第三十八話 忍者は憤怒した 後編
どうもHekutoです。
修正等完了しましたので、投稿させていただきます。お暇のお供にワールズダスト、楽しんで頂ければ幸いです。
『忍者は憤怒した 後編』
時刻は昼も少し過ぎた頃、地平線へと異世界の太陽が下る中、少女たちの願いによっていつもの三割増しで動きの良い忍者達は、必死に森の中を逃げ帰る自称盗賊の後をあくびを噛み殺しながら追いかけていた。
ヒゾウが走りながら寝る技を真剣に考案し始めてすぐ、三人の忍者にとっては遅すぎる追跡の時間もようやく終わり、森と平原と山々がまじりあう場所に集まる集団の中へと、自称盗賊は駆け込んでいく。
「案外近かったな」
「そして予想以上の状況に反吐が出るでござる」
「こりゃ・・・山賊か?」
彼らが大きな木の上から見下ろす先には、ちょっとした町いやそれ以上の人間たちで溢れていた。しかしその姿は到底盗賊や山賊と言ったものには見えず、あまり見ていたくもない光景であるが、ジライダはキナ臭げな表情で目を凝らす。
そこに広がっていたのはまさに奴隷の集積場と言った言葉がぴったりなもので、鉄製の檻に縛られた人間達が居住性など考えてすらいない人数単位で詰められており、檻の数が足りない為か、体の欠損が見られる者は簡易な木の檻の中に詰め込まれている。
「どう考えても統一された正規軍風の軍服と鎧です本当にry」
「どういうパターンなんだろうなぁ誰か完結に教えてくれないかなぁ」
そしてそれらの檻を管理、また下劣な表情で眺める者達は、揃いの服装や意趣の似通った鎧、そして何よりそれらの衣服の胸には同じ柄の紋章を施していた。一部には今日捕まえた男の様なみすぼらしい姿の者も見受けられるがその数は圧倒的に少なく、この集団の事を完結に説明するならば、国家に従属する正規兵と言う言葉が妥当であろう。
眼下に広がる状況がなんとなく予想できてしまったヒゾウとジライダの二人は、死んだ魚の様な目でその光景を見詰めると、どこかやる気なさ気な、しかし明らかな鬱憤を伴った声を気だる気に吐き出す。
「捕まってる人に軍人っぽいのもいるでござるから、聞いてみるでござるか」
「「さんせー」」
そんな二人は、遠目から見ても明らかに捕まえ方の違う軍人然とした男を見つけたゴエンモの言葉に、まるで無邪気な小学生の様に手を上げて応えると、暗い笑みを浮かべながらその場から姿を消すのであった。
それから数分後、彼らの姿は、頑丈そうであるが一つ一つの大きさが人一人分ほどしかない、小さな檻が集められた区画にあった。
「と言うわけで、小声でいいので今の状況を教えてほしいでござる」
そして現在は、その檻の中でも一番偉そうな人間を持ち前の一般人特有の感覚で探し、一番聞きたいことについて檻の上から質問をしているところである。
「・・・・・・何者か知らぬが、お主達はクラガミアの者ではないのだな?」
当然そんなことをしていれば監視の目を向けている複数の歩哨や、門番の様に立つ重厚な鎧を着た兵士に見つかりそうなものであるが、不思議と彼らには誰も見向きせず、その不可思議な光景に目を鋭く細めた軍人と思しき男性は、小さな声でゴエンモの質問に答え始めた。
「拙者らは個人的な救出作戦中でござる。しかしその足取りの先でこのありさまでござるよ」
「なるほどの、誰の救出か知らぬが運の悪い奴らだ」
ゴエンモ達の真下に居る初老の男性は、まるで鎧の様に筋肉質な体に手枷足枷以外身に着けておらず、しかしそのギラギラとした眼光と体中にある大小さまざまな傷跡からは、歴戦の猛者特有の覇気を感じさせている。
そんな無精髭の目立つごつごつとした顔は、ゴエンモ達から感じられる強者の気配と、それとは相反した覇気を感じないゴエンモの声に、ニヤリと男臭く歪められ初めて三人を見上げるのだった。
「あぁそこは否定できねぇなぁ」
「まったくだ」
「そこ自慢しない、それで教えてもらえるでござるか?」
威嚇ともとれる笑みを浮かべ見上げてくる男性の言葉に、ヒゾウとジライダはどこか誇らしげに頷き返し、ゴエンモはそんな二人に軽い突っ込みを入れながら男性にもう一度問いかける。
「ふ、よかろう・・・と言っても簡単な話だ。同盟を一方的には破棄したクラガミア王国の奴隷狩りじゃよ、そしてわしは敗軍の将と言うだけじゃ」
捕虜として捕まった者と、その檻の上で漫才のようなやり取りをする三人の男、そしてその存在にまるで気が付いていないかのような監視の目。この異常な状況が、初老の男性には神が気紛れに差しのべた救いの手にも悪魔の手招きにも感じられ、しかし彼らから感じる気配には心地よさすら感じ、思わず漏れ出た笑みに任せ彼は忍者達の要望に応える。
「ほうほう、それでさ・・・奴隷ってあり? なし?」
「・・・・・・そうさの、必要悪ではあるが今の様な状況は、わしの個人的感情では無しじゃ」
相手が想定した通りの偉い人だったことにゴエンモとジライダが親指を立てる中、ヒゾウはどうしても聞きたかったことを聞くため檻の上から体を乗り出し、逆さまの状態で初老の男性の目を見詰め問いかけた。その言葉に男性は一瞬瞳を揺らすと、ヒゾウの目を見詰め少しだけ寂しそうに答える。
「では貴殿らを救出したのち、被害者の救済をしてくれるあてはあるか?」
乗り出し過ぎて落ちかけたヒゾウが元の位置に戻ると、今度はジライダが日本人らしい発想で初老の男性に問いかけた。
「これでも儂は辺境伯だ・・・今頃馬鹿共が救助隊を編成しているであろうさ。この枷より解き放ってくれるというならば、貴様らの願いの一つや二つかなえて見せられるのだがな? お人好し共よ」
その言葉に、自分を辺境伯であり彼ら三人の願いかなえられるだけの地位があると答えた男性は、自らの救出を前提とし、奴隷まで助けると言いだしてさらに利益を求めて交渉する気配すら見せない三人をお人好しと評価し、同時に信頼できる人間に見せる部類の笑みを浮かべるのだった。
「そこまでお人好しではないでござるが、その話乗ってやるでござるか・・・それじゃ外の兵士は残らずの方向で」
初老の男性が見せた笑みと言葉に苦笑で答えたゴエンモは、肩を竦めて見せると最初から予定していた通りに動き出す。
「おk、あんま気も進まんが・・・それ以上に殺意が湧き出ておさまらねぇ」
「さすがになぁ・・・ターゲットが無事であればいいけど、じゃなければクラガミアとか言うのも滅ぼすか?」
またヒゾウとジライダもゴエンモの言葉に頷くと、やる気を感じさせない表情と動きで檻から飛び降りながらも、その体からは明らかな殺意や怒りを垂れ流し始める。
「ほう? 言うのう」
「その時はさすがにユウヒ頼みだな」
「ユウヒ殿なら一晩でやってくれそうでござる」
「・・・あれ? 否定できない、だと?」
目の前に降り立った彼らが交わす軽口を聞いた男性は、冗談だと思ったのか愉快そうな声を洩らし、しかし真剣な表情でそうなった時の段取りを話し始める姿に驚きの表情を浮かべた。
「・・・何者だ? 国を一晩でとは戯言にしても面白みのない」
大国と言うほどでもなくどちらかと言えば小国寄りの国でも、滅ぼすなどと言うことはそう易々と達成できるものでもなく、しかしそれをさも当然の様に相談し、さらに個人と思われる人物が一晩で滅ぼすと、真剣と言うより畏れによる引き攣りを伴った表情を浮かべる三人に、男性は訝しげな表情で問いかける。
「魔王だな」
「勇者でござる」
そんな男性の問いかけに、三人はきょとんとした表情で振り返り、一拍ほど首を傾げると互いに見合いながら自らの見解を口にし始めた。ジライダはやはり魔王だろと言いたげな表情で、ゴエンモは無駄なヘイトを稼がないように無難なところを、
「神殺し?」
「「いやいや殺しまではしてないだろ、結果的に死んだようなものかもしれないけど」」
そしてヒゾウは、ユウヒが葬った? 中で最新の人物を思い浮かべ手を打つとそう口にして、ゴエンモとジライダによる息の合った突っ込みを受けて満足げな表情を浮かべあう。
「・・・・・・貴様ら魔王の手先か? いや勇者ということは」
「さていくでござるか」
「サーチアンドデストロイ!」
「その象徴をぶっ潰す!」
彼らの話を呆気にとられたような表情で聞いていた男性は、それらの話がすべて真実だと悟ると、掠れそうになる声を制し問いかけ始めるが、背筋に冷たいナニカを感じてこれ以上の悪ふざけは身を滅ぼすと理解した三人の機敏な動きによって、その問いの答えは返って来ることがないのであった。
そしてこの日、クラガミア王国とモルドリッツ王国の国境に三つの闇が舞い降りた。
「来るな! くるなぁ!? っぎゃあああ!!」
闇は音もなく一人の兵士の目の前までやってくると、尻餅をついて動けないでいる彼の目の前で大きく足を振り上げ、次の瞬間ぐちゃりと言う生々しい音を鳴らし男性を終わらせる。
「いやだ! やめてくれ! 助けて!」
「そう言って、お前たちはここで温情を与えたでござるか?」
またある闇は、後ずさる男の目の前で立ち止ると暗い闇色の目で彼を見詰め問いかけた。
「あ、ああ! 与えた! いっぱい与えたさっ!? 「だうとー」いぎゃあああ!!!」
その問いかけに、男性は表情を明るくすると何度もうなずきながら与えた与えたと口にし始めるが、目の前の闇が悲しそうに目を伏せた瞬間、男性の背後から間延びした声が聞こえ、同時に感じる絶望的な痛みに彼は目を白く裏返し泡を吹いて脱力する。そんな彼の股間からは、真っ赤に染まった成人男性の腕ほどある木の棒が丸い頭を出していた。
「こいつら言うことワンパターンだったな」
「忍者だって読心術の一つや二つできるんだお」
「さて・・・問題はここからでござる」
粗方の不愉快な雄の部分を狩り終えた闇、もとい忍者の三人は、助けた将兵たちが前屈みになり表情を蒼くし見つめる中、草臥れたように声を掛け合う。そう、彼らは誰一人として殺害してはいない、ただ不逞な輩を選定し男性としての人生を終わらせ、新たな人生をプレゼントして回っただけなのであった。
そんな人の倫理から割と大きく外れた精神構造となっている新人類忍者達は、同時に一般人であった頃の精神も持ち合わせており、そのことがいい方向に働き比較的まともな人間の状態を維持している。しかし、それ故にここからの作業が問題であった。
「ああ、まさか不逞の輩に女まで居たとはなぁ・・・現実って怖いわぁ」
「しかも美少年選り分けてるBBAとか、ほんと誰得だお」
「・・・とりあえずB群はこいつらと一緒の檻にでも入れとくでござるか」
元の世界である地球上でも特に平和な国出身の三人は、厳しい環境ではない故の甘さを持ち合わせている。特に男と言う性別上、男性に対してはある程度辛辣になれるものの、相手が女性となるとそれがどんな相手でも急にある種の戸惑いを覚えてしまう。
「躊躇ない行動をとったと思えば、微妙な嫌がらせまでやるとは、変な奴らじゃの」
そんな彼らの見せる手心と言っていいのか、男としての人生の大半を終わらされた兵士たちへの追撃、と言っていいのか分からない半場嫌がらせの様な行為に、装備を取り返し貴族然とした姿になった初老の男性は、何とも言えない表情で彼らを変わり者と評す。
「そんな褒めんなよ・・・」
「褒めとらんわい」
照れるジライダに間髪入れず突っ込みの声を洩らす男性、どうやら極短い間の付き合いであるものの、初老の男性は彼ら忍者達との付き合い方を見極めてきたようだ。
「それでA群でござるがぁ・・・」
B群の処理を終えた忍者達、しかし彼らの苦悩はまだ続いており、むしろこれからが本番と言った表情で初老の男性と共に、とある女性達が集められた場所で難しい表情を浮かべていた。
「かまいません。我らとて率先して行っていないとは言え、醜い行為を手伝っていたのは事実」
「はい、どうか私達にも変わらぬ罰をお与えください」
そこに居たのは、忍者達にB群と評された女性達の様に、彼らを口汚く罵ったり、金や名誉をちらつかせ縄を解くように命令などはせず、只々礼儀正しく辛辣に自らの罪に向き合い、両膝を突いたまま祈る様に忍者達へ頭を下げる。
「いやぁ・・・こんな若いシスターさんにまで罰ってなぁ?」
清楚な見た目の修道女然とした美女美少女達であった。
「うむ、薄い本が厚くなる展開しか思い浮かばん」
雄の本能として女性に甘い三人、さらには地球のものと良く似た地味な色合いのシスター衣装に身を包んだ美女美少女の集団となれば、手心の一つ二つ簡単に加える気にもなるし。ヒゾウに同意を求められたジライダの様に、彼女らの見せる辛辣な姿勢を見て思わずけしからん妄想もはじめてしまうと言うものである。
「ゴエンモよ、ちょっと良いかの?」
「ござ?」
二人の様子に頷き同意しながらも、やはり困ったように眉を寄せるゴエンモ。そんなゴエンモに近づいた初老の男性は、彼に声をかけると耳を貸す様に手招きしてみせる。
「(たぶんじゃが、この者たちはドムオ教団の者じゃぞ?)」
「(それは何者でござる?)」
手招きされるがまま耳を貸したゴエンモは、祈られ満更ではない、と言うか全力で鼻の下を伸ばすジライダとヒゾウにジト目を向けながら、男性の説明に疑問の表情を浮かべた。何せゴエンモはこの世界の住人ではないのだ、名も知らぬ異世界で信仰されてる宗教名を言われたところで、今の様に首を傾げるしかない。
「(知らんのか・・・まぁよい、こやつらは自ら痛めつけられ、蔑まれることで人の心に巣くう闇を払うという教義を実践しながら諸国を回る旅巫女じゃよ)」
そんなゴエンモを男性が驚いた表情で見つめるほど、この世界では名の通った、いや正確にはこの地域で名の通ったドムオ教団。今までの情報と忍者達の服装や言動から、彼らが遠い異国の者と当たりをつけていた男性は、納得した様に頷くと簡潔に彼女たちの正体を口にする。
「(・・・マジでござるか)」
「(大方クラガミアの連中が慰安婦代わりに雇ったのであろうが、奴隷が手に入ってから干されていたようじゃな)」
男性の言葉にゴエンモはぎょっとした表情で聞き返し、その言葉と表情に頷いて見せた男性は、よくあることなのであろうかほぼ確信している予想を説明し、その言葉にゴエンモは恐るべき異世界事情に若干羨ましさを感じつつも、同時に嫌な予感も感じていた。
「(ほうほう?)」
「(それで? それってどゆこと?)」
一方ひそひそ話を続ける二人に気が付いたジライダとヒゾウは、何を話しているか分からないまま訳知り顔で会話に参加しだす。祈られることより内緒話しが気になったジライダとヒゾウ、二人を呆れたように見つめるゴエンモ、そんな三人を見詰めた男性は、
「・・・あれじゃよ、彼女たちは快楽を得ることを至上としておるのじゃ。痛みや蔑みはその一環・・・要は飢えておるということじゃな」
姿勢を戻し会話の声量を三人の耳に良く届く程度の大きさに戻すと、顔を上げていた女性達にちらりと目を向けるもすぐに顔ごと視線を逸らす。
「「「え?」」」
『ポッ』
そんな男性の様子に、三人はきょとんとした表情を浮かべると、そろってその視線を女性達に向ける。その視線の先では、長い髪をまとめるように布を頭からかぶり、顔と首周りだけがよく見える様な服を着た女性たちが、恥ずかしそうに頬を染めていた。
「わしに近づけるなよ? ドムオ教団には枯れて天に召されるだけになった老人ですら復活させる秘術があるからの、そんなことされたら死んでしまうわ」
しかしその視線はじっと忍者達を見詰め、さらに視線のいくつかは初老の男性にも向けられており、その圧力を感じ取ったのか、顔を逸らしたまま男性は顔を蒼くしながらそう忍者達に呟く。
「・・・こ、こいつら、あいつらと同類じゃね?」
「ひっ!? あの眼は、あの眼は褐色の悪魔と同じ目だお!?」
普通、美女美少女から頬を染めながら見詰めらるなど男冥利に尽きるものであるが、彼らはその視線の奥で爛々と輝く光をよく知っており、すぐにその正体に気が付き恐怖に慄く。
「決定! A群は封印処置でござる! 決定決定! これは覆されることなしでござる!」
過去、肉食美女たちの群れに死の寸前まで精を吸われてしまった忍者達。
「「了解!」」
捨てたい物を捨てることが出来たものの、そのまま命まで捨てそうになった記憶は、確実に彼らのトラウマとなっており、その経験を呼び起こす様に彼女たちの瞳で瞬く光は、ゴエンモの心から躊躇や手心と言う言葉消してしまい、同時にゴエンモの叫ぶような指示にジライダとヒゾウも、その心の辞書から二文字の言葉消し去るのだった。
「ジライダは封印具の用意! ヒゾウは封印場所の確保!」
「「サーイエッサー!」」
リミッターを解除し、自らの生命維持を優先した忍者達の行動は迅速かつ正確で、その高性能な脳で必要な行動を算出したゴエンモの指示に、いつもは冗談を交えるはずのジライダとヒゾウは美しさすら感じる敬礼と共に、
「行動開始!」
光となる。
「うぅむ、なんと素早く規律的な動きだ・・・やはり奴らはどこぞの正規兵、いや・・・特殊部隊か」
初老の男性や腰の引けた兵士たちの目の前で忍者達が魅せた動きに、男性は驚愕の表情を浮かべると、彼らの素性の予測に上方修正を追加するのであった。
妙な勘違いを引き起こしながら光の如き動きを魅せる忍者達が、縛り上げるたびに喜色の声を洩らす女性達を無事? 封印出来たのは、この小一時間後である。
いかがでしたでしょうか?
はい、残虐性の中でも圧倒的ヘタレ感どんな状況でもシリアスがほぼほぼ無い忍者達でした。何かと肉食系女難が付きまとう彼等ですが、無事任務を遂行する事は出来るのか? 続きをお楽しみに。
それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー




