第三十七話 忍者は憤怒した 前編
どうもHekutoです。
修正等完了しましたので、投稿させて頂きます。忙しい日々の一時に、皆さんの癒しになる様な一笑を齎すことが出来れば幸いです。
『忍者は憤怒した 前編』
時は少し遡り、怒りの力により自重を解き放ったユウヒが魔王となる少し前、枯木の森と違い緑生い茂る森の中で、理不尽な怒りに震える者が二人、
「フアァァァァック!!」
「グゥァッデェェム!!」
「ひぅっ!?」
裾が膝のあたりまであるダボダボなジャージの上着を着た少女の前で、怒りの感情に任せた咆哮を空へ轟かせていた。目の前で怒りをあらわにする二人の男に、薄汚れてもきれいな金色の髪を持つ少女は、驚き小さな悲鳴を洩らすと、袖で隠れた小さな手でとある男性の腕を掴み、その後ろに隠れてしまう。
「二人とも落ち着くでござる。さすがに大人げないでござる」
そのとある男性と言うのは、現在ジャージを少女に貸し与えていることで上半身タンクトップ一枚と言う姿のゴエンモである。
まだ幼さを感じさせるだぼだぼジャージ少女サラと一緒に居る姿は、善良な一般市民から通報されてもおかしくない組み合わせであるゴエンモ、彼は目の前で雄たけびを上げ残念な姿をさらすヒゾウとジライダに、思わず苦笑いを浮かべていた。
「女の子でかたまってると思ったのに、思ったのに・・・」
「義妹氏を助けてお姉さんとお近づきとか馬鹿な夢であったわ・・・」
一方、思惑が微妙に外れてしまった二人は、背後から、タンクトップとジャージズボン姿の少年と、サラと同じだがほぼぴったりなサイズのジャージの上着を着て、腰にボロ布を巻いた少女にジト目を向けられている。
「あ、あの・・・」
ゴエンモと共に友人二人の下まで戻ってくることになったサラは、邂逅一番に叫びだした二人の大人の男性と、ゴエンモが知り合いだとわかると、彼の背から顔を出しておずおずと言った様子でゴエンモに声をかけ、
「気にしなくていいでござる。お笑いライブで滑った芸人を見るような目で見てればいいでござる」
「・・・?」
そんなサラの言わんとすることを察したのか、ゴエンモはにっこりほほ笑みサラを安心させるように優しく声をかけると同時に、目の前で崩れ落ちている二人に追い打ちをかけるのであった。
「そんな我らに比べて・・・ずいぶん仲好さそうだなぁゴエンモォォ?」
「こっちは、森の木陰でいちゃこらするバカップルに血反吐吐きそうだったってぇのに、よぉお?」
追い打ちをかけられたジライダは忌々しげに声を絞り出し、崩れ落ちた体制のままゴエンモ睨む。またヒゾウは血反吐こそ吐いてはいないものの、血涙を流しながら何があったのか簡潔に説明する。
「い、いちゃ!? そんなことしてないわよ! サラ・・・その、ちがうの」
「え? あ、うん・・・」
ヒゾウの言葉に顔を赤くした少女は、声を荒げて否定の言葉を口にし、優しげな目じりを釣り上げヒゾウを睨んだかと思うとすぐに、ゴエンモの影から出てきていたサラへと駆けより口ごもりながらも何かを否定した。そんな彼女の姿に、サラはきょとんとした表情を浮かべながらも曖昧に頷く。
「そ、そんなことより! サラが無事でよかったよ!」
「うん・・・」
一方、サラに駆け寄った少女と違い、ヒゾウの言葉に満更でもない表情を浮かべていた少年は、少女に遅れながらもサラに駆けより彼女の安否に嬉しそうな声を上げる。しかし、その少年を見たサラは、僅かに表情を曇らせ頷くと、ゴエンモの腕をつかむ手に力を込めて自らの体をゴエンモに寄せた。
「あぁ・・・サラ殿? それ以上しがみ付かれると拙者屠られそうなのでござるが?」
それに驚きと困惑の表情を浮かべた少年、以上に表情を引きつらせるゴエンモ。
「「ぐるるるるるる」」
何故なら、ジャージの薄い布越しに少女と密着している状況は、目の前で血のように赤い眼を光らせる黒鬼の嫉妬心を大いに煽る結果にしかならず、今にも噛みつきそうな表情で唸り声を上げる二人が、本気でゴエンモを屠りかねない野生を、血走ったその目にちらつかせていたからである。
「あ、ごめんなさい」
ゴエンモの声に暗く沈んでいた顔を赤くしたサラは、しがみ付いていた体を少し放すも、手を放すことはなく、
「怖いのであれば仕方ないでござる。それよりそこの獣二人、その簀巻きはなんでござる?」
その甘える子供そのままの姿に、ゴエンモはほっこりとした感情を覚え自然と微笑んだ。
そんなゴエンモとサラの姿に、もう一人の少女がサラをじっと見つめ少年が敵意を洩らす中、ゴエンモは荒ぶる獣と化している二人に問いかける、その背後に転がる物体はなんであるのかと。
「ぐるる、ん? あぁこれか、これは山芋の蔓みたいなものでぐるぐる巻きにした自称山賊さんだな」
すでに怒りはどこかに行っており、ただ荒ぶる獣の真似に力を入れていたジライダは、ゴエンモの問いかけで人間に戻ると、ゴミを見るような目でその物体を見て簡潔に説明する。
「んだ、なかなか面白くて胸糞な話も聞けたからな、これからさっそくバンデットハントに向かおうかと思ってたんだ」
「ばん?」
さらに付け加えるように、人間に戻ったヒゾウが犬の粗相を見る様な目で、簀巻きにされた自称盗賊を見ると暗い笑みを浮かべて見せ、そんな彼の言葉にサラは視線をさまよわせながら首を傾げるのだった。
「サラ、落ち着いて聞いてね? この人たち人攫いらしいんだけど・・・」
「もしかして、お母さんとお姉ちゃんたち・・・」
「・・・」
分かり辛く短い会話ですべて理解した表情を見せるゴエンモに困惑した表情を見せるサラ、優しい目元が特徴の少女が彼女を見詰め言い辛そうに話し始めると、すぐにその内容を察してサラが口を開く。その言葉の正否は、苦悩に歪められた少女の表情が表していた。
「金髪と赤毛の女を捕まえたって・・・だ、大丈夫! 俺が捕まえ「そりゃ無理だろ」あ!」
サラの顔を見れずに俯く少女に代わり口を開いたのは少年、どうやら忍者二人の尋問によって齎された情報は、彼らが探す人物の特徴によく似ていたらしい。そのことを告げる少年であったが、今にも泣きだしそうなサラに慌てた少年は、ドームに入る前から彼女たちに言い続けている言葉を再度口にするも、その言葉はジライダに遮られる。
「冷たいようだけどな、無理はよくねぇぞ? 無理した結果が今の状態なんだろ?」
「うるせえ! 俺なら絶対助けられるんだ!」
それも仕方ないと言えるだろう、未知の世界にほぼその身一つで足を踏み入れ数日生き残れただけで運がいいと言えるような状況で、少年達が人を三人も救出して無事に帰れる確率など限りなくゼロに近いのだ。
無鉄砲かつ根拠のない自信を口にする少年に、三人の大人たちは困ったように眉を寄せ、その表情を見た少年は、少女達に冷めた視線を向けられていることになど気が付くことなく、さらにその顔を不機嫌そうに歪める。
「・・・お主は一度失敗しているでござる。これ以上の失敗は若気の至りでは済まないでござるよ」
子供故の無鉄砲さにはいろいろと覚えがある三人の大人たちは、アイコンタクトで話し合うと代表してゴエンモが口を開く。なるべく柔らかな口調で言い聞かせるように話し始めるゴエンモに、睨みつけるような視線を向ける少年と少し暗い表情で無鉄砲さを反省する二人の少女。
「駿・・・今はこの人たち頼るしかないよ」
「なんでだよ! 俺よりこんな半裸の変態の方が頼りになるって言うのかよ!」
ゴエンモ達の大人な雰囲気と、慣れすら感じる余裕ある空気に、少女は少年を名前で呼んで彼ら三人を頼る様に促す。しかし彼の中のプライドや子供らしい無鉄砲さは、その言葉を容易に受け入れることを拒否し、その感情は彼ら、主にゴエンモを中傷する言葉として現れる。
「!?」
「「wwwww」」
少年の口から飛び出した安直な中傷の言葉に、服装を地味に気にしていたゴエンモはショックを受けたようにしょんぼりとした表情を浮かべ、一方ジライダとヒゾウは即座に口を両手で押さえると、吹き出しそうになる笑いを必死に抑えるも、その表情は完全に笑っていた。
大人たちが頭上で残念な雰囲気を出している中、
「なるもん・・・」
いつの間にかまたゴエンモの影に隠れていたサラは、顔を俯かせたまま小さく呟くような声を洩らす。
「え・・・?」
「ゴエンモさんは私を助けてくれたもの・・・お母さんもお姉ちゃんも探してくれるって、約束してくれたもの・・・!」
そんな小さな声に少年、駿が険しい目をサラに向けた瞬間、今まで見せていた気の弱い表情とは違い、強い意志を感じる表情で顔を上げたサラは、目に涙を滲ませながらもゴエンモが約束してくれた言葉を、絞り出すような声で叫んだ。
「「「・・・・・・」」」
「サラ・・・ごめんね」
「うん、大丈夫」
叫んだ拍子にサラの目から溢れた涙は、少年から言葉を奪い、馬鹿な大人たちの胸に乙女の様なトキメキを与える。涙を流すサラは、そっと近づいた少女に支えられるとそのまま彼女の胸に顔を埋めて肩を震わせ始めるのだった。
「・・・くそっ」
そんな二人の様子に、駿は只々小さく悪態を洩らす事しか出来ないようだ。
「なるほど、これがロリコン大魔王の手腕でぃすか」
「異世界でもころり、地球の少女もころり・・・こぉろころしたくなるお」
一方、少女の言葉にトキメキを覚えた駄目な大人二人はと言うと、そんなトキメキを与えてくれた美少女が決してゴエンモの傍から離れないことにすべてを察すると、暗黒面に落ちたかのような闇色の眼光でゴエンモを睨む。
「現実を見ろでござる・・・。それより急いだ方がいんじゃないでござるか?」
「「わかってんよ!」」
しかし、ゴエンモから多分に呆れが含まれた突っ込みを受けてしまうと、サラとは違う情けない涙を目に滲ませるのだった。
「おら! この禿! アジトまで案内せんかい!」
「ひぃ!?」
残念なものを見る様な目をゴエンモから注がれた二人は、その鬱憤の矛先を別に移す。それは簀巻きにされて空気となっていた自称盗賊であり、彼はヒゾウの手刀により簀巻きにしていた蔦から解放されると、恐怖に顔を引きつらせながら上半身裸の体を草木が生い茂る地面に転がし後ずさる。
「きりきりある・・・いや、走れ走れ! アジトまで走って案内しろやぁ!」
「た、たすけてくれぇぇ!?」
上半身裸で痣だらけな自称盗賊、彼とて最初からそんな姿だったわけではない。ジライダとヒゾウが、少年少女の下にたどり着いた時に丁度二人を襲おうとしていたのが運の尽き、よくわからないが悪党顔だと言うだけで鎮圧された男は、哀れ身ぐるみまで剥がされてしまったのである。
ちなみにそんな男が着ていた服は現在、下半身をジャージの裾で必死に隠していた少女の腰に巻かれており、そんな少女は泣きながら走り去る男の後ろ姿を少し申し訳なさそうに見送っているのだった。
「・・・いくでござるか、三人はかたまって待ってるでござる。安全は確認済みでござろ?」
世紀末のならず者から必死に逃げる一般人の様な自称盗賊を、忍者達が生ぬるい視線で見送って十数分後。男からうば・・・なぜか落ちていた、マチェットの様な刃物と片手で使える斧を手にしたジライダとヒゾウに、ゴエンモは視線を向け声をかける。
「あぁしばらくは問題ない」
「獣も威嚇しといたからしばらくは寄り付かないだろ」
「え?」
体のところどころに草木を巻いて、どこかの蛮族にしか見えない二人は、それぞれに得物の点検をしながら頷き答える。一般人とは違う新人類忍者である二人は、何も酔狂でそんな姿をしていたわけでも、無駄に暇をつぶしていたわけではない。
「と言うわけで、この辺りはしばらく安全故待ってるでござる」
「・・・お願いします」
彼らは強制的に植え付けられた知識と技術を使って、周囲に寄ってきていた野生動物を威嚇したり、罠をあっちこっちに仕掛けることで少年少女の安全を計っていたのである。
何をしたのか分からずとも、安全のために彼らが行動してくれていたことを理解した少女は、サラと手をつないで一緒にゴエンモ達に頭を下げると、サラの家族の事をお願いするのだった。
「人生絶対はないでござるが、最前は尽くすでござる」
「まぁ切り札に頼るのもありだしな」
「うはwwさっそくユウヒカード切る気満々とかワロスwww」
依然睨むような視線を崩さない少年を視界の外に外した忍者達は、少女二人に笑みを浮かべて頷き返す。
「そろそろいいでござるな、追跡開始でござる!」
「遅れんなよヒゾウ!」
「おおお、遅れんわい!?」
なんだかんだ言ってユウヒを頼りにしている彼らは、持ち前の能天気さを崩すことなく、彼女たちの前から移動を開始するその瞬間まで、笑みを絶やすことはないのであった。
「ゴエンモさん・・・」
「・・・忍者って本当にいたんだ」
「うそだろ・・・」
尻を蹴飛ばした自称盗賊の男が、ある程度進むのを待ってから移動を開始した三人。彼らが樹から樹へと跳び移りながら移動していく姿を、ポカンとした表情で見上げていた三人は、彼らの姿が見えなくなると驚愕と感嘆に満ちた声を洩らすのであった。
一方、少年少女に少なくない感動を与えた事に気が付いていない三人は、
「で・・・実際問題状況はどんな感じでござる?」
「・・・悪い」
「悲劇モノにならなければいいなぁ」
先ほどまでとは真逆の表情を浮かべ、互いに苦虫をかみつぶした様な表情を浮かべあう。
「人攫いの理由は?」
「奴隷だとさ・・・しかもエロゲよろしく使えりゃいいパターンらしい」
「手足なくても良いとか・・・俺そっちの耐性あんまないんだけど」
その理由は、今も逃走を続ける男がもたらした情報のうち、サラ達には教えていない部分のせいである。その内容は一般人には大分衝撃的なものであったらしく、それはそのままサラの母と姉の安否に深く関わるものであった。
「・・・確かに、ユウヒ殿に頼ることになるやもしれんでござるな」
「ユウヒ謹製特級回復薬は欠損回復もできるらしいからな」
「あの出来た瞬間引きつった表情でそっと封印してたやつかぁ・・・まぁ状況が状況だし分けてくれるか」
体の中で必要とする部分だけ残っていれば、残りは切り落としてしまっても構わないなどと言う非人道的な事がまかり通る異世界と言うものに、少なくない怒りを覚えた彼らもまた、ユウヒ同様に切れる札は全て切ると言う方針で事を進めるようである。
いかがでしたでしょうか?
はい忍者です、忍者で前後編の前編でした。いつも通りの空気を読んでるのか読んでないのか分からない彼等ですが、どうやらいつもと様子が違うようで、後編を楽しみにして頂ければ嬉しいです。
それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー




