第四十話 ユウヒ獣人の集落へ
どうもHekutoです。
修正等完了しましたので投稿させていただきます。少々時間が足りなかったのでいろいろと不安ですが、楽しんで頂ければ幸いです。
『ユウヒ獣人の集落へ』
忍者達が思いつきでとった行動が実を結び、日本に住む一般人を、最良とは言えずも最悪の事態から救出することに成功し、日本の一部で喜びの声が聞こえている頃、
「・・・以上で俺が言いたいことは終わりですが、何か申し開きはありますか?」
名も無き異世界では、ユウヒが無表情かつ冷気を感じる空気を垂れ流しながら、静かな声で話の終わりを告げ、硬くでこぼことした地面に正座する三人の女性を見下ろしていた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「・・・けふ、お母さんの説教並みにこたえるとか・・・何もありませんです」
「ひっく、ひっく・・・いきててすみません」
当然その女性とは、その場のノリと勢いで言葉巧みにルカを異世界に誘い連れてきた実行犯の、メロン、リンゴ、パフェの三人である。彼女らはユウヒによる一方的な蹂躙が終わった後、振り返り目があったユウヒから逃げようとするも、当然逃げられるわけもなく魔王に回り込まれ、そのままその場で正座させられると小一時間ほど説教を受けることになったのであった。
「うはぁ・・・全開だったなぁ」
ルカを背に庇いながら表情を引きつらせ呟くクマの前で、終始ゴミでも見るかのような視線で説教されていた三人。
メロンは恐怖のあまり一時的に心をシャットダウンしているのか、いつも通りの開けているのかわからない細い目のまま、しかしいつも浮かべている微笑みの消えた蒼い顔で震えながらぶつぶつと謝罪の言葉を呟いている。一方三人の中で比較的マシな様子のリンゴは、やはり蒼い顔で口から血でも吐きそうな咳を洩らすと、胃のあたりを押さえたまま力尽きたように頭を俯かせていた。
「ぐすん・・・ひっく、ぐすん」
そんな二人より明らかに重症なのは、今も止めどなく涙を流し鼻を啜るパフェで、恐怖のあまり蒼くなっていた顔はすでに血の気が引きすぎて真っ白になっており、心なしか髪も体も影も全体的に色素が薄くなっているようにも見える。
「あわわわわ・・・」
「あぁ・・・刺激強すぎたか、これがユウヒの魔王モードだ。普段はめったに見れないって言っても、見たいもんじゃないがな」
目の前で繰り広げられた惨劇に、メロンの精神的に半殺しと言う言葉を思い出し震えるルカは、誰かにすがることも忘れて只々立ちつくし、そんなルカを背に庇っていたクマは、ルカの様子を見るため後ろを振り向くと、何とも言えない表情で聞こえているのかわからないルカに話しかけ苦笑を浮かべた。
しかし、そんな彼の苦笑いは次の瞬間大いに引き攣る。
「球磨!」
「ひっ!」
「お、おう・・・俺も・・・ですよねー?」
何故なら三人の女性に対する説教を終えた魔王のヘイトが、自分へと向いたことを知らせる鋭い声が背後から聞こえたからである。
自分を呼ぶ声に表情を引きつらせたクマの目の前では、ルカが肩を跳ねさせ硬直しており、そんな彼女の視線を追う様に振り返ったクマは、目前まで迫ってきていたユウヒの冷え切った目を見ると、そのいつもと違う目の色について問いかける気力すら浮かばず、すべてを悟った様な真っ白な目で首を傾げてみせるのだった。
「・・・チャットログで把握済みだ、気にすんな」
「あはは・・・よかった「ただし」へ?」
最悪の未来を幻視しながらユウヒの言葉を待つクマであったが、彼の脳裏を占領していた想像は、呆れた様な表情を浮かべ直したユウヒの言葉でいい方向に覆され、
「ある程度親父さんにばれてるし、うちの両親にも報告しないといけないので」
「・・・オワタ」
しかし、その未来はただ単に方向性を変えただけで危機的状況はそう変わらないのであった。
「弁護くらいはしよう」
「・・・」
新たな絶望を垣間見て背中を丸める様に肩を落とし、大柄な体が小さく見えるクマの肩に、ユウヒはそっと手を置くと眉を寄せながらそっと呟き、その言葉にクマは小さく頷く。
「んで」
「っ!」
男同士の多くは語らぬ会話を、どこか遠くの出来事の様に見つめていたルカであったが、ユウヒの目が彼女を見詰めた瞬間その心は強制的に現実に引き戻され、同時に体が自らの意志で動かせず固く強張る。
「・・・流華」
「ごご、ごめんな―――!?」
声すらうまく出せないほど硬直したルカに、ゆっくりと近づくと無表情で小さく彼女の名を呼ぶユウヒ。自分の意志から離れうまく動かせない体、それでも何か一言謝罪を口にしようと必死に口を開いたルカであったが、その声はユウヒに頭を抱きしめられたことで言い切ることが出来ず、くぐもった声で終わった。
「生きててよかった。いろいろ心配かけたみたいだな、ありがとう流華」
「ぁ・・・お、おにいぢゃん! わたし、さみしがった! おにいちゃあぁ―――」
ルカを抱きしめた瞬間、彼女からは見えない位置で心底ホッとした表情を浮かべたユウヒは、幼い子にしてあげる様に優しくルカの背中を叩きながら暖かな声色で声をかける。顔は見えずともその声だけでユウヒがどんな表情を浮かべているか分かったルカは、兄の胸にきつく抱きつくとそれまで我慢していたものを爆発させるように声を上げ泣き出す。
「ああ、よしよし・・・なけなけ、そんですっきりしたらいつもの笑顔を見せてくれ」
「うん、うん!」
久しく聞いていなかった妹の泣き声に優しく目を細めたユウヒは、ジャージを握りしめて涙を流す彼女の頭を軽く撫で、そんな兄の手のぬくもりを感じたルカは、ユウヒの胸へ頭を押し付ける様に何度も頷くのだった。
「・・・ええ話やなぁ」
まさに感動の再会を絵にしたような光景に、絶望の淵に立っていたクマは起き上がると目じりを温かい涙で濡らす。
「ぐすっ・・・扱いが違いすぎる」
「まぁ・・・当然っちゃ当然なんだけどね」
「うぅふぅ・・・よかったね、ルカちゃん・・・ずず!」
またそれは、未だに正座中である三人の女性も同じで、丸めていた背中を伸ばしたパフェは、自分との扱いの差に不満を洩らしながらも先ほどまでの涙とは違う種類の涙を流し、そんな彼女の不満に同意したい気持ちも無きにしも非ずと言った表情のリンゴは、目の前の光景に少しだけ顔の血行をよくし、メロンはいつもの表情で涙を流すと、嗚咽で声を詰まらせていた。
「あそこだけ見たらいい話だけどにゃ」
そんなユウヒと仲間たちから少し離れた場所では、どこか不満げな表情を滲ませるネムが、戦いの影響で折れた倒木に腰を掛けながら、遠くに見える荒れ果て凍りついた森に目を向けている。
「うむ、背景があれでは・・・いやあれはあれで絵になるか」
「・・・言われてみれば」
その隣には精霊騎士団長が立っており、ネムの言葉に同意しながらも、この森では見ることのできない透き通る巨大な氷塊と、抱き合う男女と言う組み合わせに新たな美を感じたのか眉を寄せ唸り、その唸り声にネムも同意しそうになる。
「・・・っとそんなことより早く移動したいにゃ! 寒いにゃ!」
「そうだな」
しかし、そんな感情よりも物理的に押し寄せてくる冷気に体を震わせた彼女は、勢いよく立ち上がるとユウヒに向かって歩きながら大きな声を上げ、そんなネムの行動にエルフの男性は何かを理解したような苦笑を洩らすのだった。
「おう、しかし移動するとしてどこに? 世界樹の遺跡か?」
大きな声を上げながら近づいて来たネムに、ルカを胸に抱いたまま頭だけで振り返ったユウヒは、短く返事を返すもどこに向かうのかと問いかける。なぜなら今いる場所は世界樹の社からだいぶ離れており、ルカ達を連れて歩くと結構な時間を必要とし、暗くなる前にとなると何か方法を考えないといけないからだ。
「いえ、ここより少し行ったところに規模の大きい獣人の集落がありますので、そちらに移動したいと思います」
「世界樹を植樹するって集落のことか?」
「はい、そちらで治療の必要な者は治療を受けさせますので」
しかし、ユウヒの懸念は騎士団長の言葉ですぐに解決し、あらかじめ大きな獣人の集落に世界樹を植樹すると聞いていたユウヒは、そう当たりをつけ予想が正解だとわかると納得した様に頷いて見せる。
「そうか、わかった。治療については俺も何か協力しよう」
「ありがたい、それでは準備ができ次第出発しますのでそれまでお待ちください」
さらに治療に関しては、生傷だらけの友人たちや、その友人を助け同じように傷だらけの姿で思い思いに休憩しているネシュ族少女やエルフの事もある為、ユウヒは何かしらの協力を約束し、その言葉に騎士団長は嬉しそうに頷くと、準備の為その場を後にするのだった。
それから数十分後、世界樹の社内部では、
<それでキンキンなの!>
「なるほど、そう言うことなのね。それにしてもあれだけ魔力を使ったというのにまだそんなに・・・」
真面目な表情を浮かべた母樹が、ユウヒの戦闘を観戦してきた小さな樹の精霊達による、身振り手振りを交えた劇の様な報告を聞いており、割と時間をかけてようやく理解できたのか頷いて見せると、嬉しそうに飛び回る樹の精霊達から目を離して難しい表情で俯く。
「素敵です旦那様」
<ステキだね!>
が、すぐに、周囲で踊る様に漂っている樹の精霊達と同質の表情で目を輝かせると、力強く両拳を胸の前で握り、その姿に周囲の精霊達も同じような仕草で同調するのだった。
「ええ、それじゃ凍った森はだいじょうぶと言うことね」
<うん! 溶けたらユウヒの撒いて行った魔力ですぐに回復できるよ! 前よりずっと良くするからね!>
やはり樹の精霊同士、根本的なところは似通っているのか、微笑み合った母樹と精霊達はニコニコとした表情のまま話を続ける。
「わかりました。それではそちらは任せます」
<うん! じゃ行ってくるねぇ!>
母樹の言葉に頷き、手を振りながら一斉に飛び立つ精霊たち曰く、ユウヒの行った戦闘で荒れ果てた森は、ユウヒが怒りに任せて振り撒いた活性魔力のおかげで、これまで以上に豊かな森に戻るらしい。
「いってらっしゃーい・・・・・・もう数人、生ませてもらえないかしら?」
微笑みを浮かべ見送った精霊達の報告に、母樹は思案顔でユウヒの魔力量を再評価すると同時に、自らの心の中から湧き上がってくる欲望を思わず口から洩らしてしまう。そんな自分の口から飛び出た言葉に驚いた彼女は、頬を赤くして自らの口を押えるも、何事か妄想を膨らませたのか、そのままさらに頬を赤くするのだった。
そんな母樹の思いが伝わったのか、
「へっぶし!」
「またかにゃ?」
「・・・まただ」
獣人の里ハラリアを目指し、踏み固められた比較的広い森の道を歩くユウヒは、呆れた様な表情のネムの隣で、すでに何度目かになるクシャミを放っていた。
「集落に着きましたらすぐに部屋を用意させますので」
「それはありがたいが、俺より先に妹たちの分をお願いします」
そんなクシャミに、ユウヒの前を歩く騎士団長は笑みを浮かべながら後ろに顔を向けると、ユウヒの体を気遣うように声をかける。しかし気遣われたユウヒにとっては、自分の身より妹と友人の方が大事なようで、ありがたいと言いつつもそちらを優先してもらうようお願いするのだった。
「ええ、心得ています。不備はないな?」
「うっす! もう連絡済ッス!」
すでに同じ要請を受けていた騎士団長は、笑みを深めて一つ頷くと、ユウヒ一行の脇を固める様に歩くエルフの中でも特に若く見える男性に声をかけ、声を掛けられた男性は明るい声と表情で問題ないと返答し、ユウヒにも同じような笑みを浮かべて目配せをする。
「ユウヒも休んだ方がいいにゃ、いくらなんでも魔力の使い過ぎにゃ」
「ん? んーそうだな、なんだか魔力の回復が遅い感じがするしそうするか」
どこか少年の様な印象をもつ男性エルフの目配せに、軽く会釈を返していたユウヒは、心配そうな表情で話しかけてくるネムに視線を向けると、改めて自分の体に意識を向け、以前までとは違う感覚を再認識すると素直に頷いた。
「ハラリアには私の家もあるから、温まる飲み物用意してあげるにゃ」
「それはありがたいかな、さすがに俺も寒いわ」
ユウヒの頷きに当然だと言わんばかりに鼻息を一つ鳴らしたネムは、すぐにぱっと表情を明るくするとユウヒに自分の家に来るよう提案し、その提案をありがたく受けるユウヒを嬉しそうに見上げるネム。
「・・・と言うか寒すぎにゃ! いまは夏のはずなのに、感覚がくるいそうだにゃ」
しかし、森の中を好奇心旺盛で悪戯好きな風が一つ吹き抜けた瞬間、ネムはぶるりと体を震えさせ、考えない事にしていた周囲の空気に、怒りにも似た感情を伴い声を上げる。その感情はここに居る獣人の共通した気持ちらしく、あちこちから合流してきたネムの部下達は、ユウヒの周囲でそろって頷き頭の上の様々な耳を揺らしていた。
「んー次は別の属性にするか、やっぱ風かな? それとも新しい属性か・・・うん、練習しとくよ」
「・・・ユウヒはやっぱりおかしいわ」
「そうか?」
そんなネムと獣人少女達の様子に、エルフの騎士たちが苦笑を洩らす中、ユウヒは思案顔で首を傾げると、変わらず隣を歩くネムに向かってニカっとした笑みを浮かべて見せ、その笑顔と言葉を受けたネムは、クリクリとした瞳の瞳孔を大きく丸く見開くと引き攣った声を洩らし、ユウヒにきょとんとした表情を浮かべさせるのであった。
ユウヒがこの世界でも非常識を振り撒いている一方、同じくハラリアに向けて歩くルカ達は、周囲を獣人に守られながら慣れた様子で異世界の森を歩くユウヒの背中を見詰めていた。
「・・・あの、メロンさん重くないですか?」
妙に異世界で馴染んでいる兄の姿に困惑しながらも、先ほどまでその胸で泣いていた事を思い出したルカは、何度目かになる赤面を頬の熱で感じとると、その感情を振り払うように自分を背中に背負うメロンにそっと声をかける。
「うふふ、大丈夫よ? それにこうしていればユウヒ君への印象もよくなりそうだし」
背中から聞こえて来たルカの声色から、なんとなく言いたいことを察したメロンは、前を向いたまま笑い声を漏らすと、少しずり落ちてきたルカの体を抱え直しながら打算的な事を口にする、と言ってもそれはルカの気遣いを和らげるための口実でもあった。
「おに、兄さんがご迷惑を・・・」
メロンの思惑は半分だけ効果があり、背中に背負われている事に対する引け目から、ルカの目を逸らさせたものの、今度はメロンやリンゴ、パフェを泣かせるにまで至った兄であるユウヒの説教を思い出し、そのことに関して申し訳なさそうに呟くルカ。
「いいのよ、怒って当然だもの・・・それに、まだいい方よ? アレ」
「え?」
しかし彼女の申し訳なさそうな呟きは、苦笑いを浮かべたメロンによる斜め上を行く慰めによって、疑問の声に変わっていく。
「前はパフェが再起不能になってたし、ねぇ?」
疑問の声を漏らしきょとんとした表情のルカに顔を向けながら、漏れ出そうになる思い出し笑いを押し殺したメロンは、自らが語った話に対して隣を歩くリンゴに同意を求めて声をかける。
「え? あぁそうね・・・まぁどっこいどっこいだけどね。はぁ、しかし久しぶりにあんな怒られたわ」
メロンの目配せを追いかけるようにルカが視線を向けた先には、やつれて凄味が増した気がするリンゴが虚ろな目で背中を丸めており、その手はなぜか胃のあたりを押さえていた。そんなリンゴは、二人の視線に気が付くと丸めていた背中を少しおこしながら、お腹を押さえていた手で頭を無造作に掻き、昔のことを思い出してため息を漏らす。
「・・・・しばらく自重するこったな」
「ぐぅっ! 言い返す言葉が見つからない・・・」
リンゴの口から漏れ出た溜息は割と大きく、背後から聞こえて来た溜息と呟きに、ここぞとばかりに最大限のジト目を浮かべて振り返るクマ。その表情に苛立つリンゴであるが、何一つとして言い返せる要素が無い事に、声を詰まらせると悔しげな表情を浮かべるのだった。
一方、普段は何かと騒がしいパフェはと言うと、
「・・・パフェさん、大丈夫でしょうか?」
「ぐすっぐすっ・・・」
心配と申し訳なさの籠った目をしたルカの視線の先である最後尾を、左手はリンゴのジャージ裾を摘まんで、反対の右手は丸めた猫の手で目を擦りながら顔を伏せて、未だに涙を流し続けていた。
「まぁ・・・大丈夫でしょ。一番ひどい時は本気で目が死んでたし」
「ええ、あのときは絶交宣言されて自殺待ったなしだったわね」
「え・・・」
「あん時は、さすがのユウヒもあせってたからなぁ」
そんなルカの心配をよそに、リンゴは微笑ましげな苦笑を洩らし、彼女の言葉にやはり微笑ましげな笑みを浮かべたメロンは懐かしそうにつぶやくが、その言葉には微笑ましい空気など無く、驚きで固まるルカの目の前でクマは当時の事を思い出しているのか、疲れたように呟く。
「うふふ、なつかしいわねぇ」
「年取るからそういう言い方やめて」
「・・・(私の知らないお兄ちゃん、もっと知りたいけど・・・ちょっとこわいかも)」
メロンが過ぎ去った時間を懐かしみ、リンゴが戻らない時間に眉をしかめる中、ルカはエルフやネシュ族と談笑するユウヒの背中を、様々な感情が綯交ぜになった目でじっと見詰め続けるのだった。
いかがでしたでしょうか?
ようやく妹と合流を果たしたユウヒ、妹に甘い彼だからこそ流華は今の様な性格になったのかもしれませんね。ついでに今回のように怒られる出来事を、彼女たちは過去に何度か経験してますが、その話を書くかどうかは未定です。
それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー




