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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
適応と摘出

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第三百四十二話 吹き出す殺意

 修正等完了しましたので投稿させてもらいます。楽しんで頂けたら幸いです。



『吹き出す殺意』



 煙の中にいるものだとばかり思っていた者がどこにも見当たらず、対象だと思っていたものが盾だったりバリアだったりと影も形も無ければ人はその目を外に向ける。


「ねえどこ、どこに行ったの!」


 そしてその探すための手は見つからなければ見つからないほど乱暴になっていく。


「探してますよ育兎さん」


「あらやだ、あれはきっと貴方の事ですわよ夕陽さん」


 黒髪の女から逃げて浮遊物に身を隠すユウヒは、背中を浮遊物に張り付けるように預けながら隣に声を掛けるが、育兎はユウヒの言葉をそのまま返して引き攣った笑みを浮かべている。


「また一人にするの? 帰って来ると言ったじゃない!!」


 彼らが引き攣る理由がまた一つ、細く長かった黒い腕は互いに絡み合い太く長い巨腕となり、苛立ちを露わにする女性の声に合わせて振るわれ、その進路上に浮かぶ浮遊物を破砕して行く。遠くで破壊音が鳴る度に肩を震わせ、視界の端で真っ二つに破砕される浮遊物を目にするたびに顔を蒼くする二人。


「そうなんですか育兎さん」


「いやいや、夕陽さんはオモテになりますなぁ」


 小声で互いに突っ込み合いながら目に恐怖を浮かべる育兎とユウヒ、ドロドロとしてヒステリックな女性の声に根源的な恐怖を感じる二人の頭の上では、水晶の小鳥が心配そうに頭を突き、あちこちの浮遊物にはいくつもの【小盾】が身を隠している。


「女ね? そうなんでしょ!! またどこかで女を作ったのね!!!!」


「「ひぇ」」


 どうやら黒髪の女性は過去にパートナーを寝取られた事でもあるのか、それとも好いた相手を目の前で掻っ攫われた事でもあるのか、まるで勇治の浮気に切れる明華のような事を言いながら黒く太く長い腕で浮遊物を薙ぎ払う。


「どこよ! どこに隠れた! 殺してやる!!」


「こえーよ、それにしてもなんで急にブチ切れモード? 隠れたから? と言うか小盾ナイスカバーだ」


 切り裂く様に破砕し、薙ぎ払ってまとめて砕き、今度はどこに隠れたと言いながら浮遊物を突き刺し抉る。


「彼(小盾)は、犠牲になったんだ……」


 ここまで二人の隠れる浮遊物が無事な理由は、あちこちに隠れている【小盾】達のおかげであり、二人が隠れる浮遊物にヘイトが向かないようその身をタイミングよく浮遊物の影から晒して巧妙に黒髪の女の気を逸らし、その身を犠牲にしてユウヒと育兎を守っていた。まさに盾役の鏡とも言える献身的な行動には育兎も涙を禁じ得ない。


「さて、いつまで隠れてようかね?」


「なんとかその危険物をあれにぶつけられたら良いんだけど」


 しかし、隠れてばかりでは一向に状況は改善されず、浮遊物の数も減って来たことによって二人は次なる行動を余儀なくされる。


 状況を改善する方法はそう多くも無く、現状で最も確実に方を付ける方法は、ユウヒのバックパックに入れられた黒くて金色の帯を輝かせる危険物で相手を封印する事、黒く太い腕による破壊的な攻撃にばかり気が行くが、良く見ればピンク色の触手も一緒に暴れており、封印するにもそう簡単にはいかなさそうだ。


「アレってどっち? 触手? 荒れてる方?」


「どう考えても触手でしょう、装置を守ってると言うか装置と融合してるし」


 そんな二つの脅威の内優先されるのは触手のようで、本来の目的である装置の封印を前提にする以上黒髪の女性は後回しにするしかなく、元々ユウヒが負傷する原因となったのも触手の奇襲があったからだ。


「あれ味方じゃないんかね?」


「触手もあの女の攻撃喰らてるんだよね、ただ反撃はしない辺り識別的には味方なんだろうね」


 そんな触手と黒髪の女性と言う二つの敵であるが、どうにも連携して暴れているわけではなさそうである。育兎があちこちに仕掛けている小型のドローンで様子を見る限り、触手は女性を攻撃していないが、女性の振り回す黒い腕による攻撃は、度々ピンク色の触手を削り取る様に消滅させていた。


「フレンドリーファイア女子か、偶に居るんだよなぁ」


「そうなのかい?」


 その光景はユウヒに嫌な思い出を想起させたようで、仲間諸共に敵を薙ぎ払う行動は彼の嫌悪感を刺激する。


「ピンキリだけど、姫様タイプは近寄りたくないな、御付きが荒ぶるから」


「何それちょっと興味深いけど、これを何とかしないとゆっくり話も出来ないね」


 目を見開きキョトンとした表情を浮かべる育兎は、ユウヒの言葉に興味深そうに目を細めるも、すぐ傍から聞こえてきた破砕音に体を震わせると体を起こして装備を確認し始めた。


「俺ら余裕あるのかな? ……おや?」


 いつでも行動を起こせるように装備の消費状況を確認する育兎に倣うように体を起こすユウヒは、あちこちのポケットに入れた水晶柱の状態を確認しようとするも、視界に何か見えたのか虚空を見詰めながら小さく驚いたような声を漏らす。


「どうしたんだい? 何かいい解決策でも思い浮かんだ?」


「あの人って殺して俺罰せられない? 物理で殴る良い方法なら一つあるけど」


 何を見つけたのか、何やら攻略法を思いついたユウヒのようであるが、どうやらその物理火力は相当なもののようで、最悪黒髪の女性の命を奪いかねないらしく、その事を気にする彼の姿に育兎は呆れた表情を浮かべる。


「いやいや、あれを人のカテゴリーに入れるのもどうだろう? 何かあちこち光ってるし下半身の一部とか機械化してるし右腕なんか肥大化してるじゃないか、どっちかと言うと化け物とか未知のクリーチャーの類でしょ」


 何故なら黒髪の女性とは言うものの、女性だと解る部分はバストアップの一部上半身だけで、暴れるほどに崩れる体はとても人と形容出来るものではなく、体中に走る亀裂からは緑の光が洩れ出ており、下半身は金属の継ぎ接ぎ、肥大化した右腕は自身の体よりも大きく肉の塊が蠢いている。


「まぁ確かに、でも話してるし人っぽいし結構顔は美人だよ?」


「あれ話してるわけじゃないと思う、偶に異星人にも居るけどテレパシーで感情を周囲に吹き出してるんだよ」


「へぇー」


 また彼女は大声で叫んでいるように見えてその実はテレパシーの様なもので直接周囲の人間に感情をぶつけている様だ。耐性の無いものであれば気絶してもおかしくない叫び声なのだが、特にダメージを感じさせない惚けた表情のユウヒに育兎は呆れた様に肩を竦める。


「普通は個人とやり取りするらしいけど、制御が効かないと全周囲に感情を叩き付けてしまうらしいよ? それにここはどこの国のルールも適用されないしバレなきゃいいでしょ」


「そういう問題? それにしても制御できないくらいに何を興奮してるんだろ?」


 バレなきゃ何をやっても良いと言う育兎に眉を顰めるユウヒであるが、しかし事実としてこの場は誰の制限も受ける事が無い場所と言っても過言ではなく、手を抜いて良い状況でもない。背に腹は代えられない状況に覚悟を決めるユウヒは、未だに感情のまま叫び周囲の【小盾】や浮遊物を破壊する女性に首を傾げる。


「だからブラザーの彼女じゃないの?」


「えー? 俺はもう少し御淑やかな子がいいよ」


「ほう?」


 何とも言えない表情で考え込む姿に育兎は冗談を言いながら笑い、そんな空気を変えようとする彼の言葉に苦笑を洩らすユウヒは、どうやら激しく自己主張する女性よりもお淑やかな女性の方がタイプの様だ。その言葉に目を光らせる育兎を背に、何やら荷物を広げ始めるユウヒは、視界に見える何かを確認して一つ頷く。





 時は少し遡りここは名もなき異世界に建設されているユウヒの駐屯地。ユウヒの知らぬ間に基地化がどんどん進む一角では、現在ゴーレム娘たちが総出で大きな装置の最終調整に入っていた。


「超長距離通信装置の再起動完了」


「アップデート完了、アン子ライン送受信順調可動」


 巨大な装置群に群がりそれぞれに作業を進めるゴーレム娘、どうやらその装置群は通信装置であるらしく、しかしその超が付く通信先は地球の人間が想像する距離とは根本的に違い、アン子の名が出た通り異世界と直接通信を可能にしている様だ。


「親方の位置情報を随時更新、反応希薄で揺らぎ率かわらずー」


 日本でもドーム内との通信を可能にしているものの、それはゲートを介して有線でつないでいるだけで、彼女達が組み上げた通信装置は世界の壁に無線で干渉している。そんな装置でアン子との通信回線を確立した一号さん達がまず何を優先するか、それは当然ユウヒの現状把握であるが、現在地が現在地なだけあって返ってくる反応が非常に弱いようだ。


「姉さんちゃんとしてください。あ! 送信に対する反応確認!」


 しかしそんな弱い反応も、相手が声を返してくれれば話は別で、相互に確認し合う事で彼女達が見詰めるモニターにはユウヒの現在位置がはっきりと見えてくる。


「ほんと!?」


「内容は? 内容は?」


 様々な方法で通信状況の改善を試みていた彼女達は、どういった返事が返って来たのか興味津々であり、少しでも早くその内容を知ろうと自分の仕事を放りだし二号さんの操作するメインモニター周りに集まって来た。


「全てのミッションを送信してたから……え? これって、本当に良いのかしら?」


 少女達にもみくちゃにされながらも慣れた様子でユウヒからの返事の内容を確認する二号さんは、多数送ったミッション申請の中から思わぬ作戦の許可が下りた事で目を丸く見開く。


「おお! 久しぶりだね、すぐ準備しなくちゃ」


「定員100%の開放50%了解です」


 二号さんが何か口にするより早く一号さんは満面の笑みで立ち上がり、気合を入れるとそのまま格納庫に駆け出し、彼女の後を追う妹たちも内容を確認して嬉しそうな声と共に駆け出す。


「急げ! 準備だ!」


「大型ゲート起動準備するよ!」


 作業の為か随分ラフな格好をしている少女達は、急いで自らの上着を引っ掴み何かの準備のために方々へ駆けて行き、そんな様子を見ていた二号さんは困ったように微笑む。


「警報鳴らすよ」


 さらには少女の声と共に基地全体へ警報が鳴らされ、突然の警報に基地周辺のエルフや獣人、偶然訪れていたゴブリンや詰め所の立哨をしていた自衛隊の面々が飛び上がる様に驚く。


「マスターは何でもお見通しなのですね。……二号、全力を尽くします!」


 一気に慌ただしくなる基地の中で通信機の操作を続ける二号さんは、ユウヒの位置情報を確定させるとユウヒの返信に笑みを浮かべる。どんなやり取りを行ったのか表情を引き締め鋭い笑みを浮かべた二号さんは、すっくと立ち上がり遠くで戦うユウヒに向かって全力を宣言するのだった。





 一方、妙な行き違いが発生していそうな空気に気が付かないユウヒは、これから使う魔法について育兎に話し、その魔法を用いた一連の流れについて意見を交わして作戦を練っていく。


「はは、まさかこんな事……ブラザーは管理神に喧嘩売ってるよね?」


 ユウヒの示した方法は管理神に喧嘩を売るような行為なのか、乾いた笑い声を漏らす育兎はいい笑顔で親指を立てたまま呆れた声で確認する様に問いかける。どうやら彼は疲れすら感じる声とは裏腹に好意的に今回の作戦を受け止めている様だ。


「そんなつもりは無いけど出来るならやるだけさ、その代わりもしもの時は弁護を頼む」


「だから大丈夫だって」


 一撃でも攻撃を食らえば致命傷になりかねない相手を前に手加減云々気にしている余裕など有るわけもなく、しかしあまりに強力な攻撃は自爆を招く。そんな繊細な力加減が要求される状態では相手の生死まで気にしている場合ではなく、それでも気になるユウヒは育兎に念を押すが、返って来るのは呆れを含んだ笑い声。


「そうは言ってもな、おっと準備完了だ。さて、失敗したら一緒に逝こうね?」


 殺しの童貞と言うものは両親が両親なだけあり等の昔に捨てているユウヒでも好んで殺しを働こうとは思わない。それが育兎の基準で人と見なせない相手であっても、彼にとっては立派な人殺し、もしも気持ちにブレーキがかかれば待っているのは失敗、その時は道連れだと言外に語るユウヒはドロドロとした光を目に浮かべそっと育兎の肩に手を置く。


「ひぇ、ここにもメンヘラが」


 半分以上冗談なのだがそこは血ゆえか、明華の浮かべる様な笑みに似たユウヒを前に震える育兎は、怯えた様に後退り思わず浮遊物の影から体を少し出してしまう。


「みつけたあ!!!!!」


 その瞬間目敏く育兎の姿を捉えた黒髪の女は狂気をはらんだ目をぎょろりと動かし、赤い眼光の残像で線を描きながら体ごと黒く太く長い腕を振るう。


「おっとご使命だ! 鳥ちゃん頼んだよ!」


「「「!!」」」


 それなりに距離が離れている為即座に浮遊物ごと潰されることは無いが、急いでその場を離れる必要のある育兎は、背中の翼を掴む三羽小鳥に声をかけると物理法則を無視した急制動で飛び立ち、同時に浮遊物の影から勢いよく飛び立つ【大楯】達は、ユウヒが未だ隠れる浮遊物に振り下ろされた腕の攻撃を逸らすために黒い腕へと殺到し僅かな軌道修正を試みる。


「……繋げ繋げ、黒く深き森の奥、遥か遠く手を振る同胞よ、さあ戦の時は来た。撃鉄を上げよ、装填せよ、トリガーに指を置け」


 数枚の【大楯】がその身を犠牲に変えた軌道は浮遊物の一部を削り取るに収まり、かろうじて難を逃れたユウヒは、砕け散る【大楯】を横目に浮遊物の陰で膨大な魔力を体の内に循環させながら魔法を使うための言葉を紡ぐ。


「おまえかおまえかおまえか!!! わたしから奪うやつわあああああ!!!!」


「ちょ!? まっ!? ひとちがいですー!!?」


 より強く、より精度を上げるために紡がれる言葉は世界に干渉し、人一人が足を踏み入れるべきではない領域にまで身を浸す。


 時間を稼ぐために身を挺して黒髪の女の気を引く育兎はバイザーに映し出される数値を見て顔が引きつるも、成功を信じて持てる装備をすべて使い触手と女の視線を釘付けにする。その目が彼に向けば向くほどに作戦の成功率は上がるのだ。


 そして彼の一手は世界の壁を切り裂き咆哮を上げる。


「そこに距離は意味なし、我が軍勢よ眼前を爆炎で満たせ【転移飽和砲撃】」


 ゆっくりと一定の速度で動く浮遊物の影から姿を現したユウヒの頭上には、切り裂かれた空間が円形状に広がり、陽炎のごとき揺らぎの奥には巨大な機動兵器の集団がすべての武装を展開し銃口の奥を覗かせている。【転移飽和砲撃】、そのキーワードが世界に発せられた瞬間、多数の光が幾何学的なリングを形成し、その中を無数の砲撃が満たし進む。


「ぐえ!? ちょ、え、すご」


「!?」


 ユウヒの存在を完全に忘れた様に暴れていた触手と女は、突然の脅威に対してまともに反応することなど叶わず、砲撃の爆炎に呑み込まれあっと言う間にその姿を隠し、小鳥の緊急停止と後退によって首を絞められた育兎は予想以上の飽和攻撃を前に爆炎により肌に感じる熱に負けないぐらい肝を冷やす。


「……もう少し離れたほうが良かっただろうか」


「頑張れ大楯君二号!」


 止まることを知らないと言わんばかりの砲撃を撃ちだす空間の裂け目の後ろでは、いつもの【大楯】より二回り大きな放熱器付きの盾に隠れるユウヒが、攻撃場所が近すぎたことで感じる圧倒的熱量に冷や汗を流しながら【二式大楯】を応援しているのであった。



いかがでしたでしょうか?


 管理神に喧嘩を売るような行為とはどうやら世界に大穴を開ける行為だったようで、吹き出す殺意は敵を焼き尽くすが、果たして装置は無事に封印できるのか、それとも焼き尽くされて消滅するのか、次回もお楽しみに。


 読了ブクマ評価感想に感謝しつつ求めつつ今日もこの辺で、また会いましょうさようならー

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