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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第一章 救出と救済

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第四十二話 異世界カルチャーショック

 どうもHekutoです。


 修正等完了しましたので投稿させていただきます。今回また文書量が増えてしまい分割しようかとも思ったのですが、分割すると読み応えが少なくなるかなと思いそのまま投稿させていただきましたので、きっと楽しんで頂けるのではないかと思います。



『異世界カルチャーショック』


 名も無き異世界で、ユウヒが右目の力を全力で使い素材の選別とこれからの開発計画を練っている頃、広さだけならネムの家よりずっと大きな家の縁側には大きな体の男と、キャリアウーマンを絵にしたような女性が、目を細めながら目の前に広がる光景を眺めていた。


「・・・リンゴさんや」


「・・・なんだねクマ公や」

 その二人とは、普段からいがみ合いながらも何かと気の合うクマとリンゴの二人である。視線を動かさずどこか爺くさい言い回しでリンゴに話しかけたクマに、リンゴも似た様な雰囲気の声で返答を返していた。


「姉さんじゃないが、異世界来て・・・良かったな」


「そうね、これは予想以上にいいものだわ・・・悔しいけど同意してあげる」

 彼と彼女の目には共通したものが映っている。それは異世界の森の中に存在する獣人の里、その中にある集会場の様な建物の前に広がる大きく開けた空間。クマの言葉に悔しさを全く感じない声を洩らしたリンゴは、隣のクマと同じタイミングで口元を緩めると、


「「・・・ケモミミサイコー!」」

 まるで打ち合わせていたかのような全く同じタイミングで、クマと共に奇怪な雄たけびを上げるのであった。


 目じりの垂れた二人の視線の先には、小さな獣人の子供たちが元気に駆け回り、様々な耳や尻尾を揺らしている。そこへ突如聞こえて来た奇怪な雄たけびに驚き一斉に身構えた子供たちは、怪しい大人二人をクリクリとした目で見詰めると、興味があるのかじりじりとその距離を縮めだし、その小動物の様な行動がより一層二人の駄目な大人を興奮の坩堝へと誘うのだった。





 大人二人が奇声を上げ興奮に鼻息を荒くしている頃、唯一の十代である現役女子高生はと言うと、


「イタタタ!?」

 集会場の奥にある一室で子供の様な悲鳴を上げていた。


「うふふ、こまか足ばぁて、これならだいじょぶよぉ」

 涙目で痛みを訴える彼女の目の前には、まるでペルシャ猫の様なふわふわとした真っ白な毛の老獣人の女性が座っており、その皺の目立つ手にはルカの小柄な足首がしっかりと握られている。この老獣人女性はハラリアで特に腕の良い治療師で、彼ら曰く森の恩人ユウヒの妹であるルカの治療の為、集会場までやってきていた。


「へぅ?」


「こいば塗っとぉけばそのうちようなるさ」

 彼女はニコニコと笑顔を浮かべると、ひどく訛った言葉でルカに話しかけ、見た目に反したきびきびとした動きで脇に置いていた薬箱を開くと、何を言っているのか理解していないルカの手を包み込むように、大きな木の実を加工して作られた練薬入れをそっと置く。


「えっと、はい、ありがとうございます?」

 老獣人女性の言葉は聞き取れるものの、しかしその内容が分からず首を傾げるルカは、なんとなくニュアンスと動きから、持たされた物が現在進行形で足に塗られているものなのだろうと判断し、お礼を口にするも自信が無いせいか語尾がうわずり疑問形になってしまう。


「よぉかよかぁ、賢者ぁさまの家族なんら恩人もいっしょとよ」


「はぁ・・・?」

 会話が成立しているのかしていないのか解り辛い二人の会話を、後ろに控えている老獣人女性の補佐役が苦笑を浮かべ見詰める中、涙目で不思議そうな表情を浮かべたルカは、治療が終わるまでの間終始落ち着きなく視線を彷徨わせるのであった。





 一方その頃、一時は精神的に死にそうであったものの、ユウヒの慰めによりいつもの調子が戻ってきたパフェは、疲れて眠ってしまったメロンの寝顔を眺めるのに飽きたらしく、異世界のしかも獣人が建てたと言うのに、どこか日本の古い家屋にも似ている建物の中を一人探検していた。


「むむ、これはなんだろうか?」

 今は集会場の入口から続く大きな土間に下り、複数の窯が並ぶ炊事場を興味深そうに眺めている。そこでは何やら作業をしている複数の獣人女性の姿があり、そんな女性達を横目に彼女は興味の向くままに歩き出す。尚、パフェは集会場探検にクマとリンゴも誘ったのだが、動く元気はないとバッサリと断られているため若干元気が無い。


「あの、お腹すきましたか? 少し待っていてくださいね今用意していますので」


「・・・これは、食べ物なのか?」

 そんな彼女が興味深そうに、縄で縛って吊るされた乾物らしきものを人差し指で突いていると、耳としっぽ以外はほとんど見た目が人と変わらない獣人の女性がパフェに声をかける。どこかタヌキやレッサーパンダの様な模様や特徴のある女性の声に、少し肩を跳ねさせたパフェは、彼女と目の前の萎れた何かを見比べると、丸く見開いた目で不思議そうに首を傾げた。


「はい、基人族の方にはあまり馴染みがないかもしれませんが、日持ちもするので便利なんです」

 パフェの問いかけに一瞬きょとんとした表情を浮かべた女性は、しかしすぐに何かに気が付いたように頷くと、困った様に微笑みながら西洋人参ほどの太さをしたくすんだ白色の乾物を縄から取り外し、何処か緊張した表情のパフェに手渡す。


「乾物・・・そういえばテレビで軒先に干してあった大根がこんな感じだったような? これは根菜なのか?」

 乾物を手渡されたパフェは、しげしげとその白く程よく硬くしなりのある棒を見つめながら、テレビで見た田舎の映像を思い出し納得したように頷き、目の前の、こちらもどこか緊張した雰囲気が耳や尻尾の動きから伺える獣人の女性に顔を向け再度問いかける。


「根菜? と言えばそうですね。これはモリコマンドを割いて干したものです」


「モリコマンド?」

 そんな問いかけに対して返って来た名称は聞いたことのない物であり、この時点でパフェの中の緊張は膨れ上がる好奇心に頭の中から押し出され、その感情はすぐに彼女の視線にも現れ始めた。


「はい、比較的おとなしい種類で育てやすいんですよ」

 パフェの緊張が好奇心へと変わったことが目の前の獣人女性にも分かったのか、彼女も少し緊張がほぐれた様に尻尾を一つ揺らす。


「大人しい? 育て? ・・・」

 しかしパフェはそんな女性の変化など眼中にないのか、彼女の話す内容に食い気味になりながら目を輝かせる。


「ふふ、見てみますか? 今の時間は寝てると思いますけど」


「見る!」

 まるで子供の様な表情で目を輝かせるパフェの姿に、女性は思わず微笑むとすっかり緊張の抜けた表情で外を指で示しながら問いかけ、その問いかけにパフェは深く思考することなく即返事を返すのであった。


「えっと、わかりました。こっちです」


「あ、邪魔をしてしまったか・・・すまない」

 輝く笑みで即断即決してみせたパフェの姿に思わず目を見開いた女性は、どこか困った様な笑みを浮かべると、手に持っていた何かの道具を炊事場において彼女を先導するように歩き始める。そこに来てようやっと女性の作業を邪魔してしまったことに気が付いたパフェは、小さく口を開け声を洩らすと申し訳なさそうに背中を丸める。 


「いえ、大事なお客様ですから」

 長身のパフェより背の低い獣人の女性は、背を丸めても尚高い位置にあるパフェの目を見上げると、可笑しそうに微笑みながら小さく首を傾げると、パフェを大事なお客だと言う。


「そう・・・なのか?」

 その言葉にきょとんとした表情を浮かべたパフェは、


「はい。あ、そこ足下気を付けてください」


「・・・ユウヒ、また何かやったのか?」

 終始にこやかに対応してくれる女性の後に着いて行きながら、妙な既視感と共に脳裏を横切ったユウヒの笑みに訝しげな表情を浮かべる。彼女はユウヒとの付き合いの中で同じような事が何度かある様で、女の勘も働いたのか、今回も同じようにユウヒが何かしたのであろうと言う正解を引き当てるのであった。





 そんな集会場から少し離れたハラリアの里中央にほど近い場所には、真新しい木材で作られたばかりの背の高い柵が設置してあり、中の様子がわからない柵の出入り口前では、背の高いネシュ族男性が一人の女性獣人と何やら会話を交わしているようだ。


「そうか、それでその友人の方々は?」


「特に問題なく、むしろ礼儀正しく友好的に接して頂いてるのでこちら側が戸惑っていると言った感じですね」

 少し考えるそぶりを見せた男性と、男性の質問に淀みなく答える女性の会話の話題はどうやらルカ達の事であるようで、ユウヒにこっ酷く叱られたことが功を奏しているのか、それとも日本人特有の性質がよかったのか、特に問題になるような話題は上っていない。


「ならばよし・・・世界樹の苗、グランシャから話が来たときは半信半疑であったが、その姿を見た以上信じざるを得ないな。・・・それにしても異世界人とはな」


「驚きですね」

 報告を聞いて安心した様に頷く男性は、その視線を女性から柵の方へと向けると、感動と充足感に満ちた表情で鼻息荒く僅かにうわずる様な声を洩らし、ついで何処か可笑しそうな表情を浮かべると女性に目を向けながら異世界人と言う言葉を告げ、その言外に含まれた感情に女性は同意し頷く。


「驚く事が多過ぎて寿命が延びた気がするわい・・・はっはっは!」


「ふつう縮むんじゃ・・・」

 どうやら男性は、ユウヒ関連の事柄をグランシャから直接報告されてもおかしくない立場にあるらしく、報告内容を思い出し笑い声を上げるも、傍らの女性は笑い声を上げる男性にジト目を向け小さく呟く。


「せっかく未知との出会いだ伸ばさずにどうする?」


「はぁ・・・(伸び縮み自由なんだ)」

 どこか呆れた雰囲気の滲みだしている女性の呟きは、しっかり男性の耳にも届いたらしく、不思議そうに首を傾げて見せた男性の言葉に、女性はさらにその感情を濃くしながら溜息を洩らした。


「そういえばそのユウヒ殿はどこなのだ? 是非早めに会って話をしてみたかったのだが」

 何とも言えない表情で自分を見上げてくる女性に不思議そうな表情を浮かべる男性は、異世界人であり複数の意味で大恩人であるユウヒに興味があるらしく、きょろきょろと周囲に目を向けながら女性に問いかける。


「・・・今はネム様のお屋敷で寛いでおられます。後で「なんだと!?」・・・まぁ言いたいことはわかりますが」

 周囲を見回したところでそうタイミング良く見つかるものでもないだろうにと、やはり呆れた表情で男性を見上げた女性は、何処か言い辛そうにしかし淡々と報告を始めた。のだが、その報告内容は男性にとって驚愕せざるを得ない内容であり、女性も男性が叫ぶのは想定内であったようで、煩そうに頭の上の獣耳を押さえながら吐き捨てる様にそう洩らす。


「なぜネムの家におる!?」

 この男性、実はネムの父親なのであるが、同時に大の親バカでもある。当然そんな男が、目に入れても痛くない娘の家に恩人とは言えどこの馬の骨とも知れぬ雄が転がり込んだと聞けば、こういう反応を示したとしてもおかしくはないだろう。


「・・・まさか、まさか手籠めにさぶれ!?」

 そんな男性の声は非常に大きく、近くを通った者であれば誰の耳でも聞くことが可能で、また内容の把握も容易であった。そのため、もっともその話を周囲に拡散されたくない人物の手・・・もとい足により、彼の叫び声は強制的に止められてしまう。


「・・・何を、叫ぶつもりだったにゃ?」


「ごふ・・・おお、ネム無事か! 純潔はぶろっさむ!?」

 尋常じゃないスピードからのドロップキックを顔面に食らった男性は、その襲撃者に胸ぐらを掴まれ締め上げられると、なぜか嬉しそうな声を洩らし彼女、ネムの身を案じる様に大声を上げようとする。しかしその言葉は、男性の胸の上に足を掛けていたネムがひらりと地面に舞い降りた瞬間、砲弾を食らったかの様な衝撃が男性の腹部を襲い、最後まで喋る事は叶わないのであった。


「いちいち余計な口なんだから! それ以上余計な事言うならもうここには戻ってこないからね!!」


「ふむ、素晴らしい跳び膝蹴りだな、的確に鳩尾の中心を打ち抜いている」

 目の前の光景に感心した表情で頷くユウヒが呟いた通り、巨漢と言って差し支えの無いネシュ族男性の腹部を襲った衝撃は、明らかに物理現象としておかしな勢いで放たれたネムの跳び膝蹴りによるものであった。


 ユウヒが見ていることも忘れて牙を剥くネムの体の周りには、淡い緑色の燐光が舞っており、地面に沈む実父の頭を踏みつける彼女の足は緑色の光を放っている。


「ユウヒ様ですね? 実は世界樹の苗木様の事なのですがあまり芳しくないようで・・・精霊様に状態を聞いていただけないでしょうか?」

 それらの光がこの世界での身体強化系魔法のようなものだとわかると、ユウヒはやはり感心した様に目を見開いて観察を続けるのだが、そんな観察を続けるユウヒに女性がそっと近づく。それは先程までネムの父親と話していた獣人の女性であり、彼女は目の前の光景に全く興味が無いと言った表情でユウヒに話しかけ、彼を世界樹の苗木の下へと案内を始める。


「ん? ああ、これはどうも。俺も状態の調査は出来ますのでって、こらこら引っ張るなって」


<こっちこっち!><はやくはやく!><すこしげんきないの>


 女性にとって、日常的な範囲の親子喧嘩を止めることより、ユウヒの案内の方が優先順位が高いようで、そんな女性から話しかけられたユウヒは、まるでプロレス観戦中に話しかけられたお客の様な表情で振り返ると、小さくお辞儀をして彼女の質問に答えるのだが、その言葉は乱入してきた精霊たちによって邪魔されてしまう。


「・・・精霊様が居られるのですか?」


「ああ、ちっこいのがなって、おいだから・・・はぁ、わかったわかった。ネム! 先に行かせてもらうな! それじゃすいません」

 突然虚空に向かい話しはじめ、同時にユウヒの服がひとりでに動くさまを見た女性は、目を見開くと恐る恐ると言った表情でユウヒを見詰め問いかけ、その問いに申し訳なさそうな表情を浮かべるユウヒ。そんなことをやっている間も精霊達はユウヒのジャージのあちこちを握って引っ張っており、その必死さに根負けしたユウヒは苦笑を洩らして降参すると、未だに実父を踏みつけるネムと目の前の女性に詫びを入れ、引っ張られるままにその場を後にするのだった。


「あ、はい! ・・・精霊の導きに感謝を」

 残された女性は、少し前まで常に浮かべていた冷静な表情とは全く違う、驚きに満ちた表情で慌てて返事を返すと、胸の前で両手を包むように合わせユウヒの背中に深々と頭を下げる。


「ぁ・・・」

 またネムは先に行ってしまうユウヒの背中に小さく声を洩らし、尻尾と耳を力なく垂れさせたのだが、


「ぬぬ、ぬぬぬ? ・・・ネム!? お主まさかあの若造を! ならん! ならんぞぉりんげ!?」

 その姿に無駄に良い勘ですべてを察した男性が勢いよく起き上がり大声を上げたことで、ネムは顔を真っ赤に染めると、剃刀の様に鋭い蹴りを躊躇なく男性の首に放つ。


 流石にこれは食らえば命はないと感じた男性は、妙な気合の声と共に慌てて仰け反りたたらを踏むように後退したのだが、


「いっぺんしんでくるにゃああ!!」


「ぎぃやぁぁああああ!?」

 羞恥を怒りに変えたネムの攻撃は単なる単発ではなく連続攻撃であったらしく、死に体のままネムを見上げた男性は、飛び掛かってきたネムの鋭い両手の爪によって、顔面に真っ赤な縦のストライプ柄を描かれるのであった。


「・・・さて、後始末してきますか、じゃれ合いもほどほどにして頂きたいわ」

 野太い男の叫び声が響く中、深々と頭を下げ続けていた女性はゆっくりと頭を上げると、後ろを振り返り溜息一つ吐いて疲れた様に小さく愚痴を洩らす。どうやらこの後始末までが、彼女の日常であるようだ。





 一方、野太い男の悲鳴に背中を押され、容赦ないネムのコンボ攻撃に若干の恐怖を感じたユウヒは、周囲を舞い飛んだり服を掴んで引っ張ったりとまとわりつく樹の精霊達に話を聞きつつ、様子がおかしいと言う世界樹について考えていた。


「なるほど、やはりここでも魔力なのかな? とりあえず簡易的な成長魔法石は用意して来てはいるから、それを弄って使ってみようかね」


<たのしみ!><わくわく>


 異なる世界の境界線である白く光る壁の近くに植えた世界樹は、ユウヒのうっかりで無事? 成長できたが、本来ならそんな都合よく成長するものではなく、精霊達の話によればむしろ枯れる可能性の方が高いのだと聞き、その原因と対策について呟きながら歩くユウヒ。そんなどこかやる気があるのか無いのか、普段通りの覇気を感じない表情のユウヒに、見た目以外の感覚で人を見る精霊達は楽しげな声を上げる。


「何者だ!」

 精霊達の姿に微笑みを浮かべるユウヒであったが、目的の場所に近づいた瞬間刺々しさを感じる誰何の声が彼の耳に突き刺さった。その声の主はその特徴からすぐにエルフであることが見て取れ、しかしその目に浮かぶ感情にユウヒは思わず苦笑いを浮かべる。


「まて! ユウヒ殿だ。こちらですユウヒ殿、世界樹様の状態を」


「おう、まかせとけ」

 この世界のエルフが基人族に向ける感情としてはごく一般的感情であり、世界樹の社を訪れた当初のユウヒに向けられていたのも同じような視線であった。しかしこの場にはその男性エルフだけではなく、ユウヒも見覚えがある精霊騎士団の男性も居り、すぐにその男性のとりなしによって、ユウヒは世界樹の苗木が植えられている奥へと通される。


「何がまかせろだ・・・人に何が解ると言うのだ」


「・・・(申し訳ありません母樹様、俺は悪くないので罰はこの馬鹿だけにしてください)」

 表情を元に戻し、しかし心の中で苦笑を浮かべるユウヒに、変わらず厳しい視線を向け続ける男性エルフは、ユウヒが奥に消えると小さくそう呟き、その呟きに精霊騎士団でも特に不真面目にみられる男、アブルは小さく頭を抱え心の中で母樹に謝罪するのであった。





 そんな謝罪が行われて数分後、母樹から託された苗木の一本が植えられている場所には、微妙に居心地が悪そうにするユウヒが、複数の見目麗しい女性エルフ達に囲まれていた。


「・・・」

 非常に長命で不老に近いエルフであるため、その実年齢はユウヒよりはるかに上なのだが、見た目は若く美しい女性ばかりである。そんな女性たちにまるで祈る様に無言で見詰めつられると、男性は時に嬉しさより怖さの方をより強く感じるようだ。


「・・・ふむ、見事に萎れているな」

 そんな貴重と言ってもいいのか分からない体験に、ユウヒは一筋の汗を流しながら目の前の苗木に関してそう評価を下す。


「も、申し訳ありません! 何とか手を尽くしたのですが・・・」


「えっと、うん。お姉さんの責任じゃないから大丈夫だからね? ほら落ち着いて」

 その瞬間、祈る様にユウヒを見詰めていた女性達は揃って肩を震わせ、唯でさえ白く透き通るような肌は病的に蒼く染まっていく。そんな女性の一人が代表してユウヒの前で膝をつき頭を下げると、ユウヒは慌てて彼女に目を向け肩をそっと支えると困った様に声をかける。


「は、はい・・・ありがとうございます。ユウヒ殿・・・ぐず」

 しかし、女性エルフ達の担った仕事の重要性を考えればこの状況も理解でき、またユウヒについて有ること無い事を某グランシャに吹き込まれているのだからどうしようもない。基本的に善人なユウヒの優しい言葉で感極まって涙を浮かべる彼女たちの姿に、ユウヒは只々罪悪感を感じて精神を削られていくのだった。


「と、とりあえず・・・うん魔力が足りない、なるほど土壌に活性魔力無し、空気中にも希薄か」


「・・・」

 何とか女性エルフが泣き崩れてしまうことを防いだユウヒは、気を取り直して右目に力を込め直すと、再度苗木とその周辺に目を向け今の状況を正しく調べ始める。ユウヒが次々と現在の周辺環境などの状態を調べる中、彼の瞳は力を使っているからか、それとも日の光が差し込む空を見上げたからか鮮やかに輝いており、その姿は固唾を飲んで見詰めるエルフ女性達に様々な感情を芽生えさせていく。


「えっと? 魔素変換効率がほぼゼロ、これが不活性魔力を活性化させる能力だからこれの強化からかな? あっちに植えたのは魔法で纏めて上げちゃったからなぁ」


『・・・』


≪・・・≫


 またユウヒの様子を見詰めるのはエルフだけではなく、いつの間にか集まった色とりどりの精霊達も同じように静かに見つめている。


「かといってあんなに急成長させたら危ないし、集中強化して後は自分で成長してもらう方がいいよな・・・いろいろと」

 そんな視線にさらされているユウヒは、調べる間に調子が出て来たのか次第にその表情を研ぎ澄ましていく。もしこの場に某三人の忍者が居たならば、またはヤメロンのメンバーや親友のクマが居たならば、その変化がユウヒの趣味に走る前兆現象に似ていると言ったであろう。


「そいじゃこの植物成長魔石2号君を少し弄ってっと、まだ魔力は持ちそうだが控え目控え目と・・・」


『おおお・・・』


≪ヒャァー♪≫


 そして趣味に走る時、大抵ユウヒの認識は一般の枠外に至ることが多いと・・・。ユウヒが妄想魔法と合成魔法の併用で再加工していく魔石、そしてその作業に使われる大量の魔力にエルフ達は驚きの声を、精霊達は喜びの声を上げて歓喜に体を振るえさせる。


「ここを、こうっと・・・こんな感じか? お、良い感じだな」


「・・・すごい」


「なんて魔力なの」


「上には上がいるのね・・・」

 時間にしてものの数十秒、しかしその間に放出された魔力は彼女たちが今までの人生の中で体感したことのない量の魔力であった。ユウヒが何でもない様子で楽しそうに準備をする中、彼女たちの視線には最初の視線にはなかった感情が見え隠れしている。


「よし、2号君起動! ついでに少し魔力を【放出】っと・・・おけかな?」

 そんな不穏? な気配に気が付かないユウヒは、趣味に走った時と同質の表情を浮かべながら楽しげに魔石を設置し、ついでにと苗木に魔力を軽く放出するのだった。


<げんきなった!><すごいすごい!><ユウヒありがとう!><愛してる!>


 その効果はすぐに表れ、つい先ほどまで枯れるのも時間の問題と言った様子で萎れていた苗木は、見る見るうちに張りと艶を取り戻し、精霊達は喜びの声を上げて踊り出す。


「なんてことは無い、事も無いが・・・なるほどなぁ、こうしてみるとこの世界は思ったより魔力が豊富なんだな」

 喜ぶ精霊達と目の前で葉を揺らす苗木に、満足気な表情で微笑んだユウヒは、先ほど調べた情報からこの世界についてある仮説が生まれた様で、先ほどまでよりも一層研ぎ澄まされた目で何やら考え込み小さく呟く。


「え?」


「ふふ、創作意欲が溢れて来たぞ・・・これならこの魔力不足を補えるかもしれん」


「あの、ユウヒ様?」

 その小さな呟きに、お礼を口にしようとしていたエルフの女性は首を傾げ、すでにテンションが上がり始めたユウヒは彼女の声が聞こえていないのかニヤリとした笑みを浮かべている。


「それじゃ俺戻るから、ネムが来たら家に戻ったって伝えてくれ、なんだか忙しそうだったし」


「・・・え? あ、はい!」

 完全に入れてはいけない部類のスイッチが入ってしまったユウヒは、顔を上げて爽やかな笑みを浮かべると、その微笑みを浮かべたまま目の前の女性にネムへの言伝を頼み、頼まれた女性は少し前までとは真逆の色で顔を染め慌てた様に返事を返す。


「それじゃねー」


「わわ!?」


『飛んだ!?』

 ユウヒの表情を見ていた女性達が似た様な反応を示す中、ユウヒはそのテンションの突き動かすままに手を振って駆けだすと、歩いて帰るのが面倒だったのかそのまま地面を蹴って空へと舞い上がるのであった。


 後に残ったのは呆けたように空を見上げる女性エルフ達と、葉を揺らす世界樹の苗木と踊る精霊達、そしてその光景を偶然見に来て何が何だかわからず訝しげに首を傾げる男性エルフだけであった。



 いかがでしたでしょうか?


 互いの文化や異常性に少なくない衝撃と物理的な衝撃が見受けられたようですが、それらはユウヒに妙なスイッチを入れさせてしまったようです。いつもの事ですが、今後もそんな日常?を楽しんで頂ければ幸いです。


 それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さよならー

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