第三百五十四話 彼の旅立ちと星界のざわめき 前編
修正等完了しましたので投稿させてもらいます。楽しんで頂けたら幸いです。
『彼の旅立ちと星界のざわめき 前編』
精霊がはしゃぎすぎて怒られた翌日、某マンションの一室では、暖炉の様な炎の揺らめきを映す暖房器具が部屋を優しく照らし、男女の影を怪しく壁に切り抜く。
「……」
「……」
二人は見詰め合い動かず、しかし互いを見詰め合い続ける様は情事の始まりを告げる様だ。そんな影に新たな影が一つ浮かび上がる。
「……お見合い会場じゃないんだからさ? まぁ返事に困るのはあいた!?」
新たな影の正体は育兎、影だけ見れば少女のようにも見える彼は、直接見ても少女のようにしか見えないふわふわのルームウェアで現れ、テーブルを挟んで見詰め合う二人に対して呆れた様に呟くと、即座に飛んできたクッションを後頭部で受け止め驚きの声を洩らす。
「キジも鳴かねば撃たれまいに……」
おやつなのか、手に持っていた黒い斑点の浮き出るバナナを取り落とし地面に座り込む育兎に目を向けるユウヒは、目の前で鬼の形相を浮かべる兎夏から目を逸らすついでに育兎を貶す様な目で見詰め、遠回しに一言多いんだよとツッコミを入れる。
「酷い言われ様だね、でもブラザーが旅立つのは決定事項なんだから、そんな不服そうな顔は良くないよ? 旅立ちは笑顔で見送らないと」
「……おじいちゃんは見送りもさせてくれなかったけどね」
立ち上がるのもめんどくさいと言いたげな姿で二人の座るテーブルに這ってきた育兎は、クッションを抱き締めバナナの皮を向きながら孫にダメ出しを行う。どうやらユウヒは旅立ちの日が近いらしく、そのお知らせに来ていた様だが、話を聞いた兎夏は思わず返事に詰まっていた様だ。
「僕はほら、逃走だから? 見つかったら拘束されて監禁されかねないし?」
「アグレッシブの家族だな」
祖父からの苦言に表情を歪める兎夏は、自分の感情を誤魔化す様に口をへの字に曲げると育兎に対して愚痴を漏らす。彼女がユウヒの住む世界に居るのは突然失踪した祖父を探す為であり、周囲を悲しませるような旅立ちを行った人に言われたくないと兎夏は言うが、育兎にも色々理由があったわけで、その言い訳にユウヒは思わず呆れた声を洩らした。
「ハハッ! ブラザーにだけは言われたくないね!」
「……何も言い返せないな」
しかし、家族のアグレッシブさに関してユウヒも言い返せず、夢の国のネズミの様に笑う育兎に対して何か言葉を返そうと考えるも、反論するための材料が全くない事に気が付き肩を竦めて笑う。
「それで、帰って来るの?」
ユウヒと育兎が互いに哀愁を感じる笑みで肩を落とす中、二人をどこか羨むようなジト目で見ていた兎夏は、ユウヒに向かって一番重要な事を確認する。それは異世界に旅立ったとして帰って来るかと言う事、彼女は彼の口から必ず帰ると言う確証の言葉が欲しかった。
「そりゃね? こっちには家族がいるし、死なない限りは帰って来るよ」
そんな気持ちを知ってか知らずか、ユウヒはきょとんとした表情で目を瞬かせると、眉を寄せて首を傾げながら帰って来ると返事を返す。その言葉のニュアンスからは帰って来て当然だろうと言う感情は伝わり、その事になぜか不服そうな兎夏は頬を膨らませる。
「縁起でもないこと言わない!」
何が不服なのかキツイ言葉を返す兎夏に、ユウヒは苦笑いを浮かべ困った様に頬を掻く。
「ははは、ブラザーの場合死んでも蘇って帰ってきそうだけどね? 乙女がそう簡単に殺させなんてしないでしょ」
「そこまでするかな?」
一方全てを理解した様なニマニマした表情で頷いていた育兎は、万が一死んでもユウヒなら乙女が助けてくれるだろうと笑っている。兎夏から睨まれユウヒと似たような困った表情を浮かべる育兎に目を向ける彼は、流石にそこまで一人の人間に手をかけてくれるだろうかと首を傾げて顎を指先で扱く。
「するする! あのババア強欲だからね、それにその娘なんでしょ? 気を付けなよ、女神は厄介だからね」
「ふむ……厄介なのか」
どうやら大きな両手を持った乙女なら、ユウヒが死んだとしても強制的に生き返らせたとしても不思議ではなく、そんな彼女の娘ならばと言って遠い目をした育兎は、ユウヒの肩を両手でそっと掴むと勇気づけるように不穏な言葉を残す。
「ちゃんと帰ってきてください。帰ってきたらすぐ連絡入れること! 良いですね?」
そんな二人のやり取りをじっと見ていた兎夏は、もう一度念を押す様に帰ってくるように促すと、さらに帰って来たらすぐに連絡を入れる事と、その言葉からは一番に連絡しろと言う意思を感じてユウヒは気圧されるように頷きながら後退り、
「確かに」
「そうだろ?」
育兎の不穏な言葉の意味をすぐに理解するのだった。
「それで? 次は誰に挨拶するの?」
男二人が互いに頷き合う姿を不思議そうに見詰めて首を傾げる兎夏は、ユウヒが頷いたことで満足したのか語気を柔らかくすると、この後の予定について問いかける。朝一で山田家を訪れたのであれば、この後まだ行く場所があるのだろうと言う兎夏の考えは正しい様で、ユウヒは悩む様に指を一本ずつ伸ばす。
「次は、龍と司令官殿だな」
「車出す?」
次の目的地は龍と司令官、そう言われてすぐに二人はアーデルとメーフェイルを思い浮かべる。直接会ったことの無い兎夏も顔は知っている様で、理解した様に頷き、育兎はすっくと立ちあがると車を出そうかとドヤ顔を浮かべる。どうやら最近免許証を発行してもらえたらしい育兎であるが、どうやらその必要は無いようだ。
「いや、家に帰って転送装置でぱぱっと」
「え?」
「やってるねぇ」
首を横に振るユウヒに残念そうな表情を浮かべた育兎は、驚きの声を上げる兎夏の前で興味深そうな表情を浮かべ、転送装置でぱぱっと移動すると何でもないかのように話すユウヒに楽しげな表情を浮かべて見せるのであった。
そんな転送装置を乗り継ぎ深き者の船を訪ねたユウヒは、偶然居合わせたアーデルの顔を見るとメーフェイルに二人の時間を少し貰えないかと言って、その足をまた転送装置のある名も無き異世界へと向ける事となる。
「ほう? 素晴らしい技術だな……」
「ええ、素晴らしすぎて眩暈がしますね」
急な予定変更にも快く返事を返した二人は、その判断が最良であった事をその身で知ることとなった。その理由はユウヒが連れてきた場所と転送装置の性能にあるのか、目を細めるアーデルはふらつくメーフェイルの肩に手を置き支える。
「ん? 転送酔いとかいうやつ?」
所謂ワープなどと言う転送と言うのは体質に合わないと酔うものであると、事前に聞かされていたユウヒは、先導していた足を止めると振り返って心配そうな表情を浮かべた。ユウヒの部屋、名も無き異世界、宇宙に浮かぶ巨大要塞の三点を繋ぐ転送装置は非常に高性能であるが、それでも稀に体に合わないことがると説明したのは、メイン転送装置の置かれた要塞を管理するアン子。
「いいえ、我々の常識が崩れていく衝撃で眩暈を感じただけです」
ユウヒの様子をずっと見ていたアン子が管理スペースで少し慌てることとなっていたが、どうやらメーフェイルの眩暈は転送装置が原因ではなく、それらを実現させたユウヒにあるようで、自らの常識が崩れていく感覚に眩暈を感じてしまったらしく、その感想にはアーデルも理解を示す様に頷いている。
「これだけの技術力をどうやって手に入れたのか、詳しく聞きたいところじゃな」
「それはまた今度と言う事で」
ここまで来るのにメーフェイルとアーデルが見た施設は名も無き異世界の半地下基地と転送装置、そして目の前に広がる巨大な格納庫にも見える要塞内部の空間、見る者が見れば非常に高度な科学技術と魔法技術が混在していることが解る空間に、二人は詳しい説明を求めるようにユウヒを見詰めるも、彼は苦笑いを浮かべ話を逸らすのであった。
そんな二人に、詳しい技術的な話やそれらを手に入れる事となった経緯を話すよりも先にされたのは旅立ちの話し、そしてもう一つ。
「と言うわけで、まだ要塞は修理と改修で大変なんで基地として使ってもらうわけにはいかないけど、港として使う分には場所を用意するのでその時はアン子に連絡を入れてね?」
宇宙に出た際に要塞を中継の港として使用する許可と注意事項についてである。最終的には広すぎる人工天体の一画に深き者の基地を用意し、また遊んだり休んだりと快適に利用できる施設を用意するつもりのユウヒであるが、旅立ちを直前に控えた現状ではそんなもの夢のまた夢であり、良いとこ補給のための港として使ってもらうくらいであろうと娘たちと話していたのだ。
「今後連絡手段は調整していきますので、しばらくはそちらから適当に連絡してくださって結構です。合わせますので」
「すでにこちらの通信技術は把握済みと言う事か」
ユウヒ同様に少し落ち込んでいたアン子は、コントロール装置の椅子に座ったまま適当に連絡を送ってほしいと話す。港として使えると言われただけでも驚いていたメーフェイルは、合わせると言われたことに思わず警戒心を抱いてしまう。合わせられると言う事は同等以上の技術差があると言う事だからだ。
「深き者については最近よく見かけるのである程度解析済みです。アーデル様については現在調査中ですが、特別難解と言うわけではなさそうですから」
メーフェイルの固い声に何でもないかのように答えるアン子は、地球から飛び立ち周囲の小惑星などから資源を回収している深き者の艦隊をすべて把握しており、ステルス機能で隠れながら深き者達の技術レベルを把握、またアーデルに関してもある程度の調査が終わっていた。
「様はいらんよ……はぁこりゃ世界征服なんぞ無理だな」
ただ事実を事実のまま話すアン子であるが、聞かされる側にとっては安心できる部分が何もない。万が一にも敵対する事となれば、一方的に知られていると言うのは圧倒的に不利であり、事が起きれば何か動きを起こす前に捻り潰されかねない。
「ええ、元々その気も無いですが……思った以上にこれは、無理ですね」
いや、この場にいる異世界人の二人はそうなるとほぼ確信していた。彼女達もリトルムーンに何が起きたのか既に把握しており、その攻撃がどこから飛んできたのかもある程度解析が終わっているのだ。そんな攻撃があったと思われる位置に存在すると言う要塞、詳しく説明されずとも察せると言うものである。
「大丈夫です。万が一にでもマスターの危害になる様でしたら要塞砲で吹き飛ばしますので」
「「……」」
さらに追撃の言葉がアン子の口から飛び出れば思わず閉口してしまうと言うもの、苦笑いを浮かべるユウヒが静かにアン子を見詰めるが、彼女もそこを曲げる気が無いのかユウヒを澄ました表情で見つめ返す。しかし、ふいに肩を突かれ後ろを振り返った彼女は、自分の選択に致命的な間違いがある事に気が付いていない。
「駄目だよアンちゃん、そんなことしたら親方の家まで吹っ飛んじゃうよ」
「はっ!? ……なら長距離狙撃で一つずつ潰すしか」
それは要塞砲を地上の浮遊島や深き者の艦隊に発射すれば、ほぼ確実に日本は地図から消え、同時にユウヒの自宅とユウヒの部屋に飾られる趣味の物も消し飛ぶ。一般的なオタク同様、ユウヒが部屋に色々飾っている事を覚えているアン子は、ラフな格好で現れた一号さんの指摘に顔を蒼くし、即座に代替え案を考え始める。
「はいはい、物騒な話はやめなさい」
「ぁ……うん」
あまりに物騒な話が止まらない状況に、頭のネジが緩んでいるユウヒも流石に止めに入り、考えていたことを忘れるように少し強めにアン子の頭を撫でると、もう片方の手に頭を差し入れて来た一号さんも一緒に撫でながらため息を洩らす。
和やかな雰囲気の醸し出す三人の一方で、物騒な話を聞かされた二人の表情は固い。
「(ヤヴァイヤヴァイとは思っておったが、かなりじゃの?)」
ユウヒ達に聞こえない様にそっとメーフェイルへ耳打ちするアーデルは、以前からユウヒに対して計り知れない恐怖のような物を感じていたが、今回案内された要塞に来てからと言うものその危険視するレベルがとどまることなく上がっている様だ。
「(敵対、ダメ、ゼッタイですね。周知しておきましょう)」
「(そうじゃの)」
一方でメーフェイルも同様に危機感を募らせているようだが、経験の差か単純に要塞内部の様子から科学レベルの差を知ることが出来るからかアーデル以上に表情が固く、よく見ると膝の上で握られた手は小刻みに震えている。万が一を起こしてはならないと、互いに目を合わせるメーフェイルとアーデルは静かに頷き合う。
「あ、一応こっちも世界征服とかする気ないから誘わないように、やらないように」
「はーい」
「了解です」
そんな二人の話声は聞こえていないが、何を心配してるのかは何となく理解出来たユウヒ。彼は何か確認し合う様に頷き合う二人に苦笑を洩らすと、平和が一番と言いたそうな表情で声をかけると、頭から手が離れたことで物足りなさそうな表情を浮かべる二人にも念を押す。
「わしらも世界なんぞいらんよ」
明るい声と、はきはきとした声の二重奏に眉を上げるアーデルは、可笑しそうに眉を寄せて肩を竦めるとユウヒに笑いかけ、世界征服など考えてもいないと話し、
「そうね」
その言葉にメーフェイルも同意する様に頷きため息を漏らした。この場に居合わせる者達は地球を征服しようと思えば出来なくはない者達ばかりであるが、彼らが平和的な意思統一を行った事でこの日、世界から危機が一つ去ったのであった。
いかがでしたでしょうか?
着々と準備を進めるユウヒによって世界はゆさゆさと揺り動かされていますが、彼の心はすでにワールズダストにあるようです。そんなワールズダスト2作目は次回でラスト、最後まで楽しんで貰えたら幸いです。
読了ブクマ評価感想に感謝しつつ求めつつ今日もこの辺で、また会いましょうさようならー




