第三十三話 ユウヒ、緊急出動!
どうもHekutoです。
修正等完了しましたので投稿させていただきます。少々文章量が少ないですが、お好きな時間に楽しんで頂ければ幸いです。
『ユウヒ、緊急出動!』
青々とした樹々が茂る廃村近くの森から、枯れ木の目立つ森へと、謎の援護を受けつつ異形の者から逃げ続けていたルカ達、しかしそれも逃げ切れるまでには至らず、すでに手で投げた投石による攻撃が届く距離まで追いつかれてしまっている。
覚悟は最初から出来ていた大人たちは、ルカを少しでも遠くに逃がすためにパフェとメロン、そして最終的に殿を引き受けるつもりのクマの三人が残り、謎の援護攻撃に首を傾げながらも再度戦闘へ突入しようとしていた。
一方少し時は遡り、敵か味方かパフェ達が首を傾げる事になる相手はと言うと、五人を誘導しながら隠れるように森の樹々に身を潜めながら矢を射ってはいるが、
「今更だけど、思わず援護しちゃったけどさ、あいつらってユウヒ殿の言っていたって言う仲間なのか?」
「どう、なのでしょう・・・ネム様から見た目は基人族と同じだと聞いていたのですが」
5人の様子に目を向けながら首を傾げていた。
「なぁに・・・か! 違う気がする。あの力の強い殿方は熊人族っぽいよね」
「たしかに・・・転倒した女性も、あれはどう考えてもミノタウロスのハーフか少女でしょう」
彼女たちが首を傾げる理由、それはルカ達の姿がこの世界の基人族とは少し違いがあったためだった。これがユウヒの時の様に、すぐ目の前で会っていればまた違ったのであろうが、遠目から見た五人の姿は、ネシュ族少女達にとってすぐに基人族と断定するには不確定要素が多いようである。
「他も見た目の雰囲気からして基人族とどこか違うし、魔族の方がまだ近くないか? 髪黒っぽいしあんな赤黒い髪の基人族なんて見たことないぞ?」
最初に疑問を口にした灰毛の少女は、弓に矢を番えながら首を傾げて黒毛の大人びたネシュ族少女に自分が感じた疑問を口にすると、目を凝らして異形の者に立ち向かう男女に再度目を向けてもう一度首を傾げた。
「んー・・・ん! でもユウヒさんって黒髪だし、あの足を怪我しているっぽい女の子に少し似てる気がする」
また、クマの事を熊の獣人である熊人族と勘違いしているトラ毛の少女は、矢を射ち終えるとルカを見詰めて、その雰囲気にユウヒと似たものを感じると口にして、再度矢を番えはじめる。
「確かにミノタウロス族っぽいです。でも、とりあえずはこっちの誘導にものって頂けましたし、がんばって助けましょう!」
一方、たくさんの矢筒を背負った茶色い毛の少女は、黒毛の少女の言葉に頷くとメロンのどこを見てミノタウロスと勘違いしたのか、ずっと彼女の一点を凝視しながらも、誘導に乗ってくれたことに安心したような声を洩らしている。
「助けるって言っても、流石にこの数じゃ救助なんて出来ないよ?」
そんな彼女達の人数はたったの四人。トラ毛少女は矢を放つと残心することなくすぐに三人の同僚に目を向け小首を傾げ、
「前出たらこっちが磨り潰されるしなぁ・・・」
灰毛の少女は眉を寄せてそう呟くと弓を引き絞り狙いを定めはじめる。
「それでも矢が尽きたら前に出ないとですよねぇ」
また茶色い毛の少女は、凹凸の少ない胸や腹にまで掛けられた大量の矢筒から矢を取り出すと、矢を次々と放っていくトラ毛少女の矢筒へと補充をしながら、微妙に気の抜けた声でつぶやく。
「ネム様・・・急いでください、状況は思わしくありません」
そんな彼女たちのまとめ役となっている黒毛の少女は、どこか楽観的というか気の抜けた三人の少女達が交わす会話に対して静かに頭を抱えると、首元に下げられた胡桃ほどの大きさをした鈴を握り、一刻も早いネムの帰還を願うのであった。
そんな願いの矛先であるネムはと言うと、
「いそげ! いそげ! いそげ!!」
黒毛少女に願いの念を向けられているなど考える余裕もないほどに、必死な形相で森を駆け抜けている。
「これは、近いにゃ! ユウヒユウヒユウヒユウヒ!!」
地面を浅く削るほど力強く足を踏み込み、道なき道を塞ぐ岩へ飛び乗るとそのまま岩から岩へと跳び移り、乱雑に生い茂る樹々の隙間を縫うように避けて走る彼女は。次第に近くなってくる嗅ぎなれた香りに明るい表情を浮かべると、探し人の名前を連呼しながら、深い森の中では珍しく日の光にあふれる場所へと飛び込み、
「・・・ってなんにゃこりゃーーーー!!!」
目の前に現れた広大な更地と、その更地の大半を飲み込むように根を広げる巨大な樹の姿に叫び声を上るのだった。
「ん? ネム・・・何かあったのか?」
そんな驚愕の表情を浮かべた三毛猫少女とは相反し、気だる気にも感じる表情で巨大樹の根に腰を下ろしていたユウヒは、滑るように急停止をかけて丁度目の前で停止したネムに、どこか訝し気で不思議そうな表情で首を傾げる。
「なに、何ってこれ・・・じゃない! これも大変だけどこっちも大変なのにゃ!」
探し人である目の前のユウヒと、そんなユウヒが何でもない表情で座る巨樹とで視線を行ったり来たりさせて口をパクパク動かすネム、しかしすぐに気を取り直すとユウヒに跳びかかる様にしがみ付き大きな声を上げた。
「こちらの方はだれですか?」
「知り合いの猫だ」
「猫じゃないにゃ! ネシュ族にゃ! ・・・って誰と話してるにゃ?」
いきなり現れてユウヒに抱きつくようにしがみ付くネムに、とある少女は目を細めてどこか不機嫌そうな声で呟き、そんな少女の疑問に真面目な顔と声で答えるユウヒは、八重歯をむき出しにして叫ぶネムの表情に、ニヤリと口元を歪める。
「例の如く精霊だ」
「まさか、それじゃこの樹・・・」
そんなネムはユウヒの視線の先から妙な気配を感じ首を傾げ、ユウヒは彼女の疑問に対して簡潔な答えを返す。そう、ネムがユウヒに抱きついたことで可愛らしく頬を膨らませ不機嫌になったのは世界樹の精霊であり、驚きの声を上げ呆けたようにネムが見上げるのは、まさに世界樹そのものである。
「ってそれより大変にゃ! ユウヒの知り合いかもしれない人達が魔族の兵隊に追われてるのにゃ」
そんな呆けていたのも束の間、足を掛けていた世界樹の根から慌てて飛び降りたネムは、根に座るユウヒにここまでやってきた理由を説明しながら忙しなく耳を動かす。どうやら彼女は、どこからともなく感じる不機嫌な気配を野生の勘で感じ取っているようである。
「マジかよ・・・さっきの嫌な予感はそれか。馬鹿共の場所を指し示せ【指針】・・・ふむ、こっちの方向で合ってるか」
一方ネムの話を聞いたユウヒは、いつも通りの勘で何かを感じ取っていたようだが、しかしそれがルカ達に関する虫の報せとまではわかっていなかった。そのことに少し悔やむような表情を浮かべるユウヒであったが、すぐに太い根から腰を上げ足元に立て掛けてあった棒を手に取ると、【指針】の魔法を使い宙でふらふらしている棒の指示した方角で合っているかネムに問いかける。
「えっと、そうにゃ大体そっちの方角にゃ」
ユウヒの視線の先に浮かび、頼りなくふらふらと一定の方角を指し示す、どこにでもありそうな木の棒。そんな木の棒の周りを漂いながら、興味深げな表情を浮かべる生まれたての精霊に思わず苦笑を洩らすユウヒ、そんな彼を不思議そうに見詰めたネムは、きょろきょろと周囲に耳を向けると何か確認できたのか大きく頷いて見せる。
「急いだほうがよさそうなのは、お前らだけじゃ救助は無理っぽいってことだよな」
「う、そうにゃ・・・オス共逃げたし、数が300以上居てとてもじゃないけど・・・」
そんな彼女に、ユウヒは確認するように現在の状況を問いかけると、ネムはびくりと肩を跳ねさせて申し訳なさそうに、かつ僅かな怒りを声に含ませながら説明を続ける。
「・・・わかった。急ぐとしよう【身体強化】【飛翔】【探知】・・・よし、問題ないな」
彼女の説明を聞いたユウヒは、ネムの言葉から感じる怒りの原因をなんとなく察すると、苦笑を浮かべながら頷き、戦場となっているであろう場所へと向かうため、再度自分の体に魔法の力を行き渡らせ気合いを入れ直す。
「さて、作ったばかりの木槍だが耐えられるかな? 纏うは仮初の刃【氷乱武槍】」
さらに、体に感じる魔法の感触に満足げな表情を浮かべたユウヒは、世界樹の根に立て掛けてあった1メートル20センチほどの、木と鋭利な石で作られた槍を手に取ると、初めて使うクロモリ由来の魔法を唱える。
「ひっ!? 凍ったにゃ!」
ユウヒが魔法のキーワードを口にした瞬間、まるで石槍の先端を保護するように氷が生え、その光景に表情を引きつらせ後ずさるネムの目の前で、次第に槍の先端は鋭利なガラスナイフの如き透き通った刃へと変化していく。
「それじゃ行くぞ、急ぐから付いてこれくなったら俺の腰にでもしがみ付くと良い」
「へ? 腰・・・わわ、待つにゃ!」
まるで美術品の様な美しさを持つ刃に満足げに頷くユウヒは、何度か感触を確かめるように槍を振ってネムに振り返り声をかける。ユウヒが槍を脇に挟んで固定し、魔法で強化された体の感触を確かめるように軽く駆けだす一方、目の前で魅せられた美しい光景に呆けていたネムは正気を取り戻すと、熱くなった顔を気にする暇もなく、すでに駆け出していたユウヒを慌てて追いかけ始めるのだった。
「おとうさまーいってらっしゃーい」
この先どう転んでも戦闘を回避できそうにない二人を、ユウヒの新たな娘は無邪気な笑顔で見送る。その表情の理由が唯単に無邪気故なのか、それともユウヒを信じているからなのか、その答えは彼女にしかわからない。
いかがでしたでしょうか?
ルカ達も心配ですが、ネムの精神的疲労も気になるところで、ようやく主人公出動です。忍者曰く、最終兵器ユウヒが動き出したわけですがどうなるかわかりません。ただ言えることは、戦闘描写とか苦手なんで戦闘無しで・・・え? 無理? ですよねー。
それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー




