第三百五十話 暗躍者がいる掲示板
修正等完了しましたので投稿させてもらいます。楽しんで頂けたら幸いです。
『暗躍者がいる掲示板』
正月休みをほとんど休めなかったユウヒが、開けて早々あちこちに引っ張りだこな一方で、その影響を受ける人々は年末年始で変わった世界について温く情報交換を行っていた。
そんな情報交換の場の一つである電子の世界の掲示板、去年から怒涛の如く変わっていく日本の姿に住人たちは楽しそうな声を上げているようだ。
【日本は異世界を】年末年始異世界研究員雑談会場【受け入れ居ました】パート3
100:無名の研究員
まだ正月ボケが抜けないが今日も近所の猫耳ちゃんが可愛い
101:無名の研究員
画像あくしろよ
102:無名の研究員
だが断る!
104:無名の研究員
ギルティ! うちの近所のうさ耳ちゃんもかわいい
105:無名の研究員
可愛いケモ娘居ない地域の人おりゅー? うちの地域はケモ男しかいないの……でもあの逞しい体もあれはあれでハァハァ
106:無名の研究員
お巡りさんこの人です
107:無名の研究員
職質待ったなし
108:無名の研究員
ここはケモナー板じゃねぇんだよ、新鮮な研究題材持って来いよ
109:無名の研究員
もしもしポリスメン
110:無名の研究員
ならば拙者が、こちら深き者とパワードスーツの写真でござる! 中々にタフネスでござった
111:無名の研究員
は? もしかして関係者様?
112:無名の研究員
すげー! めちゃ近パワードスーツすげー!
113:無名の研究員
テレビで見たけど迫力あるな、あと深き者女子美人すぐる
114:無名の研究員
日本にも配備するのか?
115:無名の研究員
何に使うんだよ
116:無名の研究員
お隣さんがまた騒ぐぞ? 侵略国家が復活するってな
117:無名の研究員
侵略とか意味ないんだよなぁ
118:無名の研究員
そうそう今の日本は宇宙に目を向けるべきだよな! なんてったって宇宙戦争も出来るんだから
119:無名の研究員
それ同盟結んだ深き者が強いだけだから、日本何もしてないんだよなぁ
120:無名の研究員
でも実際に戦ったのは専門家だろ?
121:無名の研究員
何時から専門家が日本人だと勘違いしていた?
122:無名の研究員
なん、だと…!?
123:無名の研究員
きっとあの名前を呼んではいけない専門家は故郷の異世界での研究成果をこっちで実証実験してるんだよ
124:無名の研究員
いやそのまま異世界でやってどうぞ
125:無名の研究員
でも専門家居なかったら今頃みんなで仲良く逝ってたわけで
126:無名の研究員
おら! お前ら名前を言ってはいけない専門家に感謝しろよ!
127:無名の研究員
何処から目線だよ
128:無名の研究員
でも、あの人の事を悪く言うと天罰が下るらしいから……ありがとう専門家!
研究員が集う掲示板で一瞬ユウヒに対する不穏な声が上がったが、彼の悪い噂を流すと不幸な目に合うと言う最近になって出来た新しくホットな都市伝説に、拭いきれない不安を感じた研究員達は、その後しばらくユウヒへの称賛の声を上げて掲示板を加速させるのだった。
その後、称賛の書き込みをした人間の中に幸運を手にした者が現れより称賛の声が白熱している一方で、別の掲示板では異世界難民テントで働く職員が立てた板にユウヒを見たと言う報告がスレ主によって書き込まれていた。
【雑務員】異世界難民テントで働いてるけど何か聞きたいことある?【しゃべるってよ】パート8
52:一般雑務員
32>最近よく見るよ名前を呼んではいけない専門家
53:無名のキャンパー
退院して暇なのか専門家?
54:無名のキャンパー
退院早かったし大した怪我でもなかったんだろ? なら動き回っててもおかしくないな
55:無名のキャンパー
残念、彼は異世界の超医術で復活を遂げただけで普通に瀕死で重症でしたらしいぞ
56:無名のキャンパー
異世界医療ぱねぇ
57:無名のキャンパー
異世界行っても医療系無双できないじゃん医者辞めます
58:一般雑務員
名前を呼んではいけない専門家は全然暇じゃないみたいだぞ? えらい細かくスケジュール組んであるらしいし、あと難民キャンプでもいくつも会議に出席してた
59:無名のキャンパー
会議の梯子とかwwww何の会議をそんなにしてるんだ?
60:我忍者ぞ
奴は異世界人に精霊経由でガチ信頼されているからな、異種族と日本人と精霊の橋渡しができる分困った問題もすぐに解決出来て日本政府の役人に重宝されている様だ。正直、奴を便利に使うとか役人の正気を疑うレベルなんだが・・・。
61:無名のキャンパー
忍者の人情報あざーっす!
62:無名のキャンパー
一般雑務員より優秀まである忍者さんちっすちっす
63:我忍者ぞ
ふはははは! 我に答えられぬことなど半分くらいしかないぞ!
64:無名のキャンパー
結構話せないwwww
65:無名のキャンパー
ほら、不良忍者でも守秘義務あるし
66:一般雑務員
忍者さんガチの人なんで、そんな人と比べられても困るのぜ? あとここの存在お目こぼししてもらっているのぜ?
67:無名のキャンパー
ぁ
68:無名のキャンパー
ッスゥー……
69:無名のキャンパー
もしかして公安とかの人?
70:我忍者ぞ
どちらかと言うと我、公安に目を付けられているのでな? まぁ奴ら程度欺くのはうわなにsr
71:無名のキャンパー
連れてかれたwwww
72:無名のキャンパー
えー!? もっと聞きたいことあったのに!
73:無名のキャンパー
忍者も忙しいのかな
74:無名のキャンパー
何か専門家と知り合いぽいし、忙しい系の人なのでは?
75:無名のキャンパー
ならここで遊んでんじゃ……あ、だから捕まったのか
76:一般雑務員
忙しいと言えば、専門家が昨日キレてたな? 仕事入れすぎとか急に変更しすぎとか、すごい突風が専門家から吹いて異世界の人たちが平伏してたけど役人はへらへら笑っててさ、難民の人に後で聞いたらとんでもない量の魔力が噴き出てたらしくて、敏感な人なら気絶するぐらいだったらしいよ
怪しい忍者が時折出没するスレは、一般雑務員と言う名の異世界難民テント村管理職員の報告によってさらに加速していく。どうやらユウヒは政府の役人相手に怒ってたらしく、その事に異世界の人々は大いに慌て、しかし一番慌てなくてはいけない人間は全く慌てておらず、掲示板の住民たちはその状況を冷静な視点で考え不安を口にし始める。
そんな日本国内で最もホットなスポットの話題で盛り上がる掲示板がある一方で、こちらは日本が急遽可決した政策の影響を受ける海外からの声を集める掲示板、すでにいくつものスレッドを重ねている彼らは毎日外国語の翻訳を行い面白いネタを出し合っていた。
【グローバル】世界中の観測員からの報告翻訳所【日本語翻訳】21スレ目
333:無名の観測者
以上、地震による被害が把握されつつあるチリからの報告でした。
334:無名の観測者
翻訳報告乙、まさか日本からミノタウロス族が災害派遣されるとは思わなかったな
335:無名の観測者
力持ちそうだもんな、それにしても過激派ヴィーガンとのやり取り動画にはワロタww
336:無名の観測者
ミノタウロスって牛肉食べるんだな、あーでもこっちの伝承でも人食べてたっけ? しらんけど
337:無名の観測者
現地民も牛に似た異世界人の前で牛ステーキ食べるの躊躇してたしな? まぁそんな人たちの目の前でステーキ丸かじりしてたわけですが
338:無名の観測者
菜食主義「彼らの前で牛を食べるなどどれだけ酷い事なのか分からないのですか!! すぐにその肉を捨てなさい! すぐです! ほら何をしてるんですか!!」
ミノさん「は? 普通喰うだろ? こんなうまいの食べないで何食べろって言うんだ? 捨てるなんてとんでもない」
ミノ娘ちゃん「このお肉美味しいよ! これ毎日食べていいの? 前みたいにこの後十日何も食べ物無かったりしない?」
ミノさん「おう! ジエタイの人がしばらくは毎日これが出るって言ってたさ!」
ミノ娘ちゃん「やったー!」
菜食主義「」
339:無名の観測者
草
340:無名の観測者
大草原
341:無名の観測者
行き先が無くなった食料を現地で購入してるらしいからな
342:無名の観測者
それで炊き出しもしてるんだろ? なんか現地民が食べる食材を日本が奪ってるとか報道もあったけど
343:無名の観測者
現地民は普通に売るより高く売れて喜んでるし、輸送インフラ機能してない状況でも入って来る支援物資に喜ばれてるけどな
344:無名の観測者
災害復旧であちこちに出没する異世界人の動画纏めておいたよ
345:無名の観測者
ぐう有能
346:無名の観測者
ケンタウロス可愛すぎだろ
347:無名の観測者
なんで女の子が多いんだよ癖ですぎだろ
348:無名の観測者
何言ってんだよ難民ほとんど女やで? 一般雑務員板ロムって来いよ
349:無名の観測者
難民だからなそう言う事やろ
350:無名の観測者
あ(察し)
351:無名の観測者
察しろと言う前に察してた
352:無名の観測者
勘のいい餓鬼は嫌いじゃないぜ
353:無名の観測者
うほw
354:無名の観測者
そんなことよりこれを見てくれ、どう思う
355:無名の観測者
すごく太くて大きい…なにこれ
356:無名の観測者
戦艦に乗ってるって事はもしかしてレールガン?
357:無名の観測者
当たり! 実験艦に載せられた日本産レールガンなんだお! 今度実際に海洋で試射するらしいお!
358:無名の観測者
嘘乙
359:無名の観測者
そんな軍事機密がこんなとこに出てくるわけないだろよくできた動画だな
360:無名の観測者
俺が知ってる自衛隊のレールガンと形違うからダウト
361:無名の観測者
いくら異世界の技術があるからってそんな簡単に作れるわけないだろ
362:無名の観測者
もっとマシな動画出せよな
363:無名の観測者
いやまてまてまて! これ昨日俺見たぞ遠目だけど深き者の係留地でゆっくり航行してた!
364:無名の観測者
上司の上司の上司が見せて問題ないって言ってたから持ってきて上げたのに! もう知らないもんねー!
365:無名の観測者
もしかしてガチ? 詳しく! kwsk!
その後グローバル翻訳板では動画の詳細について求める声が多数書き込まれるがそれ以降動画を上げた主は現れることなく、数日後に防衛省が正式にレールガンの完成を発表、深き者と異世界専門家の協力により完成したとし、さらに後日洋上試射の映像も公開される。
実験段階の性能を大きく超えるレールガンの誕生に周辺国は大いに慌てふためき、アメリカが技術協力の準備が進められていると発表すると世界中のメディアは一斉に報道、その脅威を伝えると同時に懐疑的な意見も多く伝えられるが、深き者の存在があることで大半の人々に事実として受け止められることとなった。
未来で世間を大いに騒がせることとなる最初の影響を与えたのは三人の忍者、火種を団扇で煽る程度の行動であるが、使われているデータが本物なので与える影響は大きかった。
「まぁこんなものでござるな」
「こんだけ引っ掻き回せばいいだろ」
そんな彼らの行動は愉快犯として見られることになるが、政府側の意図した作戦らしく、いくつもの掲示板で核心に迫るネタを冗談の様に書き込んでいた。すべての書き込み予定が終わったのか、『すけじゅーるひょう』と書かれた書類に最後のチェックを書き込むゴエンモの言葉にジライダは頷き青い缶コーラをストローで吸い上げニヤリと笑みを浮かべる。
「もっとよく調べろっての、甘いんだよなぁ」
最後の一押しに許可を得たレールガンの写真をネットに上げたヒゾウは、アップロードするなり大量に飛んできた批判の声にすっかりヘソを曲げてしまったようで、不服そうに話す彼の手元の書類には予定繰り上げて書き込み終了と走り書きがされていた。
「と言ってもそれどころじゃないのが実情でござるしなぁ」
「宇宙戦艦も発表する?」
しかし、現在日本を中心とした大きな変化はあまりに強烈で、真面に全体像を図り切れている者は居らず、さらにその状況を楽しむ様に嘘の情報を流す者が後を絶たず、今は隠しておかなければいけない情報の隠匿の為、忍者達は政府や自衛隊の関係者、そして識者と言う立場から適任とされ今回の作戦を一手に引き受けることとなった様だ。
「いやいや駄目だろ、引っ掻き回しは宇宙船を隠す煙幕替わりなんだから」
「おかえりでござる」
隠匿の必要がある計画の一つは日本による宇宙船建造計画である。そんな情報もいっそ流してやろうかと悪い顔をするヒゾウに、部屋に入ってきた人物は呆れた声を洩らしゴエンモに片手を上げた。
「レールガンもすぐに標準品になる予定らしいからな」
「ユウヒも手伝うのか? ほいコーラ」
忍者達に与えられた秘匿性の高い一室に入って来たのはユウヒ、今日は忍者達の煙幕作戦に手伝いとして参加している。それはユウヒに関する情報の整合性や、忍者達では分からない魔法や精霊の話を修正する為で、缶コーラを受け取った彼曰く、先行試作感が伝わって来るレールガンの写真も、実際は安全と偽装の為大げさな外装を被せた先行量産型で、すでに各艦艇への搭載の為に載せ替え準備が始まっていると言う。
「さんくす、俺が手伝ったら意味ないじゃん自分たちで作らないと」
そんなレールガンと言う少し先の兵器開発にユウヒは関わっていないと言う。むしろ元々の開発グループの反発で参加できなかった面もあるのだが、実際に彼のオーバーテクノロジー在りきで先進的な物を作ってしまっては今後に支障が出るとユウヒ自身理解している為、政府や企業を手伝う気は無い。
「ユウヒは自分で作れるのか?」
その割には育兎の助力や深き者達と言う組織の助力は大いに受けているのだが、そんな野暮なツッコミを入れる気は無いユウヒにヒゾウは素朴な疑問を投げかける。
「魔法でなら出来ると思うけど、作るとなると素材から未知のものになって大量生産できな……あ、一号さん達普通に装備してるじゃん(それにアン子がいるから……もうしばらく黙っとこ)」
「「「あ」」」
魔法在りきなら可能だけど量産に向かないと言った瞬間何かを思い出したユウヒ、すでに彼はレールガン搭載型の機体を魔法で作っており、彼女達の手があれば異世界の超先進技術製ではあるがレールガンの大量生産が可能であり、さらに言えばアン子を生み出した今、レールガンが補助武器扱いになる様な超兵器の数々が量産可能となっているが、その事を詳しく知るのはユウヒだけ、育兎は察しているが好んで地雷を踏む気は無いので周囲に話すことは無いだろう。
核兵器がショボく見える様な超兵器の塊である人工天体、その一切を制御するアン子は、妙な気配を感じて顔を上げると、周囲に浮かべていた設計図の様なホログラムから手を離す。
「へっくしゅん!」
「一号風邪?」
その瞬間は顔を上げた一号さんが勢いよくクシャミを洩らし、その姿に目を瞬かせたアン子は、不思議そうに問いかけながらハンカチを腰のポケットから取り出し一号さんの顔に投げ渡す。
「埃かな?」
「ちゃんと掃除してる。……あれが」
過酷な環境で戦うため特別に作られた存在である一号さん達は、たとえユウヒの手によって生み出されたとしても早々風邪を引くような軟な体はしていない。むしろユウヒの手によって作られたことで高性能化している可能性が高いのだが、そんな存在が風邪なんて引くわけが無く本人達もそう思っている為か、一号さんは埃だろうと首を傾げ、そんな言葉にアン子は不満そうな表情で遠くを指差す。
「?」
「ドローンだらけね」
自分で掃除をするわけではないアン子が指差した先には、ペール缶の様なロボットが小さな音を鳴らして動いており、自分が注目されていることに気が付いたのかその場で止まると、アン子達に天辺のカメラを向けて左右に揺れて見せる。どうやらジェスチャーで何か要件があるのか聞いている様だ。
「……色々足りないものが多くて、ちゃんとした物は製造できてないから」
一見コミカルな動きで可愛くもあるのだが、文字や音声でコミュニケーション取れないと言う事実はアン子にとって許せないものであるらしく、より激しく横に揺れて見せるペール缶から目を逸らす彼女は色々足りないと小さな声で呟く。
「マスターの居城として以前より大きさは十分ですが、設備に難ありですか」
周囲から集まって来てアン子を慰めるペール缶の群れ、その様子は微笑ましくもあって二号さんは笑みを浮かべるが、彼女も現状の宇宙要塞は大きさ以外納得がいかないようだ。
「地上も楽しかったけどね!」
言外に以前の基地よりはマシだと言う二号さんに、一号さんは可笑しそうに笑うとあれはあれで楽しかったと、彼女の記憶の中にあるユウヒと二人きりの時間を思い出し楽しそうに呟く。
「資材の消費は艦隊建造を優先してますから、内部設備のアップグレードはまだ先です。マスターからもゆっくり慎重にと命令されています」
「了解です」
そんな記憶の中と変わらないユウヒは、ただでさえ悪目立ちする要塞の行動方針を『極めて慎重』に決定した様で、その影響で内部設備は最低限の更新速度に抑えられ、その分のリソースをアン子は多少の防衛と今後必要になる資材獲得のための艦隊建造に注力する様だ。
「要塞内部の設備更新は僕たちに任せてよ、まぁ材料がリサイクルのうちはそんなに進まないけどね」
そんな中で暇になる一号さん達は要塞内部の設備をリサイクル整備していくようだが、頭のネジが外れたユウヒと共に成長した彼女達が大人しくしていられるのか甚だ疑問であるが、結果が出てくるのはまだまだ先になりそうである。
いかがでしたでしょうか?
世間はいたる所で被災の爪痕が伸びるもネット世界の住人は強く楽しく生きているようですね。しかし宇宙船、日本はどこに向かっているのでしょうか? それでは次回もお楽しみに。
読了ブクマ評価感想に感謝しつつ求めつつ今日もこの辺で、また会いましょうさようならー




