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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
適応と摘出

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第三百四十話 破れる宇宙

 修正等完了しましたので投稿させてもらいます。楽しんで頂けたら幸いです。



『破れる宇宙』



 リトルムーンの深淵に落ちていく二人は見詰め合い、金と青の瞳から逃れる様に赤い瞳が横を向く。


「何が不味いんだ?」


「ワールドボムってのは世界のエネルギーを使って作られるものなんだけど」


 見詰める間にジト目になっていくユウヒの視線に耐えられなかった育兎は、何が不味いのかと言う問いに答え始める。その表情は気まずそうに歪められており、どうやら装置は無いと言い切った手前その影がちらついている状況に申し訳なくなっている様で、それはもし確実に装置があるか、可能性が高いと言われた場合、彼が今の様に悠長な探索などしていなかったからだ。


「うん、それは何となくわかる」


「世界を生み出す最初の力は、乙女の両手を器にしたくらいのものらしい」


 世界そのものを爆弾に作り変えるワールドボム、しかしその説明は正確ではなく、世界を一度世界の源である原初の力に変えて爆弾に加工したものがワールドボムである。


「うつわ? ……そんなに少ないのか」


 その原初となる力は乙女の小さな両手で一掬いした程度の量であるらしく、宇宙や異世界などすべてはそこから生まれるようだ。確かに宇宙ではスプーン一杯がとてつもない重量を持つ環境も存在するが、ユウヒには到底想像が付かないのか育兎の説明に呆けた表情を浮かべる。


「その一杯の力が世界のありとあらゆる物を作るんだってさ、ワールドボムの原料はそれなわけ、スプーン一杯分で一個くらい作れるんじゃないかな」


「へぇぇ……」


「製造装置はその謎エネルギーを世界から抽出するんだと思うんだけど、そのためにはなるべくロスを少なくしないといけない、なぜなら漏れがあれば爆弾作る前に世界が壊れちゃうからね」


 さらに世界を壊すと言う一点に絞るならば、スプーン一杯程度の量で事足りるらしく、生み出された世界を元の原初の状態に近付けることでそのエネルギーを抽出、加工するのが装置の役目だと思われ、自分で話しながら育兎は途方もない話だと呆れた表情を浮かべるしかないようだ。またエネルギーを抽出する関係上ロスはなるべく少ない方が当然良いわけで、万が一にでも大量のロスを発生させようものなら、爆弾が完成するより前に世界が崩壊してしまい本末転倒である。


「……それって、かなりやばいのでわ?」


「地球だけじゃない、まさに世界滅亡の危機真っ最中ってやつだよ。……と言う想像なんだけど、数値とこれまで見聞きしてきた情報から考えるにそんなに間違ってないと思う。答え合わせはそうだな、後日乙女か管理神の偉い人にしてもらってね」


 それ故に現在の状況はワールドボム製造装置が使われている状況とは言い辛く、しかし装置が壊れているのなら話は別で、万が一要塞からの攻撃で装置の損傷が発生した状態で無理に稼働させているとすれば、世界が崩壊するような状況になってもおかしくはない。そう考えた育兎は、顔を蒼くするユウヒに苦笑いを浮かべ世界滅亡の危機だと苦笑いを浮かべる。


「してくれるかな?」


「生き残れたらしてくれるさ、そこまで薄情じゃないだろうしブラザーは乙女のお気に入りだからね! 何でも教えてくれるよ、でもあまり余計なこと聞かないようにね? 世の中知らない方が良い事なんて数えきれないほどあるんだから……」


「うん、わかった」


 確信めいた予想の答え合わせは全て終わってみないと出来ない上に、出来るとすれば今もどこかで見ているのであろう乙女か偉い管理神くらいなもので、ユウヒにはその答えを聞く権利があるのか、育兎の言葉に懐疑的な表情を浮かべる彼は、続けて言われた注意に苦笑いを浮かべて頷く。すでに知り過ぎの様に感じているユウヒであるが、世界の真理の奥底に足を踏み入れてしまった以上もう後戻りは出来ない。


「素直でよろしい! と言うわけで隔壁っぽいけど何とかなる?」


 注意を促した本人もそこは理解している様で、どうにもならない無駄な注意をした自分に呆れると、気分を変える様に大きな声を上げて体を反転させると、進行方向から迫って来る巨大な壁に着陸する為、ユウヒの手を借りながら態勢を整える。


「隔壁の向こうには何もなし」


「いけそうかい?」


 明らかに人以外の大きなものの出し入れも前提になっている様な隔壁は、着地した足裏の感触から相当な厚みを感じさせるが、ユウヒの【探知】はその先すらしっかりと見通しているようだ。じっと隔壁の向こうを見ていたユウヒの言葉に頷く育兎は、周囲を見渡しながら開けるための方法を探すも、もっと手っ取り早い方法で解決できないか小首を傾げて見せる。


「まかせろ……我ら戦士の行く手を阻む障害を尽く破壊せよ【フリーズデストラクション】」


 状況的にあまり時間をかけられないと言う事もあって、お上品なロックハックを諦めた育兎にユウヒは親指を立てて見せると彼の手を取り飛び上がった。十分な距離を取ったユウヒは自らの奥底から魔力を引き出すと青白い燐光を撒き散らしながら魔法の発動に必要なキーワードを口にし、方向性を示された魔法は彼の思いに応えるべく隔壁を蹂躙する。


「おお、やっぱりすごいなぁ」


 ユウヒの魔法により破壊された隔壁は、粉々とまでは行かずとも中心から蜘蛛の巣状に深い罅が入り大きな破砕音を響かせると、ゆっくりとばらけて隔壁の向こうをその隙間から見せ始めた。あっと言う間に分厚い壁を破壊してしまう魔法の力に目を輝かせ身を乗り出す育兎であるが、彼はユウヒに肩を掴まれると体を後ろに引き戻される。


「障害を吹き飛ばせ【旋風】」


「ひぇ」


「!」


 急に肩を掴まれたことに驚く育兎であったが、彼が何か言うよりも早くユウヒは次の魔法を放ち、空気があるからこそ使える魔法の力は無重力故にその場でゆっくり拡散していく残骸を纏めて吸出し二人の後ろへと吹き飛ばす。竜巻の中心に留まることとなった育兎は短い悲鳴を上げると身を丸くし、水晶の小鳥は育兎背中をしっかり掴むと、彼が飛ばされないようにその場で踏ん張る。


「大丈夫か?」


「この小鳥さんパワーすごくない?」


 あっと言う間に過ぎ去った竜巻による静寂に身を縮めたまま震える育兎は、遠く後ろから聞こえてくる無数の破砕音に肩を跳ねさせると、ユウヒの声に振り返り自分の体をしっかり掴んでその場を微動だとしない小鳥にちょっとした恐怖を覚え、蒼い顔でユウヒに問いかけた。


「その子は俺が飛んでるのと同じスキル持ちだから、風とか空気で飛んでるわけじゃないんだよね」


「初耳!」


「それより早く行こう」


 どうやら水晶の小鳥は普通の鳥のように空気力学を使った飛行を行っているわけではなく、もっと別の力が利用されているらしい。少し驚く育兎も、よくよく彼らの異常な機動力を思い出してみればそれもそうかと、これまでの光景を脳裏に浮かべて納得した様に頷き、ユウヒに促されると顔を上げる。


「おっとそうだった」


「しばらく道はまっすぐみたいだな」


「!」


 大きく分厚い隔壁が消えてなくなりすっきりとした道は、周囲の照明が多少生きているが奥が暗く見えないくらいに真っすぐ伸びており、ユウヒに手を引かれて前に進みだす育兎は小鳥を肩に載せてその道の奥へと落ちていく。





 一方その頃、リトルムーンの外で待機しているように言われたシールド艦は、通信が途絶し育兎とユウヒに何度も呼びかけを行っていた。


「駄目です全く連絡が取れません」


「これは、世界の終りでしょうか……」


 しかし返事が返ってくることは無く、ただ生存を保証する信号だけは育兎の宇宙船から発信されており、それらの情報を受ける地球の旗艦の艦橋では、リトルムーンを取り巻く異常の情報と合わせて重苦しい空気が圧し掛かる。


「太陽系内のあちこちで同じような空間が出現、調査ブロブが触れた瞬間消滅しました」


「消滅?」


 リトルムーンの周辺の空間には大小様々な亀裂が突然現れ始め、調査の為に放たれた全環境対応のスライムの様な調査機は、映像の中で亀裂に触れた瞬間消滅してしまっていた。説明を受けたメーフェイルは消滅の瞬間を映した映像を見ると、巻き戻し何度もその瞬間を見て首を傾げる。


「最後のデータがそうとしか思えず、何と言いますこの世界から消えた様な、それも同時瞬間的に一切の信号が途絶してます」


「触れれば死ですか……絶対に近づかないように」


 太陽系内程度であればどこにいても瞬時にその場所が分かるはずの調査機がロストしたと言う事は、どう転がっても助からないことを意味しており、艦橋では考えられる可能性について囁かれ、何より触れることの無いようにと指示を出すメーフェイル。


「厳命します」


「……どうかご無事で」


 彼女の言葉にシールド艦ナーズダルの艦長は、しっかりと頷き答えると通信を終えて艦橋の大きなモニターから姿を消す。通信を終えたメーフェイルは背中を椅子の背凭れに預けると細く長く息を吐いて目を瞑り、静かにユウヒの無事を想い呟くのであった。





 一方で今では海に浮かぶ浮島となった空飛ぶ巨山では、山の主であるアーデルが山の岩屋の外で空を睨んでいた。


「星龍様、だいじょうぶ?」


「うむ、大事無い」


 雨が降りそうで降らない曇り空を見上げるアーデルは、傍の寄りそう妖精の声に険しい表情を緩め、問題ないと微笑むとも一度空を見上げる。


「しかし、これはあの時と同じ……この世界も滅ぶと言うのか」


「滅ぶのですか?」


 再度空を見上げたアーデルの表情には険しいものが無く、郷愁に揺らぐ瞳はどこか遠い過去を見ている様だ。そんな彼女の口から洩れ出る滅びと言う言葉に、妖精だけでなく周囲に集まって来ていた多種多様な種族の中から声が漏れ出る。


「わからぬ、我は生きている。逃げ出せたと言う事なのだろうが、あの時どうやって逃げたかわからんのだ」


「変な色だね」


 アーデルの目には無数に表れた宇宙の裂け目が見えていた。彼女はその裂け目に蝕まれた世界を知っているらしく、しかしその裂け目を前にして滅びをむかえた世界で自らが生き残った原因が分からないらしく、自らを襲う滅びの再来に思わず表情が強張るが、耳元から聞こえる声に力を抜く。


「触れるでないぞ? 触れたら死ぞ」


『はーい!』


 彼女の記憶にある裂け目は、いずれ地上にも表れるのであろう。心を無遠慮に読む好奇心旺盛な妖精に声を掛けた彼女は、元気な返事に微笑むとまた空を見上げ、その視界の向こうで戦っているであろう友人の無事を祈るのであった。





 地球上のどの勢力も、宇宙に現れた裂け目を前にして本能的な恐怖に身を震わせている頃、溜め込んだプラズマ弾をあっと言う間に打ち尽くし、その後要塞各所で発生した故障を修理していた人工天体の二人は、一息ついてコントロールルームで椅子に腰を下ろしていた。


「一切の正体が不明です」


「要塞の観測機でわからないのであればお手上げですね……マスターはお元気の様ですが」


 また故障の修理の片手間に、突然リトルムーンや周囲の宇宙に現れ始めた宇宙の裂け目の観測も行っていた二人は互いの調査結果を共有していたようだが、その結果は不明。唯一の救いはユウヒの身の安全がわかっている事であろう。万が一裂け目の影響でユウヒの安否を確認出来なくなっていれば、アン子は確実に要塞でリトルムーンに突撃を行っているところだ。


「それも魔法ですか」


「違います」


 そんなユウヒの安否を確認できるのはアン子だけであるらしく、人工天体の機器を使ってもユウヒの状況は全く把握できない。人工天体の超技術すら可能としない技術を有するアン子に興味深そうな視線を向ける要塞AIは、その方法を魔法に見るも違うと断言される。


「では、高性能な通信機器でしょうか?」


 ならばそれは何なのか、単純に人工天体に存在する機器以上に高性能な通信機器があるのか、万全な状態なら自分でも可能だろうと考える要塞AIにアン子は満面の笑みを浮かべ口を開く。


「いいえ、愛です!」


「愛、ですか……」


「愛です!」


 愛、彼女は愛の力でユウヒの状況を把握できるのだと無い胸を張って断言するが、もしユウヒがその言葉を聞けば率直に神様印の魔法の所為だろうと、首を横に振ること請け合いであるが、この場にその暴走を止める事が出来る者は居らず、寧ろ要塞AIは感心した様に愛と言う力の凄さに呆けるのであった。





 人間の持つ無限の可能性と、それにより生み出される無限の希望に要塞AIが胸を膨らませている一方で、リトルムーンの深淵へと落ちていくユウヒは、


「へっくしょん!!」


「よく出るねぇ」


 盛大なクシャミを放ち、ヘルメットに組み込まれたオートクリーン機能の風に目を細める。強い風によって綺麗になったメットの中を覗き込む育兎はクスクスと笑いながら今日は良くクシャミが出るねと、少し心配そうに呟く。


「噂だな、誰かは知らんが」


「ブラザーも一部界隈には有名だからね、ネットでも特定しようと躍起になってる人多いよ? 確信にたどり着きそうな人が急に連絡出来なくなったりアカバンされたりしてるけど」


「……思い当たることが多いな」


 持ち前の勘でクシャミの原因を察するユウヒは、育兎が笑い話す様に今ではすっかり有名人である。明確に身バレしているわけでは無いが、毎日世界のどこかでユウヒの真相を探ろうとする者は後を絶たず、同時に妨害する者の数も多い。それは明華などの親類であったりその仲間内であったり、各国の牽制に日本政府の組織が暗躍、それらの人間が対処できない世界では精霊や異世界の住民の一部が目耳を潰して回っている。


「最近の関連キーワードは妖怪とか神様とか妖精とか、異世界専門家と関連付けて検索されてるね、彼らこっちの人間に接触してるみたいだよ? 僕に相談されても困るんだけどね」


 またユウヒを介することでこちらの世界に関わりだした者達は、積極的に人との交わりを活性化させている節があり、日本の頭痛の種の一つとなっている様で、時折育兎の下にも相談の連絡が来ている様だ。


「面倒な、この間も家に神様が来てたよ」


「……あれだよね、普通の人だったら病院に連れてかれるような発言だよね」


 夏も過ぎた言うのに巷では怪談話が流行しており、ユウヒに限っては家に日本由来の神様が訪問までしている。普通に聞けばちょっと頭がおかしくなったかもしれないと心配されて病院に連れて行かれそうな事を話すユウヒであるが、最近の日本ではあまり洒落になっていないのが実情であった。


「俺の知っている日常って、結構ファンタジーな場所にあったんだなぁと最近実感して!?」


「ぐえ!? きゅうになうおう!!?」


 一般人から見たら十分に非日常的な人生を歩んできたユウヒも、現実が思ったよりファンタジーな世界だったことに遠い目を浮かべるがその瞬間、目を見開くといつもからは考えられない鋭い表情で育兎の後ろ首の辺りを掴み強引に引っ張る。突然の凶行に潰されたカエルの様な声を洩らす育兎は、軽く絞まった首から抗議の声を漏らす。


「これか?」


「よ、よく気が付いたね! もう少しで死ぬとこだった。これだよこれ、実体化した影響で完全に空間が破れてる」


 そんな抗議の声も前に目を向けるとすぐに収まり、暴れていた体を硬直させると慌ててユウヒの背中に隠れ彼の背中にしがみ付く。なぜならユウヒの凶行がなければ、育兎は今頃目の前に現れたピンクと紫が合わさったような亀裂に吸い込まれ死んでいたのだから。


「紫っぽいピンクな靄だけどやたらはっきりと見えて気持ち悪いな」


「根源的な恐怖と言うものらしいけど、詳しいところは分かってないよ、管理神も人間の感覚を詳しく調べる気は無いってさ」


 じわじわと侵食する様に音も無く罅割れが広がる目の前の空間、霞みがかった裂け目はしかしはっきりと目に映り、その強烈な違和感にユウヒは嫌悪の表情を浮かべる。その感情は根源的な恐怖であると話す育兎であるが、その言葉は管理神からの又聞きで詳しい理由などは不明の様だ。


「ふぅん……どうする?」


「どうしようもないね、とりあえず前に進もう。何かあるはずだ」


 世界に出来た裂け目は直接人にどうこう出来るものではなく、今の二人に出来る事は速やかに原因となっている物を特定、可能であれば処置を施す事だけである。事ここに至れば育兎も躊躇する事は無く、首を横に振った彼はユウヒを見詰めると前進を促し、その言葉にユウヒはどこからか拾ってきた金属パイプを手に取ると魔力をゆっくり流し込む。


「わかった。問題を解決するために一番安全な方向へ【指針】」


 地球の金属とは相性の悪かった魔力であるが、リトルムーンのどこからか拾ってきた金属パイプは地球のものとは違うらしく、流し込まれた魔力が反発することなく浸透すると青白く光を放ち始め、ユウヒの魔法によってその方向性を示される。


「この魔法も大概おかしな魔法だよね」


「わかる」


「!?」


 宙で一回転して見せた鉄パイプはピタリと動きを止めると裂け目を避ける様に前方を示す。何度となくユウヒに道を示し続けた魔法は精度と性能を上げているのか、二人の言葉に反応したのか不満そうにその場で回転を始め、その姿にユウヒの育兎は苦笑を洩らすと、鉄パイプを伴い空間に出来た裂け目を慎重に避けてリトルムーンの更なる深みへと飛び込むのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 世界崩壊の危機が迫る中、ユウヒと育兎はその中心に向かって深く深く突き進む。彼らは世界を救う事が出来るのか、管理神は救いの手を差し伸べられるのか、次回もお楽しみに。


 読了ブクマ評価感想に感謝しつつ求めつつ今日もこの辺で、また会いましょうさようならー

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