第三十五話 エルフの騎士、そして・・・
どうもHekutoです。
修正完了しましたので投稿させていただきます。それなりの量は書けたと思うので、お忙しい一日の合間にでも楽しんで頂ければ幸いです。
『エルフの騎士、そして・・・』
名も無き異世界で、エルフと多種多様な獣人族が手を取り合って住む広大な森。その森の一角では今、普段とは違う喧騒が満ちていた。
森を騒がす喧騒は森に住む様々な生き物たちに伝わり、より一層森を騒がしくしていく。その中には精霊などの普通の目には見えない者も当然おり、彼女たちは森を騒がす喧騒の原因について次々と伝播し続けている。
「はぁはぁ、ここまでくりゃ少しは休める・・・か?」
そんな森を騒がす元凶達から逃げてきたクマは、灰毛の少女に言われた道を進みようやく開けた場所へとたどり着いたようだ。
「あ!」
走ってきたために息を切らしながらも、視線の先でとある存在に気が付くクマに続いて、パフェとメロンが、クマの体で作られた獣道から飛び出す様に姿を現し、やはりクマと同じようにとある存在に気が付く。
「あら? ルカちゃんと・・・黒猫さん?」
「我々はネシュ族であって猫ではないのだが・・・」
それはそう広くもない広場の中央、彼女たちの視線の先で右足首の治療を受ける為切り株に座ったルカの姿と、治療をする黒毛のネシュ族少女、
「ちょっと、私の存在を無視するとはいい度胸じゃないメロン」
ついでにリンゴの三人である。
メロンに黒猫さんと呼ばれた黒毛のネシュ族少女は、すでに同じことをルカ達に言われていたらしく何とも言えない微妙な表情で力なく否定の声を洩らす。一方、黒猫のようなネシュ族少女に驚きリンゴの名前を呟かなかったメロンは、リンゴの魔の手にかかりそのたわわな二つの果実を揉みしだかれるのだった。
「むむむむ! 猫と呼ばれるのを嫌うパターンの種族なのか! フンスフンス!」
「む、むぅ・・・嫌なわけではないが、同一視されても困る」
さらに、ここまで興奮をため込んでいたパフェは、黒猫少女の存在で興奮が最高潮に達したようで、大人びた印象のあるネシュ族少女に鼻息荒く詰め寄ると、思わず後ずさり表情を引きつらせる彼女を質問責めし始める。
「・・・てい「いたい!?」」
「あ、ははは・・・」
それぞれに思い思いの行動を開始する女性陣の姿に、自らの感情を隠すことなく顔に出すクマ。そんな状況下で、只々苦笑いを浮かべるほかないルカは、大きなチベットスナギツネの振り上げた太い腕を目で追うと、その手刀が優しく振り下ろされた先にあった頭、もといパフェに乾いた笑いを洩らす。
「すまない、この人は気にしないでくれ、それでネシュ族さん達は俺らに対して友好的ってことで良いのか? まぁじゃなけりゃルカちゃんの足の治療はしてくれないだろうけどさ」
「こらクマ、何をする!? はなせ、はーなーせー!」
「・・・少なくとも敵対的ではないつもりだ。後は、まぁ確認次第だな」
親ギツネが子ギツネを叱る様にパフェの首根っこ、無駄に丈夫なジャージの襟を優しく掴んだクマは、太い腕をクレーンの様に動かし彼女を脇にどけると、パフェの勢いに後ずさっていた少女に謝罪し話し始める。クマ達から敵対の意志を感じていなかったこともあり、争うような空気にはならなかったものの、何とも締まらない雰囲気の中で互いに意思の疎通を図るクマと黒毛のネシュ族少女。
「確認?」
「もう無理だ! 数が多すぎて押さえらんねぇよ!」
敵対的ではないと口にした彼女にほっとした表情を浮かべるも、その説明の中に妙な違和感を覚えたクマは、違和感の元である言葉を呟いて首を傾げてみせるが、気になる疑問の解明はまだもう少し先になりそうだ。
「話はあとにしましょう」
「その方がよさそうだな」
草むらの中から飛び出してきた灰毛少女の声を聞いて、同時にそちらを振り返ったクマと黒毛の少女、同じく声のした方向を見る一同の目に映ったのは、荒い息を漏らしながら灰毛の少女に続いて草むらから出てくるトラ毛少女と、その後ろからさらに飛び出してくる、草臥れた表情を浮かべた茶色の猫耳少女の姿であった。
時は少しだけ遡り、ネムが空に舞い上がって悲鳴を上げている頃、
「族長大変です! 族長!」
獣人族の首都とも言えるハラリアの里では、獣人族の長の家に悲鳴じみた大声が響き渡っていた。
「なんだ騒々しい、今は母樹様の御子の事で忙しいと言うに」
獣人族の長であるオオカミのような風貌に豊かな髭を蓄えた狼族の男性は、重ねられた長い年月を感じさせる見た目とは裏腹に、布の服越しでもわかる鍛え抜かれた僧帽筋をピクリと動かし、背後の引き戸の前で荒い息を漏らすネシュ族の少年に目を向ける。
呆れと諦めの感情が伺える表情で振り返った族長に、その少年は怒りにも似た感情を湧き上がらせると、その感情に任せた荒い声で報告を続けたのだが、
「そんなことより魔王軍が森にせめて「そんなこととはなんじゃああ!」ひぃ!?」
その報告は、怒りで顔を真っ赤にした族長の叫び声によって強制的に中断することとなり、少年は族長の叫び声に驚き、片膝を突いていた状態から思わず仰け反って小さな悲鳴を洩らす。
「母樹様の恵みに対してそんなことじゃとぉお!」
まだ年若いネシュ族の少年にとって、母樹と言う存在は遠い存在で今一その威厳や重要性に実感が抱けず、逆に目の前で身近に感じることが出来る族長と言う存在には必要以上の畏怖を感じていた。
「ひぃぃ!? で、でも魔王の軍勢が「でももかかしもあるかぁああ!」ひぃぃ!?」
そんな族長の怒声に縮み上がった少年は、しかし自分の言葉に間違いがないと言いたげな表情で言い訳を試みるも、間違いを認めることをしない少年の言動は、火に油を注ぐように族長の怒りをより一層燃え上がらせるのだった。
「・・・軍勢じゃと?」
目の前で今にも気絶しそうな少年に、眼光鋭く怒りの表情を見せる族長であるが、少年の言葉はしっかりと聞いていたのか、震えあがる少年を情けなさそうに見つめると、真剣な表情で聞き返す。
「そそ、そうです! ささ、300以上のオークとゴブルが森に入ってきたんです!」
急激に変わった族長とその場の空気に、これ幸いと言った表情を浮かべた少年は、言葉を遮られる前に口早に報告を済ませる。
「なんじゃと? ・・・オーク共め盛りおったか。うむ、それで知らせに来たのか、ご苦労」
少年が吃もりながらも最後まで言い終わった報告に、先ほどまでとは打って変わり真剣かつ深慮深い雰囲気を纏うと、その瞳にだけ怒りの火を揺らしながら少年にねぎらいの声をかける族長。
「は、はい・・・それではこれで」
ねぎらいの言葉を受けた少年は、心底ほっとした表情で息を吐くと、少しでも早くその場を去りたいと言う心に従い、一礼してその場を去ろうとする。しかし族長のターンはまだ終わっていなかった。
「ふむ・・・現在の状況はどうなっておる?」
「え、あ、えっと・・・森を進んできてます?」
真剣な表情で顎の髭を梳くようにしごいていた族長は、その狼らしい鋭さを感じる顔を上げると、今にも去ろうとする少年に質問を投げかける。一方少年はすでに気を抜いていたこともあって、急に投げかけられた質問にうまく答えることが出来ず、しかし口をパクパク動かし言葉にならない声を洩らしながらも必死に返答を返す。
「どこに向かっておるのだ、魔王領から来たとするならオロウの里か? オーク共ならミダの里の可能性も捨てられんが」
「ほ、ほかの里にも部下を向かわせてますので・・・」
敵が攻めてきた場合の対応は多岐に渡るも、その中でも迅速な情報の伝達は急務である。
「ふむ、今見張っているのは誰だ? お主の部下の者か? 誰も付けていないわけではあるまい」
急ぐならば伝える先を絞ると言う方法も得策であるが、少年の返答にその必要はすでに無い事を察した族長は、満足げに一つ頷くと彼の評価を一つ上げ、そんな少年ならばと現在対象を見張っているであろう者について問いかけ、これからの行動方針を検討しているのか真剣な表情で眉間に皺を寄せた。
「ひっ・・・それはその・・・」
「・・・シャキッとせんやつじゃの、普段の気勢はどうした?」
族長の問いかけを耳にした瞬間、彼は顔を真っ蒼に染めると喉が引き攣ったかのような声を洩らして目を泳がせる。その姿に自分の表情が怖かったのかと眉間のしわを伸ばしながら肩を落とした族長は、僅かに乗り出していた体を戻し背筋を伸ばすと、声を和らげ再度問いかけた。
「・・・です」
「・・・こぉえが小さぁい!」
意識的に覇気を鎮めた族長からの問いかけであったが、しかし少年の表情は蒼くなる一方であり、その口から出る声は蚊の羽音のようにか細くなっていく。その様子に頭を掻いて溜息を洩らした族長は、少し息を吸うと活入れるように張りのある声を上げる。
「はいぃぃ! ネム達が行きましたぁあ!」
その声には気付けの効果でもあるのか、少年は丸めていた背をビシリと言う骨と筋肉の軋む音が聞こえそうな勢いで真っ直ぐ伸ばすと、ようやく聞き取れる大きさの声で返答を返し、
「なんじゃとぉ!?」
その返答に対して族長は身を乗り出し驚愕に満ちた声を上げた。
「なぜじゃ、なぜネムが行った! あの子は今グランシャの下に居るはずじゃ・・・いや、何か母樹様からの重大な依頼があったと言っておったからそっちで」
なぜ驚愕に満ちた声を上げたのか、そしてなぜ少年は表情を真っ蒼にしているのか、それはネムと言うネシュ族の少女が、今少年の目の前に居る族長の、目に入れても痛くないほど可愛がっている孫だからである。
「・・・」
可愛がっている、いやまさに溺愛を絵にしたような祖父と孫の関係である族長とネム。そのことを考えれば、今更ながら自分はなんてことをしてしまったのかと、少年が顔を蒼くするのも理解でき、族長が百面相で小刻みに震えるのも無理からぬことであろう。
「お主、なんぞ知っておるな?」
「・・・!?」
族長の百面相を目にして蒼くなる少年は、族長の視線が自分の方向に向くたびに視線を背け、また心配そうに族長に視線を送る。そんなことをしていれば怪しまれるも当然で、少年を不審に感じた族長の視線と声にびくりと体を硬直させる少年。
「何を隠しておる、はな「族長様! エルフ族の方が火急の要件で参っております」・・・わかった」
眼光鋭く、まるで睨みつけるように見詰めてくる族長に、死を覚悟した少年を助けたのは、エルフの来訪を伝える狼族の女性であった。彼女の報告に少し間を置き表情を戻した族長は、一つ頷き立ち上がる。
「里の警備を二段階上げよ、どうやら森にオーク共が入った様じゃ。それと治療師と術師も待機しておくように指示せよ」
「はっ!」
立ち上がった彼を怯えた目で追う少年の前で、女性に向かい指示を出す族長。その指示を受け状況を理解したらしい女性は、狼よりも人間に近い顔を引き締めると切れの良い返事をし、踵を返して即座に行動を開始する。
「お前も警戒にあたれ、よいな?」
「はは、はいぃ!」
そんな女性とは対照的に、族長から見下ろされる様に指示を出された少年は、声を震わせて返事をすると、何とも言えない表情を浮かべる族長に見送られながら、這う這うの体でその場を後にするのであった。
一方その頃、同じく這う這うとなってもおかしくはないが、こちらはそれでも気丈に脅威へと立ち向かうネシュ族の少女達。
「ふにゃあぁぁ!?」
「くっそ! キリがねぇ!」
しかし戦力差が圧倒的な状況では、一瞬の気のゆるみが大きく影響するようで、樹の上から弓を射っていたトラ毛の少女は、死角から飛んできた石つぶてでバランスを崩して落下し、その下の地面ではすぐそばまで近づいて来たゴブルに気が付いた灰毛の少女が、慌てて弓を手放すと腰に差していた短刀の柄を掴む。
「ちょっと通りますよっとお! ほいキャッチあぁんど、そぉうらあ! ・・・うむクリア、大丈夫か?」
ゴブルの接近と同時に、トラ毛の少女の落下に気が付いた灰毛の少女が思わず硬直してしまう中、一つの人影がその大きさからは想像できない俊敏な動きを見せる。それは自称ユウヒの親友であるクマであった。
気合が籠っているのかいないのか、判断し辛い大きな声を上げて駆けだした彼は、先ずは落ちてきたトラ毛の少女を片腕で受け止め、そのまま足を踏み込んで体を加速させると、灰毛少女に文字通り跳びかかってきていたゴブルの顔面にヤクザキックを打ち込み跳ね飛ばす。
「あ、ああ・・・大丈夫だ」
「いたた・・・あ、ありがとう、えへへ」
ゴブルを軽く蹴り飛ばしたクマは、トラ毛の少女を地面に下ろしながら、尻餅をついている灰毛の少女を見下ろして声をかける。そんな大柄なクマをポカンとした表情で見上げる灰毛の少女は、驚きで声を詰まらせながらも頷き返事を返し、地面に下ろされたトラ毛の少女は、硬い革製の帽子を脱いで猫耳ごと頭を撫で付けると、視線を向けてくるクマを見上げてはにかみながらお礼を口にするのだった。
「・・・(いただきました。リアルネコミミはにかみフェイス! この産毛の感じ、獣度30から40%と見た!)」
「?」
灰毛少女の表情に怖がらせたかと苦笑を浮かべたクマは、続いて向けられたトラ毛少女のはにかんだ表情に心を高ぶらせると、心の中で魂の雄たけびを上げながら地球ではありえない獣人と言う種族を見詰め続ける。
「クマ! デレデレしてないでさっさと手伝え!」
「で、デレデレなんてしとらんわい!?」
見つめ合う成人男性と小柄な少女、やや犯罪臭を感じる光景を目にしたパフェは、ゴブルを蹴飛ばすと、半分本気で少女の心配をしながらクマを怒鳴りつけ、その声に慌てて振り返ったクマは、明らかに顔を赤くしていた。
「バレバレなんだよ! っと・・・おっしストライク! まだまだ私もいけるねぇ」
また、クマを横目で見てニヤニヤとした表情を浮かべるリンゴは、クマに聞こえるように大きな声を洩らしながら大きく振りかぶり拳大の石を投げ、その軌跡と当たった場所に満足げな表情を浮かべている。
「ブゥオオオオオオオ!!!」
「な、なんだ!?」
「あいつらいきなり突撃し始めたぞ!?」
パフェに続きリンゴの追撃まで受けたクマが顔をますます赤くする中、彼の状況を見ていたのは何も彼女達だけではない、
「クマのせいだな」
「そうねぇクマくんのせいねぇ」
「クマさん・・・」
「ええ! なんで!?」
それは絶賛怒りの咆哮を上げる豚顔のオーク族と、鬼気迫る表情で襲い掛かるゴブル族であった。パフェにメロン、さらにはリンゴの後ろで投げやすい石を複数抱えたルカにまでジト目を向けられるクマは、真剣に驚愕の表情を浮かべると理由を教えてくれそうな人物を探し視線をさまよわせる。
「そりゃ傍から見たらお前がハーレムリア充に見えるからだろ」
「おかしいだろ!」
そんな視線を向けられたリンゴは、クマに向かってわざとらしく肩を竦めて見せると、そう結論付け、その回答にクマは納得のいかない表情で突っ込みを入れるのだが、
『ブキイイイイイ!!』
まるでリンゴの発言を肯定するような鳴き声が前方から響き渡り、クマは思わず脱力して肩を落とすのだった。
「流石にこれはきついな「はぁあああ!」む!?」
それから十数分後、微妙に気の抜けた空気のまま遅滞攻撃を繰り返しながら後退を続けていたクマ達であったが、すでに魔王軍と思われる亜人の群れは目前に迫っており、その状況に思わずクマが弱音を吐いた瞬間、頭上から気合の籠った声がその場に響き渡る。
「【ゲイルスラッシュ】続け!」
その声の主は、ユウヒを母樹の下に案内したエルフの騎士であった。彼は気合の籠った声を発しながらクマ達を飛び越え亜人の群れの前へと躍り出ると、両手で振り上げていた剣を鋭く振りおろし突風を生み出す。
『【ウィンドスラッシュ】』
さらに続けて放たれる四つの強烈な風が相乗的に突風を強化し、風に煽られたゴブル達を残らず吹き飛ばす。また突風を受けて必死にこらえていたオーク達であったが、風に煽られて飛んできたゴブルとぶつかりバランスを崩し転倒すると、そのまま丸い巨体を後方へと転がし始める。
「おおお! 魔法だ! 魔法だぞクマ!」
「イタイイタイ!? わかったから叩かんでくれ姉さん! 地味に痛いから!」
窮地に現れ颯爽と敵を蹴散らした魔法に、パフェは目を大きく見開くと興奮を隠すことなく燥いで見せ、オーバーフローした感情はクマの背中を地味に痛そうな音を立てて叩くことで発散している様だ。
「はわぁ・・・」
「あらぁ」
「へぇ中々イケメンね・・・流石エルフ」
一方、ルカとメロンは、目の前に現れたエルフ男性達の美しい姿に感嘆の声を洩らし、リンゴは感心したように頷くと興味深そうな声を小さく洩らしている。
「彼らは精霊騎士の方々ですね。・・・でもどうして」
何やら怪しい雰囲気を洩らすリンゴの隣で、黒毛のネシュ族少女はリンゴ達にエルフ男性の事を説明しながらも、不思議そうな表情で首を傾げてみせた。
「チャコ殿ご無事でしたか」
「ええ、おかげさまで」
精霊騎士騎士団長が踵を返して黒毛少女チャコの前まで歩いてくると、その姿に安心したように笑みを浮かべて見せ、そんな騎士団長に対してチャコは特に表情を変えることなく軽く頭を下げる。
「・・・して、ネム殿の姿が見えない様ですが」
メロンとルカの邪気を感じない視線に微笑みを浮かべた騎士団長は、周囲に目を向けるとチャコに向かってネムが見当たらないことに小首を傾げた。
「ネム様は今「プギイイイイ!!! プギイイイイ!!! ピギイイイイ!!!」な!?」
小首を傾げた男性を見上げたチャコが事情を説明しようとした瞬間、突風で遠くへと転がされたオーク達の鳴き声、いや絶叫が響き渡りそれと同時に空から黒い影がクマ達の下へと飛来する。
「いかん! 風の精霊よ、我らに矢避けの加護を【風壁】くっ間に合わん!」
その飛来してくるものとは、人より大きな複数の大岩であった。黒い影の正体を即座に察した騎士団長は、風の壁を作り出す魔法を唱え、男性に続くように四人のエルフ男性もそれぞれに同じような魔法を唱える。
「にゃぁぁぁ!?」
「ルカちゃん頭下げて!」
しかし、オーク達が怒りに任せて投げた岩の質量に対して、咄嗟に風で作られた壁はあまりに弱く、多少軌道を変えられはしたものの安全を確実に出来るほどの効果は無かったようだ。
空高く舞い上がり自由落下を開始した岩の群れに、トラ毛少女は灰毛少女に抱きつき叫び、メロンはルカを引き寄せると地面に倒れ込み、その上にリンゴが険しい表情で覆いかぶさる。
「姉さんあぶねえ!」
「クマ!?」
またクマは、呆けているパフェを背に庇う様に躍り出ると、少しでも被害を軽減する為に岩から目を離さないよう空を見上げ、そんな彼の行動にパフェは悲鳴のような声を上げた。
「たすけて、たすけて・・・おにいぃちゃぁああん!!」
その場にいた者達がそれぞれに身構える中、メロンとリンゴに庇われたルカの精神は限界を迎えてしまったようで、彼女は小さな少女が兄に助けを求める様な叫び声を感情のまま上げる。
「【フリージングデストラクション】【ミニマムコメット】」
その瞬間、悲鳴にも似たルカの声に答えるように響き渡る男の声は、
「え・・・」
「な!? 氷塊、それに岩が砕けて消えた、だと・・・」
「・・・寒い、これは」
とても聞き覚えのある声に目を見開き、見開いた目から涙を零しながら空を見上げるルカの目の前で、奇跡と共に幻想的な光景を作り出すのであった。
いかがでしたでしょうか?
リア充ハーレム? クマ爆誕からのイケメンエルフ隊参上と目まぐるしく進む中、ついに彼が姿を現す! そんなわけで次回も楽しんで頂けるよう頑張りますので、また読みに来て頂ければ幸いです。
それでは今回はこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー




