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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第一章 救出と救済

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第三話 彼女の足取り

 どうもHekutoです。


 今回も無事週一更新です。大量投入したいなと言う夢もありますが、先ずは安定重視で、楽しんで頂ければ幸いです。



『彼女の足取り』


 日本某所にある住宅地、広い道路から少し引っ込んだその場所には、こじんまりとした個人経営のお店以外ほとんど一軒屋の住宅ばかりである。早朝のこの時間は、夏の陽射しがきつくなる前に外に出る様な仕事を終わらせようと張り切る主婦たちが見受けられ、そんな主婦と話す人影も存在した。


「そうですか、ありがとうございます」

 それはユウヒである。


「うふふ、二人とも歳が離れているのに仲良いわよねぇ」


「そうですかね? まぁ悪くは無いかと思いますけど」

 早朝から家事に忙しい主婦をつかまえてにこやかに会話を交わすユウヒ、小さい頃からの知り合いであるらしい女性と話している理由は、ナンパなどでは無く、行方不明となっている妹の足取り調査であった。


「夕陽君が行方不明の時もこうやって流華ちゃんが聞いてまわってたんだもの、仲が良くないわけないわよ」


「流華が・・・心配かけてしまったみたいですね」

 どうやら流華は行方不明になったユウヒの足取りを調べるため、ユウヒと同じくこの女性に話かけていたようで、女性の言葉に照れくさげに頭を掻いたユウヒは、流華の事を考えると自然、肩が落ちるのを感じた。


「仕方ないわよ、あれでしょ? ドームだっけ? ほんと無事でよかったわ」


「・・・ええ、ほんとに」

 ユウヒの様子に気の毒気な表情を浮かべた女性は、傍目から見ても消沈している事が分かるユウヒに近づくと、その両肩に手を添えて元気付ける様に数回軽く肩を叩き、その子供にするような行為を受けたユウヒは、思わず苦笑を洩らすのであった。





 そんなやり取りから数十分後、場所は変わり近所の公園。


 割と広めに作られたこの公園は近隣の住民から親しまれており、奥様と子供の公園デビューや青春を謳歌する少年少女、寂しく昼食を摂るサラリーマンや散歩の小休止でベンチに腰掛ける老夫婦など、様々な人種の憩いの場となっている。


「夕陽ちゃん無事だったのね! 流華ちゃんが心配してたわよぉ? え? 今度は流華ちゃんが?」

 その中には井戸端会議に花を咲かせる主婦たちの姿が見られ、母親の知り合いがいる事に気が付いたユウヒは、特に気負う事も無くふらりと立ち寄ると近所の住民にも聞いたように妹について問いかけ、その結果返ってきたのは近所で聞いたのとほぼ同じような内容であった。


「ええ、そうなんですよ・・・何か言ってませんでしたか?」


「そうねぇ・・・学校の方とか行ってみたら? 流華ちゃんお友達にも聞いてまわってたみたいだし。そんな事言ってたわよね?」

 だがその中には新しい話もあり、どうやら流華は近所だけではなく高校の友人にもユウヒの話をしていたようで、確認を求める女性の言葉に数人の女性が頷きながら好き好きに発言を始める。


「高校か・・・そうですね、そちらも当たってみます」


「帰って来たばかりで大変でしょうけど、頑張ってね?」


「はい、ありがとうございます」

 高校と言う言葉に懐かしさを感じると共に苦笑いが込み上がってくるユウヒ。それでも流華自身の情報となると、近所より濃い内容を聞けるのではないかと考え一つ頷き、ユウヒは仕事で培った接客用の笑みを浮かべてその場を後にするのだった。




 一礼し去って行くユウヒの背中を見詰める数人の女性達は、その顔に先ほどまで浮かべていた微笑みとは少し違う笑みを浮かべユウヒを見送る。


「・・・すごく仲良いわよねあの二人」

「ほんとよねぇ・・・大丈夫かしら」

「色々と心配になるわよねぇ」


 頬を少し赤くして興奮ともとれる笑みを浮かべる彼女達は、ユウヒと流華の仲の良さについて話し始め、心配と言いつつもどこか楽しげな声を洩らす。


「そうね、無事に見つかると良いけど」

「再会した後がもっと大変だったりして!」

「あら! 燃え上がっちゃう?」


 どうやら傍目から見て互いに心配し合う兄妹の姿には、どこか行き過ぎた感情の様なものを感じさせ、噂好きな女性達にとっては良い話のタネになってしまっている様だ。


 彼女達の妄想の中で二人の関係が何処まで行っているのか、話の盛り上がりがとどまる事を知らない女性達は、


『・・・若いって、良ぃわねェ』


 公園の出入口から出て行くユウヒを怪しい目で見詰めると、妙に艶っぽいため息交じりの声を洩らすのであった。そしてこの後、彼女達の話の話題は亭主の愚痴へとシフトして行き、いつもの公園と変わらぬ光景を作り出すのである。





 どうやらうちの妹は相当俺の事心配してくれていたようだ。


「ふむ、流華のやつ大分心配してくれたんだな」

 しかし噂好きなあの人たちの事だから、流華が聞いたのが一人二人でも瞬く間に話は広まりそうな気もしないでもないのだが、それでも心配して聞きまわってくれていたのは事実。


「普段はそんな感じ見せないのに・・・むぅ、なんだ嬉しいじゃないか」

 普段は何かと素っ気ない対応が多いが、こうして動き回ってくれていたと知ると、何だろう・・・頬が勝手ににやけてしまうのを抑えることが出来そうに無いな・・・。


「しかし・・・これは俺を探してどこか行った可能性が高いかもしれん」

 まぁにやけるのも程々に、どうもこの流れで行くとお泊りと言うのは口実で、俺を探す為にまとまった日数が必要となったか、もしくは有力な情報をどこかで手に入れた結果と考えてもよさそうだ。だがまだ情報が足りないな、と言うか自分を探す為に行方不明になったと考えるのは若干自分が自惚れているようで恥ずかしい。


 うん、まだわからんぞ? 男が出来たのかもしれないし、その時は家の親父殿と愉快な仲間達が何を仕出かすかちょっと怖いが・・・。


「しかし、うぬぼれと言われそうだが・・・俺の知る流華は思い込むと一直線だからなぁ」

 かと言って否定も出来ない、何かに集中しだした流華は一直線だし、その考えを柔軟にしてくれる人間が居ないと、間違いにも気が付かない事は良くあるのだ。ましてや世の中ドーム被害者の話を聞かない日は無いくらいだから、どっかのドームに突撃していても可笑しくは・・・無いな。


「高校か、久しぶりに行ってみるか・・・もう少し曇ってくれればありがたいんだが」

 それにしても、問題は次の聞き込み予定先である。


 わが母校は割と離れた場所にある高校なもんで、お昼近い今から歩いて行ったとしても片道1時間ちょっと・・・いやもっとかかるか、どの道帰って来る頃には夕方近いだろう。そうなると今日の聞き込みは高校とその周辺で終わりだな。


「あれ? 勝手に入っていいのか? うんまぁ、事務のおっちゃんに声かければいけるでしょう」

 まぁ問題はOBとは言え部外者が勝手に入っていいのかと言う事と、暑すぎて俺の体力が持つかと言う事である。体力は、とりまどこかで涼んでチャージするとして、中に入れるかは事務の知り合いがまだ生き残っているか次第か・・・。





 ユウヒが公園を出てから約二時間後、デニムに涼しそうな半袖シャツのラフな格好の彼は、額に汗を滲ませて母校である高校の事務所受付に姿を現していた。


「すみません失礼します」


 外よりずっと涼しい学校の玄関に入り、少し奥にある冷気を吐き出す事務所受付にやって来たユウヒは、呼び出し様の呼び鈴を鳴らすと少し身を屈め、半分ほど開けられた背の低いガラス窓の奥に声をかける。


「ん? おお、天野じゃないか! 久しぶりだな、どうした?」

 窓の奥、事務所内には夏休み中でも常駐している人間が数人居るようで、その中の一人はユウヒに気が付いた瞬間驚いたような声上げながら席を離れると、ゆっくりとした足取りで受け付け越しにユウヒの前までやって来た。


 白い線が数本目立つ髪の彼は涼しい部屋の中に居ても暑いのか、カッターシャツを着崩し、手に持った扇子で顔を扇ぎながら、珍しげな表情でユウヒに問いかける。


「お久しぶりです。ちょっと調べもので学校内を歩き回りたいのですが」


「あん? おめぇナンパ・・・ってお前さんはそんなタイプじゃないか、すっかり口調も固くなっちまって、ええおい?」


「あはは、もう学生じゃないですから」

 男性事務員の問い掛けに答えるユウヒの言葉に一瞬訝しげな表情で何か言いかけた男性は、しかし自分が言おうとした言葉が、目の前のユウヒと言う人物に対しあまりに似合わない言葉であると考え直すと、どこか残念そうな目を向けながら、わざとらしく乱暴な言葉使いで受け付けの窓越しにユウヒを見上げ笑う。


「ほれ、ここに記帳な、それとこれ付けてな」


「あ、はい」


「来館許可は出しとくから問題起こすなよ?」

 苦笑を洩らすユウヒに慣れた手付きで来館者用の帳面と首から下げる名札を出した男性は、不慣れな手つきで記帳を行うユウヒを見上げながら受付の椅子に腰を下ろすと、わざとらしいジト目を向ける。


「ええ、妹について聞きに来ただけですから・・・しかし、こんなあっさり入れて良いんですかね?」

 向けられるジト目に頷きながら記帳を進めるユウヒだったが、やけにあっさりとした応対に、記帳の手を止めると顔を上げて首を傾げて見せた。


「まぁおまえなら問題無いだろ・・・ん? そういえばお前の妹もうちだっけか、問題児じゃないとどうも印象が薄いな。これなら保護者来館って事で処理できるな」

 そんなユウヒに対して男性はどこか微笑ましげに、しかし吐き捨てる様な溜め息を零しながらそう答えて、何やら帳面を取り出すとびっしりと書かれた文字列にユウヒの名前と来館理由を書き込んで行く。


「・・・え? 俺って問題児でしたか?」


「・・・あ? どの口が言ってんだ」


「えぇぇ?」

 そんな男性の口から出た信頼の言葉よりも、ユウヒはさも自分が問題児であったかのような言草に軽く納得いかない表情で首を傾げて見せるも、即座に上げられた男性の顔に浮かべられた表情と言葉に、思わず口を窄めてしまい、本格的に納得のいかない気持ちをその顔に溢れさせるのであった。


「えーっと、天野・・・あった天野流華だな、2-Cだと琴音ことね先生か」


「・・・担任ですか?」

 眉を寄せて過去の自分を振り返るユウヒに、呆れた表情を浮かべていた男性は帳面を確認し、流華の担任の名前を探し当てると、何とも言えない微妙な表情を浮かべユウヒにジト目を向け、そんな視線に気が付いたユウヒは首を傾げる。


「おう、お前も知ってるはずだぞ?」


「へ? そんなに長い先生なんですか」


「・・・おまえ覚えてないのか、あんだけ迷惑かけといて」


「迷惑・・・? 誰だろう」

 どうやら男性曰く、流華の担任である琴音と言う教師はユウヒとも面識があるらしく、しかもユウヒが迷惑をかけた相手だと言う。しかしそんな情報を並べられても、ユウヒには該当する教師像が思い浮かばないようで、過去の自分に引き続き頭を捻る事になるのであった。


「・・・まぁ行ってみりゃわかんだろ、たぶん今なら部活を見てるだろうから、第二体育館行ってみろ」


「部活の顧問もしてるんですか、何部です?」

 どうやらその人物は部活の顧問にもついているらしく、第二体育館と言う場所で現在も部活動を見ているらしい。


「ダンス部だ」


「ダンス・・・そんな部が出来たのか、それじゃ行ってみます」

 その部活とは、ユウヒが在籍していた頃には無かったダンス部と言う部活動の様で、男性の口から出た言葉に眉を寄せて何とも言えない表情を浮かべたユウヒは、時間の流れを感じ顎に手を添えて感慨深げに頷き、一声男性に掛けると踵を返す。


「天野!」


「はい?」

 しかしすぐにユウヒを呼び止める男性の声に首だけ振り返って見せるユウヒ。


「問題は起こすなよ?」


「え、ええ? 大丈夫ですよ」


「絶対だぞ!」


「はーい」

 どうしたのかとキョトンとした表情を浮かべたユウヒに、男性事務員は真剣な表情で念押しするように注意するのであった。


「・・・はぁ、まったく自分が泣かせた教育実習生も覚えとらんのか」

 軽い調子で返事を返し校舎内に入って行くユウヒの背中を見送った男性は、立ち上がっていた体を椅子に落ち着けると呆れた表情で頭を掻くと、残念そうにそんな事を洩らす。


「ふつうは覚えてませんよ」


「そぉかぁ?」

 しかしその言葉は後ろから近付いてきた若い女性事務員に否定され、振り返った男性は眉を寄せると首を傾げる。


「・・・(まぁ感動で涙を流した琴音先生は覚えてるでしょうけど)」

 どうやら琴音と言う教師とユウヒとの間には浅からぬ縁がある様で、男性が書き込んだ内容をデータ化する為に帳面を持っていった女性は、未だ受付で唸り声を上げながら顔を顰める男性を横目に、口元に笑みを浮かべながらキーボードを叩き始めるのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 異世界から帰って来たユウヒの仕事は、失業からの妹足取り調査、と言う探偵の様な仕事にシフトした様です。この先どうなっていくのか楽しみにしていただければ幸いです。


 それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー

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