第四十三話 ルカの知らないユウヒの生態
どうもHekutoです。
修正等完了しましたので投稿させていただきます。今回もそこそこの文書量だと思いますので、楽しんで頂ければ幸いです。
『ルカの知らないユウヒの生態』
名も無き異世界で、ユウヒがエルフ女性の好感度を上げている頃、その友人たちは獣人に対する好感度を上げていた。
獣人の里でも特に大きな部類に入る集会場の縁側では、少し前と変わらずリンゴとクマが一定の距離を保つ子獣人に目じりを緩め、そんな二人にあとからやってきたメロンは微笑みを浮かべている。
「あのぉ」
「あらルカちゃん、足は大丈夫?」
僅かに犯罪臭が漂うその場所にやってきたのは、苦悶の声を洩らしながらしっかりとした治療を受けたルカ。彼女はひょこひょこと怪我した足を庇いながら歩いてくると、三人の背中に小さな声をかけ、その声に気が付いたメロンの笑みに不安そうな表情を微笑ませる。
「あ、はい・・・たぶん? きっと? ちょっとよくわかんなかったです」
「なんじゃそら、まぁ一応歩けてるし問題ないのかね」
しかし返答しようとした瞬間その眉は顰められ、今一要領を得ない返事を返してしまうのだった。その理由が酷く訛った獣人老女によるところであると知らないクマは、その要領を得ない返答に苦笑を浮かべながら突っ込みを入れると、ルカの様子を頭の先から足の先まで確認し、少しほっとしたような調子でつぶやく。
「そかそか、ユウヒも心配してたし何よりだね、いやでも・・・心配するユウヒをもっと見てみたい気も・・・むむむ」
ほっとした表情を浮かべるクマの隣では、リンゴが笑みを浮かべ明るい声で頷くも、すぐに顎へと握った手の親指の腹を当てると、ルカから顔を背けどこかもったいなさそうな表情を浮かべて小さく悩ましげな声で呟きだすのだった。
「あの、その・・・おに、兄さんについて聞いていいですか?」
「・・・ん? ユウヒのこと?」
そんなリンゴの呟く内容にジト目を向けていたクマは、背後から聞こえて来たルカの声に気が付くと、背筋を伸ばしながら片膝を縁側に上げて体ごと振り返り首を傾げて見せる。
「はい、なんだか今日の兄さんいつもと色々違ったから」
「あぁ、まぁ中と外っていうか時と場合によって切り替えるだろうし・・・ねぇ?」
首を傾げるクマの前に怪我した足を庇いながら据わったルカは、小さく眉を寄せると不安げに話だす。その言葉に何とも言えない表情を浮かべてルカの方に振り返ったリンゴは、同意を求めるようにクマに苦笑を浮かべて見せる。
「まぁな? そんで何が聞きたい?」
そんなリンゴの苦笑と、その後ろで同じような表情を浮かべるメロンに肩を竦めて頷いたクマは、三人の表情を見比べるルカに目を向けると何から聞きたいのかと問いかけ、もう一度小さく首を傾げた。
「んー・・・今の兄さんって、ゲームの中と変わらないんですよね?」
「大体は、そだな」
何から聞きたいのかとクマに問われるも、漠然としか考えていなかったルカは人差し指で自らの頬を押さえ、しばらく視線を彷徨わせると視線を戻しクマに問いかける。その問いに対し、クマは腕組みをしながら思い出すようなそぶりを見せた後頷いて肯定してみせた。
家族に見せない表情と言うものは、大なり小なり多くの人間にあるもので、恥ずかしさや後ろめたさから隠すことが多いだろう。しかしユウヒに関しては特にそういった感情は無く、ただ単純に趣味趣向が微妙に違う妹に見せる機会が無かったことや、基本良い子のルカに対して、問題児たちに見せる様な表情を見せる必要がなかったと言うだけである。
「じゃぁ、ゲームの中の兄さんってどんな人だったんですか?」
「「・・・」」
そんな初めて見る兄の姿に恐怖と同時に興味も湧いたルカは、自分の知らない場所で兄がどう言う人物として見られているのか気になったらしく、そんな質問をクマとリンゴに問いかけ、問いかけられた二人は互いに顔を見合わせ俯き、頷き合う二人にメロンは困った様に苦笑を洩らす。
「魔王?」
「狂人?」
「え?」
なんとなく何を言うのか予想できていたメロンが苦笑を浮かべる前で、同時に顔を上げた二人は、ユウヒの事をごく短い単語で評価する。その評価にメロンが苦笑を深める中、ルカはきょとんとした表情で声を洩らすと、目を瞬かせながら似た様な表情を浮かべる三人の大人を見詰めるのであった。
友人たちが割と酷い内容の評価を妹の前で口にしている頃、その評価対象であるユウヒはと言うと、
「ぶえっくしょん!」
例のごとく盛大にくしゃみを放っていた。
「・・・これは乾燥だな」
そんなユウヒは、鼻を擦りながら噂のされている方角を正確に見詰めると、じっとりとした視線を浮かべ肩を落とす。しかしそんな表情も束の間、あきらめた様に小さく溜息を洩らすと、手に持っていた草の束を持ち上げながらそう告げる。
<あい!>
すると、周囲を飛び交う精霊の一人が草の束に飛びつき、楽しそうに茣蓙の様なものが敷かれた場所へと運んでいく。
「こっちは、なるほどぬるま湯に浸すといいのか、適当に【ぬるま湯生成】あんどー【保温】」
<あったかーい>
また別の草を手に取ったユウヒは、右目の力で草の詳細を調べると積み重ねられたツボを一つ掴み、その中をぬるま湯で満たす。満たし終わるとすぐに精霊の一人が嬉々とした表情でツボに飛び込み、その温かさに頬を緩める。
「はい、これと同じ草を探してそこに入れといてくれるか?」
<はぁい!>
なんとなく水の雰囲気を漂わせる彼女は、微笑むユウヒから一株の薬草を渡されると、山と積まれた多種多様な草の中から同じような草を見つけては、楽しそうにぬるま湯の入ったツボへと投げ込んでいく。
また、彼女や草の束を運ぶ精霊同様に、ユウヒの周囲では何かしらの仕事を頼まれたのであろう精霊達が飛び交い、その姿を見ることがかなわない者には物が勝手に動いているようにしか見えない。
「・・・精霊を顎で使うユウヒ、恐ろしい子!?」
そんな精霊を見ることが出来ない者が一人、ユウヒの作業する建物の玄関口で驚愕に固まり、興奮のあまり尻尾の毛をパンパンに膨らませ、どのくらい前からそうしていたのかようやく動くようになった口で思わず叫ぶ。
「ん? おう、おかえり。・・・あぁ、わりいな好き勝手広げちまって」
その人物とは、この家の家主であるネムである。ネムの家を勝手気ままに使っていたユウヒは、驚き固まる彼女に気が付き目を向けおかえりと口にすると、少し冷めた頭で周囲を見渡し申し訳なさそうな苦笑を浮かべ頭を掻く。
「おか・・・ただいまにゃ! 全然かまわないから好きに使ってほしいのにゃ」
一方ユウヒの声で硬直から解放されるも、今度はどこか呆けたように口ごもったネムは、ユウヒから投げかけられた言葉に機嫌よく応えると、家の戸を閉め気持ち軽い足取りで荷物を壁に掛けはじめるのだった。
「そか、あんがとさん。おっと、これは危ないな【水生成】これと同じ奴はここな」
≪はぁい≫
妙に機嫌の良いネムを横目で追いかけながら、理由はわからないが機嫌がいいのは良い事だと言った表情で頷いたユウヒ。なにも理解していない彼は、新たに持ち上げた草に目を向けると少し驚き、順番待ちをしていた精霊へと水の入ったツボと一緒に視界に毒草と表示された草をそっと渡す。
「こいつはもっと欲しかったかな」
<これだね!><みんなで取ってくる!>
危ない毒草に若干怯えながらも次の草を手に取ったユウヒは、興味深い内容でもあったのか、じっと草を見詰めるとそう言葉を零し、その言葉を見逃さない精霊達は勢いよくユウヒに群がり、奪い合う様にユウヒの手から硬い手触りの葉をもぎ取る。
「あぁ、手伝ってくれるのはうれしいがほどほどにな・・・あれみたいにいっぱい取ってくるなよ?」
≪はぁい≫
衝立の向こうで外着から部屋着に着替えたネムは、ゆったりとうねる様に尾を揺らしながらユウヒに近づくと、精霊を顎で使うユウヒに再度苦笑いを浮かべ、くるくると踊る様に外へと飛んでいく薬草に何とも言えない表情を浮かべるも、
「・・・泥の山?」
ユウヒの視線を追うと土間に積まれた泥の山に気が付き首を傾げた。なぜならそんな泥の山など自分は家に置いた覚えもなく、また帰ってきた時にもなかったからだ。
「あぁ、壺とか薬瓶作るのに取ってきてもらったんだけど、はりきったみたいでな・・・」
「あれ全部精霊様がとって来たのかニャ!?」
こてりと首を傾げたネムの姿に、ユウヒがひどく申し訳なさそうな表情で何があったのか説明すると、ネムは驚いて振り返る。なぜならそれは、帰宅した際に気が付かなかったのがおかしなくらいの量であり、ネムくらい小柄な少女であればすっぽり隠れてしまうほど大量な泥の山であったからだ。
「すまん」
「・・・」
さらにそれを精霊が運んできたと聞けば、彼女にとって何の変哲もない泥の山にも関わらず、どこか神々しい気配を感じる気がしてくるネム。
「ちゃんと残さず使っちまうから安心してくれ」
「・・・なんだかよくわからないけど、おぅ!? お、お腹空いてない?」
何に使うのか考える事もなく泥の山に見入っていたネムは、ユウヒの言葉に首を傾げると、気が抜けたことで急に鳴き出そうとしたお腹の虫を慌てて押さえながら、気取られないように笑顔を浮かべて問いかける。
「ん? ・・・そういえば空いたな」
「そうだよね! すぐに準備するから待ってるにゃ」
「お? おうありがとう」
ネムの様子に若干の違和感を覚えながらも、自らのお腹に感じる空腹感を思い出したように感じ始めたユウヒはネムに頷いて見せ、その言葉に嬉しそうな声を上げた彼女は、戸惑うユウヒを置き去りにして桶を片手に井戸へと小走りで走り出すのであった。
不思議そうな表情でユウヒと精霊達がネムの背中を見詰めている頃、少し離れた集会場では、様々な話をふきこ・・・聞かされたルカが神妙な表情で首を俯かせ気味に傾げていた。
「・・・お兄ちゃん、確かにものすごく集中してる時があるかも」
「そうだよなぁユウヒの集中力は嵌るとすごいからな」
いったい何を聞かされたのか、ぐるぐると多種多様な感情が渦巻く目で虚空を見詰めるルカは、過去の記憶を思い出しているのかクマ達の前でポツリポツリと呟いている。そんなつぶやきに、ユウヒとの付き合いが長いクマは腕を組んだまま深く頷き、ルカの言葉に同意している様だ。
「運動部じゃないのに運動神経良いし・・・そういえば、前にどこかの道場に通ってた? ような」
またユウヒは、一度も学校の部活に入部したことが無く、ましてや運動部など近づきもしなかったのだが、その割には父親に付き合ったり、母親に引きずられたりと手広くスポーツを嗜んでいる。そんな兄の姿を思い出しながら改めて不思議そうに首を傾げたルカは、一時期ユウヒが道場とやらに通っていたと思いだし、顔を上げるとクマに視線を向けた。
「あぁモーションアプデのあった頃だな、通ってたと言えば通ってたんだろうが、別に武術の訓練ってわけじゃないんだよなぁ」
「そういえば、ユウヒのモーションデータって全部オリジナルだったけど、そういうことだったのね」
そんなルカの視線に、クマは思い当たるものがあったらしく頷いて見せるも、首を傾げると困った様に笑い、その表情にリンゴは何かを理解すると感心したような表情で頷く。
ユウヒやクマが高校生活を謳歌していたある日、彼らが嵌っていたクロモリオンラインと言うゲームでとある大型アップデートが行われ、その目玉となるシステムがキャラクターの動きを自分で作れると言う物であった。このシステム導入により、リアリティを重視していたクロモリオンラインでは、小さな動作一つが有利不利を分ける重要な要素となり、そのモーションデータを理想のものにするため、ユウヒは偶然知り合った古武術道場の主から師事を受けたのである。
この場でその事実を知っているのは、ユウヒつながりでその人物と知り合うことになったクマだけであり、しかし当時の事を思い出すとなぜか体に痛みが走るクマは、詳しく話す気になれないのであった。
「夏休みの工作とかよく手伝ってもらったっけ・・・」
微妙な笑みを浮かべるクマに首を傾げながらも、彼らから聞かされたゲームの中の兄と現実の兄比べ続けるルカは、また一つ共通点に気が付きぽつりとつぶやく。
「無駄に手先が器用だからな」
「そうねぇ私のイヤリングを修理してもらったことがあるわぁ」
割と何でもそつなくこなすユウヒは手先も器用で、ルカは何度かそんな兄に泣き付き助けてもらったことを思い出し、そんなどこか楽し気な彼女の呟きに深く頷くクマと、自分の耳たぶを触りながら楽しそうにイヤリングを修理してもらったと語るメロン。
「俺の銃も・・・おっとこれは言えんな」
そんなメロンに頷きながら、軽くなった口で何かを喋ろうとしたクマは、しかしすぐに表情を変えると慌てた様に口を閉ざす。
「なに? エアガン? 子供ねぇ」
「いいじゃねぇか好きなんだから」
何を話そうとしたのか予想したリンゴは、クマに目を向けると馬鹿にするような表情で彼を子供だと評し、大人の男が受けるには少々不名誉な評価に鬱陶しそうな表情を浮かべるクマを見て、彼女は満足そうな笑みを浮かべる。
「・・・それって」
「おっとぉ? ルカちゃんほかに何か知りたいのかなぁ?」
「え? あ、えっとその」
クマを馬鹿にすることで優越感を感じているリンゴと、僅かに表情が固いクマを不思議そうに見詰めていたルカは、何かを思い出したように口を開く。しかしその行動は即座に動いたクマによって遮られてしまい、そんなクマが向けてくるアイコンタクトに彼が訴えたいことを察したルカは慌てて口をつぐむ。
「リンゴお姉さんに聞いてごらん? あることないこと全部教えてあげちゃうよぉ?」
「いや、無い事教えちゃだめだろ」
口をつぐんで頷くルカに、クマがほっとした笑みを浮かべていると、気分が乗って気たらしいリンゴがクマを押しのけながらルカに笑いかけ、何でも教えてあげると言いだす。そんな彼女の言葉に、押しのけられ板張りに身を任せたクマが突っ込みを入れると、自然とその場に笑い声が溢れ、雑談はその展開を加速させていくのであった。
一方、何度も出てくるクシャミにも負けず、ネムからの生暖かい視線にも負けず、己が欲望を満足させるために魔法の力を繰り返し使い続けるユウヒは、
「ふふふ、やはり俺の予想は正しかったか」
自らの予想の正しさを立証することが出来たらしく、小さく不敵な笑みを洩らしていた。
「まぁ当然と言えば当然なんだが、力押しなんて燃費悪くて当たり前だよな」
ネムの用意した、昼には遅く夕餉には少々早い食事を摂ったユウヒは、土間を挟んだ反対側の囲炉裏端からネムが見つめ続ける中、その視線を気にしないことにして作業を続け、精霊たちによって選り分けられた様々な材料を使い様々な物を作り続けたのであった。
「とりあえず出来たばかりだが、これを飲んでおかないと魔力が回復しそうにないからな」
いつもは用意した素材に直接合成魔法をかけることで、直接完成品を作っていたユウヒ。しかしそれはまさに力技と言ってもいい方法であり、無限に魔力があったころと違い、一応有限となった今では効率があまりに悪かったのだ。
そのため、右目の力を頼りにある程度素材の特性を解析し、一次加工や二次加工を魔力に頼らない手作業で行い、混ぜたり繋げたりした後に少しだけ合成魔法を使うことで消費魔力の大幅な削減を試み、その試みは見事成功していた。それらの結果である複数の生産物の一部は、すでにネムに渡されており、精霊の持ってきた粘土から作られた手のひらサイズの簡素な蓋付きの器には、緑色の軟膏や粉薬、黄色や赤の錠剤などが入れられ、丁寧に籠に詰められている。
「・・・げろまじゅ」
「ユウヒ? ど、どうしたのにゃそんなに顔を歪めて」
渡された傷薬などの魔法薬を持ち運ぶためにまとめ終わったネムが、未だ黙々と作業を続けるユウヒの様子を見に来ると、丁度謎の薬を飲みほしたユウヒが顔を歪め端的な感想を洩らし、そのあまりにも苦悩に満ちた表情に心配そうな声を洩らすネム。
「あぁ・・・出来たばかりの薬を試飲したんだよ、まぁわかってはいたが糞不味かったわ」
「薬は美味しくないのがふつうにゃ、美味しい薬なんて良いことしかないにゃ」
「まぁなぁ」
あまりの不味さにネムが近くに来ていた事にも気が付いていなかったユウヒは、心配そうに見下ろしてくるネムに目を向けると、口全体に広がる苦みと鼻から抜ける青臭さを我慢しながら苦笑を浮かべて見せる。そんなユウヒの告げた内容に、ネムは安心した様に尻尾を揺らすと、どこか呆れを含んだような声を洩らし、呆れた表情で見つめられるユウヒは口に広がる苦みと戦いながら次の試作品の為に素材に手を伸ばす。
「・・・それで、そろそろ夜も更けて来たし」
粘土の塊や綺麗な石ころを手に取り、右目に力を込めるユウヒの背中をしばらく見詰めていたネムは、次第にそわそわとしはじめどこか落ち着きなく尻尾や耳を動かし始めると、意を決した様に尻尾をぴんと伸ばし僅かにうわずった声でユウヒに問いかけはじめる。
「・・・寝床の用意はどうするにゃ? も、もしユウヒがどうしてもと言うならい「ああ大丈夫だ」しょ・・・にゃ」
すでに夜も更け外は真っ暗であるため、その問いかけは可笑しくないのだが、彼女が緊張する理由である部分に言葉が差し掛かった瞬間、ユウヒは振り向き大丈夫だと口を開く。
「ん? 今日はこのまま薬を作り続ける予定だから先に寝ててくれ、ちょっと音が気になるかもしれないけどそこは勘弁な」
「音は良いけど・・・寝ないと体に悪いにゃ」
振り返った先で、ピンと張っていた耳を力なく伏せてしまうジト目のネムに首を傾げたユウヒ、どうやら今日は徹夜する気満々の様である。現代人ならではの夜更かし思考であるが、日の光と共に生活するネシュ族としては心配の種になるらしく、ネムは眉を寄せると笑みを浮かべるユウヒの顔を心配そうに覗き込む。
「ははは、寝ないで仕事とかよくある事だから大丈夫だよ、それより今はこの辺で採れる薬草とかを調べる事に夢中でね、寝れそうにないのさ」
「うにゃ・・・ほどほどにね?」
じっと見つめてくるネムを心配させないように努めて明るい表情を浮かべて見せたユウヒに、ネムはいろんな意味で残念そうな表情と声を洩らして長いしっぽをゆらりと一つ揺らす。
「おう!」
元気よく返事をしたユウヒは、寝室に向かって歩く妙に哀愁の漂うネムの背中を不思議そうに見詰め、
「・・・さて、本題に移るか」
寝室の戸を閉めるまでネムの事を見送ると、表情を真剣なものに切り替えて右手に持っていた艶のある綺麗な石に鋭い視線を注ぐ。
「魔力活性化装置、上手くいけば魔力回復に役立つだろ」
どうやら、これから始める作業はユウヒにとって本題であるらしく、これまでの作業は下準備と準備運動であったようだ。ネムが不貞寝する中、戸一つ隔てた向こう側では、狂人だのなんだのと呼ばれたユウヒが、月明かりと宙を舞う魔力光の中でその本領を発揮しようとしていた。
『・・・・・』
この夜、奇跡の光景を目にできたのは、濃密な魔力の光の向こうで真ん丸に目を見開き隠れるようにユウヒを見詰めていた精霊達だけなのであった。
いかがでしたでしょうか?
初めて知る家族の一面に困惑するも、よく考えれば以前からその片鱗に気が付いていた。なんてことは割とよくある話だと思います。そんなよくある話をあり得ない場所で体験した流華と、また何かやらかしそうなユウヒでした。
それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー




