に忍者達は悔しそうに表情を歪め、拳を強く握りしめ、そんな姿に瞳を潤ませたリサは彼らの名を呟くも途中で声を詰まらせてしまうのだった。


「と言っても拙者らが頼れるのユウヒ殿しかいないでござるが、今は留守みたいでござるし・・・」

「俺らの人脈は尖ってるからなぁ」

「尖ってると言うか少ないと言うか・・・我言ってて悲しくなってきた」


 彼女たちに輝かしい未来を与えたいと心から思う忍者達、彼らの伝手の中でその理想を叶えてくれそうなのは、唯一ユウヒだけである。しかしそのユウヒは現在留守であり、そのことにゴエンモは二人と視線を交わしながら困った様に腕を組んで顔を俯かせた。


「・・・ぐす、その人はお医者サマなの?」

 声を詰まらせ溢れそうになる涙をこらえていたリサは、ハンカチで目元をぬぐいながら彼らの話に耳を傾け、以前から気になっていた人物について問いかける。なぜなら何かあるたびにその人物の名前を耳にし、その名を口にする忍者達の口調から頼りにしていることが伝わっていたため、彼女は少し気になっていたのだ。


「・・・大魔法使いだったような?」

「・・・マッドサイエンティストかな?」

「魔王でも勇者でもなくなって来たでござるな・・・」


 怪我に関する事などでよくその名を口にしていた三人に問いかけたリサは、きっと医者やそれに類する人物なのだろうと想像していたのだが、彼らの口から飛び出たのは予想もしないようなものであり、信頼する人物を評するには些か物騒な単語であった。


「えっと、よくわからないけど・・・その人ならこの子たちの足を治せるのね?」


「可能性は現状で最も高いでござるな」

「それじゃもう一度探すか、マスコミにばれないように脱出してから・・・」

「マスゴミはいったいどこから嗅ぎ付けたんだお?」


 彼らの評価になんと言ったらいいのか悩んだリサは、苦笑を浮かべながらもとりあえずは娘たちの怪我を治せるのか確認することにしたようで、その問いかけに忍者達は頷くと、さっそく行動を開始する様である。しかしその行動には障害が一つあるらしく、ジライダが視線を向けた先、外からの日差しを遮るカーテンの隙間から外を見たヒゾウは、げんなりとした表情を浮かべた。


「有名になって実績作りと言う意味では出て行った方が良いでござろうが・・・」

「今は時間が惜しいからなぁ」

「・・・そうだ! あいつらを攪乱してうさばらげふん! 突破しようじゃないか」


「ヒゾウさん・・・ふふ」

 忍者達が救助した少年少女とその親、そして兄姉達は皆同じ病院に搬送され駆けつけ、いくつかの個室で思い思いの時を過ごしている。しかしそんな病院には、何時の間に嗅ぎつけたのか複数の報道局が大挙して現れ、一部強引に接触を図ろうとした人間が、先んじて警戒していた警察と一悶着起こす事態になっていた。


 どこから情報が洩れたのか、現在この病院は日本中から注目を浴びており、騒動を起こした者達は警察により病院外に追い出され、周囲にはいくつもの報道陣が出来ている。


「ふむ、その話乗った! あいつら根掘り葉掘り聞こうとしてうっとうしかったんだよ」

「そうでござるな・・・コスプレとかひどい言いがかりでござるし」

「いやまぁ・・・否定できないだろそこは」


 そんな人間達の集団に、目立つための行動を開始した彼らなら前に出そうなものの、そのあまりに獣然とした言動には、その場の勢いやノリを重視する彼らも鬱陶しさを感じた様で、一部私怨の籠っていそうなことを呟きながらリサとその娘達が休む病室を出ていくのであった。





 一方、忍者達から標的にされたことなど知らない、病院の正面入り口周りを固める報道陣の一画では、4尺ほどの脚立の上に座った男性が大きな望遠レンズのついたカメラを手に病院の一室を見詰めている。


「先輩!」


「ん? おう、どうだった? どこか良い場所はあったか?」

 そんな男性は、足元からかけられた声に顔を上げると、声のした方を見下ろしながら不敵な笑みを浮かべて見せた。


「ダメっす! どこもかしこも警察が通行止めっす! ついでに怪しい黒づくめもうろうろしてて危険が危ないっす!」

 彼の視線の先には、どこか軽い雰囲気の若い男性の姿があり、男は彼が差し出してきた冷えて結露の付いたペットボトルを受け取る。じわじわと暑くなってくる日差しの下で感じる冷気に一息つきながらも、足元の男性からの報告に詰まらなそうな表情を浮かべる脚立の上の男性。


「あ? 黒づくめだと? ・・・そう言えば変なのが居るとか言ってたな、左向きの奴らか?」

 しかし話を最後まで聞いた脚立の上の男は、ペットボトルの蓋を開けながら怪訝な表情を浮かべ、思案するような表情のまま冷たいスポーツドリンクに口をつける。


「んぐ・・・わかんないっすけど、話してる言葉わかんなかったから、たぶん日本人じゃなかったっすね?」

 男より先に飲み始めていた男性は、口に入っていた冷たいスポーツドリンクを飲み干すと、首を傾げながら分からないと言いながらも、怪しい人物達が日本語を話してなかったことから、海外の人間だろうと口にした。


「・・・まぁむやみやたらと探るもんでもないな」

 海外の人間と言う予想を聞いた男は、怪訝な表情をより一層深めると、一つ息を吐いて今の報告を忘れようとするように頭を振ってペットボトルの蓋を閉め、


「うわ、報道の人間としては最低の言葉っすね! イタイ!?」


「俺らは特ダネつかめりゃいんだよ」

 ひどく楽しそうに暴言を吐く男性の頭を、そのペットボトルの重さを使って躊躇なく叩く。彼の方針は特ダネ重視であるが自ら厄介ごとに飛び込む気は無いようである。


「特ダネっすか、確かに初めての救助者は特ダネっすね! しかも国じゃなくて民間人らしいじゃないですか! 忍者でしょリアル忍者!」


「忍者って・・・ただの目立ちたがりなコスプレ野郎だろ? ああ言う向こう見ずな馬鹿はどこにでもいんだよ」

 頭を叩かれた男性は叩かれた場所を撫でるも、いつもの事なのか大して気にすることもなく、楽しそうな表情で今回のターゲットの一つについて口にして目を輝かせる。そんな、良く言って純粋な、悪く言うとバカっぽく表情をコロコロ変える男性の姿に、脚立の上に座る男性は心底呆れたように背中を丸めると、手で何か払うようなジェスチャーを見せながらやはり呆れの籠った声を上げるのだった。


「自分くノ一を希望するっす!」

 しかし、男の言葉を全く気にしない男性は、目を輝かせると自らの妄想の中で色気を振り撒く忍者、もといくノ一の姿に鼻の下を伸ばす。


「あほかそんなも「拙者もくノ一な仲間が欲しかったでござる!」は?」


 そんな男性の言動を再度小馬鹿にしようとした脚立の上の男性が口を開いた瞬間、その言葉を遮る様に、どこか切実な雰囲気を感じる声が割って入る。


「それはこっちのセリフだ!」

「リア充ゴーホーム!」


 その声は、立てただけで誰も登っていないはずの大きな脚立の上から聞こえ、その方向を慌てて振り返った男の目の前には、全身真っ黒な姿の男が足を揃え腕を組んだ姿で真っ直ぐ立っており、同じように脚立の上に立つ黒づくめの男性から身振り手振り付きで罵声を浴びていた。


「出てきやがった! 逃すなよ!」

 いつの間に立っていたのかや、非現実な姿だと言った言葉が頭をよぎりながらも、すぐに思考を切り替えた男は手に持ったカメラを構えながら大きな声を上げる。


「がってん! 「遅い!」ふぁっ!?」

 そんな男の声に反応して周囲の人間もカメラを構えだし、最初に反応を示した軽い雰囲気の男性に至っては自分の身長よりも高い脚立を駆けあがると、上に立つ不審な人間としか思えない姿のゴエンモを捕える為に飛び掛かるも、一瞬のうちに消えたゴエンモに驚きの声を上げ、悲しくも両腕が空を切った。


「ははははは! どうしたどうした! 貴様らのカメラワークはそんなものか!」

 また彼ら同様に、周囲では忍者達を捕えようと試みたり、カメラに収めようとする者達が居るのだが、不安定な脚立の上を縦横無尽に飛び跳ねるジライダに翻弄され、まともに撮影すらできず、


「でっかいカメラの持ち腐れだおwwwwwねぇ、今どんな気持ち? 今どんな気持ち?」

 地上では多数居並ぶカメラマンの脇を、苛立ちを覚える表情を浮かべるヒゾウが、やはり苛立ちを覚える声を出しながら小馬鹿にするようにくるくると回り駆け抜ける。


「秘儀! バッテリー外しの術でござる!」

 中には、忍者の動きを予測して先回りするようにカメラのレンズを向ける者も居たが、それらのカメラからは漏れなくバッテリーが引き抜かれ、ゴエンモの手によって丁寧に積み重ねられていく。


「くそ! まてこら!」


「いつの間に!?」


「くそくそくそ!? 早すぎだろこいつら!」

 病院正面入り口に陣取っていた報道陣は瞬く間に混乱に陥り、あちらこちらから怒号や困惑の声が上がり、その混沌に満ちた光景は忍者達の悪戯心の強襲が成功したことを如実に語っていた。


NDK! ねぇどんなきもちNDK! ねぇどんなきもち目の前に被写体が居るのにシャッター押す暇もないとかどんなきもちぃ?」


「おいおいおい・・・マジかよ」

 残像を残しながら一人のカメラマンの周りをぐるぐると周るヒゾウ、その姿に肩を落とした脚立の上の男は、手に持ったカメラを構えることもせず呆けた表情を浮かべる。いや、正確にはあまりの展開と異常な光景に構える気にもなれないのだ。


「おお・・・これがリアル忍者の動きっすか、あれって分身してないっすか先輩? うわこっちきたっす!?」


「んなわけ「残像でござる!」くそ!? ・・・駄目だ写ってねぇ」

 ゴエンモを捕えることに失敗したまま脚立にしがみ付いていた男性は、一人目を輝かせ忍者達の飛び交う報道陣に目を向け、時折人数が増えた様に見える忍者に首を傾げた瞬間、飛び上がってきたゴエンモに驚き大きな声を上げ、その声に反応した男がカメラを再度構えるも、やはりそこにゴエンモは写っていないようだ。


「それでは諸君サラダバー!」

「また病院に踏み込んだら、今度はお前らの息子取り外すからwww」

「サヨナラでござる!」


 そんなことが数分も続くと辺りから人が集まり始めるのは当然で、そのことに気が付いた忍者達は、近場にある住宅の屋根に飛び上がると、太陽を背にポーズを決めて大きな声で眼下の報道陣に別れの挨拶を口にする。


「くそにがっ!?」

 その行動を隙と思ったカメラマンが一斉にカメラを向ける中、手を振り上げたポーズをとっていたゴエンモは、上げていた右手を振りおろしてその場を眩い光で満たす。


「メガー!? メガーっすぅ!?」


「音無しのフラッシュバンだと? ・・・何者なんだよあのコスプレ忍者野郎」

 あまりに眩い光に目がくらみながら目を光から守る男の足元では、脚立から落ちて目を押さえる軽薄な雰囲気の男性が、無駄に奇妙な声を上げながら地面をごろごろと転がっており、その姿を一時的に視界不良となった視界の端で確認した男は、光が止むとそっと顔を上げて疲れた様に呟くのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 今回の話しは、色々作って満足気に眠りにつくユウヒと、一般人相手でも容赦しない忍者達でした。ヒゾウのやっていたNDKって、わりとイラッとしますよね。


 それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー

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